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第2章 劣等生

22話 サークル

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 課外活動施設408号室。

 ガラガラ

「失礼します……」

「あ、糸くん! 来てくれたんだ!」

「愛、この子が例の一年生?」

「そうそう! これで廃部が回避できるよ!」

「こんにちは、糸くん。私は2年Aクラス【二宮にのみや 菊音きくね】。歓迎するわ」

 薄茶色の髪をした綺麗な人が本を閉じて挨拶してくれた。

「よろしくお願いします」

「はっはっは、ようこそ! 私は異探サークルの顧問をしとる茶木ちゃきだ。基本は学外の企業におるが、ごくごくたまに学校の教師として顔を出す。よろしくな」

 白髪で白衣を着たおじいさんと握手する。
 異探とは異世界探索の略。
 茶木先生は滅多に来ないらしいが、今日は新人の顔を見るためにわざわざ来てくれたらしい。

「さて! フルメンバーも揃ったことだし、活動しよう!」

「フルメンバー? 顧問を入れて四人だけなんですか?」

「うん! 去年は二人でも大丈夫だったんだけど、今年から三人いないとサークルとして認めてもらえなくなったんだよ」

「でもこんな名前のサークルでも公認してくれるのだから寛容よね」

「二宮、異世界はオカルトでも何でもなく、実在する世界だぞ。逆時間の次元回路から得られたマスター方程式を解くと必ず虚数解が存在する。その虚数解が意味するところは……

「糸くん、ああやって語り始めた茶木先生の言葉は無理して聞かなくてもいいわよ」

 こそっと二宮さんが教えてくれる。
 聞こうにも、何を言っているのか分からない。
 一方で、愛さんは目を輝かせながらそれを聞いている。

 ……という結論に至るわけだ」

「なるほど、じゃあ茶木先生、実際に異世界へ行くにはどうすればいいの?」

「それには、まず大前提としてこの世界の時空を自在に移動できなければならない。時間の移動は、我々時間学者の最も悩まされている問題……だが、もしも【時谷ときたに 未来みらい】が力を貸してくれたのならばあるいは……あ、いかん! 16時半から西地区の会議室で会議があるんだった! ということで私は先に失礼する」

 バタン

 茶木先生は教室を出た。

「あの、話で出てきた時谷未来さんって……?」

「時谷先輩は、6年Aクラスの【時間の次元】と【逆時間の次元】の超能力者よ。時間を自由に駆けられるらしいのだけれど、あまり研究には協力的では無いみたい」

「時間学者の茶木先生いつも言ってるよね、時谷未来が協力してくれればタイムマシンも作れるのにって」

「タ、タイムマシン!?」

「糸くん、4つの基本的な力って知ってる?」

「4つの力ですか……? 腕力とか持久力とか……ごめんなさい、勉強は苦手で」

「あはは。重力、電磁力、強い力、そして弱い力だよ。この世界はね、この4つの力が生み出す場の中で、11次元の『ひも』が織り成す世界なんだ」

「強い……弱い……? ひも?」

「うん、そうだよ。でもね、私はきっと、これ以外の力や次元がまだあるんじゃないかって思ってるんだ。実際に私達は、今の科学じゃ説明できないような不思議な現象を目の当たりにしてきた。だから糸くん、私達と一緒に不思議を探して、世界の秘密を明らかにしよう!」

 賢さ小学生レベルの俺が、今の話を何割理解できただろうか。
 でも、不思議と言うと、俺の正夢も……。

 人は大人になるにつれて現実をよく知るようになる。
 だから、夢とか不思議とか、非現実的なものを子供のように追い求めることを諦める。
 でも、現実を知り尽くすと、一周回って不思議を探究するようになるのかもしれない。

 俺はこのサークルが持つ奇妙で独特な雰囲気のどこかに惹かれはじめていた。


 ◇◇◇


 この日の夜。
 とあるお店にて新歓コンパが行われていた。

「ねえ、松蔭さんってもしかしてあの松蔭財閥の!?」

「ええ、まあ……」

「すごーい! お嬢様で超能力者とかかっこよすぎるよ!!」

「あ、ずるいぞ! 俺も松蔭さんの横で話聞きてえ!」

「私もー!」

「ムフフ、おいらの隣はいっぱい開いてるでやんすよ!」

「おまちどうさま、レシスぺ人数分だよ」

 店員さんがレシスぺと呼ばれる謎のドリンクを配る。
 それを配り終え、幹事が立ち上がる。

「料理と飲み物がいきわたりましたね。本日は新入生の皆さん、本サークルの新歓コンパにお越しくださりありがとうございます。先輩とたくさんお話して、是非入部を検討してください!それでは我々パワフル野球部に!」

「「かんぱーい!!!」」

 ざわざわ……

「あの、この飲み物ってなんでやんすか?レシなんとかって言ってったやんすけど」

「レシプロカルスペースドリンク、略してレシスぺ。しばらくの間、逆空間の3次元のうち1次元だけを認識できるようになる飲み物さ。飲んでごらん」

「へえ、面白そうでやんすね! ではでは」

 尻口くんはごくごくと飲みだした。

「ひっく!! なんかポカポカしてきて…気持ちよくなってきたでやんす!!」

「3次元ある逆空間を1次元だけ認識するから、お酒みたいに酔っちゃうらしいんだ。でも体に悪い成分は入ってないし、お酒と違って15歳以上から認められているから、チューベローズの学生には大人気なんだぜ」

「うひょー!! おかわりでやんすー!!」

 そんな尻口くんたちの陰でフィアスはもぐもぐと箸を進めていた。

(……糸が作ってくれたご飯のほうが美味しいな)

「あなたも松蔭さんと同じで羽のバッジの新入生でしょ!?もしかして能力者!?」

「え……私は別に……」

「えー!! いいじゃん教えてよ~!!」

(か……帰りたい……!)

 フィアスは重度のコミュ障である。

「パワフル野球部は色んな球場で試合するんだけど、その中の一つに闇の次元のギミックがある球場もあるんだ。だから松蔭さんが入ってくれれば即レギュラーなんだけどな!」

「ですが私、野球経験はありませんわ」ゴクゴク

 ドドドッ!

「おいらは野球経験豊富でやんすよ!! 松蔭さんにいっぱい教えてあげるでやんす!」

「こらっ、尻口くん、暴れない!」

「ごめんでやんす……」


 ◇◇◇


 その頃、赤砂寮にて。
 今日は苺が俺の部屋に来てご飯を食べていた。

「それにしても苺はCクラスで大人気だな」

「何も良いことないわよ。みんなお兄ちゃんが目当てなだけで、千陽朝日の妹としてしか見てくれない」

「俺がドクロトリオの一人としか見てくれないのと一緒か」

「アンタたちと一緒にしないで!」

「でも最初はそんなもんなのかもしれないぞ。まだ会って二日の人なんて、どこどこ出身の人とかでしか認識してないから。これからの学校生活で苺らしくしていくと、きっとみんな苺として見てくれるようになってくれるんじゃないか?」

「……そうね。ごちそうさま、美味しかったわ」

「おそまつさま。そういえば以外だったよ、苺もたくさんの部活に誘われてたのに、新歓コンパには行かなかったんだな」

「当然よ。私はAクラスに上がるために勉強と特訓をしないといけないもの。課外活動に割く時間はないわ」

「なるほど。俺もドクロから脱出するために勉強しなきゃね」

「あれ、アンタの携帯鳴ってない?」

「ほんとだ、フィアスからみたい。……もしもし、フィアス?」

『糸! 急いで食事街に来て!』

 一体なにがあったんだろう。
 急いで食事街へ向かった。


 ◇◇◇


 夜の食事街。

「フィアス! どうしたの!」

「糸! 雪夜が……!!」

「糸~~~もう飲めまへんわぁ~~わたくひを介抱ひてくださいまひ~~」

 雪夜が抱き着いてくる。
 顔は真っ赤でとても発熱している。

「ちょっ、まさかお酒飲んだの!?俺達まだ15歳だろ!?」

「それがお酒モドキで、酔うけど合法な飲み物なんだって」

「フィアスは酔ってないみたいだけど、飲んでないの?」

「なんか酔う理由が、次元を一時的に認識できるようになるかららしいんだけど、私はもともと全部の次元を認識できるからね~」

「そりゃいいや。で、一緒に飲んでた方々は?」

「ばらばらで二次会に行く流れだったけど、皆だいぶ酔っぱらっててごちゃごちゃになったから、その隙に雪夜を担いで逃げてきたのだ」

「おお、シラフは頼もしいな。とにかく雪夜を青月館に運ぼう」

「もう歩けまへん~。だっこしてくださいまひ!」

「やれやれ、甘えん坊さんめ」

 にゅっ

 雪夜を抱っこすると、なぜかフィアスにほっぺをつままれた。

 雪夜を抱えながら青月館へ向かう。
 青月館に着くと、フィアスがカードキーで玄関を開ける。
 あいかわらず高級ホテルのような、立派でムーディーなロビーだ。
 エレベーターを使って雪夜の部屋に行く。

「ほら、雪夜、鍵を出して」

 雪夜の鍵で部屋に入る。

「よいしょっと。じゃあ俺は帰るから今日は早く寝るんだぞ」

「まだかえっちゃダメですわ! 私たちだけで二次会やりますわ!」

「俺達だけで二次会しても何の意味もないだろう」

「アイス冷えておりますわよ!」

「知らないよ!」

「そんな……私とお話してくれませんの……?」

 上目遣い。めっちゃウルウルしてこっちを見てくる。
 いつもの清楚で真面目な雪夜とのギャップで、変に魅力に取りつかれてしまいそうだ。

「糸! それは人肌が触れ合ったことによる一種の錯乱状態だよ。騙されないで!」

 またフィアスにほっぺをつままれた。

「あいたたたた!」

「あ、フィアスは体調が優れなければ、もう帰ってもよろしいですわよ」

「こんな状態で二人っきりにさせられる訳ないでしょ!」

「朝ご飯を作ってもらうことを言い訳に、毎日部屋に糸を呼んで!やり方がこすいですわ!」

「そ、そんな理由じゃないもん! 普通にご飯が食べたかっただけ!」

「わー! とにかくアイスを食べて頭を冷やそう!」

 翌日、雪夜は恥ずかしそうに謝ってきた。
 そしてこの一件以来、雪夜は外出時のレシスぺを警戒するようになった。
 しかし、少し癖になってしまったらしく、たまにこっそりと家で飲んでいるとか。
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