愛すべき『蟲』と迷宮での日常

熟練紳士

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第二十六章

第百十一話:鎮魂歌(1)

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 ギルド所有の神器ヒューペリオン・・・いいや、今はヴォルドー家所有の神器ヒューペリオンだったな。マグマから脱出した後に、グラシア殿と『闇』の使い手に一声かけてからゴリフターズが待つ戦場へと大空を駆けた。ドーピングが切れるまでは素晴らしい速度で移動できたのだが、残念だが効果時間は予定通り一時間で切れてしまった。

 おかげで、実家を出てから現地に到着するまで六時間という時間を要してしまった。

 流石に、戦場とは言え王家がいる天幕には一流の護衛が常に警戒をしている。ステルス状態の私でもあの警戒網を完全にかいくぐるのは困難だ。だが、このヴォルドー家の家紋が入ったマントや瀬里奈さんが作り上げた鎧を着ていれば正面から乗り込んでも問題ない。それに、一流の護衛ならばこの私との実力差を肌で感じるだろう。よって、すぐに天幕内にいるゴリフターズに連絡が行くのさ。

 そんなやり取りがあって、王家がいる天幕内部に無事に入ることが出来た。天幕の中には、瀬里奈さん、ゴリフターズ、義両親、義弟達というそうそう立つメンツがいた。

「ただいま」

「「旦那様~~」」

 ゴフッ

 第三形態に変身しているこの私を熱い抱擁で迎えてくれるのはうれしいが、些か力みすぎだ。筋肉がミシミシと悲鳴を上げている。変身を解いていたら、ぽっくりいっていたかもしれない。

「心配かけて悪かった。だが、大丈夫だ。確実に葬っておいた」

 二人の頭を撫でながら、優しく声をかけた。そう、最大であった不安要素は取り除いた。これから、そんな不安の種が芽生えないようにゴミ掃除に行こうでは無いか。

「無事で良かったけど、本当に無茶をする人ね」

「ランクAのクロッセル・エグザエルを葬るとは・・・娘の婿だけあって流石としか言えんな」

「この姿で失礼致します。なにぶん、変身を解くとほぼ半裸になってしまうので。この度は、色々とご心配をおかけして申し訳ありませんでした。ミカエル様、ゴリフリーザ様」

 心配をかけたであろう義両親に丁寧に挨拶をした。それから、気になっているであろうクロッセル・エグザエルを始末した方法について説明した。万に一つも、実は生きていました!! という笑えない展開などあってはならないからね。安心していただく為にも必要な事なのだ。

 しかし、私が肉体を付け替えて戦っていた事やマグマの中で始末した事などを話した際は、何故か呆れられた表情をされていた。何故だろうか・・・、義弟達は凄い!! と関心しているのに、なんなのだろうかこの温度差は。

「『聖』の魔法を使い、ランクAと言われている娘達を持つ儂ではあるが・・・レイア殿も規格外じゃの」

 規格外・・・そんなはずは無いと言いたいが、世間的にはそのように認識されてしまうのであろうな。ただ、計画通りに事が進んだだけですよ。

「まぁ、良いではありませんか。急いで駆けつけてくれたようですし、とりあえずは食事にしましょう」

 それから、しばらくは一家団欒で晩餐会が開かれた。戦場とは思えぬ程豪華な品揃えで驚きだ。私の驚きより、料理を運んできた者が私の顔を見た時が一番驚いていたけどね。王家がいる天幕に出入り可能な者だから口が堅いのは、分かっているがそういう者達にあまり心労をかけてはいけませんよ。

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

 楽しい晩餐会を終えて、真面目に今後のお話をみんなでする事にした。

 『ウルオール』では、意思決定機関というなの議会が存在する。しかし、基本的に王家の決定が絶対であるので殆ど形だけの議会だそうだ。まぁ、ヴァーミリオン王家の威光は凄いからね。だから、忌憚ない意見が欲しいとの事だ。

 現状を整理してみよう。

 各国から何もかも搾り取られようとしている南方諸国連盟。私と『闇』の使い手が起こした大災害だけでも、国家的損失は目を覆いたくなるはずだ。それに加えて戦争まで行えば、経済状況などは悪化の一歩だ。だが、大義名分がこちら側にある以上、南方諸国連盟にこの戦争を回避する術は無い。

 ギルド主導で行っていた悪逆非道の数々だとはいえ、ギルド幹部連中は各国の王族と親密な関係にあるのだ。故に、南方諸国連盟に名を連ねる各国には身の潔白を証明する術など無い。出来ることといえば、戦争で落としどころを付ける事だ。それも、可能な限り有利な条件で・・・。その為に、食料面や政治面で苦しい情勢の中での出兵だったのだろう。

 南方諸国連盟には悪いが・・・状況は圧倒的に『ウルオール』を筆頭にする連合軍が有利。潤沢な資金に加えて、人材及び物資も豊富。更に言えば、ランクAのゴリフターズも参戦。これで負ければ世の中が可笑しいレベルだ。

 ギルドも南方諸国連盟が負ければ次は死を待つばかりなのは分かっているので、金の力で各所から冒険者達を集めている。戦費負担や各国への食料供給など、ギルドが設立されてから初めてまともに役目を果たしているのでは無いかと思える程だ。

 尤もその資金が元を辿れば各国から徴収していた金であったり、冒険者からピンハネした金であったり、遺書を勝手に任意整理してギルド倉庫に預けられた財産をちょろまかした物であったりするがね。

 ギルドが健全に機能している事は誤算ではあったが、問題は無い。

「実に、順調だ。食料の輸出と戦争でギルド総資産の65%を浪費させた。残る資金も時間の問題だと思える。南方諸国連盟の民衆への対応は?」

「『ウルオール』の腕利きの諜報員を何名も派遣済みです。何年も前から民衆に溶け込ませている者もおります。此度の一件を、火種にして各所で暴動を起こさせており自国の王族や貴族達への怒りは既に臨界を迎えております」

「肝心の兵士達の大半が戦場におりますから、南方諸国連盟の対応は全てにおいて後手に回っているようです。尤も、その兵士達も不満を抱いている者が多いとの事で・・・そういった者達にも手を回しております」

 ゴリフリーナとゴリフリーテが現状を教えてくれた。大国だけ有って、既に準備済みだとは流石だな。そこまで、行えているならばもはや私が意見できる事は殆どないだろう。

 人を動かすというのは私は苦手でね。大局をみて判断できる人材にこういう場面は任せたいところだ。

「では、その暴徒達が鎮圧されないように腕に覚えのある者を付けておいてくれ。影から危険人物を排除して暴徒達には好き勝手暴れて貰おうじゃないか。後、ギルド幹部の首に賞金が掛かったと流布してくれ・・・そうだね、私のポケットマネーで一人あたり100億セルだそう」

 ギルド幹部の事だ・・・きっと、万が一に備えて各所に逃げる算段は付けているだろう。その全てを私が完璧に把握しているわけでは無い。そこで利用したいのが民衆の目だ。だからこそ、数が減って貰っては困るのだよ。

 ギルド幹部の首に報酬をかけることで安い金で大量の民衆の監視の目を手に入れられるのだ。

「良いアイディアです。すぐに、全員の似顔絵と共に賞金首の件を流布する準備を致します。後、南方諸国連盟に所属するいくつかの国が内々に全面降伏するとの書簡が届いております。どのように致しましょうか」

 って!! 戦争初日から全面降伏ってどんだけ弱腰なんだよ。確かに、ゴリフターズが出陣しているだけで相手に取っては負け戦なのは分かるよ。現に、この間行われた『聖クライム教団』との戦いでは、一日で出た死者は数万ではすまなかったからね。

 そう考えれば、人的損害を回避するための英断と言えなくも無いか。

「ゴリフリーナ・・・それを私が決めてしまっては問題であろう。いくら、二人を娶りヴァーミリオン王家と近しい関係であったとしても、世間的では故人となっているのだからね。その私が『ウルオール』の戦果に対してあれこれ言う立場ではない」

 降伏を受け入れてもいいさ。それが、『ウルオール』の為になるならばね。

「そうですか・・・しかし、お母様から旦那様には色々と世話になっているので処遇を決めても良いとの事です。後、欲しいものがあれば可能な限り融通すると」

 ゴリフリーザ様がそんな事を。ちらりと、コタツムリちゃんにズップリ浸かっているゴリフリーザ様を見てしまった。そうすると「構いませんよ」とお返事が帰ってきた。

 構わないとは言われたが、なかなか難しいな。『ウルオール』の安泰のために協力するのは、元王位継承権第一位と二位である王女達を娶った身として当たり前だ。ペニシリンの提供並びに開発功績の譲渡、農作物並びに地下資源の安価提供、内偵及び尋問、ギルドと癒着のあった貴族の洗脳など色々とやったけど些細な事だ。

 だが、義両親からの贈り物を突き返すのは失礼だな。

「難しいね。私は、そういう政治的な事は苦手なのだよ。白黒きっちり付けたいタイプだからね。かといって、二人に丸投げにするのは申し訳ない。だから、相手に決めさせようじゃ無いか。チャンスは一度のみだ・・・降伏する側の誠意というものを見せて貰おうじゃ無いか」

「それですと・・・相手は、最低限の物しか提示してこないかと思われますが旦那様」

「その時は、このたび戦争に参加した小国達に国ごとくれてやるまでだ。『ウルオール』という大国にある程度安全を保証されて搾取されるか。小国達に根こそぎ奪われるか好きに選択させれば良い。参加している小国にも多少はおいしい思いをさせてやらないといけないからね」

 漁夫の利狙いだとは言え、肉壁程度には役に立ているのだ。この戦争における小国の軍勢は、激戦区を担当させられているらしい。いくら、ギルドに対する借金をこの戦争に紛れて無かった物とする気である小国達にも多少は色を付けてやらねばなるまい。

 『ウルオール』は、これから我々が攻め込んでギルドの財産を根こそぎ奪うから国内の報償を賄うには十分であろう。

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

「欲が無いわね。国ごと欲しいと言うなら、トップをそのまますげ替えても良かったのよ。それだけの働きは十分しているのに」

「お気遣いありがとうございますゴリフリーザ様。大変光栄な事ですが私には些か過ぎた物です。ガイウス皇帝陛下から賜ったヴォルドー領だけで十分です。お母さんもおりますので」

 そう、先ほどから義弟達と戯れてる瀬里奈さんね。後、あそこまで拡張した瀬里奈ハイヴをみすみす放棄もしたくない。なんせ、石油も産出される地下資源が本当に豊富は場所なのだ。

ギッギェ『ほら、これが神器ヒューペリオンよ・・・この瀬理奈から奪えたら二人にあげちゃう!!』

 瀬里奈さんが神器を餌にして遊んでいる。義弟達との身体能力の差を考えるに奪われる事はないであろう。だけど、そんなに簡単に神器をあげちゃうとかやめてーー!! その神器を手に入れるの本当に大変だったんだからさ。

「むむむ!! 今、瀬里奈さんが神器をくれると言った気がした ・・・・・・はっ!? せ~り~な~さん・・・・・・・・・チラ」

「その手があったか!! ・・・チラ」

 イヤレスがスカートを巻くしあげて下着をチラ見させている。更に、ミルアも便乗して胸チラをして瀬理奈さんを攻めている。しかし、なぜ、女物のスカートをはいているかは謎だ。

 そんな攻撃が瀬理奈さんに通じるわけが・・・・・・。

 ボタボタボタ

「って!! 何度同じ手を食らえば」

 瀬理奈さんの鼻から大量の血が床にこぼれた。そして、神器も手からこぼれ落ちて二人の手に渡ってしまった。苦労して手に入れた神器がこんなにも簡単に義弟達の手に渡るとは・・・って!! 

 蛆蛞蝓ちゃんが空気を読んで影の中から這い出てきた。

モッモナー『全く、またですか瀨里奈様。いい加減に・・・・・・きゃーーー、瀬理奈さんの心肺が・・・・・・停止している!! いけないわ、電気ショックを』

 想像を遙かに上回る重体であった。並の冒険者をちぎっては投げ捨てる実力がある瀬理奈さんがこんなにも簡単に。恐るべし、義弟達。

 バコン

モナ『蘇生処置完了。脈拍も正常と・・・強靱な肉体をお持ちなだけあって流石です』

 生体電流という存在がわかればそれを平然と使いこなす蛆蛞蝓ちゃん。流石、私なんかと比較にならない程に頭がいいだけあって、理解力や応用力も半端ない。一を聞いて十を知るとかそんなレベルを遙かに超越している・・・まさに世紀の天才と言っても過言で無い。

 だが、そんなやり取りをみて、唖然とするミカエル様とゴリフリーザ様。まぁ、無理もない。実の息子達が、娘の義母である瀬理奈さんを血まみれにしたのだ。瀬里奈さんがあまりにも乙女なのが原因でもあるが、義弟達の行動にも問題はある。

「お義母様になんて事を・・・ミルア、イヤレス!!」

「「きゃーー、瀬里奈さん助けてーーー。お姉様がいじめる」」

ギッギ『よしよし、大丈夫よ。この瀬里奈あの程度じゃなんともないから』

 なんて言ってはいるが、鼻の下が伸びきっている気がする。義弟達もここぞとばかりに瀬里奈さんに密着してアピっているあたり悪女・・・いいや男だったな。魔性の男という言葉は使いたくないが、まさにそれが似合っている。

「お義母様を盾にするなんて・・・ぐぐぐぐ」

 ふふふ

 いいな家族って。そんな平和を守るためにも必ず息の根を止めてやらないとねギルドの屑どものな!!

************************************************
神器が義弟達に奪われた><

さて、ギルド総本山に乗り込むぞ!!
楽に死ねると思うなよ。


どうでもよい、独り言ですが…作者はガンランス大好きです!!
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