愛すべき『蟲』と迷宮での日常

熟練紳士

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第二十二章

第九十六話:戦争(8)

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◆一つ目:ガイウス皇帝陛下
◆二つ目:ゴリフリーテ
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 安全且つ確実に、『雷』の使い手の首を取る為に死ぬのを待っていたら二日目の早朝会議に遅刻してしまった。猛毒の濃霧の中に居たのだから陣営に戻り、念入りに毒を洗い落として、身だしなみを整えていたのだ。もし、洗浄を行わず早朝会議に直行していたら大惨事になっていただろう。

 そのおかげで、ゴリフターズの予想通りの遅刻する結果になった。その件について、腐れ貴族共がネチネチと文句を言ってくるのだ。時間を守れない者が…これだから平民上がりは…どうせ、遊んでいたのだろう…とかね!! 確かに、どのような理由があったにせよ時間を守れなかったのは事実だ。

 だから!! 会議の場に入ってすぐにガイウス皇帝陛下に土下座して謝った。思わぬ強敵と交戦しており、遅れてしまいましたと…それに対してガイウス皇帝陛下は、許すと言ったのだ。恐らくは、誰と交戦していたか察してくれたのだろう。

 なのに!! 腐れ貴族共は、鬼の首を取ったかのように私を責め立ててきた。ゴリフターズを同伴させていなくて本当に良かったと思うよ。ゴリフターズの殺意を乗せた魔力を食らって、無事に済む輩はこの場には少ない。耐性のない者は、心臓麻痺になりかねん。

 そうそう、『雷』の使い手の死体は回収した後に、間違っても蘇生しないようにしっかりと処置を施した。首と手足を物理的に切断し、心臓と脳と眼球を抉り、血抜きもした。ほら、もしかしたら心臓に電気ショックを与える事で蘇生なんてされても困るからね。『雷』の使い手の奥方に届ける際は、繋ぎ合わせて接合部も綺麗にしておく。

「では、ヴォルドー侯爵。左翼の状況を報告せよ」

 会議の場に広げられている戦況図を見る。若干、『神聖エルモア帝国』が押しているかな…やはり、次期皇帝という特大の人参がぶら下がっているのだから士気は高いと言うことか。しかし、兵士の損耗が激しい。

 『聖クライム教団』は、金に物を言わせて冒険者をかき集めている。兵士一人当たりの働きは、『聖クライム教団』が上であろう。

「はっ!! 左翼の敵兵力は、壊滅状態にあります」

 本当なら全滅させたと報告したいのだが、流石のこの私達でも一日で左翼敵兵を一人残らず殺しきる事は難しかった。ある程度は、逃がしてしまったからね。

 ザワザワ

「確か、敵兵力は10万は居たはずだが…それを壊滅させたと?」

「はい。何か問題でもありましたか?」

 戦争で敵兵を殺して、問題が出るとも思えないがね。寧ろ、後の憂いを残さない為に率先して全滅させるべきだと考えている。下手に生き残らすと後々五月蠅い。

「『聖』の双子まで参戦したのだから、可能かも知れないと思っていたが…やりすぎだ!! それで、捕虜の扱いはどうなっている? 数によっては、食料を融通する」

 戦争にやりすぎも何も無いでしょう。最初にふっかけてきたのは『聖クライム教団』の方だ。後、捕虜って何を言っているのだ。しかも、捕虜を食わす飯を融通する? そんな金や物資に余裕があるなら孤児院にでも回してやれ。他国の兵士を救う前に、税金を納めている自国の民を救うのが貴族の仕事であろう。

 それに、食料くらい幾らでも用意できるわ。

「捕虜などおりません。『聖クライム教団』の敵兵は、最後まで徹底抗戦の姿勢を崩しませんでした。『降伏』すると敵兵の口から聞けた事はありません」

 勿論、オークやゴブリン達が確保した戦利品の元敵兵や敵兵の娼婦達がそんな妄言を言っていたかも確認を取った。まぁ、娼婦達に降伏の権利は、無いがな。そううしたら、『幸福!!』という幸せな言葉を口にするだけであったと報告を受けている。

 知性の高いモンスターからの報告だ。私が赴いて確認するまでも無かろう。仮に『降伏』と『幸福』をモンスターが聞き間違ったとしても仕方が無い事だ。人語だから聞き間違える可能性もありえる。

「そんなはずが無かろう!!」

「いえいえ、事実ですよ。左翼の敵兵は壊滅した前提で本日の会議を続けませんか? 戦争は、まだ終わっていないのですよ」

 そう…まだ、終わっていないのだ。

 それなのに、朝の貴重な時間をこんな無駄な事で使うのは愚かすぎる。

「皆の者、静まれ。ヴォルドー侯爵の言うように戦争は終わっていない。確かに、敵兵左翼が一晩で壊滅したようだが、敵はまだ残っておる。左翼の敵兵力が壊滅されている確認が取れ次第、ヴォルドー侯爵は本陣で友軍と合流せよ」

 友軍と言う事は、ガイウス皇帝陛下と義弟達と合流という事か。無難な選択肢だ。

 この戦争は、次期皇帝争いが絡んでいるので私が何処かの陣営に混ざれば間違いなく大戦果が約束される。今更だが…中立派の私が一番の戦果をあげた場合には、ガイウス皇帝陛下の引退を取り消して頂きたいと要望すれば良かったかな。いつまでも皇帝陛下で折られても構いませんよ!!

「畏まりましたガイウス皇帝陛下。至急、友軍と合流する準備を致します」

 モンスター達には、友軍と合流する旨を連絡して、周囲に迷惑を掛けないように厳命しておこう。既に、モンスター達に対して我々の力を示した。更に、労働に対する正当な評価と報酬…美味しい食事まで提供しているのだ。だから、こちらの指示には素直に従う。

 一番の問題は、オークやゴブリンが戦場で集めた戦利品達だな。叫ばれたり、逃げられたりしても困るのでブレインウォーカーで洗脳しておこう。




 友軍と合流してから、色々と面倒ごとが立て込んでいる。

 我が軍のモンスター達を攻撃してくる輩が居たので、まず私が半殺した後に全身に蜂蜜をたっぷり塗って森の中で貼り付けにした。友軍で無ければ、殺していたのだが…義弟達が頑張って集めてくれた者達だ。無碍に扱うわけにもいかないだろう。

「いいか、貴様等…何をされても耐えろ。殴られても、刺されても、殺されてもだ。代わりに私に報告しろ。この私が自らそいつを血祭りに上げてやる。モンスターが人を攻撃するのと、人が人を攻撃するのでは意味が違う。納得しろとは言わん、理解しろ」

 手を出してきた者は、私の足を引っ張ろうとする貴族が金を掴ませた屑冒険者だった。モンスターが暴れたら責任は取ると言ったが、まさか誘発させる為に、ここまでしてくるとはね。

 例え、人を襲っていたモンスターでアレ、今はヴォルドー軍の兵士だ。兵士を護るのも上官の仕事であろう。

………
……


 偵察に出していた蟲から面白い報告が上がってきた。

 変身して今まさに飛び立とうとした瞬間、マーガレット嬢がこちらにやってきた。まさか、賃金の値上げ交渉か!! エリスちゃんの報告では、調理場で食材運びを頑張っていたらしい。夜な夜な出歩く事もなく大人しくしていたようだしね。

「あの~、レイア様。そろそろ、私は家に帰ってもよろしいですか? 義姉さん達に何も報告なしで帰らなかったから心配していると思うので。近くの街で宿を取って待っているはずです」

 あぁ、その事ね。認識がまだまだ甘いな。

「心配などしていないと思うぞ。マーガレット嬢…年頃の女性を一晩帰さないのに、紳士のこの私がご家族に何のお伺いも立てないはずが無いだろう。ちゃんと、『マーガレット嬢は、今夜返さないが…よろしいですか』と宿に居たご実家の方に私自ら伺ったところ、泣いて喜んで是非と言われたよ。一体、君は家族に何をしているのだね。帰らない事を泣いて喜ばれるなんて、フローラ嬢に迷惑だけは掛けないでくれよ」

 あの時、少しだけフローラ嬢の顔が見れた。『よろしくお願い致します』と言われたので『任せておいてください』と去り際に言っておいたよ。それにしても、フローラ嬢が幸せそうで良かったわ。そのうち、私の新居にご招待したいね。

「ちょ、ちょーーと待ってくださいレイア様。その話、初耳ですけど!!」

「当然だろう。今、初めて教えたのだから。それと、両親の元に帰るならば、護衛も付けよう。お預かりした女性を護衛もなしに帰したとなっては紳士としてあるまじき行為だ。それと、コレも頼んだよ」

 絹毛虫ちゃんとステイシスをマーガレット嬢に貸し与えた。何を頭を抱えて悩んでいる。何か、この私が不味い事でもしでかしたのだろうか。

 寝床についても、蟲達を使って新品を用意した。よく眠れるように、ステイシス達で護衛をさせ、鈴虫達を使って心地よい音楽を奏でさせ、絹毛虫ちゃんまで貸した。お風呂にしても蛆蛞蝓ちゃんの体液がしみこんだお肌に良いモノだったはず。食事は、瀬里奈さんが一から育てた瀬里奈牛を使ったフルコースを用意した。

 要は、私達と同じ待遇だったのだ。

「はぁ~…分かりました。とりあえず、此方でなんとかしておきます。で、コレは何ですか?」

「戦利品一覧だ。流石に、量が多いので一部だが買取見積もりを頼んだぞ。洗浄済みだが、一応目で確認していくならばしていくといい」

 商売のチャンスだ。フローラ嬢の為に頑張って働いてくれよマーガレット嬢。

 マーガレット嬢と蟲達を残して、移動した。

………
……


 上空から、戦場を眺めると…実に面白いな。どいつもこいつも、遠距離からチマチマと魔法などで攻撃している輩が多い。多少の被害を許容して特攻すれば良いモノを。

「さて、私の獲物は…いたいた」

 戦争において、停戦や和平の交渉をする為に敵陣営に特使を送る事がある。当然、戦時中の特使は死ぬ覚悟が必要だろう。

 既に、ガイウス皇帝陛下からの許可はおりた。

 戦争始めた2日目で停戦とかあり得るわけ無いだろう。たかが左翼の10万と他陣営が多少消費された程度…まだまだ、終わらせるわけにはいかない。なんせ、次期皇帝の座が掛かっているのだ。少なくとも後10日は、続いて貰わねば困る。

 どのような特使であったにせよ、2日目で泣き言など許さない!! 

 戦利品から持ってきた槍を構える。これは『聖クライム教団』正規兵が持っている物だ。目標は当然、『聖クライム教団』の旗をたてて陣営から飛び出した馬車に乗る特使だ。

「特使に手を出すのは、貴様等『聖クライム教団』のお家芸だ。たまには、自分達でどのような事態をもたらすか身を以て知るとイイ」

 敵陣営の後方から槍を投擲した。この位置からの攻撃ならば、『神聖エルモア帝国』側からの攻撃だと疑われることは少ないだろう。なんせ、槍が刺さった方向から考えるに、『聖クライム教団』の陣営側からの攻撃になるのだから。

 さて、仕事は終わった。

 本陣に帰って、ゴリフターズと合流してガイウス皇帝陛下と義弟達の身辺警護に力を出さねば。戦況を変える数少ない方法は、ガイウス皇帝陛下の身に何かあった場合くらいであろう。




 正直言えば、不安を隠せん。

 儂の子供達から次期皇帝を選出する為というのは嘘では無い。だが、それと同時に貴族達の行動も観察させて貰っておる。次代を支えるに値する連中がいるか…正直言えば、厳しい。

 大貴族の子供達となるべく交流を持てるように子供達には色々と機会を与えた。その中で信頼の置ける者達を見いだせればそれで良いと。だが、現実は簡単にはいかない。王位継承権に釣られて近寄ってくる者達ばかりであった。

 だが、儂は関与しない。人を見る目を養うのは、王位を継ぐ物の勤めである。人を見る目が養われずに傀儡にされるにしても、それは子供達が選んだ道だ。いつまでも儂が国を背負うわけにもいかないからな。

「世の中、難しいの…」

「お疲れのようですねガイウス皇帝陛下。恐らく、この暑さも起因しているのでしょう。冷たいお飲み物の準備とマッサージを致しましょう」

 レイアが指を鳴らすと蟲達が飲み物の準備を始めて、絹毛虫ちゃんが肩に乗っかりモキュモキュ言いながら、マッサージを始めた。実に、癒やされるわ。

 改めて考えるまでも無いが、レイアは実に有能。正直に言えば、子供達より遙かに長い時間構っている。出会ってから迷宮を連れ回したり、色々な蟲を開発させたりと本当に実の息子のように扱ってきた。

 一部では、隠し子じゃ無いかと言われているようだが、違うと明言している。妻達にもその旨は説明済みだ。儂が世界を巡って集めたいい女達だ…直ぐに理解してくれた。

 だが、レイアは有能すぎる故に統治者としては不向きであろうな。不正に対しての考え方がシビア過ぎるのだ。誰しもレイアみたいに強いわけでは無い。誘惑に負けてしまう者の方が多いのじゃよ。

 しかし、レイアのような人材は何時の世にも必要になる。これで娘の一人でも娶ってくれれば、多少強引でも次期皇帝に据えたのに残念じゃわい。もう少し欲を出しても良かろうに。

「レイアの予想では、誰が次期皇帝になると思う?」

「本音を言えば、ガイウス皇帝陛下に引き続き皇帝陛下の座に着いていて欲しいと思っております。それが無理だとして…戦果だけで見るならば。エヴァ様が一番かと」

 エヴァか…確かに、最前線で戦っているからな。更に言えば、エヴァは儂と同じように身分を隠して冒険者として活動していた。地力で言えば、儂の次に強いかの。信頼できそうな仲間も居るようだし、期待は出来る。

 だが、貴族社会で生き残れるかと言えば微妙じゃな。大貴族の子息が居れば多少はマシになっただろうが、此方の調べではエヴァの周囲の者達に家督を継げる者は殆どいない。

「まだ、戦争が始まって4日目だ。後半になれば恐らく、ガイゼルが追い上げるだろう。公爵家の支援は伊達じゃ無い」

「どちらが勝利されても、私としては依存がありませんが…ガイウス皇帝陛下の事を考えれば未婚であられるエヴァ様に勝利して頂きたい。公爵家の長女を娶ったガイゼル様が勝利された場合には、現公爵が皇帝陛下の父君になるわけですからガイウス皇帝陛下の御身を狙われるのでは無いかと思っております」

 公爵が儂の身を害すると…あり得なくも無いな。色々と弱みは握っているが、寧ろそれを恐れて暗殺なんて事もあるか。

「エヴァは、冒険者として過ごしていた事もあって…なかなか、気が合うと思うぞ」

 チラチラ

 レイアの言うようにエヴァは未婚だ。儂も色々と手を尽くしたのだが、エヴァが気に入る相手が居なかった。当の本人は、気にもしていないのだろうがな。他の兄弟が結婚しているから、一人くらい未婚でもいいと思っているのだろう。

 王族で未婚とか、珍しいにも程があるわ。

 普通にいい女だと思うのだが、性格がね…。自我が強すぎる。

「駄目ですよ。ガイウス皇帝陛下…私は、ゴリフリーテとゴリフリーナがおります。これ以上娶る気はございません。後、話は変わりますが、エヴァ様は王位のために戦争を頑張っていると言うより、力試しといった感じが致しました」

「あの脳筋娘は、何を考えているんじゃ。まぁ、それならそれでも良いか。影ながら各陣営を偵察させて苦労を掛けたな。レイアにしか出来ない仕事であったから許せ」

「勿体ないお言葉です。このレイア、ガイウス皇帝陛下のご命令とあれば例え火の中水の中…だけど、嫁の件は別腹で」

 この忠誠心…他の貴族の馬鹿共も見習って欲しいモノだな。

「では、引き続き各陣営を定期的に回り、情報収集を頼んだぞ」

「お任せください。但し、私が居ない際には、出歩く時は必ずゴリフリーテかゴリフリーナに一声お掛けください。最大級の危険は去ったにせよ。戦時中である事には変わり在りませんので」

 儂の母親かと言う程の心配性だな。まぁ、その気持ちはありがたく受け取っておこう。腕に自信があるとは言え、儂より強い者など沢山いるからな。




 『神聖エルモア帝国』と『聖クライム教団』の戦争は、開戦して13日目で終戦を迎えた。『神聖エルモア帝国』側の死者は、12万。『聖クライム教団』側の死者は、27万にも上った。

 最終的に、『聖クライム教団』側が粘り強く降参をしなかった事が死者が増えた要因であろう。『聖クライム教団』は、何度も使者を送ったと妄言をしているが『神聖エルモア帝国』の本陣にそれらしき影は誰も来ていない。

 使者に手を挙げてもいいルールだからな!!

 そんな事より、非常に大きな問題が私に迫っている。次期皇帝が決まったのだ。そして、来月に行われる正式な任命式で諸侯達が新皇帝陛下に忠誠を誓う儀があるのだ。

 この私は、ガイウス皇帝陛下に忠誠を誓っているのだ。何が嬉しくて新皇帝に忠誠を誓わないといけない。嫌だわ…マジで嫌だわ。あまりに、嫌なので本気で侯爵の地位を返上して『ウルオール』に移住したいが、瀬里奈ハイヴもあるし簡単にはいかない。

 しがらみが増えると自由に行動出来なくなるとはこの事かと思ったよ。

 新皇帝陛下は、第一継承権を持つガイゼル様に決まった。ガイウス皇帝陛下の読み通り、後半戦になって金と兵力に物を言わせて戦場を押しまくったのだ。おかげで、相当死んだし、殺された。

「どうしたレイア? 浮かない顔をして?」

「いえ、そんな事はございません」

「当ててやろう。どうせ、来月行われる新任の儀で忠誠を誓うのが嫌なのであろう。別に隠さなくて構わん。レイアが『神聖エルモア帝国』でなく、儂に忠誠を誓っているのは理解している」

「申し訳ありません。心の整理にしばらくのお時間を」

「無理に忠誠を誓わんでも構わん。通過儀礼みたいな物だ。儂の時も誰しもが口を揃えて忠誠を誓うと言ってはいたが、実際言葉と中身が付いてきた者は少ない。人とはそういう者じゃ」

 やっぱり、この人以外に忠誠は誓えないな。

「ガイウス皇帝陛下…」

「ほれ、しんみりするな!! 女性陣のご到着だ。さて、約束通り瀬里奈殿とダンスをするぞ。ほれ、いくぞ!! 女性を待たせるなど男としてあるまじき行為だ!!」

 ドレスで着飾ったゴリフターズと瀬里奈さん…そして、なぜかドレスを着ている義弟達が現れた。おぃ、義弟達!! 男性パートが不足しているのに何しているねん。

 本日は、ガイウス皇帝陛下のご配慮があって、夜の王宮ホールを貸し切ってのダンスパーティー。しかも、ここに居るのは瀬里奈さんの存在を知る者達だけの秘密の社交の場なのだ。

 瀬里奈さんは、帝都や王宮に足を踏み入れた時にコッソリと泣いていた。恐らく、人の生活圏内に足を踏み入れる事なんて無かっただろうからね。それを叶えてくれたガイウス皇帝陛下…もう、私まで貰い泣きだよ。

「そこの美しいご婦人。よろしければ本日最初のダンスを儂と踊ってはくれんかね」

ギィギ『喜んで。ガイウス皇帝陛下』

 しかも、瀬里奈さんを当然とダンスに誘う…本当に、ありがとうございます。

 ほら、ぼさっとしないで演奏部隊!! 音楽スタート!!

 音楽部隊も調理部隊も全て私の蟲達が担当している。

………
……


 ゴリフリーテとゴリフリーナは、私との最初のダンスをめぐって、気合いの入ったジャンケンを披露してくれた。この私の動体視力を以てしてもギリギリ見えるか微妙なラインだった。振り下ろすまでに10回以上、グー チョキ パー を変えるんだぜ。

 そして、二人と踊り終えて私は親子でダンス中。

ギー『レイアちゃん、幸せってこういう事を言うのね』

「そうだね。お母さんが幸せで嬉しいよ。これからは、もっと幸せにするからね」

 ゴリフターズと私の間に、そのうち子供も出来るだろう。そうしたら、瀬里奈さんはお婆ちゃんになるんですよ。きっと、お婆ちゃんじゃありません!! 瀬里奈お姉さんと呼びなさいって言うんだよね。

 他にも、蟲系亜人が誕生すれば瀬里奈さんは、蟲系亜人の大祖母様ですよ。

ギギ(ぐずん…お母様、嬉しそうでなによりです)

ピッピ(いい話だ。目から水が)

モモナ(お父様、瀬里奈様…お二人の幸せは必ず我々がお守り致します。ぐずん)

モキュ(涙で前が見えません…お幸せそうな瀬里奈様)

 こんな幸せが何時までも続けば………。

 ズブリ

 あれ? なんで私の胸から腕が…それに心臓を…。

 ゴゥフ

ギィ『レイアちゃん!!』

「レイア!!」

「「お義兄さま!!」」



 ぐちゃり

 気がつけば、旦那様の背後に何者かが立っていた。旦那様の心臓をえぐり取り、握りつぶした。何が起こったのか理解するまでに一瞬かかった。

「「旦那様ああぁぁぁぁぁ!! 」」

 プツン

 私の中で何かが切れた。

 かつてこれほどまでに激高した事があろうか…これほどまでに明確な殺意をもって誰かを攻撃する事があっただろうか。『聖』の魔法を限界まで圧縮し、拳に纏わせた。もはや、全身の筋肉が崩壊しても構わない。

    ズゥドン

 王宮全体をゆらす程に、足に力を込めて旦那様との距離を詰めた。命に代えても、旦那様を害した者を殺すつもりで拳を振るった。

「早いな。それに、その拳に触れたら流石に不味い」

 『聖』の魔法の特性を読んだのか、旦那様を盾に!! このままでは、旦那様ごと粉砕してしまう。拳を止めた。背後から回り込もうとしていたゴリフリーナも動きを止めた。

「貴様!! 何者じゃ!!」

「蟲達も『聖』の双子も誰も動くなよ。一歩でも動けば肉体をばらすぞ。貴様等が動くより早く動ける自信はあるぞ。このような形でご挨拶する事になり申し訳ありません『神聖エルモア帝国』のガイウス皇帝陛下。私は、クロッセル・エグザエル」

 クロッセル・エグザエル!! 私達と同じくランクAの一人。まさか、このような形で対面するとは。だが、やる事は変わらない。どのような理由があるにしても必ず息の根を止てやる。

 双子だからこそ分かるゴリフリーナも私が動けば必ず追随すると。なんとか旦那様を引きはがしてから私が押さえ込む。そうしたら、私もろとも殺しなさいと目で伝える。ゴリフリーナがそれに答える。

 何の犠牲も無く殺せるような者では在るまい。クロッセル・エグザエル…四大国の一つである『ヘイルダム』に所属していたランクA。何年も前から行方知れずとなっていたはず。年齢は、40歳半ばのはずだが…年齢より若く見える。30代前半と言っても問題ないだろう。

「名高いランクAがなぜここに?レイアとは、面識がないであろう」

「面識の有無など関係ない。冒険者なのだから金次第でなんでもやる。まぁ、金など二の次だがな。それにしてもつまらん。ギルドから強者がいると聞いて来てみればこの程度か。次期ランクAと聞いていたのだがな…こんな不意打ちで死ぬとは。これなら、『雷』の使い手の方が楽しめた」

 ギルド…ギルド…ギルドォォォォォ!!

 あの害虫どもめええぇぇぇ!! 最早、堪忍袋の緒が切れた。この地上に貴様等の存在など一変すら残さない。

 ゴリフリーナとタイミングを計り、飛び出そうとした瞬間。旦那様の影から輪切り状の肉が飛び出した。

「くあっ!!」

「か、片腕は貰っていくぞ」

 心臓を抉られた旦那様が生きていたのだ。しかも、よく見ると旦那様の影から浮かび上がってきた輪切りにされた肉は、旦那様の体内を貫いていたクロッセル・エグザエルの腕の部位と一致した。

 そうか!! 旦那様は、影に入った物を影から取り出せる。その要領で体内の影に入ったクロッセル・エグザエルの腕を別の場所から取り出したのか。

 クロッセル・エグザエルの片腕を奪ったこのタイミング。逃すわけにはいかない。ゴリフリーナと同時に畳み掛ける!! 旦那様は、ガイウス皇帝陛下とお義母様に任せれば良い。今は、コレを血祭りにして安全を確保するのがベスト!!

ギィィィィ

モナッモナ

「生命力はゴキブリ並か!!」

 クロッセル・エグザエルが不利を悟ったのか、後方へ下がり窓へと向かっているのが分かった。早い!! この私の全力より幾分か早い。コレが肉体の力だけでランクAになったという身体能力か!!

「目的は、果たした。悪いが、コレで撤退させて貰おう。また、会おう」

 パリーーン

 窓を破りそのまま夜の帝都へ落ちていった。今なら追えるか…いや、クロッセル・エグザエルを帝都ごと吹き飛ばせば、殺せるか!?

「やめろ!! それをすれば、『ウルオール』との戦争は避けられん。はぁはぁ、ギルドの思惑に乗るな。深追いもするな。ゴッホゴホ…私は、大丈夫だ。はぁはぁはぁ…」

「旦那様、もうしゃべらないでください。すぐに、治療できる者の手配を」

モナモナァ

「すまぬレイア。人払いをしすぎたせいでこのような事態に」

「…ランクAです。警備など意味がっ!! それより、人がきます。お母さんの擬態と後の事をお願いします。少し、休みます…さ、流石に心臓は…」

 旦那様が崩れ落ちた。

「「旦那様!!」」

モナナン

 旦那様が蛆蛞蝓ちゃんに飲み込まれた。窮地だというのに、見ていることしか出来ない。なんて無力なんだ。
************************************************
死亡確認!!

本編の次の話は、ギルド幹部あたりがご登場の予感がするかも…。
きっと、こんな感じの会話がなされている。

ギルド幹部A「切り札とは、知られては意味が無いのだよ。『雷』の情報に釣られたのが仇となったのだ」

ギルド三下「幹部A様。『神聖エルモア帝国』と『ウルオール』からの抗議文が…」

ギルド幹部B「『神聖エルモア帝国』と『ウルオール』からの抗議文? 馬鹿か、突き返せ。公的・・に行方不明になっていたランクAの勝手な犯行だ。ギルドとは無関係だ!! あまり五月蠅いようなら、名誉毀損で賠償を要求すると伝えろ」



さて、来週のゴリフ外伝投稿に向けて頑張るぞ。
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異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします

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ファンタジー
新庄麗夜は身長160cmと小柄な高校生、クラスメイトから酷いいじめを受けている。 彼は修学旅行の時、突然クラスメイト全員と異世界へ召喚される。 転移した先で王に開口一番、魔軍と戦い人類を救ってくれとお願いされる。 召喚された勇者は強力なギフト(ユニークスキル)を持っているから大丈夫とのこと。 言葉通り、クラスメイトは、獲得経験値×10万や魔力無限、レベル100から、無限製造スキルなど チートが山盛りだった。 対して麗夜のユニークスキルはただ一つ、「モンスターと会話できる」 それ以外はステータス補正も無い最弱状態。 クラスメイトには笑われ、王からも役立たずと見なされ追放されてしまう。 酷いものだと思いながら日銭を稼ごうとモンスターを狩ろうとする。 「ことばわかる?」 言葉の分かるスキルにより、麗夜とモンスターは一瞬で意気投合する。 「モンスターのほうが優しいし、こうなったらモンスターと一緒に暮らそう! どうせ役立たずだし!」 そうして麗夜はモンスターたちと気ままな生活を送る。 それが成長チートや生産チート、魔力チートなどあらゆるチートも凌駕するチートかも分からずに。 これはモンスターと会話できる。そんなチートを得た少年の気ままな日常である。 ------------------------------ 第12回ファンタジー小説大賞に応募しております! よろしければ投票ボタンを押していただけると嬉しいです! →結果は8位! 最終選考まで進めました!  皆さま応援ありがとうございます!

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