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第2章 劣等生

24話 優等生

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 …………


 ゴツン!!

「九重!!! 一番前の席で何寝とるんだ!!!!」

「はっ!? す、すみません!!!」

 気が付くと、授業を受けていた。
 黒板には見慣れた板書。

 そう、それは今日受けたはずの生物化学の授業だった。

「今のは……」

 久しぶりに見た、正夢だ。
 しかも、またもや人がやられるとんでもない夢。

「あの化け物植物を倒すにはどうすればいいんだ……」

 と下を向くと、手元には高次元世界のあらゆる生物の情報が載った図鑑が。

「これだ!!」


 ◇◇◇


 その後は夢の通りに事が進んだ。
 授業が終わり、放課後には風紀委員会が始まり、沖田さんと成瀬にことごとく非難された。

 そして風紀委員会が終わった後、あの場所へ急ごうとしていた風紀委員長が俺を呼び止めた。

「九重くん、すみません。不快な気持ちになったかもしれませんね。でも、彼らの言うことはあまり気にしなくていいですよ。きっと一緒に仕事していく上で分かり合えると思います」

「お気遣いいただきありがとうございます!」

 俺は委員長に手を振り、走って行った。

「真っ直ぐした目。どうやら、僕は少し心配しすぎたようですね」

 委員長は少し微笑んで見送ってくれた。

 俺は急いであの花の場所へ向かった。
 しかし成瀬が一目散に異変に気付き、先に注意に向かっていた。

「おい、お前たち! ここに集って何をしている! 池に落ちたらどうするんだ!」

「こんな花あったかの? なんじゃ、この匂いは……」

 素早い沖田さんも現れ、花を触ろうとする。

「おい!!! その花から離れろ!!!!」

「えっ?」

 俺の声を聞いて成瀬は咄嗟に距離を取ったが、沖田さんは触ってしまった。

 シュルルルル!!

「きゃ、きゃああっ!!!」

「なんだ!? ツルが急に伸びてきて、沖田を吊るし上げたぞ…!」

「遅かったか……!! そいつは『ヌビアラフレシア』って言う、人喰い植物だ!!」

「なんだと!?」

 吊るし上げられたのは沖田さんだけで、周りは走れるはずなのに、誰もその場から逃げようとしない。

「おい!! 聞いてたか!? 全員逃げないと喰われるぞ!!」

「い……良い匂いで……ここから離れられない……!」

「はあ……はあ……」

 生徒たちは離れようとしない。
 図鑑の通り、人間を引き付ける特有の香りを放っているようだ。
 どうやら、長時間浴び続けると翻弄されてしまうみたい。

 大輪の中央が大きな口になり、開かれた。
 このままだと吊るし上げられている沖田さんが食べられてしまう!

「きゃあっ……たっ助けてくれ……!!」

「やるしかないか……!」

 俺は杖を取り出す。

(あいつの杖からかなりの凄みを感じる……あの杖の色……まさか……!)

 どうする、図鑑によるとこの匂いは麻薬成分入っていて、吸い続けると大変なことになる……!
 まずはこの人たちをここから遠ざけないと……。
 でも、そうこうしているうちに沖田さんが喰われかねない!!

「九重!! 沖田は俺に任せろ!! お前は周りの人を正気に戻してくれ、その【生命の次元】に通ずる杖を使ってな!!」

 成瀬も杖を取り出している。
 その胸には、羽のバッジが夕日に照らされて煌めいている。

 同じ羽のバッジを持つ雪夜とフィアスの実力は死ぬほど見てきた。
 その実力に疑いはない!

「分かった! 沖田さんを頼む!!」

 俺は杖に神経を集中させ、【生命の次元】を感じ取る。
 杖を伝って、動けなくなった生徒の精神にリンクする。

 集中……集中……。

 生徒たちの正気を失わせている悪い生命のモヤを取り除くように杖を扱う。

「はっ!? 私は……!」

「急いでここから離れてください!!」

「あ、あなた達は……」

「俺達は風紀委員です! さあ、早く!!」

「ありがとう、風紀委員さんたち!!」

 スパン!!!!!

「……!」

 その間、後ろで成瀬はヌビアラフレシアのツルを切り裂き、沖田を救出していた。

 ドサッ

「か、かたじけない! 助かったぞ……!」

「まだ気を抜くな! 切っても切ってもツルは再生している! こいつ、急所を突かないと枯れないんだ!」

「植物の急所といえば……根っこじゃな! しかし、根っこは土に埋もれているから手裏剣では届かんぞ」

「俺に任せろ。沖田、俺があの花の真下にいけるように援護してくれ!」

「了解じゃ!」

 成瀬はヌビアラフレシアの中央へ走っていった。
 しかし、それを拒むように、ヌビアラフレシアのツルが成瀬を攻撃しようとする。

 シュッシュッ!!! スパン!!!!

 そのツルを沖田が手裏剣で切り裂く。
 その隙に成瀬はヌビアラフレシアの根元へ入り込んだ。

「これが俺の力だ!!」

 成瀬はヌビアラフレシアの生えている土に向かって杖をぶっ刺した。

 すると、一瞬地面が鉄板のように熱くなった。

「熱っ!? 成瀬の奴、一体何をしたんだ……!?」

 ヌビアラフレシアの根は焼け、全身がパラパラと枯れ始めた。

 その間に、全ての生徒たちを麻薬成分の混乱から解放できた。

「よくわかんなかったが、なんとか無事に終わったな……」

「……おい。どうしてお前みたいな底辺が、そんな力を持っている」

「ああ、あの杖は貰ったんだよ。作ってくれた人が凄いってだけで、俺の実力じゃない」

 いいや、お前の実力だ。いくら杖が凄かろうが、それだけでは次元に通じることはできない。きっとお前は、過去に大きな試練を乗り越えたんだろう。それなのに……

「お前はどうして……こんな底辺に甘んじているんだ!!」

「……!」

 俺は【エネルギーの次元】の能力者で、熱としてのエネルギーを認識できる。
 杖を使えば、それなりに温度を操ることができるが、それが出来るようになるまでにもかなりの試練を有した。
 杖で次元に干渉するには、杖と自分のマナと共鳴させるという、かなり高度な技術が必要なのだ。

 無能力者にも関わらずそれができるあいつが、ドクロをつけているCクラスの生徒だということが許せない。

 成瀬は言葉を発することなく去っていった。

「……わっちは謝らせてくれ。お主がおらんかったら今頃喰われていたかもしれん。それだけの行動力と実力があるのなら、わっちも胸を張ってお主と風紀委員を名乗れる。これからもよろしく頼むぞ、九重」

「ああ、よろしく」

 こうして初めての風紀委員の仕事は終了した。

 しかし、あんな危険な人喰い植物はどこからやってきたのだろう。
 自然発生? それとも誰かが意図的に……?


 ◇◇◇


「……弥生くん、君はあんな生物をいったいどこから連れてくるんだい?」

「ふふ、それは理事長にも秘密ですよ。 問題児だったので糸くんの特訓用に連れて来ちゃいました!」

「まあいいが、彼はまだ正夢しか使えないようだね。彼の本当の力が出せないのは、おそらく自分の能力に自信が持てていないからだろう。つまり、これは彼の精神的な問題だ。次は彼の心を成長をさせる一手を考える必要がありそうだ」

「心の成長ですか。また今度、彼の心でも覗いてみようかしら、ふふ」
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