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第1章 入学前

6話 赤砂寮

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「いや……さすがに青月館と違いすぎないか……?」

 入り口は一応カードキー式の自動ドア。
 しかし、少し回り込めば鍵なしでも普通に入れる。

「セキュリティゆるゆるかよ!」

 もちろんエレベーターは無く、階段のみ。
 しかも、俺の部屋は711号室。

「はあ……はあ……。毎日この階段を7階まで上り下りしなきゃいけないのか……」

 通路は屋外で、蜘蛛の巣がちらほら見られた。
 704、705、706……あった、711号室。
 部屋は一応カードキー式。

 カチャ

 部屋の中にあったのは、小さいベッドと、今にも壊れそうなちゃぶだい。キッチンも狭く、風呂場には『お湯を使いすぎると水になります』の張り紙。

「これからここで過ごすなんて、嘘だドンドコドーン!!!!」

 嘆いていると、壁にドアがついているのに気付いた。

「良かった、流石にもうひと部屋あるか」

 ガチャ

 そこにあった……いや、いたのは……

「ぐすん……ぐすん……」

 泣いている赤髪の女の子だった。

「……あれ?」

「だっ、誰よアンタ、ここは私の部屋よ!! ぐすっ……」

「えっ! だって部屋の中に扉が……」

「そんな……この部屋はプライバシーも確保されてないわけ!? もう最悪!!」

 後に確認すると、どうやら工事の設計ミスで作られた扉がそのまま残っていただけらしい。

 つまり、俺の部屋はお隣さんと扉で繋がってしまっている。

「ねえ、俺の友達の青月館ってとこはこんなんじゃなかったんだ。どうしてここはこんなに酷いの?」

「……成績が悪かったからよ。赤砂寮に入れられたってことは……アタシ達はCクラスってコト……」

「えっ!? この宿舎の決め方って試験の成績で決まってるのか!? 試験は今日受けたばっかりだぞ」

「最後の面接までの間に採点なんて終わってるわ。で、面接官が試験と面接での結果を合わせて寮を決めてるのよ。青月館はAクラス、黄泉荘はBクラス、赤砂寮は落ちこぼれのCクラスが住む寮なのよ……。私は……お兄ちゃんみたいな超能力者になりたかったのに……青月館に行きたかったのに……やっぱり才能無いんだ……うわあああああああん!!」

 まずい、本格的に泣いてしまった。
 俺はなんとか慰めようとする。

「元気出そう。決まっちゃったものはしょうがない!」

「アンタに何が分かるのよ! 私がどれだけ今日のために勉強してきたと思ってるの!!」

「ご、ごめん。でも、たまたま自分が分からない問題が出たとか一時の運もあるさ。試験なんてそんなもんだろ」

「あなた分かってないわね。心理テストと面接あったでしょ。あれでアタシ達の能力者としての才能を見極められてるのよ」

「能力者としての才能?」

「試験でどれだけ良い点数を取ろうが、ここチューベローズでは能力の方が圧倒的に優先されるわ。つまり私達は才能のない無能力者って言われてるようなものなのよ!」

 あれだけ豪華な青月館には、能力者としての才能を見出された選ばれた人のみが行けるところのようだ。

 やっぱり雪夜とフィアスはただものじゃないってことか。

「……俺も泣いていい?」

「いいけど、アンタいつまで『アタシの』部屋にいるわけ?泣くなら自分の部屋で勝手に泣きなさい」

「はい……。あ、俺は九重糸。お隣同士よろしく」

「……【千陽ちよう いちご】よ」

 赤砂寮の最初の夜はしんみりとした悲しい夜になった。


 ◇◇◇


 夜。
 まるで赤ちゃん用のような小さいベッドに、身をうずめて眠りについた。


 …………


 良く晴れた森の中。小鳥のさえずる声に、キラキラ光る泉。
 その岸辺にはキツネのような、初めて見る小さな動物が木の実を夢中で食べている。

 まるで絵本に出てくるような、とても和やかな光景だ。

 ところが、突然つむじ風が発生し、太い木の幹が傷ついた。
 小動物はそれに気づかず、一生懸命地面を掘り、木の実を蓄えようとしている。

 メキメキメキ……!

 木の幹はひびがどんどん入り、太い木が倒れてきた。

 べちゃ!!

 運悪く、木は小動物の方へ倒れ、小動物は太い木の下敷きになってしまった。


 …………


「……はっ!!」

 窓から朝日が差し込んでいる。

「今日の夢、途中まで和やかだったのにめちゃくちゃバッドエンドじゃないか」

 それにしても、今日の夢はいつにもましてはっきりと覚えている。

「夢なんて夢中で見たところで、オチもくそもないよな。まったく」

 なんて呟きながらスマホを確認すると、誰かさんから連絡がきていた。

「フィアスからだ。どれどれ、『しんどいから来て』だって!? 大変だ!」

 俺は急いで青月館へ向かった。
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