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第十九章

第八十二話:教団(3)

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休む予定が投稿してしまう作者がここにいる(´・ω・`)
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 まもなく、『聖クライム教団』との国境に差し掛かるというのに、蟲の知らせを受けて街道を迂回するルートを取った。そのおかげで、懐かしい場所を走っている。

「あれから何年も経っているのに、放置されっぱなしだな…」

 球状に削られた大地が目立つこの場所…『神聖エルモア帝国』と『聖クライム教団』の戦場となった場所だ。主に、グリンドールの『闇』の魔法によって削り取られた痛々しい傷跡が残っている。本当ならば、美しい避暑地だったというのに、今では見る影もない。

 開いた穴には、水溜まりが出来ていたり、草が茂っていたりと自然が戻りつつある。だが、削り取られた大地だけは、元通りにはならない。他にも、穴に落ちたモンスターや動物の死骸が目立つ。

 この穴を埋めるだけで山を何個も削る必要がある。それには、莫大な資金が必要になる。当然、そんな費用は捻出する事など出来るはずもない。その為、復興が進まず放置されている。

 公共事業としても一時検討されたが…埋めた後の利用方法がなかったのだ。それどころか、穴が邪魔になり『聖クライム教団』が進軍しにくくなるという事で、現状維持が理想的だと結論が出たのだ。当然、平地なので『神聖エルモア帝国』から攻める場合も同様に攻めにくい。

「それにしても凄い穴ですね。ここは、レイア様が従軍されたと聞いている『聖クライム教団』との戦場跡地ですか。なんですかこの穴? 落とし穴でももう少し気を利かせないと落ちるものも落ちないと思うんですが…」

 ゴリヴィエもタルトも物珍しそうに穴を覗くのはいいが、前を見て運転しなさい。ステイシスが勝手に安全な道を取捨選択してくれているから落ちていないが、馬車なら落ちていてもおかしくない。

「『闇』の魔法の傷跡だ」

「この大穴がですか?『闇』の魔法って穴掘り魔法なんですね」

「間違ってもそのセリフを『聖クライム教団』で吐くなよ。絶対に庇わないからな」

 『闇』の魔法は、知名度こそ高いが…それがどんな魔法か知っている者は、それほど多くないだろう。グリンドールが活動拠点を置いている街の冒険者ならともかく、他国ではお目にかかる機会すらないからね。仮にお目にかかれたとしても、大抵は死に際だろう。

「レイア様は、確かグリンドール相手に殿を務められておられましたよね。よろしければ、『闇』の魔法がどのようなものか教えていただけませんか」

「射程300m、即時発動、形状は球状、球の最大直径は300mまで確認出来た。触れれば、オリハルコンでも消失…防御不可能の攻撃特化の魔法さ。更に、グリンドール本人の身体能力も私の変身後と同等以上。丸一日、魔法を撃ち続けても絶えぬ魔力。あれから逃げるなら空に逃げる他ないね…」

「またまた、御冗談を…流石に盛りすぎですよ」

 タルトが冗談だと思いたいのは無理もない。喋っている私自身、冗談にしか聞こえないのだ。私は、グリンドールに優っている点は若さという点のみだ。早く、寿命でくたばってくれないかと祈るばかりだ。

「タルトと同意見ですと言いたいのが本音ですが…この場所を見る限り、本当みたいですね。よく、生き残りましたねレイア様」

「グリンドールに私を殺す気が無かっただけだと思うね。こちらは、殺す気だったが完全に遊ばれていたよ」

 二人にこの場所で起こった事やグリンドールについて教えているが、どうにも気になる事がある。蟲の知らせが無いにもかかわらず多数の気配を感じる。ゴリヴィエも気がついているだろう。こちらを見る無数の視線。グリンドールが開けた穴と私の蟲達が掘った横穴に間違いなく人がいる。

 当然、何もしてこなければ華麗にスルーするのが私の信条である。

だが、現実は甘くなかった…蟲車の進路上に5人の男女が立ちはだかっている。盗賊の類かと思ったが違うようだ。武器を構えていない。それに、賊ならば姿を晒すような事はしないだろう。

「そこの馬車?の方々。停まっていただきたい!!」

 大声でこちらに呼びかけてくる。

「どう致しましょうかレイア様?」

 このまま轢いいてしまうのは容易い…だが、蟲の知らせが無かったのだ。私は、自分の第六感を信じてみたいと思う。

「停まってやれ。用件くらい、聞いてやろう。だが、気を抜くなよ。一応、高ランク冒険者が混ざっている」

 全く、ここまで何事もなく来られたというのに目的地を目前にして迷惑極まりないよね。一体、どのようなご用件なのだろう。つまらないご用件で無い事を願おう。

「『神聖エルモア帝国』のヴォルドー侯爵とお見受けする。どうか、私達の話を聞いていただきたい」

 げっ!! 私の事を知っていて停めてきたのか。こりゃ、厄介事の気配がプンプンする。こんな事なら、轢き殺しておけばよかった。蟲車の進路上に意図的に現れたのだ。自殺願望があると理解しても良かっただろう。

「ゴリヴィエ、タルト。お前達は、ここに残って蟲車を死守しろ。状況に応じて私を置いて先に『聖クライム教団』の国内に入れ」

「「承知致しました」」

 少しは、レイア様が心配なので待っておりますなど気が利いたセリフを聴いてみたいね。ゴリフターズならば、「旦那様が心配なので私達が付いて行きます」と気の利いたセリフをくれるというのに…女子力が足りていませんね。



 蟲車から降りて、よくわからない賊モドキの5人組についていくと、私の蟲達が掘ったと思われる横穴に入っていった。大人が二人並んで進める程度には拡張されているが、危険だよね。

「うーーん、このパターンは罠だよね。悪いが話があるならココで聞こうか」

「ご安心くださいヴォルドー侯爵。我々は、貴方に危害を加える気はありません。私達の現状を知っていただいた上で、お力を貸して欲しいのです。人格者と名高い貴方にしかお願い出来ないことです」

 ほほぅ、この私を人格者とまで評価するか。なかなか見る目がある。私は煽てられるのに弱いんだぞ。日頃、褒めてくれる人があまりいないからね。褒めてくれるのは、瀬里奈さんやゴリフターズ、可愛い蟲達、ガイウス皇帝陛下と蟲カフェの常連だけだ。

「褒められて悪い気分じゃないな。まぁ、入ってやろう。但し、私が最後尾だ。後、入口や通過した横穴には私の蟲を配備させてもらおう。それが最低条件だ」

「構いません。私達の後を付いてきてください」

 もっと、渋るかと思ったが…素直に承諾頂けた。気味が悪いな。

 そのまま、付いて歩くこと数分。広い空間に出た。信じられない事にグリンドールが開けた大穴が町になっていたのだ。色々と手を加えているが、この規模には正直驚いたわ。数百人単位の人々が地中で生活を営んでいる。

 土の壁を掘る事で住居の代わりを作って住んでいる。どこの原始人かと思う程だ。木々や石で色々と見栄えは整えているようだが…やはり、泥臭い場所だ。老若男女が住んでいるようだが…どいつもこいつも嫌な顔つきをしている。

「驚かれましたか? ヴォルドー侯爵」

「あぁ」

 まさか、人様の領地に地下都市モドキを作って、数百人規模で納税の義務を怠っているとは、誰が予想できようか。色々な意味で不味いだろう。こういう場所は、犯罪者の隠れ家になるんだよ。まさか、ここの領主が一枚絡んでいるのかな。それならば、ガイウス皇帝陛下にご相談をしないといけない。

「で、話は何なのだ。私は、『聖クライム教団』に行く予定があって先を急ぐのだが…」

 ここにいる連中の処分をガイウス皇帝陛下に相談して欲しいという用件なのだろう。ガイウス皇帝陛下へのコネクションを持つ者で一番接触しやすいのは私だろうからね。なんせ、冒険者として『ネームレス』で今でもウロウロしているくらいだ。

「存じ上げております。私達のリーダーがこの先でお待ちしております。どうぞ中へ」

 この私の蟲車をとめてきたあたりから予想はしていたが…ギルドにもツテがあるようだ。そうでなければ、私が『聖クライム教団』に向かうなど知る事は出来ないからね。それなりの規模の集団という事か。

「ここまで来たら会うけどさ…普通は、そちらから来るのが礼儀だと思うけどね」

 仮にも大貴族の一人であるこの私にお願いをする立場の人間が、随分とでかい態度を取る。少しでも、下手に出ておいた方が交渉事には有利だと思うのだが…もしかして、私よりお偉いさんがこの先で待っているのだろうか。それならば、頷ける。

 部屋の中に入ると、見窄らしい応接間らしい場所のようで簡易ソファーとテーブル。そして、封が開けられていない安物のワインが置かれている。私を待っていたと思われる御年配の女性が一人、ソファーの前に立っていた。肩まである白髪、埃まみれの衣服、皴まみれの顔だが昔は美女だったと彫りの深い顔。だが…ここのリーダーと言われた女性からはカリスマらしき物は感じられない。

 身近に圧倒的なカリスマを誇るガイウス皇帝陛下がいるせいで、どうしてもカリスマの基準が高くなってしまうのが原因なのだろうか。

「お初にお目に掛かります。わたくし、『聖クライム教団』を追われた者達の取り纏めをしておりますオリヴァ・アズレンと申します」

 今、聞き捨てならないセリフを耳にしたぞ!!

 『聖クライム教団』を追われた者達だ!! おぃおぃ、冗談じゃねーぞ。そんな疫病神みたいな連中と接触した事が『聖クライム教団』に知られれば、我が身に災いが降り注ぐじゃねーか。むしろ、それが狙いな気がしてくる。

 この私の第六感は、本当に鈍ってしまったのか。

 だが、落ち着け。こういう展開も想定していた。ならば、予定通りに進めるだけだ。

「『聖クライム教団』を追われたか…。教義に意を唱えたか、それに近い事をしたんだろう。だが、その程度の事で国外追放は納得ができず、私を通じて『聖クライム教団』に直訴をしたい…そんなところかな」

 『聖クライム教団』との戦争時にグリンドールと殺し合った事は、一般的に知れ渡っている。当然、『聖クライム教団』に良くない感情を持っていると世間では思われているだろう。事実、あまり良い感情を持っていない。

「直訴…いいえ、もはやその段階はとうに過ぎました。我々は、世間的にいうならば反政府ゲリラです」

 予想の斜め上をいかれたのは久しぶりだよ。負の意味でぶっちぎりやがった。難民よりタチが悪い。しかも、国境付近だとは言え他国に拠点を構えるなよ!! 国内にしろよ国内に!!

「そうか、だったら頑張って『闇』のグリンドールを殺せ。さすれば、国力低下は間違いない」

 一番険しい道のりだが、一番効果的な方法だ。正直、アレが一強過ぎて話にならんのだよ。同じランクAであるゴリフターズだって手玉に取れるキチガイとか、世界のバランスを考えたら不要だ。

 これ以上無いくらいのアドバイスもしてやったし、帰るとしよう。成功の可能性は理論上0%だろうが、成功した暁には私が幾らでも支援してやるよ。

「お、お待ちくださいヴォルドー侯爵。私達には、あなたの助けが必要なんです」

「何故に?」

「資金も物資も食料も何もかも不足しております」

 そんなの真面目に働けよ。これだけの人数がいるんだから領主にお願いして開墾の許可を頂いた後に農業を頑張れば食っていける。気候にも恵まれているこの場所なら、全員が食うだけの事はできるだろう。

「だから?」

「同じ『聖クライム教団』を憎む者として、是非お力をお借りしたいのです」

 憎んでいるが…別に、お前達程じゃない。戦争で殺し合いをしただけだ。

 『聖クライム教団』より私の可愛い絹毛虫ちゃんを寝取ったグリンドールの方が100倍憎いわ!! だけど、本人に仕返しできないから所属国に食料関係で嫌がらせしているのが私の現状だ。

「この私にテロリストの支援者になれと!? おぃおぃ、一体この私になんの得があるんだね?」

「我々からご提示出来る見返りは決して多くありませんが、可能な限りご要望にはお応えする所存です」

 交渉のやり方が汚い。この応接間…先ほどから扉が開けられたままで私達の会話が外に丸聞こえだ。赤子を抱いている女性や子供達がすがるような目で私を見てくる。武力では叶わぬと分かっているので、この様な方法を使ってくるのだろう。

「貴様等の言いたい事は、理解した。だが、私は先を急ぐ身でな。『聖クライム教団』に寄った帰りに良い返事を聞かせてやろう。私とて、貴様等が『聖クライム教団』の理不尽な行為でこのような場所に身を寄せている事は嘆かわしいと思っている。安心しろ、悪いようにはしない」

 なぜ、『聖クライム教団』内で完結させずに他国に迷惑をかけてくるのか本当に嘆かわしいわ。教育が行き届いていない証拠なのだろう。

 それに、領民の血税や私が汗水たらして稼いだお金をテロリストの資金にするとか、笑えない冗談である。冗談は寝てから言えよ。

「おぉ!! やはり、貴方に相談して良かった。ありがとうございます。ありがとうございます」

 集まった人々から感謝の言葉を絶えることなく貰った。

 子供が花を持ってきてありがとうざいますとお礼の言葉を述べてきた。当然、花を受け取った。建前上もらっておいたが、汚いので帰り道の横穴に捨てておこう。

「当然の事だ。では、『聖クライム教団』に行った帰り…数日後にまた訪れよう。約束の証明にこれを置いていこう」

 蓋がしまっている小瓶…その中身は、ある蟲の卵。だが、それが何なのかは教えない。だが、大事に持っておくようにと伝えておく。



 短い会談を終えて外に出てみれば、タルトが子供達と戯れていた。亜人であるタルトが珍しいらしく、耳を触っている。だが、子供達は真実を知らない…タルトには耳が四つあるという事を!! 頭の上についているエロゲーみたいな猫耳と人間と同じ位置にもちゃんと耳があるのだ。髪で隠れていて気づきにくいがね。

 この事実に、瀬里奈さんも大激怒だった。腐女子向けのウ=ス異本に男性猫耳亜人を登場させるのに耳を四つも描かないといけないのが納得いかないらしい。実に、瀬里奈さんらしい理由だ。

「話し合いは終わった。さっさと、『聖クライム教団』へ向かうぞ」

「わかりました。じゃあ、またね皆~」

 タルトが子供達に最後の別れを告げる。

 それにしても、ゴリヴィエの周りには子供が誰も寄っていない。可哀想に…。

「お戻りになられましたかレイア様。一体、どのようなお話だったのでしょうか?」

「嘆かわしい現状を見せつけられて、助けを求められただけだ。おかげで、良い手土産が出来たわ」

 見送り者達を背にして蟲車が全速力で疾走する。



 それからは、順調に事が運びお出迎えの者達と合流が出来た。当然、『聖クライム教団』の精鋭達が私の護衛に就いてくれたので安全で快適に目的地にまで到着した。

 『聖クライム教団』国内に入るのは初めてだが…ぶっちゃけ、綺麗な場所だった。建物は、白を基調した外装で統一されており統制された社会構造がうかがえる。裏道でクソが垂れ流されていたり、乞食が居座っている様子が見られない。

 前者については、街の地下に張られている空洞…要するに下水のような物のおかげであろう。後者は、恐らく殺しているね。乞食がいない国など人の手で排除しているとしか考えられん。『神聖エルモア帝国』の帝都や『ウルオール』の王都ですら乞食が裏路地にいるのだ。それが、全く居ないというのは意図的に排除しているとしか思えない。

「しかし、悪目立ちしているね。そんなに、私の蟲車が珍しいのだろうか」

「珍しいってレベルではないかと思われます、レイア様。現状、レイア様以外に『蟲』の魔法の使い手はおりませんので」

 なるほど…ゴリヴィエの言うとおりだ。まぁ、私以外に使い手が確認されたならば悪いが生かしておかない。私の優位性を損なうだけでなく、瀬里奈さんや私が育てた蟲達が危険に晒される。馴れ合うつもりなど、全くない。

………
……


 それから、しばらくして教団のトップが居られるという場所に着いた。『神聖エルモア帝国』の王宮より古臭くはあるが歴史を感じさせる作りをしている。この音の反響を用いて内部構造を探る。

 この建物が大理石などの石材を中心で作られているのが分かった。更に、隠し通路だと思われる怪しい空洞もいくつか散見される。

 蟲達の力を使いこの場所の正確なマップを作成に取り掛かる。

 ガイウス皇帝陛下には、それを献上する予定でいるのだ。戦争時には、敵国の王宮見取り図の価値は凄まじく高い。

「ヴォルドー侯爵。教祖様が奥でお待ちしております。中の方へどうぞ」

「ありがとう。では、行くぞ…ゴリヴィエ、タルト。分かっていると思うが、暴れるなよ」

 正装に着替えている二人。いうまでもなく、ゴリヴィエの服は、ピチピチどころかムキムキのお色気ムンムンお洋服だ。私達の護衛兼監視役が目を閉じて笑いを堪えるのに必死だ。私の従者という立場だけでなく、『ウルオール』の公爵家の者なのだ…一般兵士如きが笑っていい存在じゃない。笑えば首が物理的に飛ぶ。

 教祖が待つ部屋に続く、黄金で彩られた扉が開けられた。

 歴史ある大聖堂のような雰囲気が漂うこの場所…調度品には金が目立つ。『神聖エルモア帝国』が敗戦で奪われてしまった金鉱山から採掘された物を使っているのだろう。成金趣味だなと思ってしまう。

 ゴリヴィエとタルトも私に続いて入場したが、入口の扉付近で待機させる。この場を護衛している者達も二人をそれ以上進める事を良しとしていない。

 正面のご立派なミスリル製の王座みたいな物に座っている女性が教祖様か。肌年齢的に考えて年齢は25歳前後…未婚者だな。腰まである艷やかなストレートの黒髪、身長160後半でスレンダーな体型。物腰には気品を感じる。自信に満ちた目と態度からバカなら騙されそうだが…カリスマ性はあまり感じない。

 間違いなく、影武者だな。

 国家を束ねる器の者がこの程度のオーラであるはずがない。大国のトップを間近で見る事が多い私をこの程度の影武者で誤魔化せると思わないでいただきたい。それに、護衛の練度も数も話にならん。この場にいる全員を皆殺しにして教祖を拉致する事は決して不可能じゃない。

 この私と直接会うのならば、エーテリアやジュラルドみたいな超一流を配備すべきだ。仮にも敵国の者がこの場に来ているのだぞ。警戒心がなさすぎる。

 だが、『聖クライム教団』といえども理由があるのだろう。

 この場にいる者達でアレが偽教祖だと知る者はどれだけいるか分からないが…表向きに『聖クライム教団』のトップとしての立場で会見に臨んで貰えれば影武者であろうがなかろうが関係ない。

 私が教祖にご挨拶をすべく前に進み入口と教祖との中間地点に来たところで邪魔が入った。何を考えたのか、教祖の護衛だと思われる人物の一人が私の進行を妨げてきたのだ。既に、ボディーチェックは済ませている。凶器の類は、持ち込んでいない。

「ボディーチェックは済ませている。『神聖エルモア帝国』の特使としてこの場にいるのだ、問題を起こす気はない」

 というか、そちらから是非お越し下さいというお話だったのだが…私の思い違いであろうか。本来ならば、もっと喜ばれていいはずだ。それなのに、身内の敵みたいな目で見ないでいただきたい。

 胸くそが悪い。

「私の名前は、セシリア・ルーンベルト」

 何がしたいのだろうか。お前達の教祖とのご挨拶を妨げてまで私に自己紹介をしたいのだろうか。TPOを弁えて欲しい。私は構わないが、ご挨拶が終わったら極刑になるぞ。

 だが、紳士はいつでも冷静でいなければならない。名乗らえたのだから名乗るのが礼儀だ。挨拶は大事。

「レイア・アーネスト・ヴォルドーだ」

 さて、あまり教祖を待たせては申し訳がないので障害物になっているセシリアという護衛をよけて進もうとしたら更に妨害された。コントをやっている場合じゃないだろう!! どけよ!! というか、他の護衛達も早く動けって!! お前の仲間が現在進行形で粗相しているだろう。

「ヴォルドー侯爵。キリカ・ルーンベルトという名に心当たりは?」

「………あぁ、戦時下で拠点防衛にあたっていた弓の使い手だったかな。良い使い手だったぞ。最後まで教義を守り『神聖エルモア帝国』の捕虜となる事を拒んだので、殺して再利用したが」

「キリカ・ルーンベルトは、私のたった一人の姉です!!」

「用件がそれだけなら早く道をあけろ。今なら、教祖への弁明に手を貸してやろう」

 パシーーン

 セシリアが何を考えたのか、涙を流しながら私の頬を思いっきり引っぱたいた。無論、見えていたし回避もできた。しかし、ここは避けてはいけない場面だと第六感が訴えた。

 良い音がこの大聖堂に響いた。護衛の者達も流石に気が付いて取り押さえようと行動に出たが、セシリアの方が一歩早かった。私の頬を叩いた後にお仲間に押さえつけられた。

「私がたった一人の姉を失ってどれだけ悲しんだか、あなたには分からないんですか!? それなのに、用件がそれだけならば道を開けろですって!!」

「そんな事、当事者じゃないのだから理解できるはずないだろう。知って欲しいならば、説明する機会が欲しいとギルド経由で依頼を出せよレビューしてやるから。それも出来ないなら、手紙でも書いて私宛に送れよ。いきなり、私の気持ちも分からないんですかとか理不尽な怒りをこの身に受ける私の方が怒りたいんだが」

 仲間に連れられた退場させられそうになったセシリアを連れて行くなと伝えた。更に、拘束も解かせた。

 紳士として、このままセシリアを退場させるのは非常に宜しくない。起きてしまった事は仕方ないが、それを精算する事はできる。

「ヴォルドー侯爵。私の護衛であるセシリア・ルーンベルトが大変失礼致しました。彼女を昔から知る身として、どうか穏便にお願いしたい」

 教祖が挨拶前だというのに、お願いされてしまった。本来は、ご挨拶してから正式にお言葉を交わしたかったのが…まぁ、穏便に済ませたいとお願いされたので仕方があるまい。相手の顔を立てるのも紳士の仕事だ。

「なかなか、スナップの利いた良い一撃であったぞセシリア・ルーンベルト。だから、教祖のお願いでもあるので穏便にすませよう」

 『神聖エルモア帝国』の特使として来たこの私に手を上げたのだ。戦争の火種としては、十分である。それを穏便に済ませて欲しいとご依頼なのだ。

 既に服の下は、部分的だが第三形態だ…この私の全力の平手打ちを受けてみるがいい!!

「えっ!?」

 ブシャ

 その瞬間、セシリア・ルーンベルトの首がもげて飛んだ。生首は壁にぶつかって血の花を描いた。

「穏便に首謀者の首一つと金鉱山の一部を共同管理するという事で手を打ちませんか?『聖クライム教団』第25代目教祖であるシンシア・マルグリット・エスターク殿」

 戦争になれば人も金も膨大に消費する。そう考えれば、この私の行動は十分穏便である。数年前とは異なり、『神聖エルモア帝国』には『ウルオール』という同盟国だけでなく、ゴリフターズというランクAが二人もいる。万が一、戦争になれば歴史史上最大の被害が出るだろう。

 初戦からグリンドールが投入される可能性もあるが、こちらはグリンドールなど真っ向から相手にする気はない。蟲を利用して射程外の上空からゴリフターズの『聖』の魔法による絨毯爆撃を仕掛ける。

 だが、どうして先ほどから教祖然り護衛然り、唖然としているのだろうか。

 この場を血で汚さないように最大限の配慮もしたよ。蟲を使ってセシリア・ルーンベルトを吸血させたので血の噴水すら発生させていない。生首が飛んだ先だって、現在進行形で蟲達がきれいにお掃除しているのだ。既に、血の一滴も残っていない。

 紳士として当然の配慮だ。
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もっと短くきりたかったけど、長くなってしまった。
文字数がおおい話は苦手なのよね。
誤字脱字が増えるだけだから><
読み直しているのに減らないのは悲しい。
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