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第1章 入学前
9話 生命の超能力者
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俺は雪夜と別れ、夕食用の食事街で食材を買い、田舎道を通って赤砂寮へ帰る。
赤砂寮へと続く田舎道は、あたり一面に草原が広がる道。
その田舎道をずっと下った先にある、森の入り口にポツンとあるボロボロの寮が赤砂寮。
田舎道は結構な距離があるため、そろそろ自転車でも買おうか悩んでいるところだ。
そんなことを考えながら、食材の入った袋を片手に田舎道を下っていると、草原に何かが群れているのが目に入った。
そこには何匹かの動物がいて、その中心には透き通るような緑色の長い髪をしたお姉さんが座っている。
西に輝く太陽、風に揺らぐ草原。
あまりに神秘的な光景なので、一瞬見惚れてしまった。
「あら、こんにちは」
ドキッとした。ジロジロ見すぎたかな……?
「ふふ。大丈夫よ、そういうことじゃないわ。私はあなたにお礼をしたいの」
え!? 今声を出してなかったはずだけど……。
あまりに露骨に顔を出して心を読まれたのか……?
「お、お礼……ですか……? すみません、心当たりが無いんですが」
「いいえ。昨日、助けてくれたじゃない」
「助けた? 特に人助けとかは何も……」
「人じゃないわ。ほら、森の中で」
「森……? あ! まさか、あなたはあの小動物の化身!?」
「ふふ、違うわよ。私はあの子のお友達なの。昨日はお友達を救ってくれてありがとう」
「いえいえ、そんな。あれ、どうして俺が助けたって分かったんですか?」
「その前に、自己紹介が遅れたわね。私は【弥生 心乃】。今年度から6年生の学生よ」
「俺は九重糸です。今年度から1年生です」
6年生?
この学校は3年制じゃないのかな。
「ええ、高校に対応する3年間と大学に対応する4年間。この学校には全部で7年間の教育課程があるのよ」
まただ。まるで俺の心を見透かされているような……。
「糸くん、さっきの質問に戻るわね。私が助けてくれたのを知っているのは、あの子が教えてくれたからなの」
「あの子って、まさかあの小動物が……? あなたは動物とお話ができるとでも言うんですか?」
「ええ。あの子もありがとうって、九重くんにとても感謝していたわ」
「どうして心乃さんは動物とお話ができるんですか?」
「……ねえ糸くん、生命ってなんだと思う?」
心乃さんは動物を撫でながら、飲みこまれるほど優しい表情で尋ねた。
「生命……。うーん、分かりません」
「難しい問題よね。そのために生物学的な視点から、または宗教的な視点から、命や魂について理解しようとする人は多いわ。でも、命や魂と呼ばれるものは物質の反応やオカルトではなく、1つの次元なのよ」
「命が……次元……?」
「ふふ、詳しいことは学校で習うと思うわ。私はその【生命の次元】を人よりも強く感じることが出来るの。そして、いつの間にか干渉出来るようになっていて、魂や生命と意思疎通ができようになったわ。動物や植物、亡くなった人まで」
「人の心が読めるってことですか?」
「ええ」
草原に吹き抜ける春風に緑色の髪をなびかせ、エメラルドのような瞳で俺を見つめながら彼女は答えた。
心を読まれていた感覚は、気のせいじゃなかったんだ。
「ごめんなさい、糸くんの心も少し覗かせてもらったわ。お友達の松蔭さんという方を心配しているのね」
「はい……」
「その松蔭さんは、私のように次元に干渉できるみたい。彼女の干渉できる次元は【闇の次元】。まだこの学校には、その次元に干渉できる人はいないわ。だから、【闇の次元】についてはまだ詳しくは分かっていないの」
「【闇の次元】……」
「次元はあまりにも果てしなく、膨大なもの。下手な干渉の仕方をしてしまうと、精神が潰されてしまうかもしれないわ」
俺には感じることのできない次元という概念。
それは一体どんな形で存在し、超能力者とどうやって繋がっているのだろう。
「糸くん。近い未来に大変なことが起きるかもしれないけど、どうか松蔭さんを救ってあげてね。それにはこれが役立つかもしれないわ。はい」
心乃さんは緑色に輝く棒のようなものを渡してきた。
「これは……?」
「ふふ、あの子を助けてくれたお礼よ。あら、スーパーで生ものを買っていいたのね。呼び止めてしまってごめんなさい。また会いましょう」
「は、はい……」
心乃さんの振る舞い、言葉、存在感。
その全てに、無能力者の俺にも特別なものを感じた。
これがチューベローズの、4人の超能力者の一人なんだ。
◇◇◇
「え!! 【生命の次元】の超能力者、弥生心乃さんに会った、ですって!?」
夕ご飯のカレーを食べながら、苺は驚いた。
「そうなんだよ。なんでも人の心が読めるらしくて、俺の心もスケスケだったんだ」
「お兄ちゃんのクラスメイトね。美人で巨乳だって聞いたけど、アンタ変な気起こしてないわよね?」
ブフォッ!
「起こすわけないだろ! ……起こしてなかったよな?」
「知んないわよ!」
もし変なこと考えてたら、心乃さんには筒抜けだろう。
「それより、苺のお兄さんも心乃さんと同じ6年生なのか。超能力者ってチューベローズに4人しかいないんでしょ? そのうち2人が同じ学年だなんて偶然だな」
「あら、知らないの? その4人の超能力者は全員同じ学年よ」
「え、そうなのか!?」
「そうよ。10万人に一人と言われる超能力者が4人揃ったその世代のことを、みんな『黄金世代』って呼んでるわ。その黄金世代のおかげで、高次元世界の開拓は急速に進行したの」
「か、かっこいいな」
苺はなぜかドヤ顔でカレーを食べている。
赤砂寮へと続く田舎道は、あたり一面に草原が広がる道。
その田舎道をずっと下った先にある、森の入り口にポツンとあるボロボロの寮が赤砂寮。
田舎道は結構な距離があるため、そろそろ自転車でも買おうか悩んでいるところだ。
そんなことを考えながら、食材の入った袋を片手に田舎道を下っていると、草原に何かが群れているのが目に入った。
そこには何匹かの動物がいて、その中心には透き通るような緑色の長い髪をしたお姉さんが座っている。
西に輝く太陽、風に揺らぐ草原。
あまりに神秘的な光景なので、一瞬見惚れてしまった。
「あら、こんにちは」
ドキッとした。ジロジロ見すぎたかな……?
「ふふ。大丈夫よ、そういうことじゃないわ。私はあなたにお礼をしたいの」
え!? 今声を出してなかったはずだけど……。
あまりに露骨に顔を出して心を読まれたのか……?
「お、お礼……ですか……? すみません、心当たりが無いんですが」
「いいえ。昨日、助けてくれたじゃない」
「助けた? 特に人助けとかは何も……」
「人じゃないわ。ほら、森の中で」
「森……? あ! まさか、あなたはあの小動物の化身!?」
「ふふ、違うわよ。私はあの子のお友達なの。昨日はお友達を救ってくれてありがとう」
「いえいえ、そんな。あれ、どうして俺が助けたって分かったんですか?」
「その前に、自己紹介が遅れたわね。私は【弥生 心乃】。今年度から6年生の学生よ」
「俺は九重糸です。今年度から1年生です」
6年生?
この学校は3年制じゃないのかな。
「ええ、高校に対応する3年間と大学に対応する4年間。この学校には全部で7年間の教育課程があるのよ」
まただ。まるで俺の心を見透かされているような……。
「糸くん、さっきの質問に戻るわね。私が助けてくれたのを知っているのは、あの子が教えてくれたからなの」
「あの子って、まさかあの小動物が……? あなたは動物とお話ができるとでも言うんですか?」
「ええ。あの子もありがとうって、九重くんにとても感謝していたわ」
「どうして心乃さんは動物とお話ができるんですか?」
「……ねえ糸くん、生命ってなんだと思う?」
心乃さんは動物を撫でながら、飲みこまれるほど優しい表情で尋ねた。
「生命……。うーん、分かりません」
「難しい問題よね。そのために生物学的な視点から、または宗教的な視点から、命や魂について理解しようとする人は多いわ。でも、命や魂と呼ばれるものは物質の反応やオカルトではなく、1つの次元なのよ」
「命が……次元……?」
「ふふ、詳しいことは学校で習うと思うわ。私はその【生命の次元】を人よりも強く感じることが出来るの。そして、いつの間にか干渉出来るようになっていて、魂や生命と意思疎通ができようになったわ。動物や植物、亡くなった人まで」
「人の心が読めるってことですか?」
「ええ」
草原に吹き抜ける春風に緑色の髪をなびかせ、エメラルドのような瞳で俺を見つめながら彼女は答えた。
心を読まれていた感覚は、気のせいじゃなかったんだ。
「ごめんなさい、糸くんの心も少し覗かせてもらったわ。お友達の松蔭さんという方を心配しているのね」
「はい……」
「その松蔭さんは、私のように次元に干渉できるみたい。彼女の干渉できる次元は【闇の次元】。まだこの学校には、その次元に干渉できる人はいないわ。だから、【闇の次元】についてはまだ詳しくは分かっていないの」
「【闇の次元】……」
「次元はあまりにも果てしなく、膨大なもの。下手な干渉の仕方をしてしまうと、精神が潰されてしまうかもしれないわ」
俺には感じることのできない次元という概念。
それは一体どんな形で存在し、超能力者とどうやって繋がっているのだろう。
「糸くん。近い未来に大変なことが起きるかもしれないけど、どうか松蔭さんを救ってあげてね。それにはこれが役立つかもしれないわ。はい」
心乃さんは緑色に輝く棒のようなものを渡してきた。
「これは……?」
「ふふ、あの子を助けてくれたお礼よ。あら、スーパーで生ものを買っていいたのね。呼び止めてしまってごめんなさい。また会いましょう」
「は、はい……」
心乃さんの振る舞い、言葉、存在感。
その全てに、無能力者の俺にも特別なものを感じた。
これがチューベローズの、4人の超能力者の一人なんだ。
◇◇◇
「え!! 【生命の次元】の超能力者、弥生心乃さんに会った、ですって!?」
夕ご飯のカレーを食べながら、苺は驚いた。
「そうなんだよ。なんでも人の心が読めるらしくて、俺の心もスケスケだったんだ」
「お兄ちゃんのクラスメイトね。美人で巨乳だって聞いたけど、アンタ変な気起こしてないわよね?」
ブフォッ!
「起こすわけないだろ! ……起こしてなかったよな?」
「知んないわよ!」
もし変なこと考えてたら、心乃さんには筒抜けだろう。
「それより、苺のお兄さんも心乃さんと同じ6年生なのか。超能力者ってチューベローズに4人しかいないんでしょ? そのうち2人が同じ学年だなんて偶然だな」
「あら、知らないの? その4人の超能力者は全員同じ学年よ」
「え、そうなのか!?」
「そうよ。10万人に一人と言われる超能力者が4人揃ったその世代のことを、みんな『黄金世代』って呼んでるわ。その黄金世代のおかげで、高次元世界の開拓は急速に進行したの」
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