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第2章 劣等生

33話 おでかけ

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 土曜日。今日は用事がなにもない。
 したがって、俺の選択肢は以下の3つに絞られる。

 1つ目:中間テストに向けて勉強する。
 2つ目:次元計の調査を行う。
 3つ目:ダラダラする。

 うーん、非常に悩ましい。

 考えてみれば、1つ目については、一人では勉強の仕方すら分からないので無しだ。
 次に2つ目だが、次元計の宛てなんてないので行動の起こし方が分からない。
 ということは……3つ目しかない!!

「ひゃっほーうっ!」

 ボスンッ

 目覚めかけた体をベッドに放り投げ、もう一度スリープモードにする。



 ピンポーン!
 ピンポンピンポンピンポーン!!

「はっ!!」

 気持よく寝そうになったところを、ピンポンのラッシュに起こされる。

 ガチャ

「……はい」

 そこには麦わら帽子を被ったフィアス軍曹ぐんそうがいた。

「あ、やっぱり寝ようとしてた。 ほら、行くよ!」

「行くってどこにだ。今日は土曜日だぞ」

「だからおでかけに行くんじゃない。ほら、早く寝癖直して!」

 おでかけだと?
 高次元世界に来た頃の弱っていたフィアスからは考えられない。マナが充填されすっかり髪が真っ白になり元気になったフィアスは、俺よりアクティブなようだ。

 ニコニコと明るくなったフィアス軍曹に免じて、おでかけに付き合うことにした。

「で、どこに行くわけ。食事街とか?」

「そんなのいつでもいけるじゃない。せっかく一日空いてるんだし、遠くへ行ってみようよ」

 そういうと、フィアスはバス停へ向かい出した。

 バス停は、食事街にある。
 時刻表を見ると、今からあと5分ほどで来る。

「なあ、Aクラスってどんな感じなんだ?」

「うーん、みんな真面目だね。私以外、誰一人授業寝ないんだよ。それに休み時間もすっごく静か」

「へえ。最近フィアスがすごく楽しそうだから、にぎやかなのかと思ったよ」

「楽しいよ。でもそれはクラスがと言うより、生活がかな。誰にも縛られることなく、追われることなく、平和で自由なこの生活が好き。記憶がないから分からないけど、こんなに伸び伸びできたのはたぶん人生で初めてなんだ」

 フィアスは記憶のないところを児童販売所に拾われた。児童販売所も狭くて窮屈な場所だったから、少なくともフィアスの記憶の中では今が人生で一番自由なのだろう。

「こんな穏やかな時間が7年も続くなんて、幸せだね」

 フィアスが不意に見せた笑顔に不本意ながら少しドキッとしてしまった。

 プップー

 バスに乗り込む。

「とりあえず、水仙道まで行くか」

「いーや。もっと遠く。聞いた話によると、水仙道から出ている電車に乗ると、20分くらいでもっと色々ある場所に行けるんだって。そこに行ってみようよ」

 というわけで、水仙道駅前でバスを降り、電車に乗り変える。

 電車の窓には綺麗な快晴と、住宅地や山など、ごく普通の景色が流れていた。それを子供のように眺めて楽しそうにしているフィアス。

 さらに進むと、地下鉄に切り替わった。
 人もどんどん増えてきたので、フィアスも席の端っこにおとなしく座る。

 そして、目的の『神天町しんてんちょう』という駅に到着した。乗っていた乗客の大半がここで降りてゆく。

「人、多いね」

 おしゃれな人、スーツ姿の人がスタスタとホームのエスカレーターや階段を上がっていく中、周りと浮いた麦わら帽子を被ったフィアスさんはキョトンとしていた。だいぶお気に入りのようだが、あんな麦わら帽子いつ買ったんだろう。

 人の流れに乗って、改札をくぐり、ホームを出る。
 外には、田舎まみれのチューベローズとは別世界のように、大きな建物がいくつも聳え立っていた。俺もフィアスも、生まれて都会なんて来たことがなかったので、その迫力に圧倒されてしまった。

「す……すごいな。水仙道でも十分都会と思っていたけど……。俺、都会の作法とか知らないよ」

 フィアスの方を向くと、一瞬だけ瞳がダイヤモンドのように輝いた。

「あっち! なんか楽しそうな雰囲気でてる!」

 フィアスはてくてくと歩き出し、近くの建物に入った。
 そこは映画館で、でかでかと3Dと書かれている。

「3D? 眼鏡つけるやつかな?」

 全然違った。
 眼鏡をつけていないのに、360°奥行のある映像が見える。それは、もはや遊園地のアトラクション。まるで映画の中に入ったかのようで、すごく緊迫感があった。

 他にも、都会の色んなお店にいったり、ご飯を食べたり、なかなかに楽しい時間を過ごした。
 そして、あちこち回っていると、小さな資料館を見つけた。

「フィアス、ちょっとここ寄っていい?」

「えー、ここ楽しそうな雰囲気出てないよ?」

 どうやらフィアスは【生命の次元】か【闇を次元】かを認識することで、楽しそうな雰囲気が出ている場所が分かるらしい。

「お願い! ちょっとだけ!」

「もー、しょうがないなー」

 これだけの都会にある資料館なら、次元計に関する情報があるかもしれないと思って立ち寄ってみた。

 資料館の中は杖をはじめとした高次元世界特有の色んな道具が飾られており、その説明が書かれていた。他にも高次元世界がどのように発達したのかが分かる歴史も記されている。

 だが、肝心の高次元世界とは何なのか、どうやって出現したのかは書かれていなかった。

「むー。歩くの疲れたし、ここつまんなーい」

「フィアスはちょっと休憩しててもいいぞ。もう少し先あるみたいだから、俺はちょっとだけ見て来るよ」

 フィアスは資料館内のベンチに腰掛け、ぼーっと飾られている展示物を眺める。俺は先にあった階段の下へと進んだ。
 もともと人は多くなかったが、地下はさらに人が少なく、まるで倉庫のように紙媒体の文書がたくさん並べられていた。

「次元計に関する資料は…………あっ!」

 『次元を刻む道具』と書かれた文書を見つけた。
 もしかして、と思って手を伸ばすと丁度誰かに本をとられた。

「お、少年もこの本が気になるか? ……って、お前……」

 その人物は俺よりも少し年齢が上のお兄さんで、その目はトパーズのように黄色く輝いていた。
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