【R18】ありがとう、チンタさん【なずみのホラー便 第20弾】

なずみ智子

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ありがとう、チンタさん(前編)

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 20✖8年12月24日、聖夜。

 暖房がきいた暖かい部屋。
 ぬくぬくあったかな天国としか形容できない自宅の居間のソファーに寝転がったまま、リュウセイは呟く。
 
「……あーもう、クリスマスイブなんて、クソくらえってんだ」

 大学生のリュウセイは、来月に成人式を迎える。
 まさに青春時代真っただ中に彼はいる。
 それなのに、彼には聖夜をともに過ごす恋人がいないのだ。
 手を繋いでクリスマスイルミネーションや夜景を眺めたり、美味しいチキン料理やケーキを食べたり、さらにベッドの中で肌を寄せ合って”1つとなる”ことができる恋人が”今年も”できなかったのだ。
  
 リュウセイと同じ大学やアルバイト先にいる、ちょっと可愛いor美人だなと思う女の子の大半は、彼氏持ちというのが相場であった。
 それならば、寂しい野郎ども(男友達)だけで、「今年は”パーリー”でもしちゃうか」って方向にもなりかけていたわけだが、今年のクリスマスイブに限っては「ごめん、今年のイブは俺も彼女と過ごすことになりそうだわ」だったり、「バイト先から招集かかった。やっぱりイブって、すっげー人が来るらしいしよ」だったりと、野郎どもまで全滅状態だ。

 となると、リュウセイの今年のクリスマスイブは、”昨年と同じ”クリスマスイブの筋書きを辿ることになる。
 姉のホシコ(34才)と2人で過ごすクリスマスイブという今まで通りの筋書きを。

 リュウセイとホシコ(漢字で書くと”流星と星子”)は、年が15才も離れた姉弟であった。そして、彼らの両親は既に鬼籍へと入っていた。
 リュウセイが6才、ホシコが21才の時に、父親が闘病の末、亡くなった。さらにその2年後、その後を追うように母が就寝中に突然死を遂げた。
 母の死に事件性や自殺の可能性は全くなかったものの、リュウセイとホシコはこの一軒家に子供たち2人だけで取り残されることとなった。

 しかし、”子供たち2人だけ”と言えども、23才のホシコはすでに成人しており、名門大学を卒業したのち社会人として働き始めていた。
 よって、まだ社会人1年目であったホシコに、姉としてだけではなく、”第2の母”としての責務までもが課せられることとなったのだ。

――姉ちゃんがまだ結婚しないのって、俺の存在が原因なのかな……姉ちゃんは美人ってほどじゃないけど、完璧アウトなデブスでは断じてないし、友達だってかなりの数いるみたいだから姉ちゃんのコミュ力そのものには問題なしだろう。(姉ちゃんは隠してたみたいけど)彼氏がいた時期だってあったから、同性が好きってワケでもなさそうだし……となると、やっぱり俺か……俺のせいだよな……


 新卒で就職した会社において、干支が一回りするほどの勤務年数であるホシコは、今では「主任」の役職についているとのことであったが、彼女の貴重な20代は仕事だけでなく、”子育て(弟育て)”にも費やされてしまうことになったのだから。

 偏差値で全てをはかるわけではないが、反抗期にも一丁前に突入していたリュウセイがそのまま非行の道へと走ることなく、姉が卒業した大学の偏差値には及ばないものの、彼にしては上出来だと思われる大学に合格し、こうして”まったりと大学生活を送ることができている”のは、第2の母であるホシコの躾や教育、そして保護があったからこそだ。

 つい先ほどまでは、非リア充である自分の境遇を呪っていたリュウセイであったが、なんだか急に自分が恥ずかしくなってきた。

――姉ちゃん、もうそろそろ帰ってくるよな。”仕事帰りに”予約してたケーキとチキンを受け取りに行くって、朝に言ってたけど……

 なんと、今日はクリスマスイブ&祝日でもあるのに、ホシコは出勤していたのだ。そのうえ、疲れてクタクタになっているであろう仕事帰りに、クリスマスケーキとチキンを雪がちらついている寒い中を歩いて、それぞれの店にまで受け取りに行くのだ。
 リュウセイは、自分が人非人であるかのように思えてきた。
 姉にばかり負担や苦労をかけず、大学も冬休みでありバイトだって今日は入っていない自分こそ、ケーキとチキンぐらいは受け取りに行くべきだったんじゃないかと。
 ぬくぬくあったかな自宅の居間のソファで、自分だけ寝転がっている場合じゃないのだ。

 思えば、リュウセイはホシコへのクリスマスプレゼントすら用意していなかった。
 リュウセイからホシコへの”初めてのクリスマスプレゼント”と言えば、両親ともにいなくなってからの初めてのクリスマスイブに、”綺麗な星空をモチーフとしたハンカチ”を贈ったことを覚えている。
 その星柄のハンカチのブランド名等はもう覚えていないが、小学生男子であったリュウセイは、かなり背伸びをしてデパートの婦人雑貨売り場をのぞいたことは今でも鮮明に思い出せる。亡くなった母ぐらいの年齢の女性店員のアドバイスのもと、貯めていたおこづかいで、自分たち姉弟の名前に共通している”星”がモチーフとなっているハンカチを選んだのだ。
 ホシコにそのハンカチをプレゼントクリスマスプレゼントとして渡した時、ホシコはそれほど喜んでいるようには”見えなかった”。
 黙ったまま”うつむいて鼻を啜っていた”ホシコは「……あんたがあんなに必死でおこづかいを貯めていたのは漫画が欲しかったからじゃなかったのね……ありがとう」とだけ言っていた。

 それから姉弟2人だけで過ごすクリスマスイブはずっと続いた。
 そして、重ねられていく年月において、いつの間にやら、互いに他愛もないことを話しつつ、お馴染みのチキンやケーキ、そしてある年にはローストビーフやパエリアやお寿司やプティングへと手を伸ばすだけの、いつもよりちょっと豪華な夕食がテーブルに並んでいるだけの聖夜へと変わってしまっていたのが事実であった。
 


 リュウセイは頭を掻きながら、ソファーより立ち上がった。
 と同時に、居間の電気がフッと消えた。
 それは”本当に突然”であった。何の前触れもなかった。

――何だ? 停電か?

 けれども、この電気が消えた居間の中のエアコンや石油ファンヒーターは全く変わらずに稼働し続けている音が聞こえている。となると、電球が切れただけだ。

 視界は急激に暗くなったとはいえ、完全なる闇ではないうえ、家具の配置などは見慣れて頭に入っているリュウセイは、電球を取りに行こうと扉へと足を向けた。

 しかし――
「?!」
 リュウセイは、”やわらかであたたかな何か”にムギュとぶつかった。
 ”やわらかであたたかな何か”。
 いや、何かなどではなく人に――”やわらかであたたかな女”にリュウセイはぶつかったのだ。

「ね、姉ちゃん?」

 玄関が開く音すら聞こえなかったのに、いつの間にホシコが帰ってきたのかとリュウセイは驚いた。
 驚くとともに、立ち昇ってくる強烈な違和感に鼻孔から全身を覆い尽くされていった。
 香水などつけない(持っていない)姉であるのに、麝香のような香りが、至近距離にいるリュウセイの鼻孔にこれでも届けられているのだ。
 そのうえ、この自分がムギュとぶつかった相手は、姉にしては”胸元にボリュームがあり過ぎる”ような気がしたのだ。

「なあ……姉ちゃん、どうしたんだよ?」

 リュウセイの問いかけに、姉は――いや、姉であると思われる(そもそも姉でなかったら、この女は一体誰だというのだ?)セクシーで濃厚な香りを身にまとっている女は答えない。

「姉ちゃん?」
「……”姉ちゃん”なんて呼んじゃイヤ。”お姉さん”と呼んで」
「!!!!!」

 発せられしその声は、姉の声ではなかった!
 ねっとりと届けられているこの麝香の香りと同じく、セクシーで濃厚な声の女は、リュウセイの胸板へと顔をうずめてきた。

 そして、そのまま”女とは思えない力で”後ろのソファーへとリュウセイをドサッと押し倒したのだ。
 それは押し倒したというよりも、”飛び倒した”といった方が正しかったかもしれない。

「わっ!!!」

 リュウセイの叫びとともに、居間はパッと明るくなった。
 元々の電球がついて明るくなったのではない。
 数刻前とはまるで違う明るさだ。
 居間全体が、まるで暖炉の赤い火に照らされたかのごとき様相へと変わっていたのだ。
 家庭的なあたたかみを醸し出している暖炉の火ではなく、どこか危うく蠱惑的な暖炉の火だ。どこからか、熱いラテン系の音楽までもが聞こえてきそうな気がする。

 そのムーディーな明るさは、リュウセイの上にいる女の顔をもはっきりと彼に見せていた。

「…………!!」

 リュウセイは息を呑む。
 女は美しかった。
 不法侵入のうえ、強引な押し倒しという被害を現在進行形で受けているリュウセイが言葉を失ってしまうほどに。

 ただ”美しい”といっても、女の美しさには様々な種類がある。  
 今、リュウセイの上にいる女――顔だけ見れば20代後半ぐらいの大変に彫りの深い女は、その腰まで伸びているウェーブがかった長い髪先までもが、女の色香に満ち溢れていた。
 「可愛い」よりも「綺麗」の要素が99%以上を占め、「清楚」よりも「妖艶」の要素が99%以上を占めているような容貌の女。
 そのうえ、女の顔から下へとチラリと目をやったリュウセイが、”より一層息を呑んでしまう”ほどの見事な乳房がブルルンと揺れていた。

――す、すげえ……!

 この冬場だというのに、もはやほとんど紐である黒の極小過激水着のような衣装からは、たわわに実った乳房が今にもこぼれんばかりであった。
 巨乳あるいは爆乳という域は飛び越え、”超乳”の一歩手前まで来ているかのような肉の果実。もぎとらずにはいられない肉の果実。
 リュウセイの下半身が硬くなり始めていた。
 肉の果実を求めている、彼の肉のナイフは鋭く尖り始めていた。

 女はフフフッと笑う。
「触りたい? いいのよ、触っても」
 そう言った女は、リュウセイを挑発するかのように、自身の赤い唇を赤い舌でペロンと舐めた。

 正直、触りたかった。
 本来なら、美しさと不気味さが混在していてより凄みを増している、得体の知れぬこの女の不法侵入を問い詰め、家から追い出すor警察に突き出すべきであろう。
 だが、目の前にある2つの誘惑がここまでブルンブルン揺れながら迫り来ては勝てそうにない。

 しかし――
 リュウセイは手を伸ばそうにも、指の一本も動かせなくなっていのだ。
 まるで思春期の身も心も不安定な時代によく体験した金縛りのように、体の自由を奪われているのだ。

 女もそれが分かっているのだろう。
 ニンマリと笑った女は、リュウセイのズボンへと手を伸ばした。
 そして、天へと刃先を向けているリュウセイの肉のナイフを、相当に馴れた手つきで取り出した。

「まあ、なんて青々しく猛々しいの。それに、”なんて綺麗なピンク色なの”。坊や……クリスマスイブなのに、1人で寂しかったでしょう。でも、今からお姉さんが坊やのこと”も”慰めてあげるわ」

 肉のナイフにソッと手を添えた女は、身をかがめた。
 そして、リュウセイの”予測通り”――

「……く……あっ……!!」

 女の舌が……ヌメヌメとした熱い”幾つもの舌”が、リュウセイの肉のナイフをさらに研ぎ澄まさんと絡みついてくる。
 麝香の匂いが強くなる。
 粘膜と粘膜が擦れ合ういやらしい音は、性的興奮をより高めるBGMであった。

 つい先ほどまで、彼女いない歴=年齢、すなわち童貞を嘆いていたリュウセイが、今や美女であり妖女であり痴女でもある女に、このようなことをされてしまっている。
 生まれて初めての口淫――それも素晴らしいテクニックでの口淫を受けている。
 このまま強制騎乗位へと突入され、童貞を奪われてしまうのでは……!!
 まさか、これが神様からリュウセイへのクリスマスプレゼントなのか?


「……ねえ、気持ちいい? 気持ちいいでしょ」
 赤く照らされた天井を見て喘ぎ続けるリュウセイに、女の蠱惑的な声が響いてきた。
 しかし、女は今、レロレロ舐めて吸っている最中であるのだ。
 女の口はふさがっているはずだ。それなのに、なぜか声が”快楽で埋め尽くされんとしている頭”に直接響いてくる。

「入れたいでしょ? ダ・メ・よ。入れさせてあげない。というより、あなたはもう、入れることがで・き・な・い」

 クスクスという女の笑い声。
 その笑い声をスイッチとしたかのように、女の舌の動きはより一層早くなり、吸引力はより一層強くなった。
 リュウセイはもう言葉にはなっていない声をあげて、のけぞった。
 このまま女の口内に、リュウセイが創造する一生分の子種を先払いで吸い取られてしまうかのようであった。

 しかし、彼の下半身からのいやらしい音は――ジュポジュポといういやらしい音が変わり始めた。
 ジュポジュポから、ギュルギュルギュルギュルという音に。
 そして、ついに”ギュルギュルシュポン”へと変わった。

 ギュルギュルシュポン!!!

 ”何か”が吸い取られたような音。
 ”何か”がリュウセイの下半身から消失してしまったような音。

 ”シュポン!”という音とともに、女はリュウセイの下半身から顔をあげた。
 満足げに自身の唇を白い指でぬぐった女は、ニッタァリと笑う。

 そして――
「ご馳走様、坊や。とっても美味しかったわ」

 そう言った女はシュッと掻き消えた。
 過剰なまでの乳房をブルンと揺らし、掻き消えた。


 ソファーでのけぞったまま、息を整えていたリュウセイの視界は、元々の明るさに戻った。
 数刻前の突然の停電など、なかったことであるかのように、部屋の電気は元に戻っていた。
 暖炉で燃えているかのごとき赤い火に照らされていた余韻など微塵も残っていなかった。
 

――夢か? 夢だったのか? にしても、なんて夢見てんだよ。俺は……!!

 自己嫌悪に陥ったリュウセイは、顔をしかめ額に手をやった。
 童貞をこじらせて、あんな超乳の”サキュバス属性っぽい女”に逆レ〇プされる夢を見てしまったのではと……
 しかし、このうえない快楽の余韻はまだ剥き出しとなっている肉のナイフに”残っているような気がした”。

 正直、もうしばらくソファーで横になっていたかったリュウセイ。
 しかし、姉のホシコがもうそろそろ帰ってくる。
 同性の兄弟であっても性器など見せてしまったら、妙な空気が漂ってしまうだろうに、異性である姉に、いくらダラリとした状態であるとはいえ自分の性器などを見せてしまうわけにはいかない。

 ムクリと起き上ったリュウセイは、ズボンの中にしまいなおそうとした。
 しかし――

「!!!!!!!!!!!!!!!」

 ない!!!
 なくなっている!!!

 リュウセイの肉のナイフが――陰茎が綺麗さっぱりなくなっているのだ!

「わああああああああああああああ!!!」

 根元からスッパリとなくなっている。
 スッパリとなくなっているも、血などは全く出ていない。鋭利な刃物で切られたような痕跡もなければ、痛みすらない。
 ただ、”ない”のだ。

「嘘だ! 嘘だろ……!!!!」

 パニックを起こしたリュウセイは、ソファーの陰やテーブルの下などをバッとのぞきこんだ。
 どこかに落ちているのはないかと思って。
 どこかに落ちているだけであると期待して。

 しかし、見つからない。
 ない。ない。ない。ない。ないいいいい―――――!!!
 


 その時――
 玄関の鍵が開く音が聞こえてきた。

「ただいまぁ」

 思わずビクッと飛びあがったリュウセイであったが、聞こえてきたのはホシコの声であった。
 姉・ホシコが、帰ってきたのだ。



※※※



「遅くなってごめんね、リュウセイ。やっぱり、どっちのお店も(ケーキのお店もチキンのお店も)すっごく混んでて……お腹すいたでしょ?」
 ケーキとチキンの箱を玄関の棚に置いたホシコ。

 髪やマフラーやコートへと、パウダーのごとく重ね付けされていた雪の粉を払っていたホシコであったが、玄関まで自分を迎えに来てくれた弟から何の返事も返ってこないことに「?」と顔をあげた。
 

「……え? どうかしたの?」

 顔面蒼白のリュウセイが、立っていた。
 家族であるホシコですら、今まで見たことないほど、顔だけでなく全身の血の気を喪失したかのようなリュウセイが立っていた。
 そのうえ、リュウセイは今にもブワッと泣き出しそうな顔を飛び越え、今にも絶叫ならびに発狂せんばかりであった。

「何があったの!?」

 ホシコの心臓が嫌な音を立て始める。雪の中を歩いて帰ってきたため、ただでさえ、いつもより早い鼓動を立てていた心臓が、ただならぬ弟の様子にさらに鼓動のスピードをあげ始める。

 しかし、リュウセイの口から苦し気に絞り出された言葉は――リュウセイをこんな顔にさせた悲劇は、(当たり前であるが)ホシコが全く予想していなかった”聖夜の悲劇”であった。

「姉ちゃん……俺のチ〇コが変な女に吸われて無くなっちまったんだ……」

「………………は?」


―――後編へと続く―――
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