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【R15】Episode9 凄まじい女たちのオムニバスホラー3品
Episode9-A ノブコちゃんへのプレゼント
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年号が「平成」となって初めて迎える秋の季節も、そろそろ終わりへと近づいている。
そんなある日、うちの子が泣きじゃくりながら、小学校から帰ってきた。
話を聞くと、同級生のノブコちゃんのお誕生日会に、今年もうちの子だけが呼ばれなかったというのだ。
うちの子は、各学年1クラスしかない田舎の小学校に通っている。
同じクラスの女の子たちは全員、ノブコちゃんのお誕生日会に呼ばれているというのに。
そのうえ、うちの子だって「ノブコちゃん、今年は絶対にノブコちゃんのお誕生日会に呼んでね、約束だよ」と数か月前からノブコちゃん本人に約束させていたというのに。
相当なショックであったのだろう、うちの子はエグエグと泣き続けていた。
可哀想に。本当に可哀想に。
うちの子の心にはきっと鋭利な刃物――例えば、鎌のような刃物で切り付けられたがごとき傷がパックリと残ってしまうだろう。
今回のことは子供時代のよくある一幕と言えばそうなのかもしれない。けれども、子供時代に心に刻まれた傷が大人になっても、ジュクジュクと膿み続けることはある。体にも心にも完治する傷と完治しない傷がある。
それにしても、うちの子との大切な約束を反故にしたノブコちゃんにも、ノブコちゃんのお母さんにも腹が立つ。
ノブコちゃんがうちの子をあまり好いていないのは私も理解できる。それどころか、ノブコちゃんはうちの子のことが嫌いなのだと。けれども、そんな残酷な事実を伝えて、うちの子を傷つけたくはない。
母として、うちの子の気持ちが一番大事だ。
だからノブコちゃんこそ、うちの子の心を傷つけないために、うちの子だってちゃんとお誕生日会に呼ぶべきじゃないか。
そして、ノブコちゃんのお母さんだって「ノブコ、友達を仲間はずれになんかしちゃ駄目よ」と親としてきちんと教育すべきじゃないか。
ノブコちゃんは、現在より10数年後か20数年後に行うであろう自身の結婚式でも今回と同じ過ちを繰り返すだろう。自分と気の合わない人、自分が嫌いな人は結婚式には呼ばない、という仲間外れを。
その時は、年号は「平成」のままかもしれないしそうじゃないかもしれない。さらに、ノブコちゃんがあの可愛い顔のまま、綺麗な大人の女性に成長するとも限らない。
けれども、いくら時代が変わり、その時代の流れとともに成長していくにしても、人間関係の難しさは変わることはない。ノブコちゃんは、円滑に人間関係を進めていくための”鍵”を子供時代に取得することのないまま、大人になってしまうのだ。
それに他の女の子たちだって、わざわざうちの子の前でノブコちゃんからのお手紙――お誕生日会の招待状を見せびらかす必要はないはずだ。
なんて、意地の悪い子たち。憎たらしい意地悪娘たち。
あの子たちがよその家の子供じゃなかったなら、ほっぺたを何回も引っ叩いて、鍵のつけた部屋に閉じ込めて、反省するまで食事を幾日も与えないという躾を私がしてやりたいぐらいだ。
うちの子はずっと泣きじゃくり続けていた。
よくよく話を聞いてみると、うちの子はこの秋の間、ずっと集めていた自分の宝物をノブコちゃんにプレゼントしようと考えていたらしい。
自分の宝物を大好きなノブコちゃんにプレゼントしたい。
ノブコちゃんだからこそ自分の宝物だってあげることができる。
これほどまでにいじらしいうちの子に、私は涙ぐみそうになった。
私は、引き出しをひっかき回し、クラスの連絡網を引っ張り出した。
ノブコちゃんのお家に電話をかけると、ノブコちゃんのお母さんが電話口に出た。
私がどれだけ懇願しても「いい加減にしてください。お宅のお子さんをうちのノブコの誕生日会には呼ぶつもりはありません」と、一方的に切られてしまった。
ノブコちゃんのお誕生日会の前日の夜。
私はうちの子がこの秋の間、一生懸命に集めていた宝物を箱に詰めてあげていた。傍らには、私が用意した可愛い包装紙とリボン。
今は子を持つ母親となった私だけど、かつて私も小学生の女の子だったのだ。若干の世代の違いはあるかもしれないが、女の子が好みそうな包装紙とリボンについては”元・女の子”としての嗅覚が働く。
絶対にノブコちゃんが手に取りたい、このリボンをほどいてみたいという包装に仕上げてあげる。彼女にリボンと包装紙という鍵を手に取らせ、うちの子の宝物がぎっしりつまったという箱という扉を開けてさせてみせる。
せっかくのうちの子の思いを無駄になんてさせない。
翌日、私はうちの子の手を引いて、ノブコちゃんのお家へ向かった。
ノブコちゃんのお家の庭には、何台もの自転車がズラッと並んでいた。ノブコちゃんのお誕生日会に正式に招待された女の子たちの自転車であるのは、一目瞭然であった。
それらを見てしまった、うちの子は泣きそうな顔になった。
玄関のチャイムを鳴らした。
出てきたのは、笑顔のノブコちゃんだった。
おそらくノブコちゃんは、招待した女の子たちの誰かが来てくれたのだと思って、笑顔で玄関を開けたのだろう。
ぱっちりお目目の可愛いノブコちゃんは、私とうちの子の顔を見るなり、ハッと顔を引き攣らせた。
そして、彼女は「お母さぁぁん!!!」と叫びながら、お家の中に飛び戻っていった。
ノブコちゃんのお母さんが慌てて玄関へとやって来た。ノブコちゃん本人は、お母さんの背中に隠れて泣きじゃくっている。
そんな彼女たちの後ろからは、意地の悪い女の子たちの「うっわ、”あいつ”やっぱり来たの?」「信じらんない」「ノブちゃん、本当にかわいそー」「せっかくのお誕生日会が台無しじゃん」という心が無いにも程がある声が私とうちの子にグサリと突き刺さってきた。
「……先日のお電話でも、はっきりとお断りしたはずです。お帰りください」
ノブコちゃんのお母さんの冷たい声が、私たちの心をさらにザックリ抉る。
「なぜ、どうして、うちの子だけがノブコちゃんのお誕生日会に参加してはいけないんですか? うちの子だって同じクラスの友達じゃないですか?」
「…………同じクラスのお友達っていっても、お宅のお子さんは”男の子”じゃないですか! 女の子のお誕生日会に、同級生の男の子を呼ぶことがあまりないってことは暗黙の了解で分かるでしょう? 現に今日のノブコの誕生会だって、女の子たちしか呼んでいないんです。お宅のお子さんだって、周りに女の子ばかりしかいなかったら居心地悪いと思いますけど」
確かにうちの子は男の子だ。
だが、それがどうしたっていうのだ。男の子と女の子の間だって、友情は育まれるはずだ。
まだ小学生の子供なんて、今はまだ未発達の”鍵”が体の外側についているか、あるいはその”鍵を受け入れる穴”が体の中にあるのかの違いしかない。
性別なんて自分の力ではどうすることもできないことで、うちの子を仲間外れにするつもりなのか?
「そいつが女の子でも、誰もそいつをお誕生日会に呼ばないって」「うん、ノブちゃんも私たちもそいつのこと、大嫌いだもんねえ」というキャハハという笑い声。
わざとうちの子に聞こえるように言い放つなんて、なんて残酷な女の子たちなのか?
この子たちはいったいどんな大人に、そして、いったいどんな母親になってしまうのだろう?
私はあの子たちを殴りつけたかった。
殴って蹴飛ばして、髪の毛をひっつかんで壁に頭をガンガン叩き付けてやりたかった。
目も鼻も口も分からない顔にしてやりたかった。
けれども、私はグッと堪えた。全てはうちの子のためだ。
「家の中に入れてもらえなくて構いません。今日はノブコちゃんにうちの子からのプレゼントを渡しに来ただけなんです」
「いえ、プレゼントもいりません。持って帰ってください」
「そんなわけにはいきません。せめて、プレゼントぐらいは受け取ってください。うちの子の思いを無碍にしないでください。これ以上、うちの子の心を傷付けないでください」
「そちらこそ、ノブコを傷つけないでください。お願いします。それに、今日はノブコの誕生会であるだけでなく、他の女の子たちだって来てくれているんです。私はノブコだけのために言っているんじゃないんです…………あまり大げさにしたくはないのですが、これ以上うちの玄関先に居座るつもりなら、警察を呼びますよ」
「…………分かりました。そこまで言われたなら仕方ありません。けれども、このノブコちゃんへのプレゼントだけは受け取ってください。これを受け取ってさえいただけたら、私たちはすぐに帰ります。本当です」
ノブコちゃんのお母さんはハーッと深いため息をつきながら、うちの子が差し出したプレゼントを受け取った。
うちの子は、ノブコちゃんのお母さんじゃなくて、ノブコちゃんに直接プレゼントを受け取って欲しかったが、当のノブコちゃんはお母さんの背中に隠れてずっと泣きじゃくり続けている。
だが、うちの子のプレゼントはノブコちゃんのお母さんの手を経由するとはいえ、最終的にはノブコちゃん本人の手へと渡るだろう。
頭を深々と下げた私は、うちの子の手を取り、彼女たちにクルッと背を向けた。
とっても悔しいし、とっても悲しいけれどもここは引き下がろう。
歩き始めた私の目から涙が幾筋も溢れ出し、うちの子の目からも涙が幾筋も溢れ出す。
「ノブコちゃん……ぼ、僕のプレゼント……気に入ってくれるかなあ?」
私の手をギュッと握りしめたうちの子は、涙声を詰まらせながら私を見上げた。
「当たり前よ。あなたがあんなに一生懸命集めた宝物よ。あなたは自分の大切な宝物をお友達にあげたのよ。誰よりも心がこもったプレゼントだわ。”ノブコちゃんは女の子だけど”絶対にあなたからのプレゼントを喜ぶわよ」
涙をゴシゴシとぬぐったうちの子が、私に笑顔を見せる。
今日の苦く悲しい思い出がこれから健やかに成長していくうちの子の心にこれ以上の痛みを残すことのないようにと、私は祈らずにはいられなかった。
その時、手を繋いだ私とうちの子の背中の方角から――つまりはノブコちゃんの家の方角から、幾人もの歓声が聞こえてきた。
木霊のように重なり合い、のどかなこの田舎に響き始めた女の子たちの歓声。
まるで、”悲鳴のようにも聞こえてしまう”歓声。
うちの子からのお誕生日プレゼントは、あれほどまでに喜んでもらえている。
他のどの女の子たちのプレゼントよりも、やはり、うちの子のプレゼントが一番だったんだ。
その証拠として、ノブコちゃんのお誕生日会はあれほどまで盛り上がっている。
絶対に一生忘れられないお誕生日会となったはずだ。
それもそのはず、うちの子がこの秋の間、畦道や林道を歩き回り、草や木の枝の間を必死で探し、集めて家へと持ち帰ってきた宝物――”計13個ものカマキリの卵の詰め合わせ”という心のこもったプレゼントを、喜ばない女の子なんていないのだから。
―――fin―――
そんなある日、うちの子が泣きじゃくりながら、小学校から帰ってきた。
話を聞くと、同級生のノブコちゃんのお誕生日会に、今年もうちの子だけが呼ばれなかったというのだ。
うちの子は、各学年1クラスしかない田舎の小学校に通っている。
同じクラスの女の子たちは全員、ノブコちゃんのお誕生日会に呼ばれているというのに。
そのうえ、うちの子だって「ノブコちゃん、今年は絶対にノブコちゃんのお誕生日会に呼んでね、約束だよ」と数か月前からノブコちゃん本人に約束させていたというのに。
相当なショックであったのだろう、うちの子はエグエグと泣き続けていた。
可哀想に。本当に可哀想に。
うちの子の心にはきっと鋭利な刃物――例えば、鎌のような刃物で切り付けられたがごとき傷がパックリと残ってしまうだろう。
今回のことは子供時代のよくある一幕と言えばそうなのかもしれない。けれども、子供時代に心に刻まれた傷が大人になっても、ジュクジュクと膿み続けることはある。体にも心にも完治する傷と完治しない傷がある。
それにしても、うちの子との大切な約束を反故にしたノブコちゃんにも、ノブコちゃんのお母さんにも腹が立つ。
ノブコちゃんがうちの子をあまり好いていないのは私も理解できる。それどころか、ノブコちゃんはうちの子のことが嫌いなのだと。けれども、そんな残酷な事実を伝えて、うちの子を傷つけたくはない。
母として、うちの子の気持ちが一番大事だ。
だからノブコちゃんこそ、うちの子の心を傷つけないために、うちの子だってちゃんとお誕生日会に呼ぶべきじゃないか。
そして、ノブコちゃんのお母さんだって「ノブコ、友達を仲間はずれになんかしちゃ駄目よ」と親としてきちんと教育すべきじゃないか。
ノブコちゃんは、現在より10数年後か20数年後に行うであろう自身の結婚式でも今回と同じ過ちを繰り返すだろう。自分と気の合わない人、自分が嫌いな人は結婚式には呼ばない、という仲間外れを。
その時は、年号は「平成」のままかもしれないしそうじゃないかもしれない。さらに、ノブコちゃんがあの可愛い顔のまま、綺麗な大人の女性に成長するとも限らない。
けれども、いくら時代が変わり、その時代の流れとともに成長していくにしても、人間関係の難しさは変わることはない。ノブコちゃんは、円滑に人間関係を進めていくための”鍵”を子供時代に取得することのないまま、大人になってしまうのだ。
それに他の女の子たちだって、わざわざうちの子の前でノブコちゃんからのお手紙――お誕生日会の招待状を見せびらかす必要はないはずだ。
なんて、意地の悪い子たち。憎たらしい意地悪娘たち。
あの子たちがよその家の子供じゃなかったなら、ほっぺたを何回も引っ叩いて、鍵のつけた部屋に閉じ込めて、反省するまで食事を幾日も与えないという躾を私がしてやりたいぐらいだ。
うちの子はずっと泣きじゃくり続けていた。
よくよく話を聞いてみると、うちの子はこの秋の間、ずっと集めていた自分の宝物をノブコちゃんにプレゼントしようと考えていたらしい。
自分の宝物を大好きなノブコちゃんにプレゼントしたい。
ノブコちゃんだからこそ自分の宝物だってあげることができる。
これほどまでにいじらしいうちの子に、私は涙ぐみそうになった。
私は、引き出しをひっかき回し、クラスの連絡網を引っ張り出した。
ノブコちゃんのお家に電話をかけると、ノブコちゃんのお母さんが電話口に出た。
私がどれだけ懇願しても「いい加減にしてください。お宅のお子さんをうちのノブコの誕生日会には呼ぶつもりはありません」と、一方的に切られてしまった。
ノブコちゃんのお誕生日会の前日の夜。
私はうちの子がこの秋の間、一生懸命に集めていた宝物を箱に詰めてあげていた。傍らには、私が用意した可愛い包装紙とリボン。
今は子を持つ母親となった私だけど、かつて私も小学生の女の子だったのだ。若干の世代の違いはあるかもしれないが、女の子が好みそうな包装紙とリボンについては”元・女の子”としての嗅覚が働く。
絶対にノブコちゃんが手に取りたい、このリボンをほどいてみたいという包装に仕上げてあげる。彼女にリボンと包装紙という鍵を手に取らせ、うちの子の宝物がぎっしりつまったという箱という扉を開けてさせてみせる。
せっかくのうちの子の思いを無駄になんてさせない。
翌日、私はうちの子の手を引いて、ノブコちゃんのお家へ向かった。
ノブコちゃんのお家の庭には、何台もの自転車がズラッと並んでいた。ノブコちゃんのお誕生日会に正式に招待された女の子たちの自転車であるのは、一目瞭然であった。
それらを見てしまった、うちの子は泣きそうな顔になった。
玄関のチャイムを鳴らした。
出てきたのは、笑顔のノブコちゃんだった。
おそらくノブコちゃんは、招待した女の子たちの誰かが来てくれたのだと思って、笑顔で玄関を開けたのだろう。
ぱっちりお目目の可愛いノブコちゃんは、私とうちの子の顔を見るなり、ハッと顔を引き攣らせた。
そして、彼女は「お母さぁぁん!!!」と叫びながら、お家の中に飛び戻っていった。
ノブコちゃんのお母さんが慌てて玄関へとやって来た。ノブコちゃん本人は、お母さんの背中に隠れて泣きじゃくっている。
そんな彼女たちの後ろからは、意地の悪い女の子たちの「うっわ、”あいつ”やっぱり来たの?」「信じらんない」「ノブちゃん、本当にかわいそー」「せっかくのお誕生日会が台無しじゃん」という心が無いにも程がある声が私とうちの子にグサリと突き刺さってきた。
「……先日のお電話でも、はっきりとお断りしたはずです。お帰りください」
ノブコちゃんのお母さんの冷たい声が、私たちの心をさらにザックリ抉る。
「なぜ、どうして、うちの子だけがノブコちゃんのお誕生日会に参加してはいけないんですか? うちの子だって同じクラスの友達じゃないですか?」
「…………同じクラスのお友達っていっても、お宅のお子さんは”男の子”じゃないですか! 女の子のお誕生日会に、同級生の男の子を呼ぶことがあまりないってことは暗黙の了解で分かるでしょう? 現に今日のノブコの誕生会だって、女の子たちしか呼んでいないんです。お宅のお子さんだって、周りに女の子ばかりしかいなかったら居心地悪いと思いますけど」
確かにうちの子は男の子だ。
だが、それがどうしたっていうのだ。男の子と女の子の間だって、友情は育まれるはずだ。
まだ小学生の子供なんて、今はまだ未発達の”鍵”が体の外側についているか、あるいはその”鍵を受け入れる穴”が体の中にあるのかの違いしかない。
性別なんて自分の力ではどうすることもできないことで、うちの子を仲間外れにするつもりなのか?
「そいつが女の子でも、誰もそいつをお誕生日会に呼ばないって」「うん、ノブちゃんも私たちもそいつのこと、大嫌いだもんねえ」というキャハハという笑い声。
わざとうちの子に聞こえるように言い放つなんて、なんて残酷な女の子たちなのか?
この子たちはいったいどんな大人に、そして、いったいどんな母親になってしまうのだろう?
私はあの子たちを殴りつけたかった。
殴って蹴飛ばして、髪の毛をひっつかんで壁に頭をガンガン叩き付けてやりたかった。
目も鼻も口も分からない顔にしてやりたかった。
けれども、私はグッと堪えた。全てはうちの子のためだ。
「家の中に入れてもらえなくて構いません。今日はノブコちゃんにうちの子からのプレゼントを渡しに来ただけなんです」
「いえ、プレゼントもいりません。持って帰ってください」
「そんなわけにはいきません。せめて、プレゼントぐらいは受け取ってください。うちの子の思いを無碍にしないでください。これ以上、うちの子の心を傷付けないでください」
「そちらこそ、ノブコを傷つけないでください。お願いします。それに、今日はノブコの誕生会であるだけでなく、他の女の子たちだって来てくれているんです。私はノブコだけのために言っているんじゃないんです…………あまり大げさにしたくはないのですが、これ以上うちの玄関先に居座るつもりなら、警察を呼びますよ」
「…………分かりました。そこまで言われたなら仕方ありません。けれども、このノブコちゃんへのプレゼントだけは受け取ってください。これを受け取ってさえいただけたら、私たちはすぐに帰ります。本当です」
ノブコちゃんのお母さんはハーッと深いため息をつきながら、うちの子が差し出したプレゼントを受け取った。
うちの子は、ノブコちゃんのお母さんじゃなくて、ノブコちゃんに直接プレゼントを受け取って欲しかったが、当のノブコちゃんはお母さんの背中に隠れてずっと泣きじゃくり続けている。
だが、うちの子のプレゼントはノブコちゃんのお母さんの手を経由するとはいえ、最終的にはノブコちゃん本人の手へと渡るだろう。
頭を深々と下げた私は、うちの子の手を取り、彼女たちにクルッと背を向けた。
とっても悔しいし、とっても悲しいけれどもここは引き下がろう。
歩き始めた私の目から涙が幾筋も溢れ出し、うちの子の目からも涙が幾筋も溢れ出す。
「ノブコちゃん……ぼ、僕のプレゼント……気に入ってくれるかなあ?」
私の手をギュッと握りしめたうちの子は、涙声を詰まらせながら私を見上げた。
「当たり前よ。あなたがあんなに一生懸命集めた宝物よ。あなたは自分の大切な宝物をお友達にあげたのよ。誰よりも心がこもったプレゼントだわ。”ノブコちゃんは女の子だけど”絶対にあなたからのプレゼントを喜ぶわよ」
涙をゴシゴシとぬぐったうちの子が、私に笑顔を見せる。
今日の苦く悲しい思い出がこれから健やかに成長していくうちの子の心にこれ以上の痛みを残すことのないようにと、私は祈らずにはいられなかった。
その時、手を繋いだ私とうちの子の背中の方角から――つまりはノブコちゃんの家の方角から、幾人もの歓声が聞こえてきた。
木霊のように重なり合い、のどかなこの田舎に響き始めた女の子たちの歓声。
まるで、”悲鳴のようにも聞こえてしまう”歓声。
うちの子からのお誕生日プレゼントは、あれほどまでに喜んでもらえている。
他のどの女の子たちのプレゼントよりも、やはり、うちの子のプレゼントが一番だったんだ。
その証拠として、ノブコちゃんのお誕生日会はあれほどまで盛り上がっている。
絶対に一生忘れられないお誕生日会となったはずだ。
それもそのはず、うちの子がこの秋の間、畦道や林道を歩き回り、草や木の枝の間を必死で探し、集めて家へと持ち帰ってきた宝物――”計13個ものカマキリの卵の詰め合わせ”という心のこもったプレゼントを、喜ばない女の子なんていないのだから。
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