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第7章 ~エマヌエーレ国編~
―6― 今、すべきことは?(1)
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フレディの口から吐き出された破片。
昨夜の破片と比較すると二回りほど小さいも、その尖りは引けを取らぬというよりも、むしろ勝っていた。
フレディの唇、特に下唇も血にまみれというよりも、溢れた血によって朱に染まりゆく。
「大丈夫か?!」とルークの声だけでなく、他の”希望の光を運ぶ者たち”のフレディを案ずる声が次々に飛び交う。
彼らの近くの席にいた兵士たち――イライジャやバーニー、ならびに彼らそれぞれと仲の良い者たちの何人かが「何だ? 何だ?」と席を立ってわらわらと集まってきた。
傷ついた当人であるフレディは、いや、悪意の破片によって、またもや故意に傷付けられた彼は口元を押さえたまま、”大丈夫だ、事を荒立てるな”というように彼らを空いている方の手でスッと制した。
これは明らかに”彼”を、フレディを狙っている!
ルークとディランではなく、彼を狙った悪意の破片だ!
しかし、”この状況”はどう考えても……
「ンだよ、うるせえな」
「座って静かに食べることもできねえのかよ、うぜえ」
追い打ちをかけるかのように、離れた席からの声が突き刺さってきた。
自分たちに決して好意は持っていない、とげとげしい声が。
ルークがキッと睨みつけた。
声のした一団の中には、エマヌエーレ国の囚われの船を調査していた時、自分に突っかかってきた兵士がいた。
ディランが「ルーク」と彼の肩をグッと押さえた。
ディラン自身の目にも怒りは宿っていたが、ルークがここであいつらに即座に殴りかかっていくほどに直情烈火型の考えなしではないことと、それに”この状況から推察するに破片はあいつらのうちの誰かの仕業ではない”と理解していた。
だが、棘はなおも飛んできた。
そのうえ、棘は自分たちだけではなくバーニーをもつつこうとしてきた。
「おい、スミス。お前、何でよりによって”父親の仇の一部”と仲良くオトモダチになんてなってやがんだ? 息子として最悪の裏切り行為じゃねーの」
「?! ……ンだとゴラァ!!!」
静まり返る食堂。
バーニーが棘の標的となったのは、彼がその出自やら、声含んだ存在感で良くも悪くも何かと目立つ存在であるうえに、今まで何かと理由をつけて訓練をサボり酒をチビチビ舐めていた(腕を磨くよりもどれだけ手を抜けるかに傾いてた)彼が”今さら”やる気をみなぎらせ始めて”うぜえ”という感情もあるのかもしれない。
立ち上がったトレヴァーが「スミス」と早くも彼を羽交い絞めにし、ヴィンセントも「この場では堪(こら)えましょう」と囁いた。
トレヴァーとヴィンセントの行動は、この場はこのまま収めようとする者の行動としては正解だったであろう。
しかし、彼らの制止が逆効果となってしまった。
兵士という職業柄、ここにいる者たちは若い男の平均値より背が高く、体格だって良い者が圧倒的多数だ。
その中でもナンバーワンのガチムチと言えるガルシアに羽交い絞めされ、ロビンソンの奴はいかにも気は強そうであるも、全体としては穏健派な奴の仲間たちにも諌められているスミスが、ギャンギャン吠えども自分たちにドスドス、ズドドと突進してきたうえ殴りかかってくることはないと。
「スミス、お前まだ、この国の娼館には行ってねーだろ」
「”ご自慢の記録”を更新して来いよ、エロデブ」
傍観者である兵士たちの間に抑えた笑いが広がり、怒りで茹であがっていたバーニーの顔にさらに朱が差し込む。
今までに自分がベラベラ、ガハハと自慢げに喋っていて蒔いた種とはいえ、侮辱は侮辱だ。それもこんな大勢の前で、さらに言うなら朝食の配膳に来た女たちの前で……
ついに、彼らから離れた席にいたオスニエルが立ち上がった。
オスニエルと親しい兵士たちの数人が彼へと続く。
厳しい表情をしたオスニエルがスミスへの暴言を吐いた兵士たちに、何と言って”注意”したのかはルークやディランたちがいる所まではっきりとは聞こえなかった。
だが――
「うるせえ! この上官気取りの”花婿候補”が!!」
鈍い殴打音とともにオスニエルが吹っ飛んだ。
彼の衝突を受けたテーブルの上にあった食器たちがなだれ落ち、けたたましい音とともに砕け散った。
真っ当な注意を受けた兵士があろうことか逆切れし、彼の顔面を殴りつけたのだ。
見た目も中身も正統派な兵士のテンプレともいえるオスニエルは、決して軟弱な体型ではない。それに彼だって利き腕にギブスを巻いたままでなければ、防御できていたかもしれない。
逆切れ兵士のオスニエルに対する一撃が、いわゆる”鬨の聲”――開戦の合図となってしまった。
同じ船に乗って祖国を旅立ち、癒えぬ傷を受けたも、これからも志を一つとして足踏みを揃えて進んでいかなければならない者たちが、ビシシッと音を立てて分裂し、周りに座っていた者たちまで巻き込み……ついに仲間へと牙を剥き、共食いし始めんとする事態に発展し始めたのだ!
「――まずい!」とルーク、ディラン、ヴィンセントたちは、乱闘を止めんと走り出した。
もちろん血に染まった唇をゴシッとぬぐったフレディとて、彼らに遅れを取るわけがない。
そして、ダニエルも、怒声と拳と蹴りが飛び交い、そして朝食までもが投げつけられてくるなか、オスニエルの救出と保護にあたろうとしていた。
トレヴァーは、真っ赤な顔でもがき喚くバーニーを羽交い絞めにし、押さえ続けている。”お前があそこに行ったら、もっと騒ぎが大きくなる”と、トレヴァーはトレヴァーで必死であった。
イライジャの「やめろって! こんなことしてる場合か!」との制止は、荒れ狂う男たちの嵐の中で虚しくかき消されていく……
フレディのスープの中に悪意を持って入れられた破片が発端となったも、争いそのものは別の所で勃発、いや、爆発炎上してしまった。
正直、こんな乱闘騒ぎは人こそ違えど、ペイン海賊団の船の中で起こっているようなことでもある。
血気盛んな若い男ということもあり、奴らと”根っこ”はそう変わらない者はやはり兵士の中にも幾人かはいたのか?
教育を受け、訓練と規律の中にいるはずであった兵士たちが、何より正義の側に戦ったはずたちの兵士たちの中にも……
昨夜の破片と比較すると二回りほど小さいも、その尖りは引けを取らぬというよりも、むしろ勝っていた。
フレディの唇、特に下唇も血にまみれというよりも、溢れた血によって朱に染まりゆく。
「大丈夫か?!」とルークの声だけでなく、他の”希望の光を運ぶ者たち”のフレディを案ずる声が次々に飛び交う。
彼らの近くの席にいた兵士たち――イライジャやバーニー、ならびに彼らそれぞれと仲の良い者たちの何人かが「何だ? 何だ?」と席を立ってわらわらと集まってきた。
傷ついた当人であるフレディは、いや、悪意の破片によって、またもや故意に傷付けられた彼は口元を押さえたまま、”大丈夫だ、事を荒立てるな”というように彼らを空いている方の手でスッと制した。
これは明らかに”彼”を、フレディを狙っている!
ルークとディランではなく、彼を狙った悪意の破片だ!
しかし、”この状況”はどう考えても……
「ンだよ、うるせえな」
「座って静かに食べることもできねえのかよ、うぜえ」
追い打ちをかけるかのように、離れた席からの声が突き刺さってきた。
自分たちに決して好意は持っていない、とげとげしい声が。
ルークがキッと睨みつけた。
声のした一団の中には、エマヌエーレ国の囚われの船を調査していた時、自分に突っかかってきた兵士がいた。
ディランが「ルーク」と彼の肩をグッと押さえた。
ディラン自身の目にも怒りは宿っていたが、ルークがここであいつらに即座に殴りかかっていくほどに直情烈火型の考えなしではないことと、それに”この状況から推察するに破片はあいつらのうちの誰かの仕業ではない”と理解していた。
だが、棘はなおも飛んできた。
そのうえ、棘は自分たちだけではなくバーニーをもつつこうとしてきた。
「おい、スミス。お前、何でよりによって”父親の仇の一部”と仲良くオトモダチになんてなってやがんだ? 息子として最悪の裏切り行為じゃねーの」
「?! ……ンだとゴラァ!!!」
静まり返る食堂。
バーニーが棘の標的となったのは、彼がその出自やら、声含んだ存在感で良くも悪くも何かと目立つ存在であるうえに、今まで何かと理由をつけて訓練をサボり酒をチビチビ舐めていた(腕を磨くよりもどれだけ手を抜けるかに傾いてた)彼が”今さら”やる気をみなぎらせ始めて”うぜえ”という感情もあるのかもしれない。
立ち上がったトレヴァーが「スミス」と早くも彼を羽交い絞めにし、ヴィンセントも「この場では堪(こら)えましょう」と囁いた。
トレヴァーとヴィンセントの行動は、この場はこのまま収めようとする者の行動としては正解だったであろう。
しかし、彼らの制止が逆効果となってしまった。
兵士という職業柄、ここにいる者たちは若い男の平均値より背が高く、体格だって良い者が圧倒的多数だ。
その中でもナンバーワンのガチムチと言えるガルシアに羽交い絞めされ、ロビンソンの奴はいかにも気は強そうであるも、全体としては穏健派な奴の仲間たちにも諌められているスミスが、ギャンギャン吠えども自分たちにドスドス、ズドドと突進してきたうえ殴りかかってくることはないと。
「スミス、お前まだ、この国の娼館には行ってねーだろ」
「”ご自慢の記録”を更新して来いよ、エロデブ」
傍観者である兵士たちの間に抑えた笑いが広がり、怒りで茹であがっていたバーニーの顔にさらに朱が差し込む。
今までに自分がベラベラ、ガハハと自慢げに喋っていて蒔いた種とはいえ、侮辱は侮辱だ。それもこんな大勢の前で、さらに言うなら朝食の配膳に来た女たちの前で……
ついに、彼らから離れた席にいたオスニエルが立ち上がった。
オスニエルと親しい兵士たちの数人が彼へと続く。
厳しい表情をしたオスニエルがスミスへの暴言を吐いた兵士たちに、何と言って”注意”したのかはルークやディランたちがいる所まではっきりとは聞こえなかった。
だが――
「うるせえ! この上官気取りの”花婿候補”が!!」
鈍い殴打音とともにオスニエルが吹っ飛んだ。
彼の衝突を受けたテーブルの上にあった食器たちがなだれ落ち、けたたましい音とともに砕け散った。
真っ当な注意を受けた兵士があろうことか逆切れし、彼の顔面を殴りつけたのだ。
見た目も中身も正統派な兵士のテンプレともいえるオスニエルは、決して軟弱な体型ではない。それに彼だって利き腕にギブスを巻いたままでなければ、防御できていたかもしれない。
逆切れ兵士のオスニエルに対する一撃が、いわゆる”鬨の聲”――開戦の合図となってしまった。
同じ船に乗って祖国を旅立ち、癒えぬ傷を受けたも、これからも志を一つとして足踏みを揃えて進んでいかなければならない者たちが、ビシシッと音を立てて分裂し、周りに座っていた者たちまで巻き込み……ついに仲間へと牙を剥き、共食いし始めんとする事態に発展し始めたのだ!
「――まずい!」とルーク、ディラン、ヴィンセントたちは、乱闘を止めんと走り出した。
もちろん血に染まった唇をゴシッとぬぐったフレディとて、彼らに遅れを取るわけがない。
そして、ダニエルも、怒声と拳と蹴りが飛び交い、そして朝食までもが投げつけられてくるなか、オスニエルの救出と保護にあたろうとしていた。
トレヴァーは、真っ赤な顔でもがき喚くバーニーを羽交い絞めにし、押さえ続けている。”お前があそこに行ったら、もっと騒ぎが大きくなる”と、トレヴァーはトレヴァーで必死であった。
イライジャの「やめろって! こんなことしてる場合か!」との制止は、荒れ狂う男たちの嵐の中で虚しくかき消されていく……
フレディのスープの中に悪意を持って入れられた破片が発端となったも、争いそのものは別の所で勃発、いや、爆発炎上してしまった。
正直、こんな乱闘騒ぎは人こそ違えど、ペイン海賊団の船の中で起こっているようなことでもある。
血気盛んな若い男ということもあり、奴らと”根っこ”はそう変わらない者はやはり兵士の中にも幾人かはいたのか?
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