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Episode10 今月も1,000字内のオムニバスショートホラー6品(全て女主人公)をお届けいたします。
Episode10-E それなのに、なぜ?
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私はいわゆるお局様だ。
けれども、私は”お局様らしからぬお局様”であろうと努力している。
ややワンマンな社長が経営する小さな会社にて、独身のまま早くも勤続二十五年。
仕事を丁寧に、そして懸命にするのはもちろんのこと、誰にでも親切に、思いやりを持って接してきた。
だが、これは人として当たり前のことでもある。
私は人々の注目の集める非凡な星の下には生まれてついてはいない。だからといって、誰も私の生き方を見ていないというわけではないのだから。
地道にコツコツと日々、心を磨き続ける。私は私なりに輝くことができたと思える人生を送るつもりだ。
現に今まで、花束を手に結婚退職、もしくは次の航路へと進む、あるいは別の方向へと舵取りをするために転職していった女子社員たちとの関係に波風が立ったことは一度もない。中には涙を流して別れを惜しんでくれた人もいたし、今でも数人とは連絡を取り合ってはいる。
そんなある日、社長の姪だという二十歳そこそこの女の子が入社してきた。
「(相手はまだいないけど)結婚退職する前に、社会という荒波に揉まれておきたいんです」とのことだ。
まだ若いことを差し引いても、彼女は物覚えが悪いうえに常識すら全く身についてはいない。
だが、私は根気強く向き合った。彼女が社長の姪だからではない。
相手が誰であったとしても、親切に、思いやりを持って接する。これが私の生き方なのだから。
しかし、私は社長に呼び出されて一方的に解雇を言い渡されてしまった。
「どうしてですか?」と問わずにいられない私に、社長は目を泳がせたあげく、口をも濁して言う。
「いや……姪が言うには、君は優しくて誰にでも親切丁寧で、他の女の子たちからも慕われているし、君を悪く言う人など誰一人としていない。そのうえ所作も綺麗で、派手ではないけど目鼻立ちも整っていて、スタイルだって年の割に悪くない。君のことは絶対にお局様だなんて言えないし、思えもしないと……本当にこんなに素敵な大人の女性が、例えるなら、物静かに、けれども凛と咲く清らかな百合の花のような女性が実在しているんだって感動すら覚えたと」
? それなのに、なぜ?
「どうやら、姪は”お局様らしいお局様”にありもしないことを言いふらされたり、ロッカーの私物にいたずらされたり、女子トイレに呼び出されてビンタされたり……といった凄まじい”荒波”こそを望んでいるようなんだよ」
(了)
けれども、私は”お局様らしからぬお局様”であろうと努力している。
ややワンマンな社長が経営する小さな会社にて、独身のまま早くも勤続二十五年。
仕事を丁寧に、そして懸命にするのはもちろんのこと、誰にでも親切に、思いやりを持って接してきた。
だが、これは人として当たり前のことでもある。
私は人々の注目の集める非凡な星の下には生まれてついてはいない。だからといって、誰も私の生き方を見ていないというわけではないのだから。
地道にコツコツと日々、心を磨き続ける。私は私なりに輝くことができたと思える人生を送るつもりだ。
現に今まで、花束を手に結婚退職、もしくは次の航路へと進む、あるいは別の方向へと舵取りをするために転職していった女子社員たちとの関係に波風が立ったことは一度もない。中には涙を流して別れを惜しんでくれた人もいたし、今でも数人とは連絡を取り合ってはいる。
そんなある日、社長の姪だという二十歳そこそこの女の子が入社してきた。
「(相手はまだいないけど)結婚退職する前に、社会という荒波に揉まれておきたいんです」とのことだ。
まだ若いことを差し引いても、彼女は物覚えが悪いうえに常識すら全く身についてはいない。
だが、私は根気強く向き合った。彼女が社長の姪だからではない。
相手が誰であったとしても、親切に、思いやりを持って接する。これが私の生き方なのだから。
しかし、私は社長に呼び出されて一方的に解雇を言い渡されてしまった。
「どうしてですか?」と問わずにいられない私に、社長は目を泳がせたあげく、口をも濁して言う。
「いや……姪が言うには、君は優しくて誰にでも親切丁寧で、他の女の子たちからも慕われているし、君を悪く言う人など誰一人としていない。そのうえ所作も綺麗で、派手ではないけど目鼻立ちも整っていて、スタイルだって年の割に悪くない。君のことは絶対にお局様だなんて言えないし、思えもしないと……本当にこんなに素敵な大人の女性が、例えるなら、物静かに、けれども凛と咲く清らかな百合の花のような女性が実在しているんだって感動すら覚えたと」
? それなのに、なぜ?
「どうやら、姪は”お局様らしいお局様”にありもしないことを言いふらされたり、ロッカーの私物にいたずらされたり、女子トイレに呼び出されてビンタされたり……といった凄まじい”荒波”こそを望んでいるようなんだよ」
(了)
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