２０２０年版 ルノルマン・カードに導かれし物語たちよ！

Episode７ 共通テーマは「お肉」の４品？ 短編ホラー２本と1000字内ショートホラー２本

Episode７－C 幸福な肉 ※1000字内ショートホラー

　人間なんて所詮、色んな所が出っ張ったり引っ込んだりしているだけの単なる肉だ。だが、その肉たちは金の有る無しによって幸福な肉か不幸な肉かに振り分けられてしまう。
　これが陽太の持論だった。
　碌に仕事も続かず、食べる物にも事欠き続けている彼は、自身が不幸な肉であることを自覚していた。確かに彼は不幸な肉であったが”特異な肉”でもあった。

　なんと、彼は自由自在に鳥に変身できるのだ。
　たゆまぬ努力と研究によって有人動力飛行を成し遂げ歴史に名を残した偉人たち――ウィルバー・ライトにオーヴィル・ライト、グスターヴ・ホワイトヘッドなどよりも、この身一つで空を飛べる自分の方が上だと彼は愚かにも思っていた。
　しかし、見世物や研究対象にされるなんてまっぴらであったため、陽太は自身が言葉通りの鳥人間であることを誰にも話さなかった。

　そして現在、金銭的窮地に陥った彼は自分の力を犯罪に、それも身代金目的誘拐に利用しようと考えていた。
　鳥の姿でターゲットを拉致する。
　空飛ぶ誘拐犯とはスマートで斬新だ、と自画自賛する陽太。
　ターゲットもすでに決めていた。
　大手お菓子会社の一人息子・白頭雷翔（しらず・らいと）くん、小学２年生だ。
　
　犯行当日。　
　鳥になった陽太は、下校途中の雷翔くんの両腕をガシッと掴むことに成功した。
　そのまま空を飛び、アジトにまで連れて行く計画であった。
　しかし……

　お、重い！　子どもって、こんなに重たかったのか？！

　それもそのはず、雷翔くんは超栄養たっぷりな子どもであった。
　小学２年生でもあるも、まるで相撲取りのごとき貫禄があり、見た目は５、６年生といっても通用するほどだ。
　対する陽太は、成人とはいえ栄養も体力も……そもそも頭が足りていなかった。

　や、やべえ！　でも離すものか！　俺が金を手に入れるためにも、こいつを……この幸福な肉を絶対に離すものか！！

　暴れ喚く雷翔くんを掴んだまま、低空飛行せざるを得なかった陽太の集中力は乱れに乱れ……陽太はついに空中で人間形態へと戻ってしまった！

　雷翔くんは、どこかの気取った洋館内の花壇の百合の上にドサッと落っこちた。
　幸運で幸福な肉は、打ち身と擦り傷だけで助かったようだ。

　だが陽太は、不運で不幸な肉はそうではなかった。
　同じく気取った洋館内の、空を向いてツンとお澄ましした鉄製の柵に”体の出っ張った肉”もろとも、ブチュリッ！と貫かれてしまったのだから……


――完――