高次元世界で生きていく

エポレジ

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第2章 地下世界

25話 旅立ち

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 俺達は朝日さんに生徒会室へ連れられた。

 ガチャリ

 そして、朝日さんは入り口の鍵を閉めた。

「……俺を閉じ込めてどうするつもりですか?」

「いやいや、むしろ逆。君を護るために、誰も入らせないようにしただけだよ」

「護るため……?」

「ああ。弥生による今日の監査で犯人を特定することはできなかったが、別の生徒の心から犯人の名前はつきとめられた。そして、それは偶然にも俺の知っている名前だったというわけだ」

「えっ……まさか私達の心で……!」

「そんな……。すまない……九重」

「君たちは謝る必要はないさ。弥生の能力は絶対だ。考えていることか思ったことなどを読んでいるわけではなく、生命そのものを見ているから隠すことはできないんだ。隠すためには、超能力者ほどの次元を歪める力か、それを打ち消す何らかの力が必要だ」

「あの……一体何の話をしていますの……?」

 雪夜だけが置いてきぼりの状態。

「それはね、九重くんが地下世界……いや、高次元世界を形成していた大切な道具『次元計』を壊してしまったんだ」

「次元計……?」

「次元計は世界から切り離された独自の次元を刻むことのできる道具さ。この高次元世界はね、4つの次元計によって存在している世界なんだ。九重くんは、そのうちの1つを壊してしまった。これは、壊された次元計の管理を高次元世界の中央から任されていた理事長にとっては死活問題なんだよ」

「俺は……とんでもないことを……」

「待ってくれ! それなら俺達も当事者だ! 九重一人のせいじゃない……あの世界から出たかったのは俺達もなんだ! だから、罪は九重だけじゃねえ!!」

「そうですよ! これには色んな経緯があって……九重さんを責めないでください!」

 成瀬と二宮は朝日さんから俺を庇うように立ち上がった。

「まあ落ち着いてくれ。真実がどうであっても、九重くんが壊したという事実が変わらない。理事長は本気で九重くんを潰しにくるだろう。その追手には、僕や弥生、そして【時間の次元】および【逆時間の次元】の超能力者【時谷ときたに 未来みらい】をはじめ、この学校の生徒が駆り出されるはずだ」

「ということは、貴方は敵……ということですわよね……?」

「そう。僕は学園の生徒という立場上君の敵になる。本来は九重くん以外の君たちも、九重くんの敵だけどね」

「俺達が九重を裏切るわけないだろ!」

「そうです!!」

「ふふ、本気になった理事長を舐めたらいけないよ。洗脳、報酬……きっとあらゆる手段を使って九重くんを敵にしてくるはずだ。……だから、逃げるんだ。ここからずっとずっと遠くへ」

「意味が分かりません……。朝日さんは敵である俺をどうして逃がすんですか?」

「その理由を含めて、真実を見つけておいで。君のやったことは、この高次元世界にどういう影響を与えたのか。そして、それによってこの世界がどういう方向に転び始めているのか。次元計の正体を突き止めて、この世界の全てを明らかにしてくるんだ」

 朝日さんは立ち上がり、カーテンを開いて青い空を眺める。

「僕にはまだ分からない。君が取り返しのつかないことをしてしまったのか……それとも何かを救ったのか……。だから、理事長の命令が下った後に出会ったら容赦しないよ。僕のような無知な者は、上からの命令をただ聞くことしかできないからね」

「朝日さん……」

「さあ、明日の早朝には出発するんだ。この高次元世界の真実を探す旅へ」

「……分かりました。ありがとうございます」

 すぐに犯人を突き止めた朝日さんだったが、俺にチャンスを与えてくれた。


 ◇◇◇


 俺はショッピングモールで旅に必要なものを買い、出来る限りの支度をした。夜は早めに寝て、始発のバスで出られるように起床。そして、バス停へと向かった。

「ちょっと待て……なんでお前らがいるんだ……?」

「当り前ですわ。貴方一人で行かせるわけないでしょう」

「そうだよ! 九重くんは私の命の恩人だから、絶対に一人にはしない!」

「俺もだぜ。ふふふ、出発が楽しみだな」

 話を聞いていた雪夜、二宮、成瀬がリュックを背負って始発のバスを待っていた。

(ここには禍々しい損得などの感情はない。本気で俺の助けになろうとしてくれているのが伝わってくる。これが本当の友達……あの地獄を一緒に切り抜けた、信じられる友達……! でも、だからこそ……)

「迷惑だ!! 圧倒的迷惑!! 舐めてんのかお前ら! さあ、早く帰れ帰れ!!」

 語彙力低下。それくらい嬉しくて、頭が回っていないんだ。でも、だからこそ巻き込みたくない。こいつらは、ただの高校1年生。これからの人生の為に学校に通うんだ。俺みたいなクソな人生についてくると、必ず不幸になる。

「せめてお前らは……俺の代わりに真っ当な人生を歩んでくれ……!!」

 口ではそういうものの、涙が止まらない。下を向いて目がグチャグチャになり、夏の朝焼けが全く見えない。

「九重くんの言う通りだよ」

 朝日さんも見送りに現れた。

「これは、九重くんの試練だ。君たちは行ってはいけない」

「朝日さん……そいづらのこと……頼みまず!!!」

「ああ。頑張れよ、九重くん」

「嫌!! 離してください!!」

「……少しおとなしくしてもらおうか」

 ドドド……!!!

「か……からだが……!」

「なにを……」

 雪夜と成瀬と二宮の体から力が抜けていく。

「大丈夫、少し3人からエネルギーを奪い取っただけさ。おや、バスが来たみたいだよ」

 ブロロロ……プップー!
 ガシャン!

 バスの扉が開いた。

「九重!!!! 絶対真実を見つけて帰って来いよ!!!」

「もう一度必ず……必ず会おうね……九重くん……!!」

 エネルギーが吸い取られた成瀬と二宮は、力をふりしぼって精一杯声を張り上げた。

「ああ……! 絶対に帰ってくる……!! ありがとう……!!」

 しかし、1人だけ諦めずにバスへ向かう者がいた。

「!? 松蔭雪夜……この2人よりも多めにエネルギーを奪い取ったというのに……動けるのか……!?」

「はあ……はあ……」

 エネルギーを奪われたはずの雪夜は、地面を這い、バスの扉へと手を伸ばした。

「おい! 何やってんだよ雪夜!!」

「行かせませんわ……あなたを一人にはしません……! もうあのような過ちは二度と……!」

(すごい……闇を無理やりエネルギーの代わりに使って体を動かしている……)

「朝日さん! 雪夜を止めて下さい!!」

「いや……完敗だ。君たち2人で行っておいで。期待しているよ、九重くん、松蔭さん」

 ウィーン……ガシャン!

 バスの扉は閉まり、雪夜はバスの床で弱った猫のように丸まった。

「なんで……なんで来ちまったんだよ……雪夜……!!」

 俺は意識を失った雪夜に肩を貸し、後部座席へと移動した。
 俺達2人だけが乗るバスの窓から見える朝焼けは、俺達の旅の始まりを告げた。
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