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第三章
第二十一話:流行病(2)
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◆はマーガレット視点です。
◇はレイア視点です
********************************************
◆
まさか、たった数日でギルド秘伝の特効薬を複製してくるとは想定外だった。事前に万が一の場合の対応マニュアルがなければ、ギルド長交えての長い会議をする事になっていた。
それにしても、レイアは勘が鋭すぎる。間違いなく、この病についてギルドが関わっていると思っているだろう。妄想も甚だしいと文句を言ってやりたいが…残念な事に半分事実なのだ。
ギルド上層部と一部の者しか知らないが…「黒紋病」は、何十年か前にギルドが原因で大流行した病である。当時、流行していた病に効く薬を開発していたところ、偶然「黒紋病」とそれに対する特効薬の開発に成功した。
後に、大地震で新薬を開発していた施設が崩壊。病に感染した者達が外に逃亡して大流行したのだ。人体実験を行なっていた事など世間に公表できるはずがなく、ギルドは隠蔽工作を行い今に至ったのだ。
一度外に出た病が消える事はなく、希に発病者が出ては大流行するのだ。
ギルドから出て行くレイアを見送り、一段落したかと思いきや見知らぬ少女が入れ替わりでギルドに入ってきた。
「お願いします。ゴッホゴホ…あ、兄を殺した犯人を捕まえてください」
恐らく先程まで、ベッドの中で休んでいたのだろう。部屋着、体には黒い斑点、顔は真っ赤で目は充血、一応マスクはしているが間違いなく黒紋病の発症患者だ。
その様子を見て入り口付近にいた冒険者達が距離をとった。
当然だ。特効薬はあるが…なんせ値段が高い。病の特需で儲けるつもりの冒険者が病で大損こいては元も子もないのだ。
冒険者の一人が、勇敢にも少女を摘みだそうと立ち上がる。病気で弱った少女が、ランクCの冒険者に放り投げられては軽傷では済まないだろう。冒険者の行動は間違いなく正しい。伝染病の発症患者がむやみに出回る事が間違いなのだ。本来なら、殺されても文句は言えない。
レイアが置いていったサンプルを見た。
………
……
…
「待ちなさい。大の大人が病気で弱った子相手に何をしようっていうのですか」
「ですが、マーガレットさん。こいつ、発病者ですぜ」
だからこそ、使い道がある。
「さぁ、お嬢さんこちらへどうぞ。詳しくお話を聞きましょう。ギルドはいつでもご依頼をいただけるお客様はウェルカムです」
「ゴッホゴホ、ありがとうございます」
「流石は、ギルドの受付嬢だ。女の格が違うわ」「なんだよあの女神」など冒険者から熱い声援を受ける。
計画通り。
◆
奥の個室スペースに連れていった。流石に、感染者をギルド本部の目立つ場所に居座せるのは些か問題である。
「失礼ですが、お嬢さんはランクD冒険者ミツル様のお子様でしょうか?」
「はい、父をご存知なのですか」
先日、同情の末にサポーターとして雇われた男だから記憶に新しい。更に言えば、兄を殺した犯人と「黒紋病」の女の子というキーワードまで揃えば誰しも行き着く答えだ。
「えぇ、勿論です。我々は、冒険者一人一人をしっかり把握しております。ミツル様は、「黒紋病」の特効薬を買う為の資金調達に迷宮に行かれているはずですが…」
「はい。父は私の薬代を稼ぐ為に迷宮へ行っております。父には、出歩くなと言われています」
「まぁ、そうでしょうね。無理をすると病状が悪化致します。今でも相当辛いのでしょう」
呼吸が乱れているだけでなく、視線も合っていない。末期の症状ではないが、無理をすれば親が帰ってくるまでもたない恐れもある。
「わかっています…。ですが、どうしても兄を殺した犯人を捕まえたいのです。父には止められていましたが、私は犯人が許せません。あんなに、優しい兄が一体何をしたっていうんですか」
死体の状況を確認したわけじゃないけど、上がってきた報告書を確認した限り…胸にぽっかり穴が空いていたらしい。誰にも気づかれず、悲鳴すらあげさせず、一瞬で絶命させたとみて間違いない。
そんな芸当ができるのは、ランクC以上の冒険者で間違いないだろう。だが、素行が悪い冒険者でも街中で人を簡単に殺すとも思えない。
そういった観点から考えれば、自ずと数人の候補が挙がってくる。候補の一人は、先日…というか、殺人があったその日に『ネームレス』に帰ってきたばかりに人物だ。
まさかね。
「それで、ギルドに犯人探しの依頼を? こう言っては何だけど…慈善事業では、ありません。お金が掛かります」
「はい。兄が私の為に貯めてくれた15万セルあります。これで、どうかお願いします」
涙を流して頭を下げる少女に同情はする。
だが、その金額では不足しているのだ。日数を限定した調査なら引き受けてくれる冒険者もいるだろう。だけど、見つかるまでとなれば話は別だ。
更に言えば、調査を進めれば必ず高ランク冒険者にブチ当たる。そんな人外な連中の身辺調査など下手すれば命に関わる。
「ごめんなさい、その額じゃ引き受けられないわ。せめて、100万以上用意してもらわないと」
「そんな大金…」
と、いい具合に落ち込んだ。
そして、すかさず救いの手を差し伸べる。
「ですが、こちらの簡単なご依頼を貴方がこなしてくれるのでしたら、不足分をギルドが補填致しましょう」
レイア謹製の治療薬など間違いなく、蟲が絡んでいる。そんな誰しもが飲みたくない新薬の臨床実験が破格で出来るのだ。必要経費としての申請も通るだろう。
「私に出来る事なら、なんでもやります」
「女の子がなんでもやるなんて言ったらダメですよ。悪い大人が多いですから発言には気をつけなさい」
「はい」
「安心して、今の貴方にとっても非常に有意義なお仕事よ。実はここに「黒紋病」の進行を一時的に止める新薬があるのよ。それを飲んで症状を観察させて」
「それだけですか?」
「えぇ、ちょっと飲みづらいかもしれないけど。一気に飲んでね」
レイアが持ってきたサンプルを渡した。
無論、新薬という事で躊躇するが…少女に残された道はないのだ。本当に、世の中悪い大人が多いから困る。
少女が瓶を手に持ち、一気に飲み込んだ。
「今までに飲んだ事がない味がします。しかも、生ぬるくてドロドロで美味しくないです」
「そう、気分の方はどう?楽になった?」
生ぬるくてドロドロか…間違いなく飲みたくないわね。せめて、高級なワインのような喉越しにして貰いたいわね。
だが、あのレイアが持ってきた薬だ…どうせ、碌でもない副作用があるに決まっている。先日の卵だって後輩がトイレで悲鳴を上げなければ危なかったのだ。
良くて、毛根が死滅するとか、悪ければ体が蟲になるとかそんな副作用があるに決まっている。
「あ…なんだか、胸の奥からスーーっとしてきました」
体の黒い斑点に変化は無かったが、充血していた目が元通りになっていた。更に言えば、熱っぽい様子も改善されていくのがわかる。
こりゃ、商品化されたらかなり売れるね。即効性がありすぎる薬だわ。
「それから、それから?」
「あ、あと…胸がなんだか重くなった気が」
………
……
…
ジロ
た、確かに先程より少し大きくなっている気がする。まさか、これが副作用!?
待て待て待て、どうせオチがあるに決まっている。一時的に胸が大きくなるが、次の日になったら一回り小さくなるとかに決まっている!!
「これは、経過観察が必要ね。明日から定期的にギルドの者を家に派遣させるわ。体に変化があったりしたら必ず伝えなさい。いいわね!!」
「は、はい」
約束通り、兄殺しの犯人は探す手配はしましょう。まぁ、見つかっても捕まえられるかは別問題ですけどね。
◇
「伝え漏れてしまったけどあの薬、副作用で胸が永続的に大きくなるんだよね。…間違って男性に使わない事を祈ろう。まぁ、無害だし問題あるまい」
いやー、それにしても嬉しい副作用が付くのは毎度の事だけど。今回の副作用はハズレだね。男性の胸が大きくなるとか誰得だね。
女性に服用させたのなら、きっと感謝される事間違いないだろう。
今後、製造しない約束だし。最悪、被害が出ても今回限りだ。
「これは、レイア様。トランスポートをご利用ですか?」
「あぁ、20層までだ」
トランスポートの管理者に金を渡して、迷宮へと移動した。
************************************************
久しぶりに、マトモな副作用なのだが…ギルドとの取り決めで永遠に封印決定なります。
◇はレイア視点です
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まさか、たった数日でギルド秘伝の特効薬を複製してくるとは想定外だった。事前に万が一の場合の対応マニュアルがなければ、ギルド長交えての長い会議をする事になっていた。
それにしても、レイアは勘が鋭すぎる。間違いなく、この病についてギルドが関わっていると思っているだろう。妄想も甚だしいと文句を言ってやりたいが…残念な事に半分事実なのだ。
ギルド上層部と一部の者しか知らないが…「黒紋病」は、何十年か前にギルドが原因で大流行した病である。当時、流行していた病に効く薬を開発していたところ、偶然「黒紋病」とそれに対する特効薬の開発に成功した。
後に、大地震で新薬を開発していた施設が崩壊。病に感染した者達が外に逃亡して大流行したのだ。人体実験を行なっていた事など世間に公表できるはずがなく、ギルドは隠蔽工作を行い今に至ったのだ。
一度外に出た病が消える事はなく、希に発病者が出ては大流行するのだ。
ギルドから出て行くレイアを見送り、一段落したかと思いきや見知らぬ少女が入れ替わりでギルドに入ってきた。
「お願いします。ゴッホゴホ…あ、兄を殺した犯人を捕まえてください」
恐らく先程まで、ベッドの中で休んでいたのだろう。部屋着、体には黒い斑点、顔は真っ赤で目は充血、一応マスクはしているが間違いなく黒紋病の発症患者だ。
その様子を見て入り口付近にいた冒険者達が距離をとった。
当然だ。特効薬はあるが…なんせ値段が高い。病の特需で儲けるつもりの冒険者が病で大損こいては元も子もないのだ。
冒険者の一人が、勇敢にも少女を摘みだそうと立ち上がる。病気で弱った少女が、ランクCの冒険者に放り投げられては軽傷では済まないだろう。冒険者の行動は間違いなく正しい。伝染病の発症患者がむやみに出回る事が間違いなのだ。本来なら、殺されても文句は言えない。
レイアが置いていったサンプルを見た。
………
……
…
「待ちなさい。大の大人が病気で弱った子相手に何をしようっていうのですか」
「ですが、マーガレットさん。こいつ、発病者ですぜ」
だからこそ、使い道がある。
「さぁ、お嬢さんこちらへどうぞ。詳しくお話を聞きましょう。ギルドはいつでもご依頼をいただけるお客様はウェルカムです」
「ゴッホゴホ、ありがとうございます」
「流石は、ギルドの受付嬢だ。女の格が違うわ」「なんだよあの女神」など冒険者から熱い声援を受ける。
計画通り。
◆
奥の個室スペースに連れていった。流石に、感染者をギルド本部の目立つ場所に居座せるのは些か問題である。
「失礼ですが、お嬢さんはランクD冒険者ミツル様のお子様でしょうか?」
「はい、父をご存知なのですか」
先日、同情の末にサポーターとして雇われた男だから記憶に新しい。更に言えば、兄を殺した犯人と「黒紋病」の女の子というキーワードまで揃えば誰しも行き着く答えだ。
「えぇ、勿論です。我々は、冒険者一人一人をしっかり把握しております。ミツル様は、「黒紋病」の特効薬を買う為の資金調達に迷宮に行かれているはずですが…」
「はい。父は私の薬代を稼ぐ為に迷宮へ行っております。父には、出歩くなと言われています」
「まぁ、そうでしょうね。無理をすると病状が悪化致します。今でも相当辛いのでしょう」
呼吸が乱れているだけでなく、視線も合っていない。末期の症状ではないが、無理をすれば親が帰ってくるまでもたない恐れもある。
「わかっています…。ですが、どうしても兄を殺した犯人を捕まえたいのです。父には止められていましたが、私は犯人が許せません。あんなに、優しい兄が一体何をしたっていうんですか」
死体の状況を確認したわけじゃないけど、上がってきた報告書を確認した限り…胸にぽっかり穴が空いていたらしい。誰にも気づかれず、悲鳴すらあげさせず、一瞬で絶命させたとみて間違いない。
そんな芸当ができるのは、ランクC以上の冒険者で間違いないだろう。だが、素行が悪い冒険者でも街中で人を簡単に殺すとも思えない。
そういった観点から考えれば、自ずと数人の候補が挙がってくる。候補の一人は、先日…というか、殺人があったその日に『ネームレス』に帰ってきたばかりに人物だ。
まさかね。
「それで、ギルドに犯人探しの依頼を? こう言っては何だけど…慈善事業では、ありません。お金が掛かります」
「はい。兄が私の為に貯めてくれた15万セルあります。これで、どうかお願いします」
涙を流して頭を下げる少女に同情はする。
だが、その金額では不足しているのだ。日数を限定した調査なら引き受けてくれる冒険者もいるだろう。だけど、見つかるまでとなれば話は別だ。
更に言えば、調査を進めれば必ず高ランク冒険者にブチ当たる。そんな人外な連中の身辺調査など下手すれば命に関わる。
「ごめんなさい、その額じゃ引き受けられないわ。せめて、100万以上用意してもらわないと」
「そんな大金…」
と、いい具合に落ち込んだ。
そして、すかさず救いの手を差し伸べる。
「ですが、こちらの簡単なご依頼を貴方がこなしてくれるのでしたら、不足分をギルドが補填致しましょう」
レイア謹製の治療薬など間違いなく、蟲が絡んでいる。そんな誰しもが飲みたくない新薬の臨床実験が破格で出来るのだ。必要経費としての申請も通るだろう。
「私に出来る事なら、なんでもやります」
「女の子がなんでもやるなんて言ったらダメですよ。悪い大人が多いですから発言には気をつけなさい」
「はい」
「安心して、今の貴方にとっても非常に有意義なお仕事よ。実はここに「黒紋病」の進行を一時的に止める新薬があるのよ。それを飲んで症状を観察させて」
「それだけですか?」
「えぇ、ちょっと飲みづらいかもしれないけど。一気に飲んでね」
レイアが持ってきたサンプルを渡した。
無論、新薬という事で躊躇するが…少女に残された道はないのだ。本当に、世の中悪い大人が多いから困る。
少女が瓶を手に持ち、一気に飲み込んだ。
「今までに飲んだ事がない味がします。しかも、生ぬるくてドロドロで美味しくないです」
「そう、気分の方はどう?楽になった?」
生ぬるくてドロドロか…間違いなく飲みたくないわね。せめて、高級なワインのような喉越しにして貰いたいわね。
だが、あのレイアが持ってきた薬だ…どうせ、碌でもない副作用があるに決まっている。先日の卵だって後輩がトイレで悲鳴を上げなければ危なかったのだ。
良くて、毛根が死滅するとか、悪ければ体が蟲になるとかそんな副作用があるに決まっている。
「あ…なんだか、胸の奥からスーーっとしてきました」
体の黒い斑点に変化は無かったが、充血していた目が元通りになっていた。更に言えば、熱っぽい様子も改善されていくのがわかる。
こりゃ、商品化されたらかなり売れるね。即効性がありすぎる薬だわ。
「それから、それから?」
「あ、あと…胸がなんだか重くなった気が」
………
……
…
ジロ
た、確かに先程より少し大きくなっている気がする。まさか、これが副作用!?
待て待て待て、どうせオチがあるに決まっている。一時的に胸が大きくなるが、次の日になったら一回り小さくなるとかに決まっている!!
「これは、経過観察が必要ね。明日から定期的にギルドの者を家に派遣させるわ。体に変化があったりしたら必ず伝えなさい。いいわね!!」
「は、はい」
約束通り、兄殺しの犯人は探す手配はしましょう。まぁ、見つかっても捕まえられるかは別問題ですけどね。
◇
「伝え漏れてしまったけどあの薬、副作用で胸が永続的に大きくなるんだよね。…間違って男性に使わない事を祈ろう。まぁ、無害だし問題あるまい」
いやー、それにしても嬉しい副作用が付くのは毎度の事だけど。今回の副作用はハズレだね。男性の胸が大きくなるとか誰得だね。
女性に服用させたのなら、きっと感謝される事間違いないだろう。
今後、製造しない約束だし。最悪、被害が出ても今回限りだ。
「これは、レイア様。トランスポートをご利用ですか?」
「あぁ、20層までだ」
トランスポートの管理者に金を渡して、迷宮へと移動した。
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久しぶりに、マトモな副作用なのだが…ギルドとの取り決めで永遠に封印決定なります。
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