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Episode1 しょっぱなからオムニバス! 男性主人公&童話風オムニバスホラー3品
Episode1-C 夢の中の美しき娘のために物語を書き続けた純情な男のお話
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今からお話しするのは、昔々の……とは言っても”それほど昔ではない”時代のお話です。
まず、”それほど昔ではない”と一言で言っても、あやふやで分かりにくいですよね。
そうですね……先進国に焦点を絞ってお話するなら、印刷技術の発達によって文学作品が世に流通し、お金と機会と興味さえあれば誰でもそれらに手を伸ばすことができるようになった時代です。
そして、ある程度の学力とお金があれば、身分にかかわらず高等教育を受けることができる、そんな時代です。
とある国に、ロドルフという名前の一人の青年がいました。
彼は大学に通い、文豪たちの多数の作品に触れながら、日々、激しく燃え上がる情熱とともに自らも物語を書いていました。
しかし、彼は自身の物語を完結できたことは一度もありませんでした。
何事にも始めと終わりがあります。
そう、物語にも必ず幕引きが必要となります。
ですが、原稿用紙の上で彼のペンが奏でるダンスは、途中までは軽やかであれど次第に失速し、その場に立ち尽くしてしまうのです。
ロドルフにはアイデアがありました。文章力や知識だってそれなりにありました。
もちろん物語への情熱こそ、彼を書かずにいられなくさせている原動力です。
何度も何度も挫折したなら、諦める人が大半でしょう。
けれども、ロドルフは諦めませんでした。
彼は自分が物語を書いていることを、両親や友人にも話してはいませんでした。
鼻で笑われるのは想定内であるうえ、叶いもしない望みを抱くな、地に足を着けて生きろ、お前には無理だ、現実を見ろ、と説教されるのが関の山だと思っていたからです。
他人の声は夢の行く手を遮る――ロドルフの情熱の炎に冷たい水をびちゃびちゃとかけてこようとすることもあるのですから。
確かに夢は叶うことと叶わないことがあります。
ロドルフの夢が他人に迷惑を――精神的、肉体的、金銭的損害を与えているなら、一刻も早く軌道修正した方がいいと思いますが、そうではないため、彼は一日たりとて休むことなく机へと向かっていたのです。
こんな彼が物語を書いていると知っているのは、彼が暮らす下宿の窓から見える月だけでした。
煌々と輝く月は、彼のたった一人の応援者のようでした。
新月の晩には月はその姿こそ見せませんが、彼のことを毎夜変わらずに見守ってくれていました。
そんなある夜のことです。
日々、眠る時間を削って勉学のみならず物語を書く時間に充てていた彼は、疲れ切っていたのか、ベッドにも潜りこむと同時にすうっと眠りに落ちていきました。
深い深い眠りへと。
ロドルフは、現実世界と夢の中の世界の境目がはっきりしているタイプでした。
今の俺は夢を見ている、ここは夢の世界だと、彼はすぐに認識しました。
草原に聳え立つ月下の塔。
その塔は伸びた蔦に全身を覆われており、第一印象としては不気味でありました。
ロドルフが書く物語は純愛物語が多く、恋愛経験は皆無に近い彼が、想像力、もとい妄想力を駆使してそれらを書いていました。
それなのに、彼自身の潜在意識が見せているであろう光景は、まるで恐怖小説の冒頭部分のようです。
けれども、清冽な風がロドルフの頬を撫でました。
夢にも匂いや感触はあるのです。
風に吹かれた草がロドルフの足元をくすぐりました。その風は生まれたての露の匂いを含んでいました。
ふと、塔の最上階の窓から、人影が見えました。
どうやら女であるらしいその人影は、”さあ、こっちにいらっしゃい、ほら、私はここにいるわよ”とロドルフを挑発、もとい誘っているかのようでありました。
ロドルフは一歩を踏み出しました。
現実世界においては、どちらかというと慎重派で、悪く言えば臆病な性質であるロドルフですのに、ここは自分の夢の中だという保証があるため、彼は塔の中へと入っていきました。
この先に何が待ち構えているのかは分かりません。
悪魔や吸血鬼かもしれないし、満月の夜ならでのルー・ガルー(ウェアウルフ)かもしれません。
ロドルフの今宵の夢は、汗びっしょりになって目覚めることになる悪夢かもしれませんね。
長い長い塔の階段を登っていたロドルフ。
最上階で彼を待っていたのは一人の娘でした。
月の輝きのごとき金色の髪と瞳の、それはそれは美貌の娘でした。
愛らしくもあるし、美しくもあります。
間違いなく娘と呼べる年齢ですが、どこか聖母のような神々しさと母性をも併せ持っている不思議な娘でありました。
夢の中とはいえ、娘の美貌に息も止まらんばかりになったロドルフですが、少しばかり落ち着くと、彼はこの娘を知っているような気がしてました。
見たことあるのではなくて、知っているという妙な感覚です。
き、君の名前は……? と問うたロドルフの声は裏返っていました。
私の名前はあなたが決めてください、と娘は優しい声で答えました。
ロドルフは彼女に”リュシエンヌ”という名前を付けました。
物語を書く際にも、登場人物の名付けは大切だと考えているロドルフですから、彼女には彼の国の言葉で”光”を意味する名前を与えたのです。
彼女はにっこりと笑ってくれたので、リュシエンヌという名前を気に入ってくれたのでしょう。
美貌の娘・リュシエンヌは、ロドルフの夢の一夜限定の登場人物では終わりませんでした。
ロドルフは毎夜の夢の中で、彼女と塔の中での逢瀬を重ねるようになったのです。
彼女と言葉を交わすことはありません。
ただ毎夜、彼女とダンスを踊るのです。
どこからか聞こえてくる、切ないほどに懐かしい音楽に合わせて、ステップを踏むというよりも、ロドルフの有り余るほどの情熱という力を、ほっそりとした彼女が上手くリードしてくれているようです。
不思議なことに、ロドルフはダンスを踊っているはずなのに、現実の彼が書いている物語たちが次々につながって、一つの形として完成しつつあるのを”心の中で”見ていました。
ロドルフの偉いところは、”夢は単なる夢”と切り離して考えることなく、枕元にペンと原稿用紙を常備し、目を覚ますとすぐに、月夜のダンスとともに心の中で展開された光景を――自らが紡ぎゆく物語の旋律を書き留めていったのです。
リュシエンヌとのダンスを重ねていくうちに、ロドルフはついに物語を完結させることができました。
そして、そんな彼が”創作の喜びに心を躍らせながら完結させた”幾つもの物語を自分以外の者に見せていくうちに、彼はいつの間にやら有名となり、文学界の成功者として、もてはやされるようになりました。
いまや、まさに時の人となったロドルフ。
まるで物語みたいに都合のいい話ですが、これは紛れもないロドルフの現実でした。
有名になりたい、成功しても持て囃されたい、という承認欲求をを第一に満たそうとしなかったのが良かったのかもしれません。
有名人にもなると、やっぱりたくさんの人が寄ってきます。
相手が有名人というだけで、分かりやすいほどに態度を変える人というのは、いつの時代もいるのです。
ロドルフには、一気に親戚や親友が増えました。
それに……栄光浴というのでしょうか?
ロドルフとそう親しくもないのに、彼との繋がりをアピールし、自分までもが成功者であるかのような言動を見せる人もいました。
さらに……興味半分か、はたまたお金目当てか、ロドルフが一般人だったら、彼に見向きもしなかったであろう雲の上の女性までもが粉をかけてきました。
もともと女性に縁遠くて遊び慣れておらず、成功者となった今もスリーズ(チェリー)のままなロドルフです。
彼は有名になったからといって、尊大な態度をとったり、調子に乗ったりするような愚かな人間ではありません。
突然の環境の変化に適応できず、呼ばれたパーティーで美女と乱痴気騒ぎを起こしたり、はたまた怪しいお薬で身を持ち崩したりといった醜聞は彼には無縁のことでした。
元々の彼の賢明さのみならず、彼の心の中にはリュシエンヌがいたのも大きかったのでしょう。
ちなみに、彼は夢の中においても、女を知らぬ超純情ボーイのままでした。
夢の世界は、言わば何でもありな場所です。
下品な例えではありますが、リュシエンヌとのダンスと途中で打ち切って、ギャオオンと狼に変身し、彼女に襲いかかったとしてもロドルフの手に手錠がかけられることはありません。
ロドルフは彼女を愛していました。
いくら夢とはいえ、無体なことはできません。
それに、ロドルフは思っていたのです。
彼女はこの世界のどこかに本当にいる気がする、きっと俺は夢を通じて彼女の意識と繋がっているに違いない、なんとか”現実のリュシエンヌ”に会ってみたい、と。
よって、ますます執筆活動に力を入れるようになったロドルフの最新作であり、完成までに一年を有することとなった過去最長の長編の主人公の名は”リュシエンヌ”となりました。
主人公の名前が”リュシエンヌ”なら、題名も『リュシエンヌ』。
ただ甘いだけの恋愛物語ではなく、少しだけ恐怖というスパイスも取り入れてみました。
自らの運命を呪いつつも人間と共存して生きようとする心優しきルー・ガルーと、月の女神のごとく美しくどこまでも可憐な娘・リュシエンヌとの切ない恋物語です。
純情な彼は、夢の中の美しき娘のために物語を書き続け、ついに完成させたのです。
ロドルフもさすがに、相手役の狼男の名前を自身の名前にするなどといった、こっぱずかしいことできなかったのですが、”リュシエンヌに届きますように”と彼が渾身の思いで書き上げたこの物語こそが、彼女へのラブレターそのものでありました。
さて、現実のリュシエンヌは、彼の物語をそのたおやかな手に取って、彼へと何らかのメッセージを返してくれるでしょうか?
そもそも、リュシエンヌは現実に存在している女性なのでしょうか?
『リュシエンヌ』の社会的評判は上々でありました。
ロドルフの名声はますます高まり、認知度と読者数を上げていきました。
前にも増して、たくさんの手紙がロドルフの元に届くようになり、手紙の中には”この本のヒロインは私です。私のために書いてくださったのですね”といったメッセージが記されているものも”幾つか”ありました。
その手紙を受け取ったロドルフは、実際に彼女たちの何人かに会いにいったのですが、大抵、リュシエンヌとは似てもにつかぬ面妖な女性であったり、目を覚ましたままドリーミーな世界で生きている女性であったりしました。
そんなある日の昼下がりです。
ロドルフは一人で橋の上を歩いていました。
彼は突然、後ろから肩を叩かれました。
振り返ったロドルフの目に映ったのは、見知らぬ若い男でした。
削れた頬とやつれて荒れた肌をしているのに、目だけは獣のように爛々とギョロギョロとしている異様な雰囲気の男です。
それに知り合いでもないのに、いくら男同士とはいえ、いきなり肩を叩いてくる――体に触ってくるという馴れ馴れしさに、ロドルフは嫌な予感がしました。
案の定、男は自分の名を名乗りもせずに、ロドルフへと早口でまくしたてきます。
男はどうやらロドルフのファンというわけではなく、ロドルフの書いた物語全般が気に入らないらしいです。
お前が書いた物語は全てありきたりだ、つまらない、駄作だ、あんなものは俺でも書ける、いや俺の方が素晴らしい物語を書ける、なのに、なんでお前なんかが脚光を浴びているんだ、俺の方が凄いのに、絶対に凄いのに、お前が成功しているなんておかしい、お前なんかが幸運の女神に愛されるなんておかしいだろ、と男は涙を光らせた目でロドルフを睨みつけてきます。
そうです。
有名となってからというもの、ロドルフの周りは彼に好意的な人ばかりではありませんでした。
どこにでも光あれば影あり。不特定多数からの好意もあれば敵意もあり。
妬み、嫉み、羨み、あるいは単にロドルフの物語が自分の感性に合わないというだけでわざと聞こえるように陰口を叩かれたり、新聞記事で作品をこき下ろされたり、剃刀入りの手紙を自宅に届けられて指を切ってしまったこともありました。
有名税とはいえ、相手はロドルフを知っていても、ロドルフは相手を知らないというのは怖いものです。
それが普通に話ができない相手であるならなおさら……
ロドルフの嫌な予感は的中しました。
なんと、男は懐からナイフを取り出したのです!
ロドルフと男は、もみ合いとなりました。
男のナイフが、橋べりへと追い詰められてしまったロドルフの腹部に深々と刺さりました。
バランスを崩したロドルフは、お腹を真っ赤に染めたまま、川へと落ちていきました……
その日の夜。
冷たく暗い川の中より、ロドルフの遺体が発見されました。
腹部にナイフが刺さったままの彼の死因は水死でした。
可哀想に。
いっそのこと、最初の凶刃で即死状態であったなら、まだ死の苦痛は幾分かマシであったでしょう。
人間誰しもが死を迎えます。
ただ、それぞれの最期は千差万別であり、ロドルフの人生という物語は、他殺という形で終幕を迎えたのです。
ロドルフを刺した男は、すぐにその場で取り押さえられました。
おそらく数年内に、男はギロチンにかけられるはずです。
まさにこれからの新進気鋭の作家のあまりにも早すぎる死を誰もが悼みました。
教会で行われたロドルフの葬儀には多くの人が参列し、棺の中で眠る彼に永遠の別れを告げました。
ロドルフの魂もそこにいました。
自分が死んでしまったことを理解していた彼は、ただただ自身の葬儀の光景を眺めていました。
自分の死を悼んでくれている者たちの中には、単なる損得勘定や話題性を求めて葬儀に来てくれたのではなく”本当に”自分の作品を愛して涙を流してくれている者も多数いるのだ、とロドルフは思わずにはいられませんでした。
一度でも世に出ることができただけ、ロドルフは幸せだったのかもしれません。
世の脚光を浴びたことこそが彼が早世する原因となったのですが、たった一度も日の目を見ることなく、この世を去る者も多数いる……というよりもそういった者が大半であるのですから。
自分の人生を理不尽に終わらせた殺人者への恨みと憎しみ、恐怖はもちろんありましたが、何よりもロドルフは無念と心残りによって、この世を離れることができそうになかったのです。
まだまだ作家として生きたかった。書き続けたかった。
けれども、棺の中にいる自分の冷たい手はもうペンを握ることができない。
自分の物語を愛してくれている人々にも、そして、リュシエンヌにも物語を届けることもできない……
その時です。
いよいよ天国からのお迎えでしょうか?
頭上より光がパアッと降り注いできました。
ここは教会の中であるのに、あの夢での月の光のごとく神々しく清らかな光でした。
なんと、光の中からはリュシエンヌが……彼がこの世で探し求めていたリュシエンヌが現れ、ふわりと下り立ったのです!
リュシエンヌが見ているのは、魂となってここにいるロドルフただ一人だけのようでした。
これは……
ロドルフがいくら彼女を探しても会うことができなかったのは、彼女がすでにこの世の者ではなかったからなのでしょうか?
それとも、やはり彼女は人智を越えた存在――天使か女神であったのでしょうか?
リュシエンヌの瞳の目には、涙が光っていました。
彼女はきっとロドルフの身に何が起こったのかをすでに知っているのでしょう。
手を繋ぎ合ったロドルフとリュシエンヌ。
どちらも実体ではない、魂の身の状態であるはずなのに、互いのあたたかさが伝わってきました。
ロドルフの唇がリュシエンヌの唇に重なり合います。
身も心も純情なまま、現世を生き抜いてきた彼の最初で最後の口づけでした。
ロドルフはリュシエンヌに口づけたつもりでした。
今までの感謝と彼女を愛しているということ、そして永遠の別れをも彼女に告げるために。
ですが、彼が目を開けた時、リュシエンヌはいなくなっていました。
その代わり、顔を赤くしたおっさんがロドルフを見つめ返していました。
え?
ええっ!?
あまりの驚きに悲鳴もあげられなくなっているロドルフ。
しかも、ロドルフはこのおっさんを知っているような気がしてました。
見たことあるのではなくて、知っているという妙な感覚――初めてリュシエンヌに会った時と同じ感覚です。
魔法が解けちまったな、とおっさんは言いました。
魔法……?
あの……魔法が解けるといったら、普通は蛙が王子様になったり、野獣が王子様になったり、いや”本来の姿に戻る”のですよね。
リュシエンヌは、おっさんだったのですか?
こんなどこにでもいるような、例えるなら仕事が終わると庶民的な酒場で仲間たちとお酒を飲んでいるようなおっさんだったのですか?
生活感に溢れ、この世の酸いも甘いも噛み分けたかのようなおっさんだったのですか?
ロドルフの甘く切ない夢のオチが”これ”とは……
不思議と目の前のおっさんに嫌悪感を感じることはなかったロドルフですが、あまりの驚愕に、まだ言葉を発することができませんでした。
俺はな……なんっつうかミューズみたいなモンなんだよ、とおっさんは薄くなった頭に手をやって言いました。
ミューズ。
他国ではムーサとも言います。とある国の神話に出てくる芸術と学問の”女神”のことです。
おっさんは続けます。
ロドルフ、”俺たち”は毎夜、お前を見ていた。お前の物語への情熱と才能が俺たちを引き寄せ、俺がお前の担当になった。俺は夢を通じてお前の持つあらゆる力をリードすることにしたんだ。このままの姿でお前とダンスを踊っても良かったんだが、やっぱり見てくれとムードは大切だろう? と。
無名時代のロドルフをずっと見守っていたのは夜空の月だけではなく、ミューズたちも見守っていたのです。
ロドルフの情熱、そして元々の才能とアイデアのストックという下地も充分であったからこそ、ミューズの一人がロドルフへと手を出し、夢を通じてロドルフの成功を後押ししたということでしょうか?
それに、確かに見てくれとムードは大切ですよね。
夢から完全に覚めることになったロドルフですが、彼は”元リュシエンヌ”へと、再び黙って手を差し出しました。
まだまだこれからだったのにな、運命とは酷なものだ、と、おっさんは涙をこらえながらロドルフの手を取りました。
ロドルフには彼に騙されたという憎しみは微塵もありませんでした。
確かにリュシエンヌの姿そのものは幻でありました。
けれども、ロドルフの彼女への思いは真実でした。
何より、彼女を思って物語を書き続けた日々も決して無駄なものなどではありません。
創作の喜びに包まれていた日々は、苦しいこともあれどロドルフは心より生きていると思えました。
ロドルフがミューズとともに紡ぎあげた物語たちは、この世の人々の心にあと十数年は残るはずです。
もしかしたら、ロドルフが考えているよりもずっと長く……彼の物語たちは何十年あるいは何百年と生き続けるかもしれません。
ロドルフとおっさんは固い握手を交わしました。
ともに踊ったパートナー――ともに物語を紡ぎあげたパートナーとして最後の握手を。
いいえ、これが最後――永遠の別れではないかもしれません。
魂は生まれ変わるのです。
姿かたちや時代は違えど、ロドルフはまたこの世に産声を上げるに違いありません。
それに、眩い光に包まれゆき天へと上りゆくロドルフ自身も言ったのですから。
また、俺と一緒に踊ってくれよ、と。
――完――
まず、”それほど昔ではない”と一言で言っても、あやふやで分かりにくいですよね。
そうですね……先進国に焦点を絞ってお話するなら、印刷技術の発達によって文学作品が世に流通し、お金と機会と興味さえあれば誰でもそれらに手を伸ばすことができるようになった時代です。
そして、ある程度の学力とお金があれば、身分にかかわらず高等教育を受けることができる、そんな時代です。
とある国に、ロドルフという名前の一人の青年がいました。
彼は大学に通い、文豪たちの多数の作品に触れながら、日々、激しく燃え上がる情熱とともに自らも物語を書いていました。
しかし、彼は自身の物語を完結できたことは一度もありませんでした。
何事にも始めと終わりがあります。
そう、物語にも必ず幕引きが必要となります。
ですが、原稿用紙の上で彼のペンが奏でるダンスは、途中までは軽やかであれど次第に失速し、その場に立ち尽くしてしまうのです。
ロドルフにはアイデアがありました。文章力や知識だってそれなりにありました。
もちろん物語への情熱こそ、彼を書かずにいられなくさせている原動力です。
何度も何度も挫折したなら、諦める人が大半でしょう。
けれども、ロドルフは諦めませんでした。
彼は自分が物語を書いていることを、両親や友人にも話してはいませんでした。
鼻で笑われるのは想定内であるうえ、叶いもしない望みを抱くな、地に足を着けて生きろ、お前には無理だ、現実を見ろ、と説教されるのが関の山だと思っていたからです。
他人の声は夢の行く手を遮る――ロドルフの情熱の炎に冷たい水をびちゃびちゃとかけてこようとすることもあるのですから。
確かに夢は叶うことと叶わないことがあります。
ロドルフの夢が他人に迷惑を――精神的、肉体的、金銭的損害を与えているなら、一刻も早く軌道修正した方がいいと思いますが、そうではないため、彼は一日たりとて休むことなく机へと向かっていたのです。
こんな彼が物語を書いていると知っているのは、彼が暮らす下宿の窓から見える月だけでした。
煌々と輝く月は、彼のたった一人の応援者のようでした。
新月の晩には月はその姿こそ見せませんが、彼のことを毎夜変わらずに見守ってくれていました。
そんなある夜のことです。
日々、眠る時間を削って勉学のみならず物語を書く時間に充てていた彼は、疲れ切っていたのか、ベッドにも潜りこむと同時にすうっと眠りに落ちていきました。
深い深い眠りへと。
ロドルフは、現実世界と夢の中の世界の境目がはっきりしているタイプでした。
今の俺は夢を見ている、ここは夢の世界だと、彼はすぐに認識しました。
草原に聳え立つ月下の塔。
その塔は伸びた蔦に全身を覆われており、第一印象としては不気味でありました。
ロドルフが書く物語は純愛物語が多く、恋愛経験は皆無に近い彼が、想像力、もとい妄想力を駆使してそれらを書いていました。
それなのに、彼自身の潜在意識が見せているであろう光景は、まるで恐怖小説の冒頭部分のようです。
けれども、清冽な風がロドルフの頬を撫でました。
夢にも匂いや感触はあるのです。
風に吹かれた草がロドルフの足元をくすぐりました。その風は生まれたての露の匂いを含んでいました。
ふと、塔の最上階の窓から、人影が見えました。
どうやら女であるらしいその人影は、”さあ、こっちにいらっしゃい、ほら、私はここにいるわよ”とロドルフを挑発、もとい誘っているかのようでありました。
ロドルフは一歩を踏み出しました。
現実世界においては、どちらかというと慎重派で、悪く言えば臆病な性質であるロドルフですのに、ここは自分の夢の中だという保証があるため、彼は塔の中へと入っていきました。
この先に何が待ち構えているのかは分かりません。
悪魔や吸血鬼かもしれないし、満月の夜ならでのルー・ガルー(ウェアウルフ)かもしれません。
ロドルフの今宵の夢は、汗びっしょりになって目覚めることになる悪夢かもしれませんね。
長い長い塔の階段を登っていたロドルフ。
最上階で彼を待っていたのは一人の娘でした。
月の輝きのごとき金色の髪と瞳の、それはそれは美貌の娘でした。
愛らしくもあるし、美しくもあります。
間違いなく娘と呼べる年齢ですが、どこか聖母のような神々しさと母性をも併せ持っている不思議な娘でありました。
夢の中とはいえ、娘の美貌に息も止まらんばかりになったロドルフですが、少しばかり落ち着くと、彼はこの娘を知っているような気がしてました。
見たことあるのではなくて、知っているという妙な感覚です。
き、君の名前は……? と問うたロドルフの声は裏返っていました。
私の名前はあなたが決めてください、と娘は優しい声で答えました。
ロドルフは彼女に”リュシエンヌ”という名前を付けました。
物語を書く際にも、登場人物の名付けは大切だと考えているロドルフですから、彼女には彼の国の言葉で”光”を意味する名前を与えたのです。
彼女はにっこりと笑ってくれたので、リュシエンヌという名前を気に入ってくれたのでしょう。
美貌の娘・リュシエンヌは、ロドルフの夢の一夜限定の登場人物では終わりませんでした。
ロドルフは毎夜の夢の中で、彼女と塔の中での逢瀬を重ねるようになったのです。
彼女と言葉を交わすことはありません。
ただ毎夜、彼女とダンスを踊るのです。
どこからか聞こえてくる、切ないほどに懐かしい音楽に合わせて、ステップを踏むというよりも、ロドルフの有り余るほどの情熱という力を、ほっそりとした彼女が上手くリードしてくれているようです。
不思議なことに、ロドルフはダンスを踊っているはずなのに、現実の彼が書いている物語たちが次々につながって、一つの形として完成しつつあるのを”心の中で”見ていました。
ロドルフの偉いところは、”夢は単なる夢”と切り離して考えることなく、枕元にペンと原稿用紙を常備し、目を覚ますとすぐに、月夜のダンスとともに心の中で展開された光景を――自らが紡ぎゆく物語の旋律を書き留めていったのです。
リュシエンヌとのダンスを重ねていくうちに、ロドルフはついに物語を完結させることができました。
そして、そんな彼が”創作の喜びに心を躍らせながら完結させた”幾つもの物語を自分以外の者に見せていくうちに、彼はいつの間にやら有名となり、文学界の成功者として、もてはやされるようになりました。
いまや、まさに時の人となったロドルフ。
まるで物語みたいに都合のいい話ですが、これは紛れもないロドルフの現実でした。
有名になりたい、成功しても持て囃されたい、という承認欲求をを第一に満たそうとしなかったのが良かったのかもしれません。
有名人にもなると、やっぱりたくさんの人が寄ってきます。
相手が有名人というだけで、分かりやすいほどに態度を変える人というのは、いつの時代もいるのです。
ロドルフには、一気に親戚や親友が増えました。
それに……栄光浴というのでしょうか?
ロドルフとそう親しくもないのに、彼との繋がりをアピールし、自分までもが成功者であるかのような言動を見せる人もいました。
さらに……興味半分か、はたまたお金目当てか、ロドルフが一般人だったら、彼に見向きもしなかったであろう雲の上の女性までもが粉をかけてきました。
もともと女性に縁遠くて遊び慣れておらず、成功者となった今もスリーズ(チェリー)のままなロドルフです。
彼は有名になったからといって、尊大な態度をとったり、調子に乗ったりするような愚かな人間ではありません。
突然の環境の変化に適応できず、呼ばれたパーティーで美女と乱痴気騒ぎを起こしたり、はたまた怪しいお薬で身を持ち崩したりといった醜聞は彼には無縁のことでした。
元々の彼の賢明さのみならず、彼の心の中にはリュシエンヌがいたのも大きかったのでしょう。
ちなみに、彼は夢の中においても、女を知らぬ超純情ボーイのままでした。
夢の世界は、言わば何でもありな場所です。
下品な例えではありますが、リュシエンヌとのダンスと途中で打ち切って、ギャオオンと狼に変身し、彼女に襲いかかったとしてもロドルフの手に手錠がかけられることはありません。
ロドルフは彼女を愛していました。
いくら夢とはいえ、無体なことはできません。
それに、ロドルフは思っていたのです。
彼女はこの世界のどこかに本当にいる気がする、きっと俺は夢を通じて彼女の意識と繋がっているに違いない、なんとか”現実のリュシエンヌ”に会ってみたい、と。
よって、ますます執筆活動に力を入れるようになったロドルフの最新作であり、完成までに一年を有することとなった過去最長の長編の主人公の名は”リュシエンヌ”となりました。
主人公の名前が”リュシエンヌ”なら、題名も『リュシエンヌ』。
ただ甘いだけの恋愛物語ではなく、少しだけ恐怖というスパイスも取り入れてみました。
自らの運命を呪いつつも人間と共存して生きようとする心優しきルー・ガルーと、月の女神のごとく美しくどこまでも可憐な娘・リュシエンヌとの切ない恋物語です。
純情な彼は、夢の中の美しき娘のために物語を書き続け、ついに完成させたのです。
ロドルフもさすがに、相手役の狼男の名前を自身の名前にするなどといった、こっぱずかしいことできなかったのですが、”リュシエンヌに届きますように”と彼が渾身の思いで書き上げたこの物語こそが、彼女へのラブレターそのものでありました。
さて、現実のリュシエンヌは、彼の物語をそのたおやかな手に取って、彼へと何らかのメッセージを返してくれるでしょうか?
そもそも、リュシエンヌは現実に存在している女性なのでしょうか?
『リュシエンヌ』の社会的評判は上々でありました。
ロドルフの名声はますます高まり、認知度と読者数を上げていきました。
前にも増して、たくさんの手紙がロドルフの元に届くようになり、手紙の中には”この本のヒロインは私です。私のために書いてくださったのですね”といったメッセージが記されているものも”幾つか”ありました。
その手紙を受け取ったロドルフは、実際に彼女たちの何人かに会いにいったのですが、大抵、リュシエンヌとは似てもにつかぬ面妖な女性であったり、目を覚ましたままドリーミーな世界で生きている女性であったりしました。
そんなある日の昼下がりです。
ロドルフは一人で橋の上を歩いていました。
彼は突然、後ろから肩を叩かれました。
振り返ったロドルフの目に映ったのは、見知らぬ若い男でした。
削れた頬とやつれて荒れた肌をしているのに、目だけは獣のように爛々とギョロギョロとしている異様な雰囲気の男です。
それに知り合いでもないのに、いくら男同士とはいえ、いきなり肩を叩いてくる――体に触ってくるという馴れ馴れしさに、ロドルフは嫌な予感がしました。
案の定、男は自分の名を名乗りもせずに、ロドルフへと早口でまくしたてきます。
男はどうやらロドルフのファンというわけではなく、ロドルフの書いた物語全般が気に入らないらしいです。
お前が書いた物語は全てありきたりだ、つまらない、駄作だ、あんなものは俺でも書ける、いや俺の方が素晴らしい物語を書ける、なのに、なんでお前なんかが脚光を浴びているんだ、俺の方が凄いのに、絶対に凄いのに、お前が成功しているなんておかしい、お前なんかが幸運の女神に愛されるなんておかしいだろ、と男は涙を光らせた目でロドルフを睨みつけてきます。
そうです。
有名となってからというもの、ロドルフの周りは彼に好意的な人ばかりではありませんでした。
どこにでも光あれば影あり。不特定多数からの好意もあれば敵意もあり。
妬み、嫉み、羨み、あるいは単にロドルフの物語が自分の感性に合わないというだけでわざと聞こえるように陰口を叩かれたり、新聞記事で作品をこき下ろされたり、剃刀入りの手紙を自宅に届けられて指を切ってしまったこともありました。
有名税とはいえ、相手はロドルフを知っていても、ロドルフは相手を知らないというのは怖いものです。
それが普通に話ができない相手であるならなおさら……
ロドルフの嫌な予感は的中しました。
なんと、男は懐からナイフを取り出したのです!
ロドルフと男は、もみ合いとなりました。
男のナイフが、橋べりへと追い詰められてしまったロドルフの腹部に深々と刺さりました。
バランスを崩したロドルフは、お腹を真っ赤に染めたまま、川へと落ちていきました……
その日の夜。
冷たく暗い川の中より、ロドルフの遺体が発見されました。
腹部にナイフが刺さったままの彼の死因は水死でした。
可哀想に。
いっそのこと、最初の凶刃で即死状態であったなら、まだ死の苦痛は幾分かマシであったでしょう。
人間誰しもが死を迎えます。
ただ、それぞれの最期は千差万別であり、ロドルフの人生という物語は、他殺という形で終幕を迎えたのです。
ロドルフを刺した男は、すぐにその場で取り押さえられました。
おそらく数年内に、男はギロチンにかけられるはずです。
まさにこれからの新進気鋭の作家のあまりにも早すぎる死を誰もが悼みました。
教会で行われたロドルフの葬儀には多くの人が参列し、棺の中で眠る彼に永遠の別れを告げました。
ロドルフの魂もそこにいました。
自分が死んでしまったことを理解していた彼は、ただただ自身の葬儀の光景を眺めていました。
自分の死を悼んでくれている者たちの中には、単なる損得勘定や話題性を求めて葬儀に来てくれたのではなく”本当に”自分の作品を愛して涙を流してくれている者も多数いるのだ、とロドルフは思わずにはいられませんでした。
一度でも世に出ることができただけ、ロドルフは幸せだったのかもしれません。
世の脚光を浴びたことこそが彼が早世する原因となったのですが、たった一度も日の目を見ることなく、この世を去る者も多数いる……というよりもそういった者が大半であるのですから。
自分の人生を理不尽に終わらせた殺人者への恨みと憎しみ、恐怖はもちろんありましたが、何よりもロドルフは無念と心残りによって、この世を離れることができそうになかったのです。
まだまだ作家として生きたかった。書き続けたかった。
けれども、棺の中にいる自分の冷たい手はもうペンを握ることができない。
自分の物語を愛してくれている人々にも、そして、リュシエンヌにも物語を届けることもできない……
その時です。
いよいよ天国からのお迎えでしょうか?
頭上より光がパアッと降り注いできました。
ここは教会の中であるのに、あの夢での月の光のごとく神々しく清らかな光でした。
なんと、光の中からはリュシエンヌが……彼がこの世で探し求めていたリュシエンヌが現れ、ふわりと下り立ったのです!
リュシエンヌが見ているのは、魂となってここにいるロドルフただ一人だけのようでした。
これは……
ロドルフがいくら彼女を探しても会うことができなかったのは、彼女がすでにこの世の者ではなかったからなのでしょうか?
それとも、やはり彼女は人智を越えた存在――天使か女神であったのでしょうか?
リュシエンヌの瞳の目には、涙が光っていました。
彼女はきっとロドルフの身に何が起こったのかをすでに知っているのでしょう。
手を繋ぎ合ったロドルフとリュシエンヌ。
どちらも実体ではない、魂の身の状態であるはずなのに、互いのあたたかさが伝わってきました。
ロドルフの唇がリュシエンヌの唇に重なり合います。
身も心も純情なまま、現世を生き抜いてきた彼の最初で最後の口づけでした。
ロドルフはリュシエンヌに口づけたつもりでした。
今までの感謝と彼女を愛しているということ、そして永遠の別れをも彼女に告げるために。
ですが、彼が目を開けた時、リュシエンヌはいなくなっていました。
その代わり、顔を赤くしたおっさんがロドルフを見つめ返していました。
え?
ええっ!?
あまりの驚きに悲鳴もあげられなくなっているロドルフ。
しかも、ロドルフはこのおっさんを知っているような気がしてました。
見たことあるのではなくて、知っているという妙な感覚――初めてリュシエンヌに会った時と同じ感覚です。
魔法が解けちまったな、とおっさんは言いました。
魔法……?
あの……魔法が解けるといったら、普通は蛙が王子様になったり、野獣が王子様になったり、いや”本来の姿に戻る”のですよね。
リュシエンヌは、おっさんだったのですか?
こんなどこにでもいるような、例えるなら仕事が終わると庶民的な酒場で仲間たちとお酒を飲んでいるようなおっさんだったのですか?
生活感に溢れ、この世の酸いも甘いも噛み分けたかのようなおっさんだったのですか?
ロドルフの甘く切ない夢のオチが”これ”とは……
不思議と目の前のおっさんに嫌悪感を感じることはなかったロドルフですが、あまりの驚愕に、まだ言葉を発することができませんでした。
俺はな……なんっつうかミューズみたいなモンなんだよ、とおっさんは薄くなった頭に手をやって言いました。
ミューズ。
他国ではムーサとも言います。とある国の神話に出てくる芸術と学問の”女神”のことです。
おっさんは続けます。
ロドルフ、”俺たち”は毎夜、お前を見ていた。お前の物語への情熱と才能が俺たちを引き寄せ、俺がお前の担当になった。俺は夢を通じてお前の持つあらゆる力をリードすることにしたんだ。このままの姿でお前とダンスを踊っても良かったんだが、やっぱり見てくれとムードは大切だろう? と。
無名時代のロドルフをずっと見守っていたのは夜空の月だけではなく、ミューズたちも見守っていたのです。
ロドルフの情熱、そして元々の才能とアイデアのストックという下地も充分であったからこそ、ミューズの一人がロドルフへと手を出し、夢を通じてロドルフの成功を後押ししたということでしょうか?
それに、確かに見てくれとムードは大切ですよね。
夢から完全に覚めることになったロドルフですが、彼は”元リュシエンヌ”へと、再び黙って手を差し出しました。
まだまだこれからだったのにな、運命とは酷なものだ、と、おっさんは涙をこらえながらロドルフの手を取りました。
ロドルフには彼に騙されたという憎しみは微塵もありませんでした。
確かにリュシエンヌの姿そのものは幻でありました。
けれども、ロドルフの彼女への思いは真実でした。
何より、彼女を思って物語を書き続けた日々も決して無駄なものなどではありません。
創作の喜びに包まれていた日々は、苦しいこともあれどロドルフは心より生きていると思えました。
ロドルフがミューズとともに紡ぎあげた物語たちは、この世の人々の心にあと十数年は残るはずです。
もしかしたら、ロドルフが考えているよりもずっと長く……彼の物語たちは何十年あるいは何百年と生き続けるかもしれません。
ロドルフとおっさんは固い握手を交わしました。
ともに踊ったパートナー――ともに物語を紡ぎあげたパートナーとして最後の握手を。
いいえ、これが最後――永遠の別れではないかもしれません。
魂は生まれ変わるのです。
姿かたちや時代は違えど、ロドルフはまたこの世に産声を上げるに違いありません。
それに、眩い光に包まれゆき天へと上りゆくロドルフ自身も言ったのですから。
また、俺と一緒に踊ってくれよ、と。
――完――
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