75 / 126
第二十章
第八十六話:(瀬里奈外伝)聖母SERINA(2)
しおりを挟む
◆最後以外:瀬里奈さん
◆最後の一つ:囚われの美少年
********************************************
◆
くっくっく、今度こそは成功間違いなしよ!!
入念な調査の結果…あの山には、山賊がいる!! そして、そこにはテンプレの如く囚われの美少年がいるのよ!! いや~、前世じゃ山賊とか夢物語みたいな存在だったけど、本当に居るとは、驚きだわ。
蛮族万歳!! 囚われの美少年万歳!!
ギィー(お母様!! やはり、あの山賊達…ギルドと業務提携しているようです)
ギギ『あら、やっぱりそうなの。山賊にしては、物資や装備が充実していると思っていたのよ。という事は、囚われた亜人達はギルドの変態達のところに送られるのね…うらやまけしからん!!』
子供達からの調査結果を確認してみた。
山賊達が根城にしている場所は、いくつもの出口が用意されている。そのうちの一つが少し離れた場所まで繋がっており、そこで所属不明の馬車が何度か確認された。その馬車に運び込まれた積荷は人間大の麻袋。中身までは、確認できなかったらしいけど…まぁ、想像の通りでしょうね。
その後、子供達が馬車を追尾してみたら色々な場所を回った。一応、追跡されていないか警戒はしていたみたいだけど、モンスター相手に対人相手の警戒なんて無いようなものだ。数時間後、尾行していた馬車がギルド寮付近で停車して一人の男性が降車し、寮の中へと入っていったとの事だ。
ギギ(人が人を売る…モンスターより野蛮じゃありませんか。モンスターは同族同士じゃそんな事はしませんよ!! まぁ、牝を求めて殺し合う事はあったりもしますが、それは生存本能、故の事です)
ギーー(売る方も売る方ですが…それを買う方もけしからん!! )
子供達の言う通りだ。美少年美少女は世界の財産!! それを違法な方法で手に入れようなど、ギルドが許してもこの瀬里奈が許しません!!
ギギッギ『囚われの美少年を助ける → キャー素敵 → 抱いて!! この展開に間違いはない!! さぁ、入念な計画を立てて世界の財産を救い出すわよ。皆!! お母さんの春の為に頑張るのよ』
これ程までに熱い展開になれば種族の壁など些細な問題になるはず。
今すぐにでも山賊達を成敗して、囚われの美少年達を助け出したい。だけど、こういう事をする腐った連中は万が一に備えての準備もしているでしょう。助けるはずが、逆に捕まっては話にならない。
俗にいう高ランク冒険者と呼ばれる者が必ずいる。その対策をしてから救いに行きましょう。正面切って戦っても大抵の場合には負ける気はしないけど…よくある敗北のパターンは、数に押し負けるのが鉄板なのよ。
万が一捕まったら、ウ=ス異本みたいな展開が!!
となれば、まずは情報収集ね。敵の数から能力、行動パターンなど把握できる事は全て押さえてから行動するのよ。そして、確実に救い出すのよ!! あ~、後、山賊の中に美少年がいたら教えてね。個人的な指導をするから!!
………
……
…
それから、四日の時間を要して山賊達の戦力分析が終わった。総数30名からなる山賊達。遠目で見た限りは、実力は決して高くはない。不意を突けば全員急所をワンパンで始末できる。
唯一の問題は、美少年山賊がいな…じゃなかったわ。定期的に『風』の魔法で周囲警戒を行っている事だ。それに、引っかかると山賊が総出で襲ってくる。
ギギ『まぁ、そんな些細な事…私達には関係ないかしらね!! 気配察知などできない状況をつくり、各個撃破するまでよ』
最小限の努力で最大の成果を求める。これぞ日本人!!
ギー(準備万端です!! 何時でも山に火を放てます!!)
よろしい!! 山火事を見る為に山賊達が洞窟を出た瞬間に入口を崩落させる。これで中と外を完全に分断する。
当然、時間稼ぎにしかならないがそれで十分。外にいる山賊どもを始末したら、事前に掘っておいた地下通路を通じで内部に侵入。そして、中に残った少ない山賊を一網打尽にする。最後は、入ってきた地下通路から捕まった美少年達を連れ出す!!
待っていてね!! 未来のハーレム要員達~、瀬里奈が助けてあげるからね~。
ギッギーー『それでは、火を放ちなさい!! 周辺に住人がいないのは確認済みよ。派手にやっちゃいなさい』
ギィ(あいあいさ~)
山賊達が住む山に火の手が上がる。枯れ木や枯葉など燃える物の準備も万全。山火事を起こす事で多少の問題は出るだろうが、全て山賊のせいにするわ!! なに、モンスターが火を扱う事例など数少ない、だから安心。
そして、暫くして根城にしている洞窟から這い出てきた。燃え盛る炎と煙を確認しに来たのだろう…馬鹿め!! その瞬間、子供達が入口を崩落させた。
ギィ(作戦は順調に遂行中です。さぁ、お母様ズバーーってどうぞ)
何が起こったのか理解出来ない内に、畳み掛ける!!
腐れ外道に生きる価値なし!! 一撃で葬ってくれるわ。
ギッギ『シールドブーーメラン!!』
投げたら最後…自分で拾いに行かないといけないシールドを投擲する。熊ですら真っ二つにする威力だ。人間を2、3人纏めて分解するのは余裕の威力!! 全力の投擲は、心地よい風きり音と共に山賊達を真っ二つにしていった。
ギィ(真横からの投擲だとは言え、一発で5人も…流石お母様!! )
まだよ!! まだこんなもんじゃないわよ!! 一撃で片がつくなんて最初から思っていないわ。当然、第二は第三の攻撃準備もしてきている。この日の為に用意した木製の槍50本!! 一本投げるのに1秒掛かるとしたら投げ終わるまで50秒もかかる。だけど、手が四本あれば10秒ちょっとで投げ終わる。
ギッギギギギギ『誰ひとりとて逃がしません!! あたたたたたたたたたぁぁぁぁぁぁぁ』
単騎でランクB認定される蟻が本気で投擲する槍の雨…薄い鉄板なんて貫く威力だ。雨のように降り注ぐ槍に一人、また一人と串刺しにされていく。
勘の良い者は、仲間を盾にして逃げ出したが…夜の山中で私の子供から逃げられると思わないコトよ!! 夜目は利かないけど、今日に限って言えば山火事で明るいのよ!!
ギッギ『ふぅ、これで全部投擲終わり…生き残りは?』
ギーー(今、西に逃げた二人が10匹と交戦中…あっ、今終わったようです)
外は片付いたわ。後は中ね。
◆
作戦は、すべて予定通りにうまく行っている。
洞窟内部に残っている山賊は10人程度…しかも、ここが襲われるなど全く考えていない様子だ。てっきり、色々と準備されているものだと思ったけど、誰も攻めてこないとなると警戒心も薄れるという事かしらね。
人質の救出も良いが、先に残った連中を始末するべく気配を辿っていった。
ギー『まぁ、予想の範疇内だけど…胸糞悪いわね。同じ女性として』
山賊達に攫われた者達の末路なんて分かりきっていたが、現実を目の当たりにすると気分が悪いわね。オークなどの種族は、他種族の牝をさらう事はあるが…それは種族存続の為である。同じモンスターとして、理解はできる行為だ。
しかし、これは違う!!
山賊達に囚われた女性達は、可哀想な事に慰み者にされている。目には、生気がなく私が牢の前を通っても反応すら示さない。
「おーーい、外で何があったんだ? さっさと、戻って来いよ。俺一人じゃ白けるだろう。おっ、なんだ戻ってきてんじゃんか。外でな…に…がぁ」
半裸に近い男が一人、無警戒でこちらに近づいてきた。頭に犬耳みたいなのがある事から亜人なのだろう。亜人が亜人を売る。
同情の余地などないわね!!
ズバン
こちらを見て唖然としている隙に手に持っているシミターで首を跳ねた。
勢いよく血が吹き出る。少々汚れてしまうが仕方あるまい。まだ、山賊は残っているのだ…叫ぶ間すら与えない。無論、懺悔の時間なども与えない。この手の輩は、反省しないのはわかりきっている。
そもそも、そんな反省するような輩は、こんな事をやらない。
ギィ『食事するのは後にしなさい。それより、次へ行くわよ』
………
……
…
ズドン
ブチブチブチ
骨が砕き、肉を引きちぎる。この四本の手から繰り出される攻撃を凌げる者は居らず…一人、また一人とバラバラにしていった。仮に片手の攻撃を防げたとしても残り三本の手から繰り出される攻撃を防がないといけないのだ。
弱いわ!! こんなにも弱いのに、何故誰もここに助けに来なかったのかしらね。一番強そうだったリーダー格ですら別働隊の子が天井を崩落させた隙を突いての強撃で終わった…まさに瞬殺であった。しかし、高ランクっぽかったので念には念をきれて首と胴をバラして、心臓を突いておいた。
まれに、死んだふりで難を逃れようとする者もいるからね。
ギッギ『中にいる連中は、これで全部かしら。それじゃあ、捕らえられた美少年達を助けにいきましょう~』
あぁ、一応使えそうな物資などはしっかりと持って帰るから、みんな厳選するのよ!!
少し歩いて牢の前に戻ってきたけど…どうしようかしら。囚われている者は8人…女性が6人と男性が2人。身なりが綺麗な女性2人と男性2人は、どうやら何もされていないようだ。きっと、売る時に価値が下がるとか、どこかのお偉いさんのお子さんなのだろうか。
だが、残り半数が悲惨だ。
無事な子達は、元気に泣き叫んでいるというのに…ささぁ!! 今すぐこの牢を壊してあげるわ。そして、この瀬里奈の胸に飛び込んでいらっしゃい!!
ベキベキベキ
鉄製の檻を文字通り腕力のみで引き裂いた。
ギッギー『さぁ、いらっしゃい!! 遠慮なく、この瀬里奈の胸に飛び込んでいらっしゃい』
グバァァァァ
満面の笑みを浮かべて、両手を広げた。さぁさぁ!! 少々血まみれなのは気にしちゃダメよ。男の子なんだから、細かい事はいいわよね。何故か、美少年美少女達の顔が青ざめる。あら、貧血かしら!? それは、いけないわ!!
なにが問題だったのかしら。
ふと、横を見てみると…。子供達がナイスタイミングで先ほど始末した山賊の頭を貪りながらこっちにやってきた。サッカーボールみたいに転がしながら。
ギギ(スジっぽいです。これなら、クマちゃんの方が美味しい)
なんて事!! 折角、いい雰囲気だったのに台無しじゃない!! お母さんのハーレム計画を邪魔するなんて…今日の晩御飯は抜きよ。
「いやぁぁぁぁぁぁ!! だれか助けてぇぇぇ!! こっちに来ないでよ!!」
「死にたくない死にたくない死にたくない!!」
「あっちにいってよ化物!!」
クズン
慣れたとはいえ、化物の一言はココロに来るものがあるわ。私だって、好きでモンスターに生まれたわけじゃないのに。まぁ、大人だから、許しちゃうわ。
ギィィ(お母様になんて事を!! 食べちゃいますよ)
子供達が一斉に牙を向ける。
ギギ『落ち着きなさい。そのくらい想定の範囲内よ。そうね、とりあえず落ち着かせましょう』
美少年に近づき…壁に追い立てる。そして、気合を入れて…壁ドーーーーーン!!
ズゥドン!!
石の壁が文字通り砕け散った。
美少年相手に一度はやってみたかった事、それは【壁ドン!!】。しかし、ちょっと効果音がいまいちよね。ドンというよりズドン…。
ギッギ『リテイクいいかしら?』
ギーー(アンコール、アンコール)
では、子供達のアンコールに応えて再度、壁ドーーーン!!
ドゥォーーーーン
良い感じの振動が洞窟内に響いた。そのおかげで、今まで騒いでいた子達も静まり返った。壁ドンには、精神安定の効果があったとは知らなかったわ。今度から活用しようかしらね。
ギギ(お母様、とりあえず牢屋を全部開けておきました。…どうします?)
ギギ『どうしますも何も連れて行かないとギルドの犬達が来て、売られちゃうわ。当然、全員連れてここを出て行くわよ。そうね、元気な子達は歩いて付いてこさせましょう。ダメな子は担いでいくわ』
本来目的であった美少年との熱い抱擁には、失敗したけど。まだチャンスはあるわ。とりあえず、未来の美少年誕生の為にこの子達を世に解放しなくちゃ。
来た道を戻って、町の近くまで案内してあげればいいでしょう。川に沿って下れば町に出られるのは確認済み。それに、この山火事を見て人も来ているでしょうからね。数時間も歩けば、町が見える場所までいけるわ。
子供達に使える物資を持たせて先に行かせる。
たとえ、言葉が通じなくても手招きなどの簡単なジェスチャーは理解できるでしょう。それに、こちらは言葉が分かるのだ。相手に合わせて頷くだけで、警戒心は薄れてくれるはず。
「わ、私達を呼んでいるの?」
コクンコクン
ギギ『そうよ。ほら、ここに残っていたら悪い人に捕まっちゃうわよ』
「山賊の次はモンスターに捕まるとか俺は嫌だぞ!!」
「で、でも…ここにいたら」
近くでひどい目に遭っていた女性を見て顔が引きつっている。
半ば生きる屍となっている女性四人を担いだ。流石に、全裸では悪いと思ったので、綺麗とはいえないが、近くにあった布で身体を覆った。
ギッギギ『言葉が通じないのは不便よね。一応、敵対心が無いことは伝わっているみたいだけど』
再び、手招きして呼び寄せる。
「わ、私はついて行くわ」
「本当に行くの!? ここにいたらお父様達が…」
「俺もついて行く。こんな場所にいても助かるかわからない。人身売買を行う組織なんて、相当ヤバイ」
「そうだな。良くて終身刑、悪くて死罪…身分問わずに。それを行っている山賊なんて普通じゃない」
あら、この世界じゃ人身売買が禁止されているようね。それも、重罪のようだわ。そうなると、ギルドという組織は相当大規模のようね。こんなちっぽけな山賊なんて氷山の一角かしらね。
囚われた美少年達も話が纏まったようだ。
距離をとりつつ後を付いてくる…。それで十分だわ。
◆
それから、侵入に使った地下通路から無事に脱出して、川に沿って下流へと下っている。
山賊達から奪ってきた物資で使えそう衣服や装備を幾つか美少年達に提供した。丸腰でモンスターである私の後をついてくるなど心許ないでしょう。それに、鉄製の武器程度じゃ、私の肌に傷一つ付けられないから渡しても問題はないわ。
「ねぇ…あのモンスター、やっぱり私達の言葉理解しているんじゃない」
「たぶんそうだろう。最上位のモンスターは、言葉を理解していると本で読んだ事がある」
ギィー『そうなの。知性の高いモンスターは、他にもいるのね』
「今、頷いたわよね。もしかして、貴方言葉を理解しているの?」
何を今更…と思いつつ、頷いてみた。
「や、やっぱりそうなのね。これから、私達をどこに連れて行こうとしているの」
あのね…相槌はうてるけど、言葉は通じないのよ!! せめて、YesかNoで回答できる事を聞いて欲しいわ。
ギィ(お母様、この子おバカちゃんです)
「今、なんか馬鹿にされたような気がしたわ」
その通りなんだけど、無駄なところは鋭いわね。
ギーー(お母様~、町から人がやって来ましたよ~。冒険者と一般人っぽい人達です。一部の人が先行していて間もなく接触します)
先行偵察に出していた子供達が帰ってきた。山火事を見て様子見に来たのだろう。予定通りだ。
さて、この状況をみて町からやって来た者達が私をどのように扱うか…うん!! 最終的には間違いなく、ギルドの標本行きになるわね。
となれば、担いできた少女達を下ろして、美少年達に食料などを分け与える。まぁ、この辺には強いモンスターもいないから大丈夫でしょう。幸い、町から人も近づいてきているので死ぬ事はないはず。
ギィーーイ『私が案内できるのはここまでよ。あっちに町から人が来ているから拾ってもらいなさい』
「蟻さん、どうしたんですか? こんな場所で、置いていかれても…」
「たぶんだけど…この山火事を見て誰かが来ているんじゃないかしら」
頷く。
「あ、あの!! ありがとうございました。本当なら、両親に話してちゃんとお礼を伝えたいんですが…信じてもらえないでしょうし、早めに逃げてください」
あら、この美少年頭の回りが早くていい子ね!! 頭をポンポンしてあげるわ。ナデポスキル発動しないかしら。
今がチャンスよ!! 早く、ナデポスキルをこの私に授けなさい!! 誰でもいいわ!! 今なら、この瀬里奈が信仰してあげるわ。
………
……
…
「蟻さん!! 化物なんて言ってごめんなさい。元気で」
ギギィ『クズン…いい子達じゃない。みんな元気で帰るのよ!! そして、世界に沢山の美少年を送り出すのよ!! この瀬里奈とのお約束だからね』
ギッ(言葉が通じないから、良かったけど…最後の一言はちょっとね)
感動のお別れをして、颯爽とその場を立ち去る。美少年達に幸あれ!!
◆
まるで夢物語に出てくるような蟻のモンスターと別れて直ぐに、二人組の男性がやって来た。相当、急いでいたようでカラダのあちこちが汚れている。
「いや~、無事で良かった。安心したまえ、私達は君達を保護しに来たのだよ」
ギルドの制服に身を包んだ一人の男が、こちらを見て安堵の表情を浮かべた。もう一人は、背格好から察するに冒険者だ。冒険者の方は、若干雰囲気が悪いがそういうものなのだろう。
「これで全員か? 他に助かった者はいるかな?」
山火事をみて急いで助けに来てくれたのだろう。ギルドは、金の亡者だと父が嫌っていたが、存外そうでもないと思った。こうして、率先して人助けに来てくれるのだ。将来、懇意にしても良いと思う。
「これで全員です。もしかして、お父様がギルドに依頼を?」
「全員ですか…なら、良かった。証拠隠滅だ――殺れ」
「報酬は、弾んでもらいますよ」
…えっ!?
この場にいる全員が状況を理解するのに、一呼吸かかった。助けに来てくれたと思ったギルド職員の口から『殺れ』の一言。そして、冒険者からは『報酬の話』。
逃げ切れる筈がない。高ランク冒険者の身体能力は、常人とは一線を画す。そんな相手から逃げる事など不可能だ。
「山火事で死体が見つかると、せいぜい苦しんで死になあぁぁぁ・・・」
ズドン
冒険者が魔法を放つ瞬間、円盤のような物が恐ろしい速さで冒険者を貫いた。地面には、蟻さんが持っていた丸い盾が突き刺さっている。その凄まじい威力で、人間を真っ二つにしても地面に突き刺さった状態で回転を続けている。
「これは、蟻さんの!!」
「ば、ばかぁ…一体どこから!! 向こうでなにが――グォヴ」
次の瞬間には、ギルド職員の胸に槍が刺さっていた。
あまりの出来事でなにがなんだか理解が追いつかない。だが、一番重要な事はしっかりと分かった。
山賊に捕まる。モンスターに助けられる。そして…ギルド職員と冒険者が殺しにくる。これから導き出される答えは、ギルドが人身売買に携わっているという事だ。一瞬でもギルドに対して良い感情をもった自分が愚かで泣きたくなった。
「蟻さんが、また私達を助けてくれた」
「ありがとうございます蟻さん」
「蟻さん…この御恩はいつの日か。だけど、その前に帰ったらギルドに対して、ちょーーーっと抗議をしないといけないわ」
「その仲間に僕も混ぜてもらっていいかな。後、出来る事ならこの者達も介抱してやりたい」
生き残った数少ない仲間。必ず助ける!!
そして、ギルドから受けたこの屈辱…必ず果たす。
しかし…あの蟻さんは何者だったのだろう。盾と槍を回収にきたら、再度お礼を言いたかったのだが、この武器を取りに来る気配がない。どうやら、遠くに行ってしまったのだろう。
「この盾と槍は、いつかお返し致します。それまでは、大事に預かっておきます」
盾の裏側には、『Made in SERINA』と掘られていたが誰も読む事は出来なかった。
************************************************
瀬里奈外伝は、これにて終了です(´・ω・`)
さて、次回はヒャッハー戦争だ!! 既に、次話分の執筆も終わっているのでゆっくり添削ヽ(´▽`)/
PS:
来週は、『小説家になろう公式生放送』を見学しに現地に逝ってくるよ。文字通り、逝ってくる。
◆最後の一つ:囚われの美少年
********************************************
◆
くっくっく、今度こそは成功間違いなしよ!!
入念な調査の結果…あの山には、山賊がいる!! そして、そこにはテンプレの如く囚われの美少年がいるのよ!! いや~、前世じゃ山賊とか夢物語みたいな存在だったけど、本当に居るとは、驚きだわ。
蛮族万歳!! 囚われの美少年万歳!!
ギィー(お母様!! やはり、あの山賊達…ギルドと業務提携しているようです)
ギギ『あら、やっぱりそうなの。山賊にしては、物資や装備が充実していると思っていたのよ。という事は、囚われた亜人達はギルドの変態達のところに送られるのね…うらやまけしからん!!』
子供達からの調査結果を確認してみた。
山賊達が根城にしている場所は、いくつもの出口が用意されている。そのうちの一つが少し離れた場所まで繋がっており、そこで所属不明の馬車が何度か確認された。その馬車に運び込まれた積荷は人間大の麻袋。中身までは、確認できなかったらしいけど…まぁ、想像の通りでしょうね。
その後、子供達が馬車を追尾してみたら色々な場所を回った。一応、追跡されていないか警戒はしていたみたいだけど、モンスター相手に対人相手の警戒なんて無いようなものだ。数時間後、尾行していた馬車がギルド寮付近で停車して一人の男性が降車し、寮の中へと入っていったとの事だ。
ギギ(人が人を売る…モンスターより野蛮じゃありませんか。モンスターは同族同士じゃそんな事はしませんよ!! まぁ、牝を求めて殺し合う事はあったりもしますが、それは生存本能、故の事です)
ギーー(売る方も売る方ですが…それを買う方もけしからん!! )
子供達の言う通りだ。美少年美少女は世界の財産!! それを違法な方法で手に入れようなど、ギルドが許してもこの瀬里奈が許しません!!
ギギッギ『囚われの美少年を助ける → キャー素敵 → 抱いて!! この展開に間違いはない!! さぁ、入念な計画を立てて世界の財産を救い出すわよ。皆!! お母さんの春の為に頑張るのよ』
これ程までに熱い展開になれば種族の壁など些細な問題になるはず。
今すぐにでも山賊達を成敗して、囚われの美少年達を助け出したい。だけど、こういう事をする腐った連中は万が一に備えての準備もしているでしょう。助けるはずが、逆に捕まっては話にならない。
俗にいう高ランク冒険者と呼ばれる者が必ずいる。その対策をしてから救いに行きましょう。正面切って戦っても大抵の場合には負ける気はしないけど…よくある敗北のパターンは、数に押し負けるのが鉄板なのよ。
万が一捕まったら、ウ=ス異本みたいな展開が!!
となれば、まずは情報収集ね。敵の数から能力、行動パターンなど把握できる事は全て押さえてから行動するのよ。そして、確実に救い出すのよ!! あ~、後、山賊の中に美少年がいたら教えてね。個人的な指導をするから!!
………
……
…
それから、四日の時間を要して山賊達の戦力分析が終わった。総数30名からなる山賊達。遠目で見た限りは、実力は決して高くはない。不意を突けば全員急所をワンパンで始末できる。
唯一の問題は、美少年山賊がいな…じゃなかったわ。定期的に『風』の魔法で周囲警戒を行っている事だ。それに、引っかかると山賊が総出で襲ってくる。
ギギ『まぁ、そんな些細な事…私達には関係ないかしらね!! 気配察知などできない状況をつくり、各個撃破するまでよ』
最小限の努力で最大の成果を求める。これぞ日本人!!
ギー(準備万端です!! 何時でも山に火を放てます!!)
よろしい!! 山火事を見る為に山賊達が洞窟を出た瞬間に入口を崩落させる。これで中と外を完全に分断する。
当然、時間稼ぎにしかならないがそれで十分。外にいる山賊どもを始末したら、事前に掘っておいた地下通路を通じで内部に侵入。そして、中に残った少ない山賊を一網打尽にする。最後は、入ってきた地下通路から捕まった美少年達を連れ出す!!
待っていてね!! 未来のハーレム要員達~、瀬里奈が助けてあげるからね~。
ギッギーー『それでは、火を放ちなさい!! 周辺に住人がいないのは確認済みよ。派手にやっちゃいなさい』
ギィ(あいあいさ~)
山賊達が住む山に火の手が上がる。枯れ木や枯葉など燃える物の準備も万全。山火事を起こす事で多少の問題は出るだろうが、全て山賊のせいにするわ!! なに、モンスターが火を扱う事例など数少ない、だから安心。
そして、暫くして根城にしている洞窟から這い出てきた。燃え盛る炎と煙を確認しに来たのだろう…馬鹿め!! その瞬間、子供達が入口を崩落させた。
ギィ(作戦は順調に遂行中です。さぁ、お母様ズバーーってどうぞ)
何が起こったのか理解出来ない内に、畳み掛ける!!
腐れ外道に生きる価値なし!! 一撃で葬ってくれるわ。
ギッギ『シールドブーーメラン!!』
投げたら最後…自分で拾いに行かないといけないシールドを投擲する。熊ですら真っ二つにする威力だ。人間を2、3人纏めて分解するのは余裕の威力!! 全力の投擲は、心地よい風きり音と共に山賊達を真っ二つにしていった。
ギィ(真横からの投擲だとは言え、一発で5人も…流石お母様!! )
まだよ!! まだこんなもんじゃないわよ!! 一撃で片がつくなんて最初から思っていないわ。当然、第二は第三の攻撃準備もしてきている。この日の為に用意した木製の槍50本!! 一本投げるのに1秒掛かるとしたら投げ終わるまで50秒もかかる。だけど、手が四本あれば10秒ちょっとで投げ終わる。
ギッギギギギギ『誰ひとりとて逃がしません!! あたたたたたたたたたぁぁぁぁぁぁぁ』
単騎でランクB認定される蟻が本気で投擲する槍の雨…薄い鉄板なんて貫く威力だ。雨のように降り注ぐ槍に一人、また一人と串刺しにされていく。
勘の良い者は、仲間を盾にして逃げ出したが…夜の山中で私の子供から逃げられると思わないコトよ!! 夜目は利かないけど、今日に限って言えば山火事で明るいのよ!!
ギッギ『ふぅ、これで全部投擲終わり…生き残りは?』
ギーー(今、西に逃げた二人が10匹と交戦中…あっ、今終わったようです)
外は片付いたわ。後は中ね。
◆
作戦は、すべて予定通りにうまく行っている。
洞窟内部に残っている山賊は10人程度…しかも、ここが襲われるなど全く考えていない様子だ。てっきり、色々と準備されているものだと思ったけど、誰も攻めてこないとなると警戒心も薄れるという事かしらね。
人質の救出も良いが、先に残った連中を始末するべく気配を辿っていった。
ギー『まぁ、予想の範疇内だけど…胸糞悪いわね。同じ女性として』
山賊達に攫われた者達の末路なんて分かりきっていたが、現実を目の当たりにすると気分が悪いわね。オークなどの種族は、他種族の牝をさらう事はあるが…それは種族存続の為である。同じモンスターとして、理解はできる行為だ。
しかし、これは違う!!
山賊達に囚われた女性達は、可哀想な事に慰み者にされている。目には、生気がなく私が牢の前を通っても反応すら示さない。
「おーーい、外で何があったんだ? さっさと、戻って来いよ。俺一人じゃ白けるだろう。おっ、なんだ戻ってきてんじゃんか。外でな…に…がぁ」
半裸に近い男が一人、無警戒でこちらに近づいてきた。頭に犬耳みたいなのがある事から亜人なのだろう。亜人が亜人を売る。
同情の余地などないわね!!
ズバン
こちらを見て唖然としている隙に手に持っているシミターで首を跳ねた。
勢いよく血が吹き出る。少々汚れてしまうが仕方あるまい。まだ、山賊は残っているのだ…叫ぶ間すら与えない。無論、懺悔の時間なども与えない。この手の輩は、反省しないのはわかりきっている。
そもそも、そんな反省するような輩は、こんな事をやらない。
ギィ『食事するのは後にしなさい。それより、次へ行くわよ』
………
……
…
ズドン
ブチブチブチ
骨が砕き、肉を引きちぎる。この四本の手から繰り出される攻撃を凌げる者は居らず…一人、また一人とバラバラにしていった。仮に片手の攻撃を防げたとしても残り三本の手から繰り出される攻撃を防がないといけないのだ。
弱いわ!! こんなにも弱いのに、何故誰もここに助けに来なかったのかしらね。一番強そうだったリーダー格ですら別働隊の子が天井を崩落させた隙を突いての強撃で終わった…まさに瞬殺であった。しかし、高ランクっぽかったので念には念をきれて首と胴をバラして、心臓を突いておいた。
まれに、死んだふりで難を逃れようとする者もいるからね。
ギッギ『中にいる連中は、これで全部かしら。それじゃあ、捕らえられた美少年達を助けにいきましょう~』
あぁ、一応使えそうな物資などはしっかりと持って帰るから、みんな厳選するのよ!!
少し歩いて牢の前に戻ってきたけど…どうしようかしら。囚われている者は8人…女性が6人と男性が2人。身なりが綺麗な女性2人と男性2人は、どうやら何もされていないようだ。きっと、売る時に価値が下がるとか、どこかのお偉いさんのお子さんなのだろうか。
だが、残り半数が悲惨だ。
無事な子達は、元気に泣き叫んでいるというのに…ささぁ!! 今すぐこの牢を壊してあげるわ。そして、この瀬里奈の胸に飛び込んでいらっしゃい!!
ベキベキベキ
鉄製の檻を文字通り腕力のみで引き裂いた。
ギッギー『さぁ、いらっしゃい!! 遠慮なく、この瀬里奈の胸に飛び込んでいらっしゃい』
グバァァァァ
満面の笑みを浮かべて、両手を広げた。さぁさぁ!! 少々血まみれなのは気にしちゃダメよ。男の子なんだから、細かい事はいいわよね。何故か、美少年美少女達の顔が青ざめる。あら、貧血かしら!? それは、いけないわ!!
なにが問題だったのかしら。
ふと、横を見てみると…。子供達がナイスタイミングで先ほど始末した山賊の頭を貪りながらこっちにやってきた。サッカーボールみたいに転がしながら。
ギギ(スジっぽいです。これなら、クマちゃんの方が美味しい)
なんて事!! 折角、いい雰囲気だったのに台無しじゃない!! お母さんのハーレム計画を邪魔するなんて…今日の晩御飯は抜きよ。
「いやぁぁぁぁぁぁ!! だれか助けてぇぇぇ!! こっちに来ないでよ!!」
「死にたくない死にたくない死にたくない!!」
「あっちにいってよ化物!!」
クズン
慣れたとはいえ、化物の一言はココロに来るものがあるわ。私だって、好きでモンスターに生まれたわけじゃないのに。まぁ、大人だから、許しちゃうわ。
ギィィ(お母様になんて事を!! 食べちゃいますよ)
子供達が一斉に牙を向ける。
ギギ『落ち着きなさい。そのくらい想定の範囲内よ。そうね、とりあえず落ち着かせましょう』
美少年に近づき…壁に追い立てる。そして、気合を入れて…壁ドーーーーーン!!
ズゥドン!!
石の壁が文字通り砕け散った。
美少年相手に一度はやってみたかった事、それは【壁ドン!!】。しかし、ちょっと効果音がいまいちよね。ドンというよりズドン…。
ギッギ『リテイクいいかしら?』
ギーー(アンコール、アンコール)
では、子供達のアンコールに応えて再度、壁ドーーーン!!
ドゥォーーーーン
良い感じの振動が洞窟内に響いた。そのおかげで、今まで騒いでいた子達も静まり返った。壁ドンには、精神安定の効果があったとは知らなかったわ。今度から活用しようかしらね。
ギギ(お母様、とりあえず牢屋を全部開けておきました。…どうします?)
ギギ『どうしますも何も連れて行かないとギルドの犬達が来て、売られちゃうわ。当然、全員連れてここを出て行くわよ。そうね、元気な子達は歩いて付いてこさせましょう。ダメな子は担いでいくわ』
本来目的であった美少年との熱い抱擁には、失敗したけど。まだチャンスはあるわ。とりあえず、未来の美少年誕生の為にこの子達を世に解放しなくちゃ。
来た道を戻って、町の近くまで案内してあげればいいでしょう。川に沿って下れば町に出られるのは確認済み。それに、この山火事を見て人も来ているでしょうからね。数時間も歩けば、町が見える場所までいけるわ。
子供達に使える物資を持たせて先に行かせる。
たとえ、言葉が通じなくても手招きなどの簡単なジェスチャーは理解できるでしょう。それに、こちらは言葉が分かるのだ。相手に合わせて頷くだけで、警戒心は薄れてくれるはず。
「わ、私達を呼んでいるの?」
コクンコクン
ギギ『そうよ。ほら、ここに残っていたら悪い人に捕まっちゃうわよ』
「山賊の次はモンスターに捕まるとか俺は嫌だぞ!!」
「で、でも…ここにいたら」
近くでひどい目に遭っていた女性を見て顔が引きつっている。
半ば生きる屍となっている女性四人を担いだ。流石に、全裸では悪いと思ったので、綺麗とはいえないが、近くにあった布で身体を覆った。
ギッギギ『言葉が通じないのは不便よね。一応、敵対心が無いことは伝わっているみたいだけど』
再び、手招きして呼び寄せる。
「わ、私はついて行くわ」
「本当に行くの!? ここにいたらお父様達が…」
「俺もついて行く。こんな場所にいても助かるかわからない。人身売買を行う組織なんて、相当ヤバイ」
「そうだな。良くて終身刑、悪くて死罪…身分問わずに。それを行っている山賊なんて普通じゃない」
あら、この世界じゃ人身売買が禁止されているようね。それも、重罪のようだわ。そうなると、ギルドという組織は相当大規模のようね。こんなちっぽけな山賊なんて氷山の一角かしらね。
囚われた美少年達も話が纏まったようだ。
距離をとりつつ後を付いてくる…。それで十分だわ。
◆
それから、侵入に使った地下通路から無事に脱出して、川に沿って下流へと下っている。
山賊達から奪ってきた物資で使えそう衣服や装備を幾つか美少年達に提供した。丸腰でモンスターである私の後をついてくるなど心許ないでしょう。それに、鉄製の武器程度じゃ、私の肌に傷一つ付けられないから渡しても問題はないわ。
「ねぇ…あのモンスター、やっぱり私達の言葉理解しているんじゃない」
「たぶんそうだろう。最上位のモンスターは、言葉を理解していると本で読んだ事がある」
ギィー『そうなの。知性の高いモンスターは、他にもいるのね』
「今、頷いたわよね。もしかして、貴方言葉を理解しているの?」
何を今更…と思いつつ、頷いてみた。
「や、やっぱりそうなのね。これから、私達をどこに連れて行こうとしているの」
あのね…相槌はうてるけど、言葉は通じないのよ!! せめて、YesかNoで回答できる事を聞いて欲しいわ。
ギィ(お母様、この子おバカちゃんです)
「今、なんか馬鹿にされたような気がしたわ」
その通りなんだけど、無駄なところは鋭いわね。
ギーー(お母様~、町から人がやって来ましたよ~。冒険者と一般人っぽい人達です。一部の人が先行していて間もなく接触します)
先行偵察に出していた子供達が帰ってきた。山火事を見て様子見に来たのだろう。予定通りだ。
さて、この状況をみて町からやって来た者達が私をどのように扱うか…うん!! 最終的には間違いなく、ギルドの標本行きになるわね。
となれば、担いできた少女達を下ろして、美少年達に食料などを分け与える。まぁ、この辺には強いモンスターもいないから大丈夫でしょう。幸い、町から人も近づいてきているので死ぬ事はないはず。
ギィーーイ『私が案内できるのはここまでよ。あっちに町から人が来ているから拾ってもらいなさい』
「蟻さん、どうしたんですか? こんな場所で、置いていかれても…」
「たぶんだけど…この山火事を見て誰かが来ているんじゃないかしら」
頷く。
「あ、あの!! ありがとうございました。本当なら、両親に話してちゃんとお礼を伝えたいんですが…信じてもらえないでしょうし、早めに逃げてください」
あら、この美少年頭の回りが早くていい子ね!! 頭をポンポンしてあげるわ。ナデポスキル発動しないかしら。
今がチャンスよ!! 早く、ナデポスキルをこの私に授けなさい!! 誰でもいいわ!! 今なら、この瀬里奈が信仰してあげるわ。
………
……
…
「蟻さん!! 化物なんて言ってごめんなさい。元気で」
ギギィ『クズン…いい子達じゃない。みんな元気で帰るのよ!! そして、世界に沢山の美少年を送り出すのよ!! この瀬里奈とのお約束だからね』
ギッ(言葉が通じないから、良かったけど…最後の一言はちょっとね)
感動のお別れをして、颯爽とその場を立ち去る。美少年達に幸あれ!!
◆
まるで夢物語に出てくるような蟻のモンスターと別れて直ぐに、二人組の男性がやって来た。相当、急いでいたようでカラダのあちこちが汚れている。
「いや~、無事で良かった。安心したまえ、私達は君達を保護しに来たのだよ」
ギルドの制服に身を包んだ一人の男が、こちらを見て安堵の表情を浮かべた。もう一人は、背格好から察するに冒険者だ。冒険者の方は、若干雰囲気が悪いがそういうものなのだろう。
「これで全員か? 他に助かった者はいるかな?」
山火事をみて急いで助けに来てくれたのだろう。ギルドは、金の亡者だと父が嫌っていたが、存外そうでもないと思った。こうして、率先して人助けに来てくれるのだ。将来、懇意にしても良いと思う。
「これで全員です。もしかして、お父様がギルドに依頼を?」
「全員ですか…なら、良かった。証拠隠滅だ――殺れ」
「報酬は、弾んでもらいますよ」
…えっ!?
この場にいる全員が状況を理解するのに、一呼吸かかった。助けに来てくれたと思ったギルド職員の口から『殺れ』の一言。そして、冒険者からは『報酬の話』。
逃げ切れる筈がない。高ランク冒険者の身体能力は、常人とは一線を画す。そんな相手から逃げる事など不可能だ。
「山火事で死体が見つかると、せいぜい苦しんで死になあぁぁぁ・・・」
ズドン
冒険者が魔法を放つ瞬間、円盤のような物が恐ろしい速さで冒険者を貫いた。地面には、蟻さんが持っていた丸い盾が突き刺さっている。その凄まじい威力で、人間を真っ二つにしても地面に突き刺さった状態で回転を続けている。
「これは、蟻さんの!!」
「ば、ばかぁ…一体どこから!! 向こうでなにが――グォヴ」
次の瞬間には、ギルド職員の胸に槍が刺さっていた。
あまりの出来事でなにがなんだか理解が追いつかない。だが、一番重要な事はしっかりと分かった。
山賊に捕まる。モンスターに助けられる。そして…ギルド職員と冒険者が殺しにくる。これから導き出される答えは、ギルドが人身売買に携わっているという事だ。一瞬でもギルドに対して良い感情をもった自分が愚かで泣きたくなった。
「蟻さんが、また私達を助けてくれた」
「ありがとうございます蟻さん」
「蟻さん…この御恩はいつの日か。だけど、その前に帰ったらギルドに対して、ちょーーーっと抗議をしないといけないわ」
「その仲間に僕も混ぜてもらっていいかな。後、出来る事ならこの者達も介抱してやりたい」
生き残った数少ない仲間。必ず助ける!!
そして、ギルドから受けたこの屈辱…必ず果たす。
しかし…あの蟻さんは何者だったのだろう。盾と槍を回収にきたら、再度お礼を言いたかったのだが、この武器を取りに来る気配がない。どうやら、遠くに行ってしまったのだろう。
「この盾と槍は、いつかお返し致します。それまでは、大事に預かっておきます」
盾の裏側には、『Made in SERINA』と掘られていたが誰も読む事は出来なかった。
************************************************
瀬里奈外伝は、これにて終了です(´・ω・`)
さて、次回はヒャッハー戦争だ!! 既に、次話分の執筆も終わっているのでゆっくり添削ヽ(´▽`)/
PS:
来週は、『小説家になろう公式生放送』を見学しに現地に逝ってくるよ。文字通り、逝ってくる。
1
お気に入りに追加
835
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。

ハイエルフの幼女は異世界をまったりと過ごしていく ~それを助ける過保護な転移者~
まぁ
ファンタジー
事故で亡くなった日本人、黒野大河はクロノとして異世界転移するはめに。
よし、神様からチートの力をもらって、無双だ!!!
ではなく、神様の世界で厳しい修行の末に力を手に入れやっとのことで異世界転移。
目的もない異世界生活だがすぐにハイエルフの幼女とであう。
なぜか、その子が気になり世話をすることに。
神様と修行した力でこっそり無双、もらった力で快適生活を。
邪神あり勇者あり冒険者あり迷宮もありの世界を幼女とポチ(犬?)で駆け抜けます。
PS
2/12 1章を書き上げました。あとは手直しをして終わりです。
とりあえず、この1章でメインストーリーはほぼ8割終わる予定です。
伸ばそうと思えば、5割程度終了といったとこでしょうか。
2章からはまったりと?、自由に異世界を生活していきます。
以前書いたことのある話で戦闘が面白かったと感想をもらいましたので、
1章最後は戦闘を長めに書いてみました。
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします
ねこねこ大好き
ファンタジー
新庄麗夜は身長160cmと小柄な高校生、クラスメイトから酷いいじめを受けている。
彼は修学旅行の時、突然クラスメイト全員と異世界へ召喚される。
転移した先で王に開口一番、魔軍と戦い人類を救ってくれとお願いされる。
召喚された勇者は強力なギフト(ユニークスキル)を持っているから大丈夫とのこと。
言葉通り、クラスメイトは、獲得経験値×10万や魔力無限、レベル100から、無限製造スキルなど
チートが山盛りだった。
対して麗夜のユニークスキルはただ一つ、「モンスターと会話できる」
それ以外はステータス補正も無い最弱状態。
クラスメイトには笑われ、王からも役立たずと見なされ追放されてしまう。
酷いものだと思いながら日銭を稼ごうとモンスターを狩ろうとする。
「ことばわかる?」
言葉の分かるスキルにより、麗夜とモンスターは一瞬で意気投合する。
「モンスターのほうが優しいし、こうなったらモンスターと一緒に暮らそう! どうせ役立たずだし!」
そうして麗夜はモンスターたちと気ままな生活を送る。
それが成長チートや生産チート、魔力チートなどあらゆるチートも凌駕するチートかも分からずに。
これはモンスターと会話できる。そんなチートを得た少年の気ままな日常である。
------------------------------
第12回ファンタジー小説大賞に応募しております!
よろしければ投票ボタンを押していただけると嬉しいです!
→結果は8位! 最終選考まで進めました!
皆さま応援ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。