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第三章
第二十二話:流行病(3)
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◆一個目:ミツル(レイア謹製の薬を飲んだ娘の親)
◆二個目:タルト(不幸という名の星の下に生まれた亜人の女性)
となっております。
********************************************
『モロド樹海』の52層で四つの手を持つオークの最上位に位置するモンスターが悲鳴をあげて崩れていった。
「タフなモンスターだが…内側から破壊すれば、やはり楽だな」
蜘蛛の糸により周辺の木々と杭替わりにして拘束、更に毒を雨のように浴びせて弱体化をさせる。そして、第一形態に変身している私が腹を抉る一撃を食らわせて、モンスターの体内で蟲達を無数に呼び出して内側から食い荒らす。
モンスターが蟲達に骨も残らぬ程、食われて消滅した。
さて、敵も居なくなった事だし、報告にあった白水花を探すとしよう。蜂の好物は、花の蜜である。故に、花を探させるのは最高のモンスターだ。
ギルドからサンプルを買い取った際に、蜂達に白水花の特徴を覚え込ませておいて正解であった。おかげで、この階層に来るまでにも20本以上の白水花を見つける事に成功した。
更に言えば、この階層でも数本が纏めて咲いている場所を発見したと蟲から報告を得ており、脅威を排除しつつ金のなる花がある場所に向かっているのだ。
広大な迷宮内部で人海戦術を用いて金儲けとか最高だわ。しかも、人経費0だからね。ボロ儲け確定だわ。
ただ、一点だけ気に食わないのは…花の買取値段が一本50万なのよね。マーガレット嬢に一本100万セル渡して買った事を考えると、ギルドの売値は倍額かよ。
今回は、マーガレット嬢から35層以降で見つけた場合には追加報酬という事で一本ごとに10万セル貰える事になっている。
「白水花発見~。根っこを傷つけないように丁寧にお願いね」
ギルドからは、数日程度なら萎れないが長時間経つと花が萎れて使い物にならなくなるので植木鉢に入れて持ち帰ってくださいねと言われている。まぁ、花の寿命は短いというし、面倒だが金の為だと思って我慢する。
蜘蛛達が周りに落ちている小枝を集めて、糸で一つに纏める。更に、上手に加工をして蜘蛛の糸で出来た植木鉢が完成する。その植木鉢に、蟻が掘り起こした花が丁寧に収められた。完璧な連携作業である。更に、水やりも完璧…こうする事で何週間でも鮮度を維持できるだろう。
蜘蛛の糸で出来た植木鉢をもった蟻達が私の後ろから可愛く行軍する姿は実に可愛い。あれだね…子供達を運動会で先導する先生になった気分だ。
この世界にカメラが無い事が非常に残念である。
植木鉢を持つ蟻の一匹が何やらフラフラしている。昨夜、成体したばかりの若い子だからまだ本調子では無いのだろう。
「大丈夫かい? 重いなら、他の者に持たせるといい」
ギィギィー(大丈夫。お父様の役に立つ)
そうか、ならばそれ以上は言うまい。こっそりと、他の蟻の指示をして辛そうだったら助けてやれと命令しておく。
こうして、蟲達と一緒に迷宮を行軍していった。
◇
迷宮に潜りちょうど一週間、55層まで潜ったので街へ戻ろうと思う。迷宮から出た際に、『黒紋病』の大流行が収束していて「白水花が必要無くなりました」なんて言われたら、困るしね。
それに、面倒な龍種のモンスターもチラホラ現れて、白水花の運び手を担っている可愛い子供達に被害が及ぶ可能性もありうる。行軍している蟻の数は50匹近く…これ以上は、進めんな。
50層台に出現する強靭な体を持つ蟻達に運び手を交代させれば、この階層でも安心して戦える。しかし、30層で集めた可愛い子達にもお仕事を与えてあげなければいけないでしょう。
お父さんは、皆を平等に愛しているのだから贔屓などしません。
「さぁ、皆さん街に帰りますよ。いいですか、家に着くまでが遠足です」
ギィギィ(はーい)
他の蟲達も可愛い蟻達が無事に帰れるように周辺の警戒を怠らない。30層の蟻達を守る40~50層の蟲達。みんな立派な紳士達である。
◆
娘の為…息子の死で同情を買い雇って貰った事は、事実だ。二週間のサポーターで50万…更にパーティーが白水花を一本発見する度に5万の追加報酬で雇われている。
勿論、花の面倒を見るのは、全て自分の仕事だ。
娘の治療費の不足額は、100万であり今回の仕事でギリギリ賄えるか微妙なラインである。現時点で、発見した白水花の数は5本…故に、報酬は75万の予定でまだ不足している。
「早く飯の用意をしろ。ミツルのおっさん」
「は、はい」
雇い主は自分より10歳以上年下…だが、ランクCの冒険者。私は英雄に憧れて冒険者になったが、改めて自分の限界を思い知らされた。
これ以上の成長が望めない自分と比べて、若くして才能がある者達を見ると妬ましくすら思える。
「食料の問題もあるし、ここらで引き上げるぞ。白水花というオマケも手に入れた事だし、今回の収入としては申し分ない」
どのパーティーにも言える事だが、白水花を探すのがメインではない。他の依頼と併用して、片手間で探すのだ。
パーティー人数的に考えれば一本50万の白水花であろうが、人数比で割れば大した額ではない。更に、萎れないように面倒も見る必要があるし、何より貴重な水を消費する。水の魔法が使えるものが居ても、水の消費は可能な限り抑えるのが鉄則である。
「あ、あと少しだけ白水花を探しま…」
「これでも、貴方のお子さんの為に十分配慮したつもりですが」
パーティーメンバーの一人、ランクCの弓使いの女性が厳しく現実を突きつけてくる。
本来、自分より優れたサポーターの候補が居たにもかかわらず雇って貰えたのは、この女性のおかげだ。自分を不憫に思った彼女が、パーティーメンバーに掛け合ってくれたのだ。
「失言でした。申し訳ありません」
下手に事を荒立てて、恩人の機嫌を損ねる方がまずい。
報酬の額だって、同情されての額なのだ。サポーターとしての報酬額は、不変であるが…白水花の追加報酬は、口約束なので、相手の気分次第で変わる。
まだ、帰り道に白水花を見つける可能性もある。チャンスは、まだある!!
自分に言い聞かせて、その日を過ごした。
………
……
…
帰り道、本当に何事もなく順調だった。宝箱が見つかるわけでもなく、白水花が見つかる事もなかった。本来、迷宮において依頼達成後に帰り道に何事も起こらない事は、とてもありがたい。
「神よ…どうか、娘を救うチャンスを私にください」と懇願した。病に苦しみ、特効薬を持ち帰る自分を待っている娘を助けたいという純粋な想い。
「………ダメか。いっそう、白水花が転がってこないかな」
「ミツルのおっさん。いい加減にしな。世の中、そんな甘くはねーんだ。二週間で75万稼げただけでも儲けたと思っておけ」
ゴロゴロゴロゴロゴロ
その時、草むらから白い植木鉢に入った白水花が5個転がってきた。
そして、パーティーの目の前で止まった。
迷宮では不思議な事が起こるというが、まさに目の前で出くわすとは思っても見なかった。
5本も一気に現れるとは、まさに娘を救えという天の助けに違いない。
早速、確保しようと手を伸ばしたとき草むらから5匹の白い蟻が現れた。見た目は、30層にいる大型の蟻と似ているが深紅の眼に加えて全身が純白…知らないモンスターか。
ギィギィ(すみません。それ僕等のです。運んでいると中に坂から落としちゃってごめんなさい)
ギィ(全く。俺等まで巻き込むなよな。花が無事だったから良かったけど、初めて任された大仕事なんだから気をつけろよ)
ギギギ(冒険者の皆様、私達はこれを回収して直ぐに立ち去りますのでご安心ください)
何か叫んでいるように思えるが、知った事ではない。目の前に大金が転がってきたのだ。しかも、モンスターがあろう事か奪って逃亡しようと動き出した。
「なんだか知らねーが、ミツルのおっさん。絶対に逃すなよ!!」
30層のモンスターとはいえ、単体ではそれほど脅威でない蟻だ。ランクC冒険者で構成されているこのパーティーメンバーが負ける事はない。
蟻達は、植木鉢を守るかのように最期まで植木鉢を離さなかった。手足を失っても決して逃げずに…しぶといモンスターだった。おかげで、無傷で蟻を始末出来た。
思わぬ臨時収入でパーティー全体の雰囲気が明るくなった。パーティーメンバーも娘の薬代が確保できて良かったなとさり気なく声を掛けてきてくれる。
………
……
…
そして、娘を救うべく20層のトランスポート付近へと移動した。
そこには、迷宮へと潜る冒険者達が屯っており、それなりに賑わいがある。こう見ると、自分を雇ってくれたパーティーがいかに優れていたかが理解できた。
下層の依頼をこなすだけでなく、白水花を10本も確保しているのだ。他のパーティーはせいぜい3本~5本なのを考えると素晴らしい成果だ。
「良かったな、ミツルのおっさん。白い蟻共に白水花を持ち逃げされる前に始末できなきゃ特効薬が買えなかったもんな。ギルドに帰ったら、ちゃんと報酬やるから楽しみに待っておけ」
「えぇ!! 本当にありがとうございます」
神よ…私にチャンスをくれてありがとうございます。
◆
白水花の匂いは、完全に覚えた。亜人の嗅覚なら、無闇に迷宮を探すより効率的に見つける事ができる。それ故に、二週間で100万。白水花を一本見つける事に10万の追加報酬で雇われたのだ。
更に、30層までなら一度だけ行った事もあるので危険なモンスターや食べられる物などは記憶している。
いや~、最初はマーガレットさんからの紹介という事で躊躇したが受けて良かったわ。以前は、死刑執行書にサインをさせられたからね。疑うのも当然である。
ランクBが一人で他は全員ランクC。サポーターの私をいれて6人の完璧な構成だ。更に…トランスポートの往復分代金は別途支給という金払いの良い最高のパーティーだわ。
これは、幸先がいい事間違いなし。
早速、メンバーと一緒に迷宮へと進もうとした時に前方から帰ってくるパーティーが居た。白水花を10本も持っているあたり、かなり出来るメンバーなのだろうと予想が立つ。
「良かったな、ミツルのおっさん。白い蟻共に白水花を持ち逃げする前に始末できなきゃ特効薬が買えなかったもんな。ギルドに帰ったら、ちゃんと報酬やるから楽しみに待っておけ」
なんだ…よくあるパーティーか。
………
……
…
迷宮のモンスターで白い蟻など存在しない。
だけど、白い蟻というか…白い蟲型のモンスターは、嫌という程知っている。
「ご、ごめんね。ちょっと、出発待ってね!! 今、とんでもない発言したパーティーが居たから」
「構いませんがタルトさん。どうしたんですか?」
うちのメンバーもそうだが…ここ最近は、流行病の特需狙いで『ネームレス』にくる新参者が多い。故に、知らない者達は多いだろう。白い蟲が、この迷宮において一番危険なモンスターであるという事を。
「ちょっと、そこのミツルとかいう冒険者がいるパーティーの人達!!」
「俺等の事かな?何か用かい?」
『ネームレス』にいる冒険者達の顔を全員知っているわけではないが…見る限り、知っている顔は、誰も居なかった。余所者で構成されたパーティーである可能性が濃厚だ。
だが、そんな事はどうでもいい!!
今は、一刻も早く確認しないといけない事がある。
「ちょっと、小耳に挟んだのだけど…白い蟲が白水花を持っていて、それを殺して奪ったというようなニュアンスで聞こえたけど、本当?」
「あぁ、その事。実は、21層で草むらから突然この植木鉢に入った白水花が転がってきてさ。白い蟻がそれを持ち逃げしようとしたから、バラしてやったんだよ。いや~、ギィギィー鳴くわ、しぶといわで大変だったわ」
自慢気に話すその様子を見て、目眩がしてきた。
直ぐにこの場を離れようと思ったが…お、終わった。
「ギィギィー鳴くわ。しぶとくて殺すのが大変だったか。その蟻というのは、この子達の事かね?」
亜人の感覚を以っても全く感知できなかった。音も立てずに、気がつけば冒険者達の真後ろにランクB冒険者が微笑んでいるとか恐怖である。
レイアの影から白い植木鉢を持った蟻達が続々と現れた。間違いなく、この冒険者達が持っている物と同一のだと分かる。現れた蟻達の数は、50近く…全員が花を持っている。
一人でこれだけの花を集めてきたかと思うと凄まじいの一言である。
「そうそう、こいつらから…って、あんた誰?」
誰という発言で確信した。こいつら、レイアの事を知らないのだと。しかも、蟲達を見ても察する事すらできない。
あ、目があった。
「あれ?君は、確かタルト君じゃないか。そっか、彼らと同じパーティーなんだね。君は、物覚えがいい方だと思ったんだけど残念だ」
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!
レイアの殺人的な笑みを見て、以前の新人冒険者達のように苗床にされ未来永劫苦しむ映像が脳裏に浮かんだ。
若干、チビってしまった。
「違います違います。私は、こいつらのメンバーじゃありません。あそこにいる人達のサポーターなんです!! マーガレット嬢に問い合わせてもらっても構いません。こんな冒険者達とは、一切!! 全く関係ありません」
「あぁ、そうなの。それは失礼したね。じゃあ、パーティーメンバーをあまり待たせると悪いでしょうから、迷宮に行ってきなさい。私は、彼らと少しお話があるから」
直ぐに、パーティーメンバーと合流しその場を立ち去った。見ずとも、どうなるかはわかっている。
「あれは、剣魔武道会のエキシビジョンマッチで戦ったレイア選手じゃないか!!」
「タルトさん、お知り合いなんですか!? 是非、サインを頂きたいです」
「そんなの後回しにしてください。巻き添えを喰らいたくないから直ぐに離れますよ。いいですか、『モロド樹海』で白い蟲のモンスターを見かけても決して手出しはしてはいけません。そして…対応を間違うとあぁなりますよ」
人間だった者が一瞬で肉塊に変わり果てたのを見て、全員が理解した。
************************************************
次回で、流行病編はおしまいの予定です。
レイアの蟲が白水花を落としてしまう所から始める予定。
さぁ…、子供には救いの手を差し伸べるのが紳士として当然だと思うのよ。
**************************
次回のネタは、『貴方の子』か『冒険者育成機関の特別講師』あたりかなと考え中。
◆二個目:タルト(不幸という名の星の下に生まれた亜人の女性)
となっております。
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『モロド樹海』の52層で四つの手を持つオークの最上位に位置するモンスターが悲鳴をあげて崩れていった。
「タフなモンスターだが…内側から破壊すれば、やはり楽だな」
蜘蛛の糸により周辺の木々と杭替わりにして拘束、更に毒を雨のように浴びせて弱体化をさせる。そして、第一形態に変身している私が腹を抉る一撃を食らわせて、モンスターの体内で蟲達を無数に呼び出して内側から食い荒らす。
モンスターが蟲達に骨も残らぬ程、食われて消滅した。
さて、敵も居なくなった事だし、報告にあった白水花を探すとしよう。蜂の好物は、花の蜜である。故に、花を探させるのは最高のモンスターだ。
ギルドからサンプルを買い取った際に、蜂達に白水花の特徴を覚え込ませておいて正解であった。おかげで、この階層に来るまでにも20本以上の白水花を見つける事に成功した。
更に言えば、この階層でも数本が纏めて咲いている場所を発見したと蟲から報告を得ており、脅威を排除しつつ金のなる花がある場所に向かっているのだ。
広大な迷宮内部で人海戦術を用いて金儲けとか最高だわ。しかも、人経費0だからね。ボロ儲け確定だわ。
ただ、一点だけ気に食わないのは…花の買取値段が一本50万なのよね。マーガレット嬢に一本100万セル渡して買った事を考えると、ギルドの売値は倍額かよ。
今回は、マーガレット嬢から35層以降で見つけた場合には追加報酬という事で一本ごとに10万セル貰える事になっている。
「白水花発見~。根っこを傷つけないように丁寧にお願いね」
ギルドからは、数日程度なら萎れないが長時間経つと花が萎れて使い物にならなくなるので植木鉢に入れて持ち帰ってくださいねと言われている。まぁ、花の寿命は短いというし、面倒だが金の為だと思って我慢する。
蜘蛛達が周りに落ちている小枝を集めて、糸で一つに纏める。更に、上手に加工をして蜘蛛の糸で出来た植木鉢が完成する。その植木鉢に、蟻が掘り起こした花が丁寧に収められた。完璧な連携作業である。更に、水やりも完璧…こうする事で何週間でも鮮度を維持できるだろう。
蜘蛛の糸で出来た植木鉢をもった蟻達が私の後ろから可愛く行軍する姿は実に可愛い。あれだね…子供達を運動会で先導する先生になった気分だ。
この世界にカメラが無い事が非常に残念である。
植木鉢を持つ蟻の一匹が何やらフラフラしている。昨夜、成体したばかりの若い子だからまだ本調子では無いのだろう。
「大丈夫かい? 重いなら、他の者に持たせるといい」
ギィギィー(大丈夫。お父様の役に立つ)
そうか、ならばそれ以上は言うまい。こっそりと、他の蟻の指示をして辛そうだったら助けてやれと命令しておく。
こうして、蟲達と一緒に迷宮を行軍していった。
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迷宮に潜りちょうど一週間、55層まで潜ったので街へ戻ろうと思う。迷宮から出た際に、『黒紋病』の大流行が収束していて「白水花が必要無くなりました」なんて言われたら、困るしね。
それに、面倒な龍種のモンスターもチラホラ現れて、白水花の運び手を担っている可愛い子供達に被害が及ぶ可能性もありうる。行軍している蟻の数は50匹近く…これ以上は、進めんな。
50層台に出現する強靭な体を持つ蟻達に運び手を交代させれば、この階層でも安心して戦える。しかし、30層で集めた可愛い子達にもお仕事を与えてあげなければいけないでしょう。
お父さんは、皆を平等に愛しているのだから贔屓などしません。
「さぁ、皆さん街に帰りますよ。いいですか、家に着くまでが遠足です」
ギィギィ(はーい)
他の蟲達も可愛い蟻達が無事に帰れるように周辺の警戒を怠らない。30層の蟻達を守る40~50層の蟲達。みんな立派な紳士達である。
◆
娘の為…息子の死で同情を買い雇って貰った事は、事実だ。二週間のサポーターで50万…更にパーティーが白水花を一本発見する度に5万の追加報酬で雇われている。
勿論、花の面倒を見るのは、全て自分の仕事だ。
娘の治療費の不足額は、100万であり今回の仕事でギリギリ賄えるか微妙なラインである。現時点で、発見した白水花の数は5本…故に、報酬は75万の予定でまだ不足している。
「早く飯の用意をしろ。ミツルのおっさん」
「は、はい」
雇い主は自分より10歳以上年下…だが、ランクCの冒険者。私は英雄に憧れて冒険者になったが、改めて自分の限界を思い知らされた。
これ以上の成長が望めない自分と比べて、若くして才能がある者達を見ると妬ましくすら思える。
「食料の問題もあるし、ここらで引き上げるぞ。白水花というオマケも手に入れた事だし、今回の収入としては申し分ない」
どのパーティーにも言える事だが、白水花を探すのがメインではない。他の依頼と併用して、片手間で探すのだ。
パーティー人数的に考えれば一本50万の白水花であろうが、人数比で割れば大した額ではない。更に、萎れないように面倒も見る必要があるし、何より貴重な水を消費する。水の魔法が使えるものが居ても、水の消費は可能な限り抑えるのが鉄則である。
「あ、あと少しだけ白水花を探しま…」
「これでも、貴方のお子さんの為に十分配慮したつもりですが」
パーティーメンバーの一人、ランクCの弓使いの女性が厳しく現実を突きつけてくる。
本来、自分より優れたサポーターの候補が居たにもかかわらず雇って貰えたのは、この女性のおかげだ。自分を不憫に思った彼女が、パーティーメンバーに掛け合ってくれたのだ。
「失言でした。申し訳ありません」
下手に事を荒立てて、恩人の機嫌を損ねる方がまずい。
報酬の額だって、同情されての額なのだ。サポーターとしての報酬額は、不変であるが…白水花の追加報酬は、口約束なので、相手の気分次第で変わる。
まだ、帰り道に白水花を見つける可能性もある。チャンスは、まだある!!
自分に言い聞かせて、その日を過ごした。
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…
帰り道、本当に何事もなく順調だった。宝箱が見つかるわけでもなく、白水花が見つかる事もなかった。本来、迷宮において依頼達成後に帰り道に何事も起こらない事は、とてもありがたい。
「神よ…どうか、娘を救うチャンスを私にください」と懇願した。病に苦しみ、特効薬を持ち帰る自分を待っている娘を助けたいという純粋な想い。
「………ダメか。いっそう、白水花が転がってこないかな」
「ミツルのおっさん。いい加減にしな。世の中、そんな甘くはねーんだ。二週間で75万稼げただけでも儲けたと思っておけ」
ゴロゴロゴロゴロゴロ
その時、草むらから白い植木鉢に入った白水花が5個転がってきた。
そして、パーティーの目の前で止まった。
迷宮では不思議な事が起こるというが、まさに目の前で出くわすとは思っても見なかった。
5本も一気に現れるとは、まさに娘を救えという天の助けに違いない。
早速、確保しようと手を伸ばしたとき草むらから5匹の白い蟻が現れた。見た目は、30層にいる大型の蟻と似ているが深紅の眼に加えて全身が純白…知らないモンスターか。
ギィギィ(すみません。それ僕等のです。運んでいると中に坂から落としちゃってごめんなさい)
ギィ(全く。俺等まで巻き込むなよな。花が無事だったから良かったけど、初めて任された大仕事なんだから気をつけろよ)
ギギギ(冒険者の皆様、私達はこれを回収して直ぐに立ち去りますのでご安心ください)
何か叫んでいるように思えるが、知った事ではない。目の前に大金が転がってきたのだ。しかも、モンスターがあろう事か奪って逃亡しようと動き出した。
「なんだか知らねーが、ミツルのおっさん。絶対に逃すなよ!!」
30層のモンスターとはいえ、単体ではそれほど脅威でない蟻だ。ランクC冒険者で構成されているこのパーティーメンバーが負ける事はない。
蟻達は、植木鉢を守るかのように最期まで植木鉢を離さなかった。手足を失っても決して逃げずに…しぶといモンスターだった。おかげで、無傷で蟻を始末出来た。
思わぬ臨時収入でパーティー全体の雰囲気が明るくなった。パーティーメンバーも娘の薬代が確保できて良かったなとさり気なく声を掛けてきてくれる。
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そして、娘を救うべく20層のトランスポート付近へと移動した。
そこには、迷宮へと潜る冒険者達が屯っており、それなりに賑わいがある。こう見ると、自分を雇ってくれたパーティーがいかに優れていたかが理解できた。
下層の依頼をこなすだけでなく、白水花を10本も確保しているのだ。他のパーティーはせいぜい3本~5本なのを考えると素晴らしい成果だ。
「良かったな、ミツルのおっさん。白い蟻共に白水花を持ち逃げされる前に始末できなきゃ特効薬が買えなかったもんな。ギルドに帰ったら、ちゃんと報酬やるから楽しみに待っておけ」
「えぇ!! 本当にありがとうございます」
神よ…私にチャンスをくれてありがとうございます。
◆
白水花の匂いは、完全に覚えた。亜人の嗅覚なら、無闇に迷宮を探すより効率的に見つける事ができる。それ故に、二週間で100万。白水花を一本見つける事に10万の追加報酬で雇われたのだ。
更に、30層までなら一度だけ行った事もあるので危険なモンスターや食べられる物などは記憶している。
いや~、最初はマーガレットさんからの紹介という事で躊躇したが受けて良かったわ。以前は、死刑執行書にサインをさせられたからね。疑うのも当然である。
ランクBが一人で他は全員ランクC。サポーターの私をいれて6人の完璧な構成だ。更に…トランスポートの往復分代金は別途支給という金払いの良い最高のパーティーだわ。
これは、幸先がいい事間違いなし。
早速、メンバーと一緒に迷宮へと進もうとした時に前方から帰ってくるパーティーが居た。白水花を10本も持っているあたり、かなり出来るメンバーなのだろうと予想が立つ。
「良かったな、ミツルのおっさん。白い蟻共に白水花を持ち逃げする前に始末できなきゃ特効薬が買えなかったもんな。ギルドに帰ったら、ちゃんと報酬やるから楽しみに待っておけ」
なんだ…よくあるパーティーか。
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迷宮のモンスターで白い蟻など存在しない。
だけど、白い蟻というか…白い蟲型のモンスターは、嫌という程知っている。
「ご、ごめんね。ちょっと、出発待ってね!! 今、とんでもない発言したパーティーが居たから」
「構いませんがタルトさん。どうしたんですか?」
うちのメンバーもそうだが…ここ最近は、流行病の特需狙いで『ネームレス』にくる新参者が多い。故に、知らない者達は多いだろう。白い蟲が、この迷宮において一番危険なモンスターであるという事を。
「ちょっと、そこのミツルとかいう冒険者がいるパーティーの人達!!」
「俺等の事かな?何か用かい?」
『ネームレス』にいる冒険者達の顔を全員知っているわけではないが…見る限り、知っている顔は、誰も居なかった。余所者で構成されたパーティーである可能性が濃厚だ。
だが、そんな事はどうでもいい!!
今は、一刻も早く確認しないといけない事がある。
「ちょっと、小耳に挟んだのだけど…白い蟲が白水花を持っていて、それを殺して奪ったというようなニュアンスで聞こえたけど、本当?」
「あぁ、その事。実は、21層で草むらから突然この植木鉢に入った白水花が転がってきてさ。白い蟻がそれを持ち逃げしようとしたから、バラしてやったんだよ。いや~、ギィギィー鳴くわ、しぶといわで大変だったわ」
自慢気に話すその様子を見て、目眩がしてきた。
直ぐにこの場を離れようと思ったが…お、終わった。
「ギィギィー鳴くわ。しぶとくて殺すのが大変だったか。その蟻というのは、この子達の事かね?」
亜人の感覚を以っても全く感知できなかった。音も立てずに、気がつけば冒険者達の真後ろにランクB冒険者が微笑んでいるとか恐怖である。
レイアの影から白い植木鉢を持った蟻達が続々と現れた。間違いなく、この冒険者達が持っている物と同一のだと分かる。現れた蟻達の数は、50近く…全員が花を持っている。
一人でこれだけの花を集めてきたかと思うと凄まじいの一言である。
「そうそう、こいつらから…って、あんた誰?」
誰という発言で確信した。こいつら、レイアの事を知らないのだと。しかも、蟲達を見ても察する事すらできない。
あ、目があった。
「あれ?君は、確かタルト君じゃないか。そっか、彼らと同じパーティーなんだね。君は、物覚えがいい方だと思ったんだけど残念だ」
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!
レイアの殺人的な笑みを見て、以前の新人冒険者達のように苗床にされ未来永劫苦しむ映像が脳裏に浮かんだ。
若干、チビってしまった。
「違います違います。私は、こいつらのメンバーじゃありません。あそこにいる人達のサポーターなんです!! マーガレット嬢に問い合わせてもらっても構いません。こんな冒険者達とは、一切!! 全く関係ありません」
「あぁ、そうなの。それは失礼したね。じゃあ、パーティーメンバーをあまり待たせると悪いでしょうから、迷宮に行ってきなさい。私は、彼らと少しお話があるから」
直ぐに、パーティーメンバーと合流しその場を立ち去った。見ずとも、どうなるかはわかっている。
「あれは、剣魔武道会のエキシビジョンマッチで戦ったレイア選手じゃないか!!」
「タルトさん、お知り合いなんですか!? 是非、サインを頂きたいです」
「そんなの後回しにしてください。巻き添えを喰らいたくないから直ぐに離れますよ。いいですか、『モロド樹海』で白い蟲のモンスターを見かけても決して手出しはしてはいけません。そして…対応を間違うとあぁなりますよ」
人間だった者が一瞬で肉塊に変わり果てたのを見て、全員が理解した。
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次回で、流行病編はおしまいの予定です。
レイアの蟲が白水花を落としてしまう所から始める予定。
さぁ…、子供には救いの手を差し伸べるのが紳士として当然だと思うのよ。
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次回のネタは、『貴方の子』か『冒険者育成機関の特別講師』あたりかなと考え中。
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PS
2/12 1章を書き上げました。あとは手直しをして終わりです。
とりあえず、この1章でメインストーリーはほぼ8割終わる予定です。
伸ばそうと思えば、5割程度終了といったとこでしょうか。
2章からはまったりと?、自由に異世界を生活していきます。
以前書いたことのある話で戦闘が面白かったと感想をもらいましたので、
1章最後は戦闘を長めに書いてみました。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

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対して麗夜のユニークスキルはただ一つ、「モンスターと会話できる」
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クラスメイトには笑われ、王からも役立たずと見なされ追放されてしまう。
酷いものだと思いながら日銭を稼ごうとモンスターを狩ろうとする。
「ことばわかる?」
言葉の分かるスキルにより、麗夜とモンスターは一瞬で意気投合する。
「モンスターのほうが優しいし、こうなったらモンスターと一緒に暮らそう! どうせ役立たずだし!」
そうして麗夜はモンスターたちと気ままな生活を送る。
それが成長チートや生産チート、魔力チートなどあらゆるチートも凌駕するチートかも分からずに。
これはモンスターと会話できる。そんなチートを得た少年の気ままな日常である。
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