愛すべき『蟲』と迷宮での日常

熟練紳士

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第二十四章

第百三話:憎しみの連鎖(5)

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昨日投稿出来るかと思ったけど、間に合いませんでした。申し訳ありません。
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 それにしてもギルドの屑共には困った者だ。

 冒険者が命がけで稼いでいる報酬からピンハネしているお金で、こんな非合法施設を建造するとはね。あいつ等、本当に何を考えているのか理解に苦しむ。そんなにお金に余裕があるなら、世の為人の為にもっと出来る事があるだろうに。

 『闇』の使い手と移動すること、十分程度で目的地の目の前まで到着した。流石は、素の状態で私の第2形態と互角以上の身体能力を有しているだけはある。変身しなければ置いて行かれていたよ。

 全く、ギルドいう存在は悪い意味で度肝を抜いてくるな。

 山中をどこまでも続く道を進んでみれば、こんな場所に着くからね。

「アレが、その病院か。病院と言うより要塞じゃな」

「岩壁をくりぬいて作っているので、確かに堅牢な要塞と言った方が正しいでしょうね」

 改めて思うのだけど、このレベルになると隠蔽されている施設にはとても思えない。流石に、堂々とやり過ぎだ。こういう施設を建造するにしても維持するにしても物資の流れがあるから、隠蔽は困難だ。

 だからこそ、ここまでの規模となればギルドだけではなく領主もしくは国家も絡んでいるとみて間違いないだろう。ギルド幹部連中は、南方諸国連盟の王族達と婚姻関係を結んでいる者が多かった。権力と金を使えば、この施設を建造する事も可能か。

「ただの病院という訳ではないな。で、何の施設だ?」

「処理した冒険者は、その件については全く情報を持っていなかった。立地条件から察するに碌でもない施設である事は疑いようがない。まぁ、推測はあるが…確実な情報ではないので発言はやめておく」

「全く、これだからギルドの施設は。では、襲撃するに当たり提案があるなら聞くが」

 『闇』の使い手が居る以上、私からの提案が必要だとも思えない。

 『闇』の魔法を使えばこんな施設なんて秒殺だ。だが、それでは中に捕らわれて居るであろう尊い人命が失われてしまう。ならば、やることは一つになるだろう。

 ヴォンヴォン

「正面突破か。まぁ、悪くない…で、要塞の構造マップは、完成したか?」

「現在、超音波でマッピング中。後、2分で蟲達が書き上げる」

 『闇』の使い手と合流前に一部の蟲達を先行させている。そのおかげで、到着とほぼ同時に詳細なマップが完成するという手筈だ。耳が良い亜人の冒険者ならば、超音波を聞き取れて異常を察知できただろうに残念な連中しか居ないようだ。

 それにしても、先程から熱い視線を感じる。隠れもせず堂々と目の前にいるのだから当然か。秘匿施設の方から熱いラブコールがありそうだ。

 『闇』の使い手と話していると、完全武装した冒険者らしき者達が8名ほど此方にやってきた。その様子から察するに、生かして返す気は毛頭無いのが分かる。殆どが、ランクC以上といった所かな。一番実力がありそうな者でもタルト以上ゴリヴィエ以下といった感じがする。

 人材が乏しいこの国では、希少な戦力だろう。もしかしたら、ギルドから派遣されてきた者たちかも知れないが、どうでもいい。どうせ、末路は同じだ。

「ここは立ち入り禁止区域のはずだ…お爺ちゃんとお散歩で迷子にでもなったのか?年寄りの面倒くらいは、子供がしっかり見ておけ」

 『闇』の使い手は、私ほど深々とローブを被っていない。その為、顔が見えたのであろう。

 『闇』の使い手とは、親子どころか祖父と孫ほどの年齢差がある。だが、血縁者と間違わないで頂きたいな。ガイウス皇帝陛下と血縁関係に間違われるなら若干嬉しいが…『闇』の使い手では、そういう気分になれない。

 別に、『闇』の使い手が憎いというわけでは無い。昔ほど悪い感情を抱いていない…それどころか、最近では尊敬すらしている。最強の冒険者だと崇めても良いくらいに。なんせ、瀬里奈さんの事を認めてくれた数少ない存在なのだからね。まぁ、グラシア殿が認めたという要因が強いだろうが、それでもいいさ。

「とりあえず、いったん拘束しましょう。この周辺に集落は無かったはず、迷い込んだにしてはいささか不信です」

 中年の女性冒険者がとんでもない発言をしている。

 いささか所では無く、完全に怪しいだろう!! 周辺に人が住んでいないのに、ここに居る時点で完全に不審者だ。『闇』の使い手がいい歳だからって警戒心をゆるめすぎだ!!

 あれか? 年寄りには優しくしろとか教育でもなされているのか。絶対に、私が顔を見せた場合と対応が違うよね。特徴がありすぎるせいもあるが、私の顔は売れている。『闇』の使い手より間違いなく。『闇』の使い手は、冒険者歴も長く最強と名高いが顔は売れていない。現に私も戦場で出会うまで顔を知らなかった。

 なんせ、出会ったら最後…死ぬからね。

「はぁ~…半々でいいですかね?」

「構わんぞ」

 先に動いたのは、『闇』の使い手だった。

 神速の踏み込みと同時に放たれるライ●セイバーによって、冒険者の一人が上下に真っ二つになった。本物と異なり棒状に伸ばしたオリハルコンに蟲産の塗料を塗り込んだだけので切れるはずが無いのだが…そこは、腕力と速度にものを言わせているのだろう。

 だが、実に美しい軌跡だ。魔法だけでなく、こういう技術も卓越しているのか。全く、困った存在だ。神は、『闇』の使い手に才能を与えすぎだ。

「じゃあ、私から見て角刈りマッチョから左に四人は、私を担当してもらおう」

 年寄りだと思って甘く見ていたのだろうか。それとも、『闇』の使い手の動きを目で終えていなかったのだろうか分からないが…冒険者全員が強ばった顔をしている。もしかして、今の攻撃が自分達に来るとでも思っているのだろうか。

 『闇』の使い手が私の取り分を奪うとでも思っているのだろうか。それならば、安心して欲しい…我々が決めた担当分担だ。滅多な事で変わる事は無い。

 だから、安心して死んでくれ。

「フン!!」

 マッチョの得意な事は、見た目通り怪力なのだろう。180cm強の体格から殺す気で振るう剣撃は、並のモンスターなら真っ二つであろう。ギルドの秘匿施設を警備しているだけの事はある。

 他の連中もなかなか素早い展開だ。『闇』の使い手の一撃を見て直ぐに危険度を更新したのだろう。

「だが、それでも随分と認識が甘いな」

 懐から緑のライ●セイバーを取り出して、攻撃を受け止めた。受け止めたと同時にズドンと良い音と共に若干地面にめり込んだ。攻撃力に関して言えば、なかなか良い一撃だ。ランクCのモンスターであれば一撃でミンチに出来るだろう。

「ザーラ!!」

 どうやら女性の名前らしいな。『水』の魔法で私に対して弱体化を掛けているがヌルイ!! その程度の魔法など私の可愛い子供達が愛を込めて作ったコートでほぼ無効化できる。魔法に対して強い耐性を持つ蟲達の素材も使っているのだ。この耐性を突破したければ、もっと火力を持ってくるのだな。

 頭の血管が切れそうなほど力を入れているようだが、私の片腕で受けられている時点でどのような結末になるかは想像が付いているだろう。

「ご自慢の怪力もその程度か。装備も質も悪くない。だから、気に病む必要は無い。元からの私と比較してスペックが違いすぎるのだから」

 此方に見えにくいように回り込んでいる者もいるが、バレている時点で何の意味もなさない。

「馬鹿がああああぁ!!」

 目の前が真っ赤になった。

 脳筋かと思いきや『火』の魔法を無詠唱で使ってきた。人は見かけにはよらないとは言うがこの事だな。発動するまでのタイムラグもあるが、残念ながらこの距離では不可避。威力自体はたいしたことは無いが、火を恐れて目をつぶってしまうと背後から迫ってきている別の者にザックリと殺されるというやり口だな。

 まぁ、腕は二本あるし、ライトセイバーも二本あるから別に問題ない。魔法を食らいながらもう一人を始末すれば良い。

 背後から此方に飛びかかってくる者の気配を察して、それに合わせるように左手でライトセイバーを振るった。ヴォンという音と共にグチャリという良い音が響いた。

「私の腕前では、真っ二つには出来なかったが…まぁ良い。練習する機会には恵まれていそうだからな。…うん?どうした? そんな幽霊を見たかのような顔をして?」

 私の顔をガン見してきている。あぁ、先ほどの『火』の魔法でフードがめくれてしまったか。いやいや、これは困りましたね。

「し、死んだと聞いたぞ!! 」

「あぁ、そうだな。公的には死亡している。別に、君らが気にする事でもあるまい。どのみち、目撃者は生きて返すつもりは無いからな」

 『闇』の使い手側の方は既に処理が終わっているので、待たせても失礼だ。

「全員逃げろ!! ここは、俺がああぁっ!!」

 バチバチバチ

 今、この男が何か言っていた気がするが気のせいだろう。男は、眼球がはじけ飛んで、全身から煙が上がっている。実戦初使用だったが、なかなか使えるな。

 本家本元と比較すれば、威力の低下と言うレベルでは済まないが…それでも近接における対人では十分な性能だ。生体電流を用いて再現した『雷』の魔法。将来的には、もっと効率よく扱えるようにしたい。

「い、今のは…まさか『雷』の魔法!?」

「ほほぅ、博識だな。色々知っていそうだから、貴様を殺すのは少し後回しにしよう。全てのデータを抽出させてもらうぞ。蟲達の糧になるがいい」

 知識というのは、財産と言っても間違いない。優秀な知識は、蟲達が有効活用すべきだ。それが世のため人のために繋がる。

 さぁ、まだまだ試したい疑似再現した『水』『火』の魔法もあるんだぞ。しっかりと生き残ってくれよ。



 高圧ガスを圧縮して引火させる事で疑似再現した『火』の魔法や、酸を圧縮して打ち出す『水』魔法で綺麗にゴミ掃除を終えて施設の中に正面から入った。我先にと逃げようとした施設の者がいたので全員生きて捉えて現在脳内からデータ抽出中だ。

 今現在は、施設の中の資料を物色中だ。

「被験体No.079番…死亡。被験体No.080番死亡。…」

 設立して僅か一ヶ月程度でここで行われていた死亡人数は、100に届きそうだ。

 現在も蟲達が人海戦術で資料を確認して纏めているが…私の予想が当たってしまった。この施設に近づくにつれて、蟲の気配を感じた。それも施設の内部からだ。

「モンスターの力を人間に持たせる実験か」

 『闇』の使い手が何故か此方を見てくる。

 言っておくが、私は完全に無関係だ。モンスターの力を人間に持たせるとか無理難題も良いところだ。普通に考えれば誰だって、そんな愚かな行為はしないだろう。そもそも規格が違う過ぎるのだ。合うはずが無い。

 だが、この私という存在がその可能性を見せてしまったのだろう。

 『蟲』の魔法を用いてモンスターの能力を自分に付与する。それを知ってしまったギルドは、強引にそれを再現させようとしたのだ。高ランクの蟲系モンスターの力を一般人にも与えられるなら、得られる利益や恩恵は計り知れない。主に戦力的な意味で。

「実現不可能ですよ。モンスターの中でも食用として転用できる蟲系に目を付けたのは褒めても良いですが、それだけで私が行っていた変身を再現する事などできるはずがない」

 この施設に拉致監禁されていた蟲達は、丁重に私の仲間に迎え入れた。各国にある迷宮から集められた蟲系モンスター。おかげで、『モロド樹海』では出会う事がなかった蟲にも出会えた。そのことに関してはギルドを褒めてもいい。

「生存者は、18人か…全員若いな。世話は、全て任せるぞ『蟲』の使い手」

「生存者ね~。本当に、生きているだけって状態なんだけど」

 蟲のモンスターの一部を移植されて、死ぬのを待っているだけという状態の連中を果たして生存者と呼んで良いのだろうか。だが、救わねばならない。

 ペニシリン関連の作業で忙しい蛆蛞蝓ちゃんを連れてきて本当によかった。この子が居なければ、手遅れになっていただろう。

モナッナ(モンスターの身体を簡単に移植できるはずがないってどうして分からないんですかね。お父様のお力合ってこそ実現出来ていた技術だというのに……。それにしても、酷い症状ですね。全員、飲み込んで治療に専念しますね)

「あぁ、よろしく頼むよ」

 集められた患者を飲み込んで蛆蛞蝓ちゃんにより治療が始められた。もし、この子供達が元気になったあかつきには選ばせてあげよう。蟲の力を手に入れて、ギルドに復讐するか。それとも平穏に生きることを望むかを。
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人権無視大好きなギルド…死すべし。
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