愛すべき『蟲』と迷宮での日常

熟練紳士

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第二十二章

第九十二話:戦争(4)

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読者の方のお力で2万ポイントの壁を突破できました。
他にも、最も多いアクセス日なども更新できて本当に驚きばかりでした。
この場を借りてお礼を言わせていただきます。
ありがとうございます><

だから、作者も執筆に力をいれて今週は二度目の投稿です。

◆一つ目:瀬里奈
◆二つ目:マーガレット嬢
********************************************



 戦争とは、何時になっても酷い物だ。平和を望む者は多いというのに、一部の愚か者のせいで関係ない第三者を巻き込んで行われる。実に迷惑だ。だが、戦争がなくならないのも仕方がないと思っている。前世のようなあらゆる面での水準が高い世界ですら、なしえなかった事がこの世界で実現できるとも思えない。

 この世界には、モンスターが存在しており日常でも平和とはほど遠い。特に、ギルドという大組織が各所に足を伸ばしているせいで平和が遠のいている。無論、ギルドという存在にも有益な部分がある事は認めよう。だが、それ以上に害悪を振りまいているのだよ。

ギッギ(ごはん、ごはん~。今日は食べ比べをしても問題ない…どれにしようかな~)

 一郎を筆頭に蟲達が、本日のランチを選ぶ。どれも鮮度が高く、蟲達に取っては嬉しい事であろう。いつも、私の魔力という味気ない食事だけで我慢してくれているのだ。本日は、満足いくまで食べるといい。おかわりも自由だ。

 その為にも私は、現在進行形で可愛い蟲達のご飯を作らないといけない。

「お願いだ。助けてぇくれ」

 左腕で掴みあげている『聖クライム教団』の兵士…装備を見る限り一般兵ではない。それなりの地位があるようだ。

「戦争で敵兵を助けるとか意味が分からない。助けを求めるなら自軍に求めたまえ」

 影から小さな蟲が這い出してきて、兵士の口、耳、鼻から体内に侵入し躍り食いを始める。既に虫の息だが…一応、首の骨だけはへし折る。此方を巻き込んで自爆でもされたら困るからね。

 ゴキリ

 蟲達が集まる場所に鮮度の良い死体を投げ込んだ。

ギィ(ムシャムシャ…こっちのお肉の方が油がのっていて美味しい!!)

ジッジ(油ですか、私としては肉質が堅い方が好みなのですが)

「好き嫌いしないのと本来なら言う場面だが、本日限りは好きなのを食べなさい。いくらでも、あるからね。後、装備や貴金属は回収部隊に渡してあげてね」

 戦場には、死体あさりを命がけでしに来る輩がいる。なんせ、高ランク冒険者の死体から一級品装備がはぎ取れればまさに一攫千金。迷宮で命をかけるより、戦場で命をかけた方が儲かるのだ。

 まぁ、私はそれが気にくわないからすべて回収する。それができるだけの蟲材が揃っているのだ。

 無論、敵の補給物資も全てもらい受ける。



 ヴォルドー軍の現在地は、敵軍左翼のド真ん中にまで食い込んでいる。常識的に考えれば、孤立無援で死を待つのみに思われかねない現状だが、問題はない。

 第1波のゴリフターズの一撃で2割に当たる敵戦力が無力化した。露出していた皮膚の大部分を消失して、地獄の苦しみを味わっただろう。その治療に当たるべく、救助に動いた連中を第2波のステイシスが強襲し、殲滅した。ブレインウォーカーに寄生された敵兵は、蟲達の操り人形と化して敵兵同士で殺し合う結果になり、面白いように死者が量産されていった。

 そして、第3波であるヴォルドー軍の主力であるモンスター大隊。おまけで、私とゴリフターズ。主力部隊の投入により、圧倒的パワーで敵兵達をなぎ倒した。なんせ、ランクCやランクBのモンスター達だ。それなりの訓練が積まれた兵士か冒険者でなければ対応は難しい。

「事が順調に進みすぎているというのは若干気味が悪い。敵の思惑通りに事が運ばされている感もあるが…気のせいだろう」

 『聖クライム教団』の左翼は、2割以上の戦力を開戦して僅か1時間で損耗した。そこまでの被害が出るまで相手が罠を発動させないなんてあるのだろうか…既に、ヴォルドー軍を見た瞬間に逃げていく敵兵が出る程、相手の軍隊はボロボロだ。ヴォルドー軍を見てから逃げられるなんて、愚かな思考だと言える。上空からドラゴンが急降下して、押し潰した。

 残りの8万も明日の朝までには、骸に変えられる自信がある。そして、ガイウス皇帝陛下に一番最初に吉報を届けてみせる。

 しかし、『聖クライム教団』も四大国と呼ばれる国の一つである。逃げ惑う屑ばかりではなく…こちらの攻めを凌ぎきった猛者もいるのだ。一線級の実力者…そんな連中に対応するのが私やゴリフターズのお仕事なのだ。

 例えば、此方に向かってきているオッサンのようなね。

「ヴォルドー侯爵!! 」

 おやおや、私を呼ぶ声がすると思えば…教祖の護衛をしていた者ではありませんか。しかも、部下を禄に教育できていない纏め役の人か。教祖の側を離れて、こんな場所にいるなんて左遷でもされたのかな。

 まぁ、貴方の部下が原因で起こった戦争でもあるので、左遷されても当然と言える。寧ろ、左遷程度で済んで運が良かったと述べておこう。

 武装は、ハルバートか…モンスターの血肉が付着している事から私に下にたどり着くまでにだいぶ殺したようだ。息を荒立てて此方に向かってくるさまは、気迫十分であり軟弱者が見たら逃げ出してしまうだろう。

「よく私だと分かりましたね」

 第3形態に変身している私の姿は、人としての特徴など手足があって二足歩行という点しかないはず。

「情報を買ったのだよ!! ギルドからな…だが、そんな事はどうでもいい。なぜ、あの時立ち止まっていただけなかった!! 教祖が未熟である事は、分かっておられたはず」

「未熟だから、どうしたというのだ。そんな事、私には何の関係もない。最大限の歩み寄りをみせてやったではないか。それ以上の行為を私に求めるのは、酷だというものだよ」

 まさか、戦場であの場で起こった事について、意義を申し立てる者が居るとは思ってもいなかった。私があの場に留まって教祖と向き合えば戦争が起きなかったのかと一瞬考えてみたが、無理だった。どの道、戦争は不可避。

 名も知らぬオッサン…アンタが苦労しているのは分かるが、これが現実なのだ。せめて、この私の手で葬ってやろう。私が人差し指でクイクイとやると此方の意図を汲んでオッサンがハルバートを構える。

 武器は、見る限りミスリル製…だが、隠しダネの一つや二つはあるだろう。それが、実力者達だ。だから、私は上空から蟲矢でなぶり殺しという作戦でやらせてもらおう。

 ブォン

 背中の羽が広げて空に飛び上がる。私が上空へ移動したのを見てオッサンの開いた口が塞がらない。この距離にまで届く攻撃など持っていないのだろう。だが、空ばかり見ていると足下がお留守になる。

 グサ

 地面から百足が飛び出て、オッサンの足に歯を立てる。防具の隙間を狙った見事な一撃だ。そして、反撃をされる前に飛び出してきた穴へと引き返していった。

「っ!! 一対一ではないのか!?」

「『蟲』の魔法の使い手が、蟲を使うのは当然であろう。私は、ウサギを狩るのにも全力を尽くすタイプでな」

 ステルス化していたステイシスが一斉に姿を現した。私は、無防備で戦場にいる馬鹿ではない。常に細心の注意を払っている。

ムシュム(弾丸の補充も完了。さて、狙いはおじさん一人と…)

 空からは、私の蟲矢。地上からはステイシス100体の遠距離銃撃。これを凌ぎきったら、本当の意味で相手をしてやろう。ゴリフターズと一緒にな!!

 最早、人語とも思えない罵声を叫んでいるが無意味だ。

 戦争で一騎打ちとか馬鹿だ。腕を弓状に変化させて、影から蟲矢を取り出す。

「恨むなら、教祖か己の不始末を恨むがいい」

 矢を放つと同時にステイシスの一斉攻撃が始まる。そして、ヴォルドー軍の戦利品がまた一つ増えた。

………
……


 モンスター達に囲まれて逃げ場を失った『聖クライム教団』の兵士や冒険者が陣営に立てこもり籠城作戦を始めた。

 生き残った物達だけあって、練度は十分で高ランクモンスターへも適切な対応を行っている。他の部隊からの応援が来るまで粘るつもりなのだろうが、考えが甘すぎる。他の部隊も既に瀬里奈さんかゴリフターズによって、殲滅されている。

 きっと、自分達を囲んでいるモンスター達こそが主力で他の部隊がすぐに駆けつけてくれると信じている。という、会話が目の前でされている。

「応援は、まだ来ないのか!! このままじゃ数時間持たないぞ」

「分かっている!! この状況だ…魔法を使った連絡は難しい。既に、本陣に使いの者を出している」

「ほほぅ、本陣に出した使いの者とはコレの事か?」

 ステルス化を解除して会議室のテーブルに生首を三つ投げつけた。

 その瞬間の行動で相手のレベルが知れる。唖然とする者、武器を構える者、天幕から逃げ出す者。個人的に言えば、天幕から逃げた者が一番レベルが高い。この私をみて勝てないと一瞬で判断して味方を見捨てたのだ。

 まぁ、外に出たところで蟲達が用意した捕獲用ネットで捕らえられるのがオチだ。そして、絶望するがいい。

 天幕が崩れ落ちて外の景色が広がる。

「なんだ、これは!? 一体、いつから…」

「なぜ、誰も気がつかなかった」

 モンスター達によって食い物にされる兵士や冒険者…無論、ここの陣営は実力者が揃っていたので此方にもある程度被害がでた。その点については褒めよう。

「それは簡単ですよ。私がこの天幕を除いて無音にしていたのですから…やたら静かであったでしょう」

 音に干渉して悲鳴や戦闘音が聞こえないようにしていたのだ。音というのは存外重要な情報源だ。五感である視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の一つが知らぬ間に機能を果たせなくなっていたとなれば、付け入る隙も生まれよう。おかげで、陣営の一カ所を壊せば見事に総崩れだったよ。後は、流れ込むだけで片がつくのだからね。

「いやだあぁぁぁぁぁーーー」

ゴゥギ

 先に逃げた者達が案の定、捕獲用ネットに絡まれた状態でオークの手によって頭部を叩き割られた。最初は、ヘルムごと叩き割ろうと無駄な努力をしていたが…大事な戦利品を壊すなと強く教育したおかげで成長した。 使えそうなヘルムを取った上で殺している。

 ただ、オークがなんて言っているか分からんがな。

「ヴォルドー家の家紋…こう………」

 この陣営のトップが必死に言葉を繋ごうとしているが何も聞こえない。

 危なかった…紳士である私は降伏した敵にまで手を出すような蛮族ではない。『降伏』と言われてしまえば、軍規に則り捕虜として扱おう。まぁ、言えればだがね…。

 全く、優秀な子だな。戦闘力だけが全てではないという事実を教えてくれる。こういう細かい芸当ができる蟲をもっと作るべきだよね。

「流石は、『聖クライム教団』だ。この後に及んでも徹底抗戦とは…では、楽しませてくれよ」

 地面がえぐれるほどの踏み込みでトップとの距離を詰める。そっと胸元に手を当てる。そして、掌から音波を送り込む。骨が砕け、血管が裂け、耳や目から血をだして倒れた。

 さて、ここも潰した。若干、生き残りもいるがこの程度の連中ならば、この場にいるモンスター達でも対処できるだろう。寧ろ、できなければ雇った意味がない。

 次に移動する前に、一度瀬里奈さんと合流しておこう。瀬里奈さんは、新兵器のテストをするために沢山のコンテナを持ち込んでいたから、遊びすぎないか不安だ。



 『聖クライム教団』だか何だかしらないけど、私の家族に手を出すなんていい度胸じゃない。地獄で後悔させてあげるわ。

「くっそ!! なんだ、あの化け物は!?」

「まて、あのモンスターの顔…見覚えがあるぞ。確か、『ネームレス』のギルド受付嬢!?」

ギェェェ『汚物は、消毒よ~。あれ? いま、プスンって言ったわよ。ちょっと、そこの子、ガス線を踏んでるわよ』

 この日の為に、瀬里奈ハイヴから持ってきた秘密兵器。第3コンテナに入っていた火炎放射器!! ドラム缶大の入れ物には天然ガスが圧縮されて詰まっており、それから供給されるガスと火種を用いて対象を燃やし尽くす新兵器だ。

「あの噂は本当だったのか!? だが、狼狽えるな!! 一斉に攻撃して、モンスターもろとも吹き飛ばしてくれるわ」

 『火』『水』『風』『土』の魔法が雨のように飛来してくる。仕方がないわね…この程度の事でゴリフリーテさんやゴリフリーナさんの手を借りるのは、恥ずかしい。

 それにしても、一緒に攻めに来たはずのモンスター達のだらしない事…。特に、ゴブリン達の逃げ腰には呆れちゃうわね。少し強い敵がいるとすぐに後ろに隠れるんだから。

ビービ(瀬里奈様。ここは、私達にお任せを)

 レイアちゃんの蟲達…極めて高い魔法防御力を誇る。並の魔法攻撃では、びくともしないが、流石に物量で押してくる敵陣営からの魔法で数を減らしていく。だが、蟲達の頑張りで私には一切攻撃が届かなかった。

 死んでいく蟲達は、皆満足そうな顔をしている。

 安心しなさい。貴方達の犠牲は無駄にはしないわ。

ギィィ『遊びは、ここまでよ!! 投下しなさい』

 鈴虫を使い上空で待機していたステイシスやドラゴンに連絡をした。そして、火炎放射器用に準備していた天然ガス満載のドラム缶数十個が敵陣営に落下する。

 ズドンズドンズドン

 落下してきたドラム缶に指弾を放つ。レイアちゃんも愛用する爆発する蟲だ。全部、ぶっ飛ばしてあげるわ。耳をふさぐ…あれ、そういえば耳って何処だったかしら。偽装しているからここじゃないわよね。えーと…。

 あっ!!

 耳をふさぐより早く、目の前で大爆発が起こった。爆音と爆炎…落下の衝撃でガス漏れしていたドラム缶が爆炎により連鎖的に爆発していく。

ギッギ(じゅわっち!! )

ギー(僕たちも負けないぞ!! どりゃー)

 レイアちゃんの蟲達と私の子供達が爆発で木っ端みじんになった敵兵の手足をフライングゲットして貪っている。なんとも可愛らしい光景だ。ほら、そこで唖然としてるオークやドラゴン達…さっさと、特攻しなさい!!

 給料分働かないと、報酬を減額するわよ。

「ばけものがぁぁ!! 」

 片腕をなくした冒険者だと思われる者が此方に特攻してくる。

 その意気込みは買うけど、奇跡なんて起きないわよ。

ギーーィ『確か、第2コンテナにアレが合ったわね…そうコレよコレ』

 まだ、試作段階だけど対人においては十分な効果が見込める。瀬里奈流忍術の物理火遁の術こと火炎放射器は、披露する前に失敗した。だが、この物理風遁の術は違うわよ!!

 注射器のような器具…タイヤの空気入れの改良版みたいな物だ。半透明なホースが伸びており、終点で蟲達が構えている。これから、何が起こるかと言えば…。

 プスプスプス

 注射器モドキが冒険者に突き刺さる。

ギッギー『こう見えても、投擲には自信があるのよ。300m先の的にもド真ん中に100発100中よ』

 流石に、動く的だと若干命中率は落ちるかしらね。では、物理風遁の術をお見せしましょう。ホースの終点にいた蟲達が一斉に空気を送り込む。圧縮空気を出す蟲が送り出すのだ…そして、注射器モドキの先端から勢いよく空気が放出される。

 パーーン

 冒険者が内側からはじけ飛んだ。

 肉体的に強靱である冒険者だといえども内部からの破壊には弱い。モンスターにも言える事だが、弱点の一つだ。

ギッギィ(次は、物理水遁かな…第5コンテナの中にあったわよね)

ギッギ(そうだよ。 だって、僕が詰めたから間違いない。えっと、第5コンテナは、あそこにあった!!)

 第5コンテナに向かう私の可愛い子達を襲うとする敵兵に物理風遁の術を仕掛ける。敵の防衛網が総崩れとなったのを見てオークやゴブリン達がこぞって突撃していった。現金な連中だ。

 人が文字通りゴミのように血しぶきを上げて飛んでいく。

ギー『これで、ここも落ちたわね。レイアちゃんとゴリフリーテさんとゴリフリーナさんに連絡して、移動するわよ』

 私達四人は、必ず3分で駆けつけられる距離内にいるように行動している。『雷』の使い手が襲ってきた場合を想定した物だ。



 エリスと書かれたエプロンを着た見覚えのある蟻が足下を通過していこうとしている。思わず、掴みあげた。

「貴方、エルメスのところにいるエリスちゃんよね?」

『はい、マーガレット嬢。こんな場所でお会いするなんて奇遇ですね。大変恐縮なのですが、お仕事中なので下ろしていただけますか?』とプレートが掲げられる。

 仕事中? エリスちゃんの仕事ってエルメスのお世話じゃなかったのかしら。レイア様が戦争で蟲の手も借りたいから、連れてきたとか。

「お仕事中?何で、こんな戦場で…」

『もうすぐ、エルメスさんのお誕生日なのでプレゼントを用意したいと考えております。蟲の私を雇ってくれる場所なんてないので、お父様にご相談したらアルバイトとして雇ってもらえました』とプレートが掲げられる。

 あぁ、そういう事。確かに、レイア様が拠点としている『ネームレス』でも蟲を雇ってくれる場所はないでしょうね。いくら優秀でも、毛嫌いする者達は沢山居る。寧ろ、優秀であるが故に迫害されそうだ。

 しかし、自分で稼いだお金でプレゼントを贈りたいとか…一体、どんな教育をしているんだろうか。はっきり言って、教養のレベルが高すぎる。

「参考までに教えて…仕事内容と日当は、おいくら?」

『仕事内容は、料理全般です。日当は、5万セルです』とプレートが掲げられる。

 料理を作るだけで5万セル…戦場という場所を考慮すれば、決して高額とは言えない。だがレイア様の陣営であるから、命の危険は他と比べて極めて低い。

 レイア様は、私をまだ解放してくれないだろうし、少しくらいお小遣い稼ぎしてもいいわよね。これでも、女として恥ずかしくない程度に料理は得意だ。流石に、エリスちゃんに比肩するかと言われれば難しい。というか、エリスちゃんが一流のシェフにも劣らぬ腕前を持っている時点で異常なのだ。

「エリスちゃん~、私も料理得意なのよ。レイア様に口利きしてアルバイトさせてもらえないかしら」

『そうなんですか。猫の手も借りたい程忙しかったので構いません。お父様には、私からお話をつけておきますね。こう見えて、調理場の人事権を持っておりますので…えっへん!!』とプレートが掲げられる。

 エリスちゃん…本当に、優秀な子ね。文字も達筆だし、教養だってそこら辺にいる女なんて目じゃない。レイア様は、一体何を目指しているのかしらね。蟲にこんな技能必要ないでしょうに。

………
……


 厨房は、まさに戦場と化していた。

 運び込まれてくる食材を処理するだけなのだが、その量が尋常ではなかったのだ。「洗う」→「捌く」→「焼くor煮る」という手順なのだが、作るそばからモンスター達の胃袋に運び込まれていく。

 お手本として、エリスちゃんが包丁さばきを見せてくれる。

『モンスターと違い、肉体の構造は、ほぼ同じであるため部位ごとの特徴を覚えれば簡単です。例えば、この腕…これは、真ん中に骨がありますので手首のところに包丁の先端を2cm程食い込ませます。そして、肘に向かって包丁を動かせば簡単に肉が裂けて骨が取り除けます』

 何かがおかしい…料理全般だとは話を聞いていた。だけど、食材がなんなのかを聞かなかった。常識的に考えて、私が運搬してきた物を利用すると思ったのだ。そもそも、人であるこの私にそんな作業を平然と担当させるとは、何者かの悪意を感じる。

 遠くのテーブルでワインを片手に持ち、楽しげに談話するレイア様を見た。

「も、もう少し簡単な作業はないかしら…」

『マーガレット嬢は、冒険者を捌かせたら『ネームレス』で右に出る者はいないとお父様もエルメスさんも言っていたのですが…分かりました。では、食材の運搬をお願い致します』

 それから、エリスちゃんの指示に従い集められた食材の山を見た。どうやら、ここから適当に調理場に運ぶだけの作業らしい。エリスちゃんが、急いでくださいね…おなかを減らして待っているモンスターが沢山いるのでと書き残して去って行った。

 食材ね~…確かに、モンスター達にとってすればコレも食材でしょう。

 周りを見回してみると、実家から持ってきた食料を別部隊が調理しているのが見えた。そちらには、蟲しか居ないため、私が苦労して運んできた食材を食べるのは蟲達のようだ。

 再度、目の前の食材の山を見る。装備品や貴金属があれば宝の山なのだけど、見事に身ぐるみが剥がされている。剥がされた戦利品は、別の部隊が洗浄して後日売却する予定らしい…。どうせなら、そっちの部隊に配属されたかったわね。

 食材の山を見ていると…ぴくりと動く存在があった。

 モンスターの気配がなくなったので目を開いたのだろう。見事に目が合った。

「ぉ…ぉねがぃ…たすぅけてぇ」

 身ぐるみを剥がされた少女が、すがるような目で此方を見てきた。よくぞ、生き残るだけでなく隠れきって見せたものだ………。

 いや、罠ね!!

「レイア様~、ここに生きている女の子が紛れていますよ」

「それは、いかんな…オークどもにくれてやれ」

 レイア様の蟲達が警戒するこの場で助けるという選択肢は存在しない。そんな命知らずの事をすれば我が身が危ない。それに、レイア様がこんな凡ミスをするはずがない。

 これは、私を試しているとみて間違いない。悪い意味で、私はレイア様に絶対的な信頼を持っている。

 この少女の逃亡に手を貸すような事をすれば、代わりになってくれるよなといって私をモンスターに差し出す気でいるのだろう。

 絶望に染まる少女が私を呪うかのように見てくる。

「レイア様…この私を試されましたね?」

「さて、何の事だか分からんな。大人しくしている限り身の安全は保証する約束だからな…大人しくしていればな」

 涼しげにワインを飲み続けているが、その笑みで理解できる。そして、オークジェネラルが此方に歩いてきて少女を回収していった。去り際に、少女が『呪われろ』と私に言ってきた。

グゥガァ

 オークジェネラルが何かを言って此方に光り物を投げてきた。この私の鑑定眼が光る。10カラットのエメラルド!! 
 
 此方に投げられたという事は貰ってもいいという事だ。

『おめでとうございますマーガレット嬢。オーク達の賭けに勝利しましたね。一歩間違えば、あの少女同様の結末になっておりました。宝石は、オーク達からの贈り物だそうです』といつの間にか戻ってきたエリスちゃんがプレートを掲げる。

 思いの外、気が利いているじゃない。モンスターだからといって侮っていたわ。こんな宝石を毎回くれるなら、餌となる冒険者をオークの集団に特攻させようかしら。そして、対価として貴金属を貰う…新しい商売ができそうね。

 その為には、モンスターとの仲介役が必要よね…例えば、エリスちゃんとか、エリスちゃんとか、エリスちゃんよね!!

「これからも仲良くしましょうね。エリスちゃん」
************************************************
瀬里奈流忍術…セリナ・アーツを学びたい方は、是非ヴォルドー領へ!!
魔法など特別な才能がなくても誰でも使える物理忍術を伝授致します。
これで、貴方も一流の仲間入り(^_^)

次は、ゴリフターズの戦場を書くぞ~。

さて、外伝の件ですが…作者の頭の中キュピーンとネタが沸いたので
それを抽出中です。詳しい内容は、次話の後書きで漏らす予定です。
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