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第1章 入学前

7話 正夢

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 青月館の入り口にあるボタンに、フィアスの部屋番号である205と打つ。

 ウィーン

 すると、フィアスが部屋から自動ドアを開けてくれる。

 相変わらず高級ホテルのようなロビー。
 エレベーターで2階に上がる。

 ピンポーン

 今度は205号室の部屋のインターホンを鳴らす。
 すると鍵を開けて出迎えてくれた。

「待ってたよ~!」

「あれ、連絡をくれた割には元気そうじゃないの」

「いやいや、本当にしんどいんだって。ここへ来てからずっと」

 そう言うとフィアスはベッドに横になった。

「体温も正常だし、風邪じゃないのに体がだるいんだ。この世界にいる間はずっとこうなのかな……」

 フィアスの体調不良の原因は、おそらく高次元世界だろう。
 よく分からないけど、むき出しになった次元を感じられることが体の負担となっているのかもしれない。

「あ、そういえば買ってきてくれた? ごはん!」

「はいはい。食事街のスーパーで色々買ってきたよ」

 俺は青月館へ行くまでの間に、食事街のスーパーでフィアスの朝食を買ってきていた。

「でも青月館は無料のバイキングがついているって入り口に書いてたんだけど」

「9階の展望レストランまで行くのに疲れるんだもん」

 なんて贅沢な! 赤砂寮は近くにコンビニすらないんだぞ。
 とはいえ、それほどフィアスの体調は良くないのかもしれない。

「じゃあ何か作るから、ちょっと待ってて」

「やった、ありがとう!」

 フィアスの部屋で朝食を済ませ、軽く昼飯と夕飯用に作り置きしてあげた。


 ◇◇◇


 青月館からの帰り道。
 透き通った青空のもと、春先の冷たい風が優しく吹いている。

 とくに用事も無いし、昨日見た夢の森の中が穏やかでエモかったので、自然の中を探索することにした。

 チューベローズの南区域は、学校側から順に青月館→黄泉荘→いろんなお店街→→→赤砂寮といった具合に続く。

 お店街から赤砂寮までの道は、周りが草原に囲まれた田舎道。そして、田舎道の突き当たりにある赤砂寮の周りには森がある。

 今日はその赤砂寮周りの森をお散歩することにした。

 森の中では、見たことのない植物や虫が飛んでいた。
 やはり、次元が解放された世界では住んでいる生き物が現実とは違うようだ。

 だが次の瞬間、ある光景を目の当たりにして俺は息をのんだ。

 どこかで聞いた鳥のさえずり。どこかで見た泉。
 そして、見たことがないはずなのに見覚えのある小動物が木の実を食べている。

 なんのことはない、俺が昨日見た夢と一緒ではないか。

「偶然……? でも、もし正夢になるとすると……」

 突然、風の刃が木の幹を削ぎとった。
 小動物は地面を掘っていて、それに気づかない。

「やっぱり!!」

 そうなるような気がしていたので、俺はすでに倒れる木に向かって走り、飛び込んでいた。

 そのおかげでギリギリ小動物を助けることができた。
 小動物はちらっと俺の顔を見て、森の中へ走り出した。

「夢が現実になるなんて、こんなことあるんだな」

 俺は不思議な体験をした。


 ◇◇◇


 夕方。
 スーパーで買ってきた食材で夕飯を作る。

 しかし、思ったよりも食材の量が多く、あまりにも一人では食べきれない量を作ってしまった。

「そうだ、昨日は申し訳なかったし、お隣さんにおすそわけしよう」

 コンコン

「こんばんは、千陽さん、いる?」

 ガチャ

「なによ」

 机の上に開かれた参考書、眼鏡をかけた千陽さん。
 その状況から予想するに、勉強をしていたようだ。

「ごめん、お勉強中だったの」

「そうよ。邪魔しないで頂戴」

「ごめん、シチューが余り過ぎちゃってさ、ちょっと食べてくれない?昨日のお詫びってことで」

「……いらない。後でコンビニ行く」

 ぐう~~~

 千陽さんのお腹が鳴った。

「……今のはなんでもない! ていうかアンタが悪いのよ!こんな狭いとこでそそらせるような匂いさせないでよ!」

「ほら、コンビニを行き来する分の時間も勉強に当てられるじゃない。お金も浮くし!」

「……はあ、分かったわ。でも、アンタのお詫びのために仕方なくだからね!」

 千陽さんは俺の部屋にある机に座った。

 コトッ

「いただきます……」

 千陽さんはスープをスプーンですくって口へ運ぶ。

「!! おいしい……!」

「良かった」

「アンタ、料理上手いのね」

「小さい頃から色々飲食店でバイトしてたんだ」

「バイトって、まだ私と同じ15歳でしょ……」

「俺、小学生の時に親に捨てられたからさ、はは」

「えっ……」

 俺は親に捨てられてバイトをたくさんやってきたことを少しだけ千陽さんに話した。

 これまでの千陽さんのツンとした態度とは打って変わって、真剣に話を聞いてくれた。

「……アンタにも色々あるのね」

「千陽さんはお兄さんが超能力者って言ってたっけ」

「苺でいいわよ。チューベローズにいる4人の超能力者の一人、【千陽ちよう 朝日あさひ】がアタシのお兄ちゃん。超能力者の存在はこの高次元世界への理解が大きく進むから、偉い人にとって重要な人材なの。だから学校側も特別推薦で入学させてくれるほど、妹のアタシに期待していたのだと思う。でも、残念ながらアタシにはそれだけの才能は無かったみたい」

 周りからの期待か。
 でも聞いている限り超能力、能力は特殊な才能なのだから、その期待を真っ向から受け止めて苦しまなくてもいいような気がするけど。

 とはいえ、俺がかけるべき言葉はそうじゃないな。

「俺も応援したい。俺に出来ることで助けになりたい!」

「えっ……? なによ、アタシに同情してるわけ?」

「違うよ。まずは勉強だろ?苺が集中できるように、ご飯や洗濯はいつでも頼ってくれていいから」

「……ふん、好きにしなさいよ。……ん? 洗濯?」

 Oh。

「変態!!!!!」

 ちゃぶ台が宙を舞った。
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