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1巻
1-2
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「念のためよ。さて、レイア様がお帰りになるまでにやれることはやっておきましょうか」
「そうね。アイハザード家への連絡はお願いね。私は、他の事務処理を片付けておいてあげるわ」
同僚が持っているポスター……どうやら、それを貼るのが事務処理らしい。ようやく新しいのが来たのね。先日、どっかの酔っ払いが破ってしまったギルドのランク認定表。
改めて思うけど、ザックリ感漂うランク表。
ランクE:街付近のモンスターや迷宮入口までのモンスターを一対一で倒せる実力。
ランクD:迷宮の上層(一~十層)のモンスターを一対一で倒せる実力。
ランクC:迷宮の中層(十一~二十層)のモンスターを一対一で倒せる実力。
~才能の壁~
ランクB:迷宮の下層(二十一層以降)のモンスターを一対一で倒せる実力。
~人としての壁~
ランクA:ソロで迷宮最下層まで到達できる実力。
迷宮のモンスターが単体でいることなど少ない。それに加え、迷宮なんてソロで行く場所ではなくて、基本複数人で行く場所だ。それなのにソロ前提のランク表とか、コレを考えた人は何を考えているのか、さっぱり理解できないわ。本来であれば、パーティーで実力を示す指標の方が必要だと思うけど、パーティーメンバーが可変することも多く、パーティーランク制度については未だギルド内部でも賛否両論らしい。でも、もう少しなんとかできないものかしらね。
3 未帰還者探索(三)
『モロド樹海』の九層で私――ミーティシア・レイセン・アイハザードのパーティーは、トランスポートのある十層への入口を探し回っていた。
食料は、昨日の朝食が最後だった。しかも、乾燥した野菜の切れ端だけというひもじいものだったが、今思えばもっと味わっておくべきだったと思ってしまう。それだけに留まらず、メンバーの皆さんも疲労困憊なのが分かる。私は、他の皆さんと違い本職の冒険者ではないが、この状況……あと二日もてばいい方かもしれない。
「ウーノの意識は、戻らないか」
近くを偵察していた、パーティーリーダーのアーノルドさんが戻ってきた。
「はい。やはり、無理をさせすぎたようです」
迷宮での水の確保は困難で、これまでウーノの『水』の魔法で何とか空腹感などを誤魔化して耐え凌いでいた。だが、度重なる戦闘で魔法を使わざるをえない状況が多く、ついに限界を迎え、ウーノが昏睡状態になってしまった。
自然回復を待つのも手だが、満足な食事や休息が取れない状況では、回復するものも回復できない。とはいえ、この状況で不謹慎かもしれないが、こうしてウーノを介抱していると昔を思い出す。ウーノが風邪を引いているときに部屋を訪れたことがあったのだ。あとで、お父様にばれて怒られてしまったが……
アーノルドさんもウーノのことを気に掛けてくれる。でも、この状況下ではウーノの意識の回復は難しい。今も戦闘の疲れを癒すために休息を取っているが、このわずかな時間でウーノの状態が変わるとは思いにくい。
しかし、早急に次の階層――十層への入口を探すのも難しくなってきた。皆さんのコンディションがよくない状態で戦闘に陥れば、命の危険がある。
「それで、十層への入口の場所は変わっておりましたか」
「ああ、大改変があったからな。パーティーメンバーが離散しなかっただけでも運がよかった。さて、どうするかな――」
横になっているウーノを気にかけつつ、アーノルドさんと今後の方針をつめた。アーノルドさんは、腕が立つランクCの冒険者で『モロド樹海』の経験もあり、非常に頼りになる。素人であるこの私の意見も聞きつつ、皆が生き残る可能性を模索してくれていた。
ザザ――と、横の茂みから物音がしたのでモンスターかと思い警戒したが、猫耳亜人のタルトさんだった。同性で年齢も近いというのに、何年も前からサポーターとして働いているあたり、本当に尊敬する。
実は、このパーティーで教えてもらうまで、サポーターがどういった立ち位置の人なのか知らなかった。なのでこの間、タルトさんに聞いたら、嬉しそうに教えてくれた。なんでも、迷宮での生命線である食料準備から野営準備など、迷宮での生活面を全面的に手伝い、狩りの際は周囲の警戒といった縁の下の力持ちになる存在だそうだ。
確かに、タルトさんは亜人なので普通の人と比べて身体能力が優れているが、それでもたった一人で他の人の数倍の荷物を平然と運んでいたのには驚いた。
きっとタルトさんは、今回のような事態も何度か経験されたことがあるのだろう。
「おかえりなさい、タルトさん」
「ただいま、ミーティシアさん。食べられそうなキノコや山菜は、いくつか見つけたけど……どれも近くにモンスターが陣取っている。あれを手に入れるための労力を考えたら割に合わない。隙を見て奪おうかと考えたけど、この状況で危ない橋は渡れないのでやめたわ」
アーノルドさんが残念そうに首を横に振った。
「八方塞がりだな。もう少し時間が経てば、他の冒険者も稼ぎに来るだろうが、俺たちがもたないな。せめて、ザイールとミレアが生きていればな」
ザイールさんとミレアさん……二人ともランクDの冒険者でいい人たちだった。ミレアさんは、弓の使い方を教えてくれたり、女性が迷宮で気をつけるべきことなど色々と教えてくれた。でも、二人とも上の階層で亡くなってしまった。
こんな事態になるなら、宝箱になんて気がつかなければよかった。あのときは、何もかも順調で、宝箱からいいものが出るんじゃないかと期待してしまった。宝箱には、トランスポートと同じく強制移動させるものがあるとは聞いていたが、初めての宝箱がそのような罠でなくても、と思わずにはいられない。
「すみません。私が宝箱を開けたいと言ったばかりに」
「ミーティシアさんが気にすることじゃないよ。だって、皆で話し合って決めたことだしね」
「タルトの言う通りだ。むしろ、パーティーリーダーであるこの俺に全責任がある」
宝箱に仕掛けられていた罠で、モンスターハウスへ強制移動させられてしまった。
モンスターハウス――アーノルドさんが言うには、モンスターの巣窟で、現階層に出現するモンスターがすし詰め状態にされている場所のことらしい。そんな場所に突然放りこまれ、命からがら逃げて今に至る。
脱出の際、殿をザイールさんとミレアさんが務めてくれなければ、全滅したかもしれない。逃げるためとはいえ、仲間を見捨て、荷物を破棄したのがいけなかったのだろうか。いや、あの状況では選択肢などなかった。
「…………私たちは、このまま未帰還者として死を待つだけなのでしょうか」
食料なし、現在地不明、パーティーメンバーは疲労困憊、装備品は手入れが間に合わずボロボロ。明るい未来が考えられない。状況を再認識する度に不安が募っていく。こんなことなら、『火』の魔法だけでなく『水』の魔法も鍛えておくべきだったと後悔してしまう。
「正直に言えば、生きるか死ぬかは半々だと思っている。そもそも、本気で詰みの状況なら俺……言っちゃ悪いけど、女性相手に紳士でいられないぜ」
アーノルドさんの目つきが、一瞬だが女性を物として見るような嫌な目つきに変わったのが分かった。あの目は、社交界で男性が私に向ける目と同じだ。
しかし、私とて理解がないわけではない。事前にギルドから受けた注意事項にそういった記述もあったし、ミレアさんも言っていた。危機的状況で死ぬことが不可避の場合に、暴行事件が多く発生すると……
今の今まで信頼していたアーノルドさんを、軽蔑の目で見てしまった。
「アーノルドさんが発言した内容は、女である私でも理解できます。では、なぜ紳士でいるんでしょうか?」
「そりゃ簡単さ……説明してやれ、タルト」
内容がアレなだけに、同じ女性であるタルトさんに発言をお願いしたのだろうか。その行動だけで、十分紳士的であることが分かる。
「いいけど、ちゃんと周りを警戒しておいてよ。まだ、モンスターがたくさんいるんだから」
「死にたくないからな、承知している」
万全な状態のアーノルドさんは、この階層のモンスター程度なら難なく立ち回れるらしい。タルトさんが言うには、一対三でも立ち回れるとか。ランクCの冒険者の凄さが改めて分かった。
「端的に言えば、ミーティシアさんを救出に来る人を待っているんですよ。貴族であり、エルフとのクオーターである貴方を、ご実家やギルドが簡単に見捨てるとは思えません。今回の依頼は、ギルド経由でメンバーも斡旋しています。それで貴族のご令嬢である貴方を死なせたとなっては、ギルドも責任を取らされるでしょう」
「大改変後の迷宮ですよね。今回初めて迷宮を経験いたしましたが……上層とはいえ、私たちが未帰還者と判明してから、この短期間で救助部隊が送られると?」
「確証はありませんがね。ですが、仮に救出が来たときに貴方が見るも無残な状態であったなら、間違いなく我々の首は物理的に泣き別れします。ゆえに、貴方には五体満足で生きていてもらわねば困るんです。結構な額の報酬もありますしね」
自分の立場を改めて理解した。そしてこの人たちは、その可能性を信じているのだ。
ブーン。
虫の羽音がしたので見てみれば、一匹の白い蜂が遠くからこちらを見ていた。見たことがないモンスター……
「アーノルドさん、今向こうに大きな白い蜂が……あれ、もういない」
「なんだ、空腹のあまりに幻覚でも見えはじめたか?」
「違いますよ!!」
「ミーティシアさん、この階層に出てくるモンスターに蟲系はいませんよ」
タルトさんの言う通りだ。迷宮に来る前に学んだことを思い出してみると――
迷宮は、階層ごとで出現するモンスターが固定されている。そのため、冒険者は目的の階層に適した装備で挑む。一層では一種類、二層では二種類と、階層と同じだけの種類のモンスターが出現する。下層に行くほど出現するモンスターが増えて、強くなる。だから冒険者は、下層に進むほど、あらゆる状況に対応できる実力が求められる。ただし、外部からモンスターを持ち込んで繁殖させれば、その限りではないだろう。しかし、自分たちの危険を増やそうとする者は誰もいないし、そもそも繁殖する前に淘汰されるはず、と書かれていた。
「でも、確かに……いえ、やはり見間違いだったかもしれません」
ササササ。
再び音がし、危険を察知したアーノルドさんとタルトさんが急に伏せた。私も同じように体勢を低くして、二人が見ている方角を確認した。
あれは……ゴウグリズリー!!
この九層における冒険者死亡率ナンバー一を誇る、体長二メートルを上回る巨体のクマ。二人ともアレには会いたくないと言っていたモンスターだ。
獰猛で肉食、分厚い皮膚、加えて剛毛で刃物が通りにくい。おまけに人を餌としか思っていないため、狙われたら最後、殺すか殺されるかしか選択肢はないと言っていた。
「まずい、並のモンスターなら今のコンディションでもなんとかなりそうだったが、ゴウグリズリーが出てくるとは。幸い、まだ見つかっていな……」
しかし、アーノルドさんの言葉が途切れたと思ったら、ゴウグリズリーがこちらを見つめていた。まるで、誰から食べようかと考えているような目をしている。
アーノルドさんの視線が、昏睡状態にあるウーノに向けられた。その瞬間、何を考えているか察することができた。生き残るためには最善の一手。少し前に話したことが真実ならば、私自身に対しては決して実行されることがない方法だ。
アーノルドさんもタルトさんも、従者であるウーノが私のために役に立てるのなら本望であろうと考えている。だけど、そんなことできるはずもない。
「ウーノを置いて逃げるなど許しません。彼女がどれだけ、私たちのために尽くしたと思っているのです!!」
『水』の魔法が使えるウーノは、間違いなくパーティーの生命線として多大に貢献した。治療しかり、水の補給しかり……だけど、そんな悠長なことを言っていられないのも分かっている。不要な戦闘は可能な限り避けて、体力を温存するのが現状の急務なのも理解している。
だけど……だけど!!
「ミーティシアさん。冷たいようだけど、私たちが生き延びるためにはこの手が最善なのよ。ゴウグリズリーは、群れないけどランクD最強のモンスターと言われているわ。そんなモンスターと戦闘をしてアーノルドさんが再起不能になったら、それこそ帰還が絶望的になるのよ。お願いだから……」
タルトさんの言っていることは正しい。でもウーノとは、主従関係ではあるが長年一緒だった。私にとっては姉妹も同然。見捨てて逃げることは、命が懸かっている現状においてもできない。
そのとき、ウーノの目が開いた。
「ミ、ミーティシア様……私を置いていってください。私は、もう一歩も動けません。ですが、最後にお役に立てて嬉しいです」
意識を取り戻したウーノが、今にも死に絶えそうな声で呟いた。喋る体力すらほとんど残されておらず、私を決断させるために最後の力を振り絞ったのだと理解できる。でも、どれだけ長い間一緒にいたと思っているの。
「貴方を置いていけるはずないでしょう!!」
「アーノルドさん……お願いです。ミーティシア様を連れていってください」
これから死ぬかもしれないのに、なぜ穏やかな顔をしているのか分からない。もっと一緒にいて欲しい。迷宮から帰って、一緒にお祝いをするって約束したじゃない。こんなときまで従者の役割なんてしないでもいいのよ、と叫びたかった。
「分かった。必ず、生き延びてみせよう。君のような従者がいたことを俺は忘れない。俺が先行する。タルトは残りの荷物を破棄していい……ミーティシアを担いででも連れていくぞ」
アーノルドさんの指示で、タルトさんに担ぎ上げられた。無論、ウーノを置いていくことを是としない私が暴れると考えたのだろう。抵抗しようにも、純粋な亜人であるタルトさんの方が圧倒的に身体能力が優れており、私はウーノが遠ざかっていくのを見ていることしかできなかった。
『火』の魔法を使えば、ゴウグリズリーでも倒せる可能性はある。だけど、私に残されている魔力も多くない。ここで魔力が尽きてウーノの二の舞になれば目も当てられない。
遠ざかる中、ゴウグリズリーがウーノに向かって腕を振り下ろすのが見えた。ウーノの腕が吹き飛び、血が飛び散る――
それから数分、タルトさんに担がれて迷宮を駆け回り、開けた場所にたどり着いた。二人の足が止まり、タルトさんに下ろされたので、十層への入口かと思ったが……迷宮の理不尽を理解した。
ああ、今日が私の命日になるのですね。ウーノ……ごめんなさい。貴方が身を挺して助けてくれた命を守れないかもしれません。
「冗談じゃねーぞ。なんで、モンスターハウスにたどり着くんだよ!!」
さすがのアーノルドさんも本気で怒っている。
八層に引き続き、九層でもモンスターハウスを引き当ててしまい、本当に運がない。引き返して逃げたいけれど、既にモンスターたちに気づかれており、体力的な問題からも逃げ切れるとは到底思えない。
誰かを殿にするにしても、アーノルドさんしか候補がいない。今、アーノルドさんを失って無事に十層までたどり着けるかと言えば、私にはできない。タルトさんは元からサポーターとして雇われており、戦闘面での期待値は低いと聞いている。この数えるのも億劫になるモンスターたち相手に長時間耐えられる気がしない。
「あちゃー、こりゃ覚悟を決めないとまずいね。ミーティシアさん、一人で生き残れる自信はありますか?」
「あったら、ウーノを助けるために力ずくでゴウグリズリーを倒しましたよ」
「そりゃそうだ。さて、死ぬのは確定かもしれないが……冒険者らしく一匹でも多く道連れにしてやるか。ミーティシア、『火』の魔法をあと何回使える?」
「良くて二回……いえ、振り絞れば三回です」
三回使えば、魔力が枯渇してウーノ同様に一歩も動けなくなると思う。でも、使うしかない。さもないと、間違いなくモンスターに食べられる未来が待っている。
「上等。なるべく広範囲な魔法で雑魚どもを蹴散らせ。ゴウグリズリーは俺が引き受ける。タルトも、悪いが戦闘に参加してもらうぞ。ミーティシアの魔法を掻い潜ったやつを相手にしてくれ」
「りょうか……? 何この音?」
タルトさんの耳がぴくぴくと動いた。私の耳には、何も聞こえないが、聴覚の優れたタルトさんには、何かが聞こえているのだろう。モンスターも何かを察したらしく、足を止めている。
集中してみると、私の耳にも音が聞こえた。
このモンスターハウスを目指して一直線に進んでくる、無数の蟲たちの羽音や何かの足音が。振り返り後方を確認してみれば、白い波のようなものが押し寄せてくる。
何あれ?
「音がどうした!! 今はそれどころじゃないだろう。さっさと、魔法を使え死にた……い……のか……」
アーノルドさんもタルトさんも、背後から迫ってくる白い波を見て唖然としている。木々を呑み込むようにして接近してくる白い波には、深紅の赤い点が無数にあるが、何なのだろうか。
この迷宮に来て初めて見た現象だった。
ドドドドド――
今度は、モンスターハウスにいたモンスターたちが、脱兎のごとく逃げはじめた。一体何が起こっているか理解できない。
「し、白い蟲……何あれ。この階層にいるモンスターじゃないよ。アーノルドさん、あれは何?」
タルトさんに続き、私も確認できた。エルフの血が混ざっているおかげで、人よりは視力がよく、何が迫ってきているか視認できたのだ。迫りくる無数の蟲を見て、生理的嫌悪感から思わず『火』の魔法を撃とうと詠唱を始めた。
しかし、アーノルドさんが強引に私の口を塞ぎ、詠唱を止めた。
「いいか、何があろうともあの蟲たちに手出しはするな!! 下手こけば巻き添えで死ぬぞ!! たとえ服の中を這いずり回ったとしても一歩も動くな。大人しくしていれば生き残れる!!」
「わ、分かった」
アーノルドさんが、まるでもう助かったと言わんばかりにはしゃいでいる。迫りくる白い蟲系モンスターを相手に、何を期待しているのだろう。あの数相手ならば、今逃げているモンスターたちについて行った方がまだ勝算がある気がする。
地面からは、蟻、百足、蜘蛛、蝗などの蟲たちが、空からは、蜂、蛾、蚊などの様々な蟲たちが無数に私たちの横を通り過ぎていった。その中には、図鑑に載っていた蟲系モンスター――しかも、下層に生息する高ランクモンスターの姿も多数あった。
蟲たちはモンスターたちに襲いかかった。モンスターたちが逃げていった方角からは、断末魔の悲鳴が絶え間なく聞こえてくる。思わず耳をふさぎたくなる。
あれだけいたはずのモンスターが、蟲系モンスターの数の暴力によって、あっという間に骨も残らないほどになってしまった。
ギィギィー(こんなことなら、調味料だけでも持ってくるんでした……あっ、お父様が今来るので、そこでしばらく待っていてね)
足下の蟲がこちらに向かって何か言ったのだろうか……。私たちを囲むようにして待機していた蟲たちが距離を取った。
蟲たちが現れた方向から、一人の男性がまるで街中を歩くかのごとく近づいてきた。上層とはいえ、まるでお昼でも食べに行くかのような身軽なスタイルに思えた。
ただ一つ言えるのは、この場にいる蟲たち同様に色素が抜け落ちて、目が深紅であったということだ。アルビノ体質のようだ。
「失礼、そこのお嬢さんがミーティシア・レイセン・アイハザードで正しいかね?」
喋ろうと思ったが、緊張の糸が解けて呂律が回らず、頭を上下に振った。
「それはよかった。いやー、探しましたよ。八層で冒険者の遺留品を見つけたときは、既に死んでいると思いましたが、生きていてくれて本当によかった」
話を聞く限り、このアルビノの青年が、アーノルドさんの言っていた救出部隊の人だと思って間違いないだろう。私と同年代くらいか。アーノルドさんと比べて若い。
「危ないところを助けていただき、ありがとうございます」
「いえいえ、仕事ですからお気にせずに。おっと、貴族のご令嬢相手に蟲たちを出したままでは失礼でしたね。戻っておいで」
その瞬間、蟲たちがアルビノの青年目掛けて突っ込んでいった。先ほどモンスターたちを捕食したときと同じ勢いだ。しかし目を凝らせば、蟲たちが影に吸い込まれているのが分かる。
「ランクBの冒険者レイア・アーネスト・ヴォルドー……『蟲』の魔法の使い手。噂には聞いていたが、これがランクBの実力」
ランクB……今呟いたアーノルドさんがランクCなので一つしか変わらないのに、ここまで違うものなのか。たった一人で、ランクDのモンスターの巣窟を一瞬で制圧している。
「一つ確認しておかないといけなかったんだ……ミーティシア嬢」
「は、はい。なんでしょう」
「貴方は、まだ清い身体でおりますかな? 答えにくいかもしれませんが、本当のことを言っていただいてかまいませんよ。万が一、彼に脅されて本音が言えなくても、気にしないでかまいません。彼が何をしようと、私の方が先に彼を処理できますのでご安心を」
救助に来てくれたレイアという冒険者の質問が、何を意図しているか理解できた。この私がアーノルドさんに暴行されていたとなれば、アーノルドさんを始末すると言っているのだ。
「だ、大丈夫です。アーノルドさんは、紳士でした!!」
レイアという冒険者が、アーノルドさんと私の顔を相互に見る。虚偽かどうか確認しているようだ……顔色一つからそこまで読み取れるものなのか?
「ふむ、アーノルド君。今時、珍しいほどの紳士ぶりです。いやー、よかった。ミーティシア嬢に万が一のことがあれば……加害者には、生きてきたことを後悔させていいと言われたものでね」
今まで命懸けで頑張ってきた仲間を悪く言うつもりはないけど、自暴自棄になって私を襲わなくてよかったと心の底からアーノルドさんが思っているのが、手に取るように分かった。
◇ ◇ ◇
救出対象者が九層にいるなら、下から上ったほうが早かったなと思ってしまうね。まあ、生きて見つけられたから、結果オーライだ。
「あ、あのレイアさん。私たちが今まで生き残るために、従者であるウーノが尊い犠牲になってしまいました。せめて、遺留品だけでも回収したいのですが、お手伝いをお願いできませんか」
ミーティシアが何を言っているか、理解に苦しむ。
このような事態に陥ったにもかかわらず、死んだ者の遺留品を探したいだと!? 『何言ってんだこいつ』と声をあげて文句を言いたかったが、紳士である私は、処世術も心得ているので嫌な顔を表に出さない。
「ここは危険ですので、一刻も早く迷宮の外に出ましょう。既に、十層への入口は把握しております。あなたの帰還を今か今かと待っている人がいることをお忘れなく」
「確かに、危険です。しかし、貴方ほどの実力者であれば、何が起ころうとも……」
確かに、上層ならばどのような不測の事態でも、私は対応可能だ。だが、ミーティシアは大事なことを忘れている。私が冒険者であることを。無償で働くような徳の高い人物では決してない。
チッ。
高ランクの冒険者をタダ働きさせようという見え透いた魂胆に嫌気がさしてしまい、思わず舌打ちをしてしまった。私の影から無数の赤い光が見えはじめた。無論、蟲たちの目である。
その様子を見て、亜人であるタルトというサポーターがいち早く危険を察した。勘は悪くないようだな。やはり、亜人は優れているね。
「ミーティシアさん!! だ、駄目ですよ。ほら、レイアさんも冒険者ですから無償というわけにはいきませんよ。まずは迷宮の外に出て、それからギルドを通じて未帰還者探索の依頼を出しましょうね!! そうしましょう。はい、決定!!」
「なら、お金は払います。ですから、ウーノの遺留品探しを一緒にお願いできませんか」
美女の真摯な眼差しとは凶悪な武器だな。ギルド嬢といい、なぜ女はこんなにもえげつないものを備えつけているんだろうね。まあ、金をくれるというし。
「ランクBの冒険者を雇うのは高いぞ」
「これでも、貴族です。お金は必ず工面いたします」
こういう手合いは、必ず支払うだろうが、いつになるか分からないタイプで間違いないだろう。無論、アイハザード家がそれなりに金持ちなのは分かる。しかし、それは当主である親の財産で、ミーティシア自身の金ではないことは間違いない。お小遣いという名目で貯蓄もあるだろうが、この私を雇うに足りるだけの金を持っているかどうかは、疑問だ。
「そうね。アイハザード家への連絡はお願いね。私は、他の事務処理を片付けておいてあげるわ」
同僚が持っているポスター……どうやら、それを貼るのが事務処理らしい。ようやく新しいのが来たのね。先日、どっかの酔っ払いが破ってしまったギルドのランク認定表。
改めて思うけど、ザックリ感漂うランク表。
ランクE:街付近のモンスターや迷宮入口までのモンスターを一対一で倒せる実力。
ランクD:迷宮の上層(一~十層)のモンスターを一対一で倒せる実力。
ランクC:迷宮の中層(十一~二十層)のモンスターを一対一で倒せる実力。
~才能の壁~
ランクB:迷宮の下層(二十一層以降)のモンスターを一対一で倒せる実力。
~人としての壁~
ランクA:ソロで迷宮最下層まで到達できる実力。
迷宮のモンスターが単体でいることなど少ない。それに加え、迷宮なんてソロで行く場所ではなくて、基本複数人で行く場所だ。それなのにソロ前提のランク表とか、コレを考えた人は何を考えているのか、さっぱり理解できないわ。本来であれば、パーティーで実力を示す指標の方が必要だと思うけど、パーティーメンバーが可変することも多く、パーティーランク制度については未だギルド内部でも賛否両論らしい。でも、もう少しなんとかできないものかしらね。
3 未帰還者探索(三)
『モロド樹海』の九層で私――ミーティシア・レイセン・アイハザードのパーティーは、トランスポートのある十層への入口を探し回っていた。
食料は、昨日の朝食が最後だった。しかも、乾燥した野菜の切れ端だけというひもじいものだったが、今思えばもっと味わっておくべきだったと思ってしまう。それだけに留まらず、メンバーの皆さんも疲労困憊なのが分かる。私は、他の皆さんと違い本職の冒険者ではないが、この状況……あと二日もてばいい方かもしれない。
「ウーノの意識は、戻らないか」
近くを偵察していた、パーティーリーダーのアーノルドさんが戻ってきた。
「はい。やはり、無理をさせすぎたようです」
迷宮での水の確保は困難で、これまでウーノの『水』の魔法で何とか空腹感などを誤魔化して耐え凌いでいた。だが、度重なる戦闘で魔法を使わざるをえない状況が多く、ついに限界を迎え、ウーノが昏睡状態になってしまった。
自然回復を待つのも手だが、満足な食事や休息が取れない状況では、回復するものも回復できない。とはいえ、この状況で不謹慎かもしれないが、こうしてウーノを介抱していると昔を思い出す。ウーノが風邪を引いているときに部屋を訪れたことがあったのだ。あとで、お父様にばれて怒られてしまったが……
アーノルドさんもウーノのことを気に掛けてくれる。でも、この状況下ではウーノの意識の回復は難しい。今も戦闘の疲れを癒すために休息を取っているが、このわずかな時間でウーノの状態が変わるとは思いにくい。
しかし、早急に次の階層――十層への入口を探すのも難しくなってきた。皆さんのコンディションがよくない状態で戦闘に陥れば、命の危険がある。
「それで、十層への入口の場所は変わっておりましたか」
「ああ、大改変があったからな。パーティーメンバーが離散しなかっただけでも運がよかった。さて、どうするかな――」
横になっているウーノを気にかけつつ、アーノルドさんと今後の方針をつめた。アーノルドさんは、腕が立つランクCの冒険者で『モロド樹海』の経験もあり、非常に頼りになる。素人であるこの私の意見も聞きつつ、皆が生き残る可能性を模索してくれていた。
ザザ――と、横の茂みから物音がしたのでモンスターかと思い警戒したが、猫耳亜人のタルトさんだった。同性で年齢も近いというのに、何年も前からサポーターとして働いているあたり、本当に尊敬する。
実は、このパーティーで教えてもらうまで、サポーターがどういった立ち位置の人なのか知らなかった。なのでこの間、タルトさんに聞いたら、嬉しそうに教えてくれた。なんでも、迷宮での生命線である食料準備から野営準備など、迷宮での生活面を全面的に手伝い、狩りの際は周囲の警戒といった縁の下の力持ちになる存在だそうだ。
確かに、タルトさんは亜人なので普通の人と比べて身体能力が優れているが、それでもたった一人で他の人の数倍の荷物を平然と運んでいたのには驚いた。
きっとタルトさんは、今回のような事態も何度か経験されたことがあるのだろう。
「おかえりなさい、タルトさん」
「ただいま、ミーティシアさん。食べられそうなキノコや山菜は、いくつか見つけたけど……どれも近くにモンスターが陣取っている。あれを手に入れるための労力を考えたら割に合わない。隙を見て奪おうかと考えたけど、この状況で危ない橋は渡れないのでやめたわ」
アーノルドさんが残念そうに首を横に振った。
「八方塞がりだな。もう少し時間が経てば、他の冒険者も稼ぎに来るだろうが、俺たちがもたないな。せめて、ザイールとミレアが生きていればな」
ザイールさんとミレアさん……二人ともランクDの冒険者でいい人たちだった。ミレアさんは、弓の使い方を教えてくれたり、女性が迷宮で気をつけるべきことなど色々と教えてくれた。でも、二人とも上の階層で亡くなってしまった。
こんな事態になるなら、宝箱になんて気がつかなければよかった。あのときは、何もかも順調で、宝箱からいいものが出るんじゃないかと期待してしまった。宝箱には、トランスポートと同じく強制移動させるものがあるとは聞いていたが、初めての宝箱がそのような罠でなくても、と思わずにはいられない。
「すみません。私が宝箱を開けたいと言ったばかりに」
「ミーティシアさんが気にすることじゃないよ。だって、皆で話し合って決めたことだしね」
「タルトの言う通りだ。むしろ、パーティーリーダーであるこの俺に全責任がある」
宝箱に仕掛けられていた罠で、モンスターハウスへ強制移動させられてしまった。
モンスターハウス――アーノルドさんが言うには、モンスターの巣窟で、現階層に出現するモンスターがすし詰め状態にされている場所のことらしい。そんな場所に突然放りこまれ、命からがら逃げて今に至る。
脱出の際、殿をザイールさんとミレアさんが務めてくれなければ、全滅したかもしれない。逃げるためとはいえ、仲間を見捨て、荷物を破棄したのがいけなかったのだろうか。いや、あの状況では選択肢などなかった。
「…………私たちは、このまま未帰還者として死を待つだけなのでしょうか」
食料なし、現在地不明、パーティーメンバーは疲労困憊、装備品は手入れが間に合わずボロボロ。明るい未来が考えられない。状況を再認識する度に不安が募っていく。こんなことなら、『火』の魔法だけでなく『水』の魔法も鍛えておくべきだったと後悔してしまう。
「正直に言えば、生きるか死ぬかは半々だと思っている。そもそも、本気で詰みの状況なら俺……言っちゃ悪いけど、女性相手に紳士でいられないぜ」
アーノルドさんの目つきが、一瞬だが女性を物として見るような嫌な目つきに変わったのが分かった。あの目は、社交界で男性が私に向ける目と同じだ。
しかし、私とて理解がないわけではない。事前にギルドから受けた注意事項にそういった記述もあったし、ミレアさんも言っていた。危機的状況で死ぬことが不可避の場合に、暴行事件が多く発生すると……
今の今まで信頼していたアーノルドさんを、軽蔑の目で見てしまった。
「アーノルドさんが発言した内容は、女である私でも理解できます。では、なぜ紳士でいるんでしょうか?」
「そりゃ簡単さ……説明してやれ、タルト」
内容がアレなだけに、同じ女性であるタルトさんに発言をお願いしたのだろうか。その行動だけで、十分紳士的であることが分かる。
「いいけど、ちゃんと周りを警戒しておいてよ。まだ、モンスターがたくさんいるんだから」
「死にたくないからな、承知している」
万全な状態のアーノルドさんは、この階層のモンスター程度なら難なく立ち回れるらしい。タルトさんが言うには、一対三でも立ち回れるとか。ランクCの冒険者の凄さが改めて分かった。
「端的に言えば、ミーティシアさんを救出に来る人を待っているんですよ。貴族であり、エルフとのクオーターである貴方を、ご実家やギルドが簡単に見捨てるとは思えません。今回の依頼は、ギルド経由でメンバーも斡旋しています。それで貴族のご令嬢である貴方を死なせたとなっては、ギルドも責任を取らされるでしょう」
「大改変後の迷宮ですよね。今回初めて迷宮を経験いたしましたが……上層とはいえ、私たちが未帰還者と判明してから、この短期間で救助部隊が送られると?」
「確証はありませんがね。ですが、仮に救出が来たときに貴方が見るも無残な状態であったなら、間違いなく我々の首は物理的に泣き別れします。ゆえに、貴方には五体満足で生きていてもらわねば困るんです。結構な額の報酬もありますしね」
自分の立場を改めて理解した。そしてこの人たちは、その可能性を信じているのだ。
ブーン。
虫の羽音がしたので見てみれば、一匹の白い蜂が遠くからこちらを見ていた。見たことがないモンスター……
「アーノルドさん、今向こうに大きな白い蜂が……あれ、もういない」
「なんだ、空腹のあまりに幻覚でも見えはじめたか?」
「違いますよ!!」
「ミーティシアさん、この階層に出てくるモンスターに蟲系はいませんよ」
タルトさんの言う通りだ。迷宮に来る前に学んだことを思い出してみると――
迷宮は、階層ごとで出現するモンスターが固定されている。そのため、冒険者は目的の階層に適した装備で挑む。一層では一種類、二層では二種類と、階層と同じだけの種類のモンスターが出現する。下層に行くほど出現するモンスターが増えて、強くなる。だから冒険者は、下層に進むほど、あらゆる状況に対応できる実力が求められる。ただし、外部からモンスターを持ち込んで繁殖させれば、その限りではないだろう。しかし、自分たちの危険を増やそうとする者は誰もいないし、そもそも繁殖する前に淘汰されるはず、と書かれていた。
「でも、確かに……いえ、やはり見間違いだったかもしれません」
ササササ。
再び音がし、危険を察知したアーノルドさんとタルトさんが急に伏せた。私も同じように体勢を低くして、二人が見ている方角を確認した。
あれは……ゴウグリズリー!!
この九層における冒険者死亡率ナンバー一を誇る、体長二メートルを上回る巨体のクマ。二人ともアレには会いたくないと言っていたモンスターだ。
獰猛で肉食、分厚い皮膚、加えて剛毛で刃物が通りにくい。おまけに人を餌としか思っていないため、狙われたら最後、殺すか殺されるかしか選択肢はないと言っていた。
「まずい、並のモンスターなら今のコンディションでもなんとかなりそうだったが、ゴウグリズリーが出てくるとは。幸い、まだ見つかっていな……」
しかし、アーノルドさんの言葉が途切れたと思ったら、ゴウグリズリーがこちらを見つめていた。まるで、誰から食べようかと考えているような目をしている。
アーノルドさんの視線が、昏睡状態にあるウーノに向けられた。その瞬間、何を考えているか察することができた。生き残るためには最善の一手。少し前に話したことが真実ならば、私自身に対しては決して実行されることがない方法だ。
アーノルドさんもタルトさんも、従者であるウーノが私のために役に立てるのなら本望であろうと考えている。だけど、そんなことできるはずもない。
「ウーノを置いて逃げるなど許しません。彼女がどれだけ、私たちのために尽くしたと思っているのです!!」
『水』の魔法が使えるウーノは、間違いなくパーティーの生命線として多大に貢献した。治療しかり、水の補給しかり……だけど、そんな悠長なことを言っていられないのも分かっている。不要な戦闘は可能な限り避けて、体力を温存するのが現状の急務なのも理解している。
だけど……だけど!!
「ミーティシアさん。冷たいようだけど、私たちが生き延びるためにはこの手が最善なのよ。ゴウグリズリーは、群れないけどランクD最強のモンスターと言われているわ。そんなモンスターと戦闘をしてアーノルドさんが再起不能になったら、それこそ帰還が絶望的になるのよ。お願いだから……」
タルトさんの言っていることは正しい。でもウーノとは、主従関係ではあるが長年一緒だった。私にとっては姉妹も同然。見捨てて逃げることは、命が懸かっている現状においてもできない。
そのとき、ウーノの目が開いた。
「ミ、ミーティシア様……私を置いていってください。私は、もう一歩も動けません。ですが、最後にお役に立てて嬉しいです」
意識を取り戻したウーノが、今にも死に絶えそうな声で呟いた。喋る体力すらほとんど残されておらず、私を決断させるために最後の力を振り絞ったのだと理解できる。でも、どれだけ長い間一緒にいたと思っているの。
「貴方を置いていけるはずないでしょう!!」
「アーノルドさん……お願いです。ミーティシア様を連れていってください」
これから死ぬかもしれないのに、なぜ穏やかな顔をしているのか分からない。もっと一緒にいて欲しい。迷宮から帰って、一緒にお祝いをするって約束したじゃない。こんなときまで従者の役割なんてしないでもいいのよ、と叫びたかった。
「分かった。必ず、生き延びてみせよう。君のような従者がいたことを俺は忘れない。俺が先行する。タルトは残りの荷物を破棄していい……ミーティシアを担いででも連れていくぞ」
アーノルドさんの指示で、タルトさんに担ぎ上げられた。無論、ウーノを置いていくことを是としない私が暴れると考えたのだろう。抵抗しようにも、純粋な亜人であるタルトさんの方が圧倒的に身体能力が優れており、私はウーノが遠ざかっていくのを見ていることしかできなかった。
『火』の魔法を使えば、ゴウグリズリーでも倒せる可能性はある。だけど、私に残されている魔力も多くない。ここで魔力が尽きてウーノの二の舞になれば目も当てられない。
遠ざかる中、ゴウグリズリーがウーノに向かって腕を振り下ろすのが見えた。ウーノの腕が吹き飛び、血が飛び散る――
それから数分、タルトさんに担がれて迷宮を駆け回り、開けた場所にたどり着いた。二人の足が止まり、タルトさんに下ろされたので、十層への入口かと思ったが……迷宮の理不尽を理解した。
ああ、今日が私の命日になるのですね。ウーノ……ごめんなさい。貴方が身を挺して助けてくれた命を守れないかもしれません。
「冗談じゃねーぞ。なんで、モンスターハウスにたどり着くんだよ!!」
さすがのアーノルドさんも本気で怒っている。
八層に引き続き、九層でもモンスターハウスを引き当ててしまい、本当に運がない。引き返して逃げたいけれど、既にモンスターたちに気づかれており、体力的な問題からも逃げ切れるとは到底思えない。
誰かを殿にするにしても、アーノルドさんしか候補がいない。今、アーノルドさんを失って無事に十層までたどり着けるかと言えば、私にはできない。タルトさんは元からサポーターとして雇われており、戦闘面での期待値は低いと聞いている。この数えるのも億劫になるモンスターたち相手に長時間耐えられる気がしない。
「あちゃー、こりゃ覚悟を決めないとまずいね。ミーティシアさん、一人で生き残れる自信はありますか?」
「あったら、ウーノを助けるために力ずくでゴウグリズリーを倒しましたよ」
「そりゃそうだ。さて、死ぬのは確定かもしれないが……冒険者らしく一匹でも多く道連れにしてやるか。ミーティシア、『火』の魔法をあと何回使える?」
「良くて二回……いえ、振り絞れば三回です」
三回使えば、魔力が枯渇してウーノ同様に一歩も動けなくなると思う。でも、使うしかない。さもないと、間違いなくモンスターに食べられる未来が待っている。
「上等。なるべく広範囲な魔法で雑魚どもを蹴散らせ。ゴウグリズリーは俺が引き受ける。タルトも、悪いが戦闘に参加してもらうぞ。ミーティシアの魔法を掻い潜ったやつを相手にしてくれ」
「りょうか……? 何この音?」
タルトさんの耳がぴくぴくと動いた。私の耳には、何も聞こえないが、聴覚の優れたタルトさんには、何かが聞こえているのだろう。モンスターも何かを察したらしく、足を止めている。
集中してみると、私の耳にも音が聞こえた。
このモンスターハウスを目指して一直線に進んでくる、無数の蟲たちの羽音や何かの足音が。振り返り後方を確認してみれば、白い波のようなものが押し寄せてくる。
何あれ?
「音がどうした!! 今はそれどころじゃないだろう。さっさと、魔法を使え死にた……い……のか……」
アーノルドさんもタルトさんも、背後から迫ってくる白い波を見て唖然としている。木々を呑み込むようにして接近してくる白い波には、深紅の赤い点が無数にあるが、何なのだろうか。
この迷宮に来て初めて見た現象だった。
ドドドドド――
今度は、モンスターハウスにいたモンスターたちが、脱兎のごとく逃げはじめた。一体何が起こっているか理解できない。
「し、白い蟲……何あれ。この階層にいるモンスターじゃないよ。アーノルドさん、あれは何?」
タルトさんに続き、私も確認できた。エルフの血が混ざっているおかげで、人よりは視力がよく、何が迫ってきているか視認できたのだ。迫りくる無数の蟲を見て、生理的嫌悪感から思わず『火』の魔法を撃とうと詠唱を始めた。
しかし、アーノルドさんが強引に私の口を塞ぎ、詠唱を止めた。
「いいか、何があろうともあの蟲たちに手出しはするな!! 下手こけば巻き添えで死ぬぞ!! たとえ服の中を這いずり回ったとしても一歩も動くな。大人しくしていれば生き残れる!!」
「わ、分かった」
アーノルドさんが、まるでもう助かったと言わんばかりにはしゃいでいる。迫りくる白い蟲系モンスターを相手に、何を期待しているのだろう。あの数相手ならば、今逃げているモンスターたちについて行った方がまだ勝算がある気がする。
地面からは、蟻、百足、蜘蛛、蝗などの蟲たちが、空からは、蜂、蛾、蚊などの様々な蟲たちが無数に私たちの横を通り過ぎていった。その中には、図鑑に載っていた蟲系モンスター――しかも、下層に生息する高ランクモンスターの姿も多数あった。
蟲たちはモンスターたちに襲いかかった。モンスターたちが逃げていった方角からは、断末魔の悲鳴が絶え間なく聞こえてくる。思わず耳をふさぎたくなる。
あれだけいたはずのモンスターが、蟲系モンスターの数の暴力によって、あっという間に骨も残らないほどになってしまった。
ギィギィー(こんなことなら、調味料だけでも持ってくるんでした……あっ、お父様が今来るので、そこでしばらく待っていてね)
足下の蟲がこちらに向かって何か言ったのだろうか……。私たちを囲むようにして待機していた蟲たちが距離を取った。
蟲たちが現れた方向から、一人の男性がまるで街中を歩くかのごとく近づいてきた。上層とはいえ、まるでお昼でも食べに行くかのような身軽なスタイルに思えた。
ただ一つ言えるのは、この場にいる蟲たち同様に色素が抜け落ちて、目が深紅であったということだ。アルビノ体質のようだ。
「失礼、そこのお嬢さんがミーティシア・レイセン・アイハザードで正しいかね?」
喋ろうと思ったが、緊張の糸が解けて呂律が回らず、頭を上下に振った。
「それはよかった。いやー、探しましたよ。八層で冒険者の遺留品を見つけたときは、既に死んでいると思いましたが、生きていてくれて本当によかった」
話を聞く限り、このアルビノの青年が、アーノルドさんの言っていた救出部隊の人だと思って間違いないだろう。私と同年代くらいか。アーノルドさんと比べて若い。
「危ないところを助けていただき、ありがとうございます」
「いえいえ、仕事ですからお気にせずに。おっと、貴族のご令嬢相手に蟲たちを出したままでは失礼でしたね。戻っておいで」
その瞬間、蟲たちがアルビノの青年目掛けて突っ込んでいった。先ほどモンスターたちを捕食したときと同じ勢いだ。しかし目を凝らせば、蟲たちが影に吸い込まれているのが分かる。
「ランクBの冒険者レイア・アーネスト・ヴォルドー……『蟲』の魔法の使い手。噂には聞いていたが、これがランクBの実力」
ランクB……今呟いたアーノルドさんがランクCなので一つしか変わらないのに、ここまで違うものなのか。たった一人で、ランクDのモンスターの巣窟を一瞬で制圧している。
「一つ確認しておかないといけなかったんだ……ミーティシア嬢」
「は、はい。なんでしょう」
「貴方は、まだ清い身体でおりますかな? 答えにくいかもしれませんが、本当のことを言っていただいてかまいませんよ。万が一、彼に脅されて本音が言えなくても、気にしないでかまいません。彼が何をしようと、私の方が先に彼を処理できますのでご安心を」
救助に来てくれたレイアという冒険者の質問が、何を意図しているか理解できた。この私がアーノルドさんに暴行されていたとなれば、アーノルドさんを始末すると言っているのだ。
「だ、大丈夫です。アーノルドさんは、紳士でした!!」
レイアという冒険者が、アーノルドさんと私の顔を相互に見る。虚偽かどうか確認しているようだ……顔色一つからそこまで読み取れるものなのか?
「ふむ、アーノルド君。今時、珍しいほどの紳士ぶりです。いやー、よかった。ミーティシア嬢に万が一のことがあれば……加害者には、生きてきたことを後悔させていいと言われたものでね」
今まで命懸けで頑張ってきた仲間を悪く言うつもりはないけど、自暴自棄になって私を襲わなくてよかったと心の底からアーノルドさんが思っているのが、手に取るように分かった。
◇ ◇ ◇
救出対象者が九層にいるなら、下から上ったほうが早かったなと思ってしまうね。まあ、生きて見つけられたから、結果オーライだ。
「あ、あのレイアさん。私たちが今まで生き残るために、従者であるウーノが尊い犠牲になってしまいました。せめて、遺留品だけでも回収したいのですが、お手伝いをお願いできませんか」
ミーティシアが何を言っているか、理解に苦しむ。
このような事態に陥ったにもかかわらず、死んだ者の遺留品を探したいだと!? 『何言ってんだこいつ』と声をあげて文句を言いたかったが、紳士である私は、処世術も心得ているので嫌な顔を表に出さない。
「ここは危険ですので、一刻も早く迷宮の外に出ましょう。既に、十層への入口は把握しております。あなたの帰還を今か今かと待っている人がいることをお忘れなく」
「確かに、危険です。しかし、貴方ほどの実力者であれば、何が起ころうとも……」
確かに、上層ならばどのような不測の事態でも、私は対応可能だ。だが、ミーティシアは大事なことを忘れている。私が冒険者であることを。無償で働くような徳の高い人物では決してない。
チッ。
高ランクの冒険者をタダ働きさせようという見え透いた魂胆に嫌気がさしてしまい、思わず舌打ちをしてしまった。私の影から無数の赤い光が見えはじめた。無論、蟲たちの目である。
その様子を見て、亜人であるタルトというサポーターがいち早く危険を察した。勘は悪くないようだな。やはり、亜人は優れているね。
「ミーティシアさん!! だ、駄目ですよ。ほら、レイアさんも冒険者ですから無償というわけにはいきませんよ。まずは迷宮の外に出て、それからギルドを通じて未帰還者探索の依頼を出しましょうね!! そうしましょう。はい、決定!!」
「なら、お金は払います。ですから、ウーノの遺留品探しを一緒にお願いできませんか」
美女の真摯な眼差しとは凶悪な武器だな。ギルド嬢といい、なぜ女はこんなにもえげつないものを備えつけているんだろうね。まあ、金をくれるというし。
「ランクBの冒険者を雇うのは高いぞ」
「これでも、貴族です。お金は必ず工面いたします」
こういう手合いは、必ず支払うだろうが、いつになるか分からないタイプで間違いないだろう。無論、アイハザード家がそれなりに金持ちなのは分かる。しかし、それは当主である親の財産で、ミーティシア自身の金ではないことは間違いない。お小遣いという名目で貯蓄もあるだろうが、この私を雇うに足りるだけの金を持っているかどうかは、疑問だ。
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