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第7章 ~エマヌエーレ国編~
―71― 影生者たちの行方(5) 「俺と一番長い付き合いをしてきた女」後編
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まずは、あのメガトンデブ……マシュー・ロイド・ベイルだ。
あいつの肉に埋もれた光がない黄金色の瞳は、今でもありありと脳裏に焼き付いているし、フランシスの”覗き見のさざ波”にておさらいさせられるがごとく、見せられた。
”黄金”と言われて、俺が最初に思い浮かべてしまうのは、金貨でも貴金属でも朝焼けの空でもなく、嫌なことにあいつの瞳になっちまっている。
それに、人間、生まれつきの瞳の色だけじゃなく、内面だって何十年経とうか、それほど顕著な変化などはしないもんだ。
荒ぶる好奇心と衝動性を抑えられない、あいつの性格というか性質は今も変わっていないことが”覗き見のさざ波”にて証明されたわけだし。
そして、あいつと同じく、今も(おそらく)存命中(だと思う)なのが、ジョージ・セバスチャン・パークスだ。
パークスの奴もパークスの奴で、なかなか変わってた。
いや、変わった奴でないと、俺たちと行動を共にしようとは思わねえか。
背はまあ俺と同じぐらいだったか、魔導士というよりも兵士みたいな体格をした男で、酒など一滴も飲んでいないのに常に目が据わっていた。
フランシスは「彼からは、内に秘めたただならぬ攻撃性というか……残虐性を感じずにはいられませんね」と言っていたし、クリスティーナも「私、あの人のこと……苦手だわ。女としての本能的な恐怖を感じちゃって……」と言って、筋金入りの男好きのくせにパークスのことは極力避けているようだった。
あの強烈なキャラの二人にあんなことを言われるなんて、パークスも相当だったとしか。
だが、確かに……いつだったか、パークスの奴がクリスティーナの体を――衣服越しに分かるクリスティーナの体のラインを――舐めるように見ていた時があった。
あの時のあいつの目は、獣だった。
同じ男だったからこそ、それが分かったのかもしれないが。
さすがに俺も「おい」と一声かけようとしたわけだが、気づかれたのか、パークスは素早くクリスティーナの体からパッと目を逸らしていた。
パークスも、実際にクリスティーナに性的なことも含めて何かをしたわけではないはずだ。
クリスティーナに腕力で勝てても、魔導士としての力では勝ち目がないことは分かっていただろうから。
当時の七人の中で、紅一点でありながらもクリスティーナは三番手だったわけだし。
そして、巷では「神人殺人事件」とか呼ばれているらしい”あの日”に、残る二人の男は死んでいる。
ジェフリー・クィンシー・モスとエリオット・エリス・ホークヤードだ。
別の言い方をするなら、”神人たちによって殺された男”と”切れたヘレンによって殺された小児性愛者”だ。
モスの場合は神人たちの正当防衛で、ホークヤードの場合は被害者でもあるヘレンの情状酌量の余地が大有りの殺人だろう。
どちらも自分より弱い(と思っていた)相手による反撃によって、命を落とした。
モスの死に顔は、恐怖と驚愕によって歪んでいた。
モスにしても、俺たちの七人の中では下から数えた方が早かったろうが、決して使えない奴じゃなかった。
だが、被捕食者側にいた神人たちとて、自分や自分の大切な者たちが殺されそうになったら、最大限の反撃をするのは当然だ。
結果的としてほぼ全滅状態となったが(一人のガキの死体だけ見つからなかったが)、神人たちも最期の時に一矢報いたというわけか。
最後は、エリオット・エリス・ホークヤードだ。
すべての指にビカビカと光る指輪を嵌めた悪趣味な中年男だった。
いや、中年男といっても、当時は俺も若かったから、やたら年上に見えていただけで、実際はそれほどの年齢ではなかったのかもしれない……。
けれども、大人の女と合意の上での性行為をしたことがない身としては、あの男の趣味というか性癖は今でも理解できない。
あの男にしてみれば、俺の性癖(完全に成熟しきった女、そして人妻であればさらに良し)の方こそ理解できないのかもしれねえが。
どうやったら、子どもに性欲なんて感じられるんだ?
しかも、ホークヤードの方は”表向きは”死んでいるも、実はそうでないということがフランシスの”覗き見のさざ波”にて判明までしている。
あの男は……あの男の魂は、この世に残存している。
欲と性にまみれた魂が、”真っ先に探し求めるであろう者”が誰であるのかなんて答え合わせをするまでもねえ……。
サミュエルがチラリと横目でヘレンを見ると、彼の回想とシンクロしているかのごとくヘレンは頬を強張らせていた。
「……”あの男”のことを思い出しているのか?」
「ええ……」
そりゃあ、忘れることなんてできねえよな……あの日、ヘレンは自ら望んで神人の肉を喰らったわけじゃない。
子どものままに強制的に時を止められてしまった自身の肉体ですら、厭わしく憎いだろう。
あの男の魂がまだこの世に残存しているのだとしても、ヘレンの肉体が本来のペースで時を重ねていたなら興味を失くしていただろうが、ヘレンはずっとあの男が一番望んでいる姿のままでいる。
「そう心配することねえよ。この船には俺と……そして、癪なことだがフランシスだっているんだ。あの男だって、俺たち二人のテリトリーに踏み込んでくるのは自殺行為だって理解してるだろ。……仮に何かあったとしても、俺がお前を守ってやる」
柄にもなく気障な台詞を口にしてしまったことにハッとしたサミュエルであるも、当のヘレンはさらりと聞き流してくれたらしい。
顔を赤らめたり、茶化してきたり、「今の言葉の意味は何?」などと問うてきたりもしない。
ヘレンは口数は少なめ(つまりは余計なことは言わない)であるも、空気も読めるし、人の嫌がることはしないし、この距離感だってちょうどよい。
出会った日から何十年もの時が流れたものの、ヘレンとは一度も険悪なムードになったことはない。
俺と同年代の男の”一番長い付き合いをしてきた女”となると、その大半が自分の女房になるだろう。
しかし、俺と”一番長い付き合いをしてきた女”と言えば、このヘレンだ。
幼女趣味のなど微塵もない俺が一番長い付き合いをしてきたのは”幼女の姿のままの女魔導士”だとか、不思議なモンだな。
あいつの肉に埋もれた光がない黄金色の瞳は、今でもありありと脳裏に焼き付いているし、フランシスの”覗き見のさざ波”にておさらいさせられるがごとく、見せられた。
”黄金”と言われて、俺が最初に思い浮かべてしまうのは、金貨でも貴金属でも朝焼けの空でもなく、嫌なことにあいつの瞳になっちまっている。
それに、人間、生まれつきの瞳の色だけじゃなく、内面だって何十年経とうか、それほど顕著な変化などはしないもんだ。
荒ぶる好奇心と衝動性を抑えられない、あいつの性格というか性質は今も変わっていないことが”覗き見のさざ波”にて証明されたわけだし。
そして、あいつと同じく、今も(おそらく)存命中(だと思う)なのが、ジョージ・セバスチャン・パークスだ。
パークスの奴もパークスの奴で、なかなか変わってた。
いや、変わった奴でないと、俺たちと行動を共にしようとは思わねえか。
背はまあ俺と同じぐらいだったか、魔導士というよりも兵士みたいな体格をした男で、酒など一滴も飲んでいないのに常に目が据わっていた。
フランシスは「彼からは、内に秘めたただならぬ攻撃性というか……残虐性を感じずにはいられませんね」と言っていたし、クリスティーナも「私、あの人のこと……苦手だわ。女としての本能的な恐怖を感じちゃって……」と言って、筋金入りの男好きのくせにパークスのことは極力避けているようだった。
あの強烈なキャラの二人にあんなことを言われるなんて、パークスも相当だったとしか。
だが、確かに……いつだったか、パークスの奴がクリスティーナの体を――衣服越しに分かるクリスティーナの体のラインを――舐めるように見ていた時があった。
あの時のあいつの目は、獣だった。
同じ男だったからこそ、それが分かったのかもしれないが。
さすがに俺も「おい」と一声かけようとしたわけだが、気づかれたのか、パークスは素早くクリスティーナの体からパッと目を逸らしていた。
パークスも、実際にクリスティーナに性的なことも含めて何かをしたわけではないはずだ。
クリスティーナに腕力で勝てても、魔導士としての力では勝ち目がないことは分かっていただろうから。
当時の七人の中で、紅一点でありながらもクリスティーナは三番手だったわけだし。
そして、巷では「神人殺人事件」とか呼ばれているらしい”あの日”に、残る二人の男は死んでいる。
ジェフリー・クィンシー・モスとエリオット・エリス・ホークヤードだ。
別の言い方をするなら、”神人たちによって殺された男”と”切れたヘレンによって殺された小児性愛者”だ。
モスの場合は神人たちの正当防衛で、ホークヤードの場合は被害者でもあるヘレンの情状酌量の余地が大有りの殺人だろう。
どちらも自分より弱い(と思っていた)相手による反撃によって、命を落とした。
モスの死に顔は、恐怖と驚愕によって歪んでいた。
モスにしても、俺たちの七人の中では下から数えた方が早かったろうが、決して使えない奴じゃなかった。
だが、被捕食者側にいた神人たちとて、自分や自分の大切な者たちが殺されそうになったら、最大限の反撃をするのは当然だ。
結果的としてほぼ全滅状態となったが(一人のガキの死体だけ見つからなかったが)、神人たちも最期の時に一矢報いたというわけか。
最後は、エリオット・エリス・ホークヤードだ。
すべての指にビカビカと光る指輪を嵌めた悪趣味な中年男だった。
いや、中年男といっても、当時は俺も若かったから、やたら年上に見えていただけで、実際はそれほどの年齢ではなかったのかもしれない……。
けれども、大人の女と合意の上での性行為をしたことがない身としては、あの男の趣味というか性癖は今でも理解できない。
あの男にしてみれば、俺の性癖(完全に成熟しきった女、そして人妻であればさらに良し)の方こそ理解できないのかもしれねえが。
どうやったら、子どもに性欲なんて感じられるんだ?
しかも、ホークヤードの方は”表向きは”死んでいるも、実はそうでないということがフランシスの”覗き見のさざ波”にて判明までしている。
あの男は……あの男の魂は、この世に残存している。
欲と性にまみれた魂が、”真っ先に探し求めるであろう者”が誰であるのかなんて答え合わせをするまでもねえ……。
サミュエルがチラリと横目でヘレンを見ると、彼の回想とシンクロしているかのごとくヘレンは頬を強張らせていた。
「……”あの男”のことを思い出しているのか?」
「ええ……」
そりゃあ、忘れることなんてできねえよな……あの日、ヘレンは自ら望んで神人の肉を喰らったわけじゃない。
子どものままに強制的に時を止められてしまった自身の肉体ですら、厭わしく憎いだろう。
あの男の魂がまだこの世に残存しているのだとしても、ヘレンの肉体が本来のペースで時を重ねていたなら興味を失くしていただろうが、ヘレンはずっとあの男が一番望んでいる姿のままでいる。
「そう心配することねえよ。この船には俺と……そして、癪なことだがフランシスだっているんだ。あの男だって、俺たち二人のテリトリーに踏み込んでくるのは自殺行為だって理解してるだろ。……仮に何かあったとしても、俺がお前を守ってやる」
柄にもなく気障な台詞を口にしてしまったことにハッとしたサミュエルであるも、当のヘレンはさらりと聞き流してくれたらしい。
顔を赤らめたり、茶化してきたり、「今の言葉の意味は何?」などと問うてきたりもしない。
ヘレンは口数は少なめ(つまりは余計なことは言わない)であるも、空気も読めるし、人の嫌がることはしないし、この距離感だってちょうどよい。
出会った日から何十年もの時が流れたものの、ヘレンとは一度も険悪なムードになったことはない。
俺と同年代の男の”一番長い付き合いをしてきた女”となると、その大半が自分の女房になるだろう。
しかし、俺と”一番長い付き合いをしてきた女”と言えば、このヘレンだ。
幼女趣味のなど微塵もない俺が一番長い付き合いをしてきたのは”幼女の姿のままの女魔導士”だとか、不思議なモンだな。
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