上 下
31 / 67
第2章 劣等生

31話 次元計

しおりを挟む
 今日は土曜日の遠征以来の、異探サークルの日。
 そして、今日の愛さんはいつもと一味違った。

「今日は先週の遠征の振り返りをしたいと思います」

「珍しく真面目じゃないの」

「菊音、私はいつも大真面目だよ。それに、今回の遠征では成果がありすぎたもの」

 異世界探索サークルの目的は、その名の通り異世界を探すこと。でも、異世界以前に、高次元世界自体が謎に包まれた世界だ。
 そこで先週の土曜日、遠征という名目で、高次元世界について研究を行っていたとある科学者の廃墟である古びた屋敷に訪れ、その科学者の居室で、研究に使われたと思われるノートを発見した。それを愛さんが持ち帰り、解析していたというわけだ。

「成果がありすぎたということは、もしかしてノートに何か凄い情報が書かれていたんですか!?」

「フフフ、その通り。まだ全部読んでないし、どこまで理解できたかは分からないけど、高次元世界の秘密を解き明かす、重要な手掛かりを見つけたよ」

「ちょっと、勿体ぶらないで教えて頂戴!」

「じゃあ言うね。……高次元世界は、4つの『次元計』と呼ばれる道具が創り出す世界らしい」

「道具!? この世界は道具が創り出しているんですか!?」

「厳密には、『次元計が特殊な世界の流れを刻むことによって、次元が開かれた状態を保ち続けている』ってとこかな」

「道具が独自の世界の流れを作っているっていうの……? 次元計という言葉も聞いたことがないし、にわかには信じられないわね……」

「うん、私も目を疑ったよ。だって、今までこれだけ調べてきたのに、一度も次元計の情報に出会ったことがなかったもの。これを信じるためには、次元計を理解し、存在を確認する必要があるわ。だから、これからの私達異探サークルの短期テーマを、次元計の調査にしたいと思います」

「次元計を探すってことですか?」

「うん、最終的にはね。とはいえ、やみくもに探しても簡単には見つからないと思う。でもだからこそ、少ない情報を集めることが大事なんだ。ということで、しばらくは各々で次元計の情報を集める期間にしよう。来週いっぱいはサークルお休み。再来週の火曜日に進捗を話し合う、ということでどうかな」

 次元計の調査が始まった。


 ◇◇◇


「ねえ苺、次元計って聞いたことある?」

「なによそれ。あ、七味とって七味」

「雪夜とフィアスは?」

「聞いたことありませんわね。マヨネーズ取ってくださいまし」

「知らな~い。柚子胡椒どこ~?」

 今日は俺の部屋で、お隣さんの苺と、押しかけて来た雪夜とフィアスの4人で晩御飯を食べていた。

「高次元世界を創り出している道具なんだって」

「この世界って、道具が創り出してんの? なんかショボいわね。でもアンタ、そんな探し物してる余裕あんの?」

「え?」

「中間よ中間! アンタ、小テストとかダメダメじゃない。よかったらアタシが……」

「ふふふふ! 見たまえ、この小テストを!!」

 俺はカバンから今日の小テストを取り出した。

「えええ!? 毎回1桁点のアンタが、100点中18点!? ちょっと、一体どんなイカサマをしたのよ!」

「イカサマじゃないよ、実力! 最近ね、雪夜に勉強を見て貰ってるんだ」

「いえいえ、糸の実力ですわよ」

「ん"? 何勝手に二人っきりで勉強してんのさ!」

「だったらフィアスも一緒に教えて貰うか?」

「イヤだ。勉強嫌い」

「なあ雪夜、フィアスってAクラスだし、羽のバッジついてるけど、勉強できるのか?」

「分かりませんわ。授業中も、小テスト中もずっと寝てますもの」

「おいおい、それで羽のバッジとか、真面目に勉強してる俺がかわいそうじゃないか。そうだ! そんなフィアスさんには、このドクロのバッジを授けよう」

「いらないよ!」

「チューベローズの成績は勉強2割、能力8割で決まるわ。勉強よりも、能力の方が圧倒的に重きを置かれるのよ」

 苺は視線を下に落として呟いた。

「ま、雪夜が見てくれているなら安心ね。能力のないアタシたちは勉強で頑張るしかないのだから、アンタもアンタなりに頑張りなさい」

「おう」

 食事が終わり、苺は苺の部屋へ帰って行った。

「はー、お腹いっぱい。じゃあ温泉いこ~」

「え、赤砂寮に温泉はないよ。むしろ青月館にはあるの!?」

「あるよ! ええっ、このボロっちいシャワーしかないの~?」

 フィアス軍曹ぐんそうは部屋のお風呂で済ましていた引きこもり時代を卒業し、今では毎日青月館の屋内温泉に行っているらしい。

「嫌なら青月館へ帰りなさい。……って、本当に泊まるつもりなの!? 寝床どうすんのさ!」

「ベッドあるじゃん。ね、雪夜」

「ええ。詰めれば三人入りますわ」

「窮屈だし色んな意味で寝れんわ! 帰れ!」

 ぽいっ……ガチャ

「ひど~い!! 寝巻持ってきたのに~!」

「仕方ありません。今度は一人で来ることにしましょう」

「ん? なんか言った?」

「いえ、別に。さ、青月館の温泉に行きましょう」


 ◇◇◇

 
 その晩、暗闇の理事長室にて。

「理事長、今日は面白い少女に会いましたよ」

「ほう、詳しく聞かせてもらおうか」

「理事長と同じ能力を持った子です!」

「マナを共感覚で捉えられることは、別にさほど珍しいことではないだろう」

「そうですか? 超能力者である私達のマナはなんとなく見えるって人はたまにいますけど、普通の人のマナを見られる人はかなり少ないと思いますよ」

「君たち超能力者のマナは、髪や目の色にまで表れるほど強いからね」

「まあ、糸くんのマナは見えないって言ってましたし、理事長ほどの広い視野は持っていないようですが」

「……彼は特別なマナを持っている。と同じ、特別なマナだ。その子が見られないのも無理はない。実際の光で言うと、彼女が可視光だけを見えるのならば、私は紫外・赤外領域も見えるといったところか」

「それにしても、つくづく糸くんの受験の面接官が理事長で良かったですよね。他の面接官なら彩葉ちゃんみたいに糸くんのマナを過小評価してしまいそうですし」

「きっと彼は、神が私達に授けた希望なのだろう……を倒すためのね……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...