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Episode5 とある寸借詐欺男のしくじり 全3話+おまけエッセイ「作者の寸借詐欺”被害”体験」
Episode5 とある寸借詐欺男のしくじり 第3話
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いかんいかん。
二回連続でしくじってしまった。
なんだか急に寸借詐欺へのハードルが高くなってしまった気がするようなしないような……
考えた末、俺は新たなる場所で新たなるターゲットを探すことにした。
その新たなる場所とは駅だ。
そして、新たなるターゲットとは一人歩きの女ではなく、子どもだ。
子どもと言っても、小生意気で色気づき始めた中学生や高校生ではない。
純然たる子ども、つまりは小学生だ。
だが、俺みたいな中年男が女子小学生に声をかけるのは、絵面的にヤバい。
だから、男子小学生がターゲットだ。
女子だろうが男子だろうが、小学生がそんなに金を持っていない――せいぜい電車賃もしくは何かあった時のお金ぐらいだろう――ってことは俺だって理解している。
でも、二回連続でしくじってしまった今、小さな成功体験とチャリンチャリンと積み上げていくことが大切なのだから。
そうこしているうちに、とある男子小学生が俺の目に留まった。
茶色のランドセルを背負い、名門私立小学校の制服を着ている。
体とランドセルの大きさの対比から推測するに、小学校低学年といったところか?
いかにも気が弱そうで、いかにも大切に育てられているお坊ちゃんって感じだ。
あのガキならいける。
絶対にいける。
俺はターゲットへと歩みを進めた。
俺が近づいてきたのに気付いたらしいガキは、ビクッと体を震わせ後ずさった。
「おじさん……君と同じぐらいの息子がいるんだけど……さっき、息子が大怪我をして、病院に運ばれたって連絡があったんだ。だから、急いで駆けつけたいんだけど、お財布を落としてしまったみたいで……数百円でいいから、おじさんにお金を貸してくれないかな?」
導入部の台詞はいつもとは違うものにした。
”郷に入っては郷に従え”というのとはちょっと違うが、場所も変更し、ターゲットも変更したにもかかわらず、従来のパターンをそのまま活用して突き進むほど俺は馬鹿じゃない。
ガキは俺の新たなる台詞を頬を引き攣らせたまま、黙って聞いていた。
「で、でも……それはママに……あ、いや、お母さんに聞いてみないと……」
怯えているのは明らかだ。
つまりは、あと一押しといったところか。
「おじさん、息子のことが凄く心配なんだよ。こうしているうちにも手術が始まって……最悪、息子はそのまま命を落とすかもしれないんだ……」
手術だの、命を落とすだの、大ごとっぽい感じに台詞と表情を”まぶしあげれば”、ガキはビビッて金を出すだろう。
まだ、そんなに頭が回るわけないだろうし。
ビビらせてなんぼだ。
その時だった。
「私、この子の”おば”なんですけど、何か御用でしょうか?」
ハスキーな女の声が俺の背中にかかった。
振り返った俺の目に映ったのは、印象的な 泣き黒子を持つ瓜実顔で、三十代半ばと見られる背の高い痩せ型の女だった。
ん?
この女、どこかで見たことがあるような……
あ!
ああっ!!
あの時のメンヘラ女だ!!!
DVによる痣だらけで年中、長袖しか着れないはずのメンヘラ女なのに、今日は半袖のポロシャツを着ていた。
その両腕には痣も傷痕も火傷痕も皆無だった。
さらに言うなら、あの時はグラグラ&ユラユラと目の焦点がぶれ続けていたも、今の女の目はギッと俺を一直線に睨みつけていた。
「……こんな子ども相手に何やってるんですか?」
「あ、いや、その……」
今度は俺がビビり、後ずさりする番だった。
俺が逃げ出すよりも早く、女が喚き出した。
「まだ懲りてねえのか!! いい年こいて寸借詐欺なんてしてんじゃねえよ!! こンの最低の寸借詐欺野郎!!!」
この女、もしかして元ヤンだったのか?
いや、そんなことより周りの目が俺たち三人に、というか俺にズザザザザッと集まってしまった。
”だから”、俺は反射的に女の右頬を殴ってしまった。
殴る気なんてなかった。
ただ俺は、女を黙らせたかった。
それだけだ。
女は駅の床へとドッと倒れ込み、それを見たガキはワッと火がついたように泣き出した。
そして、俺は駆けつけてきた周りの男たちによって取り押さえられてしまった。
傷害の現行犯で逮捕されてしまった俺。
取り調べが進むうちに、俺には寸借詐欺容疑も加わるのはほぼ間違いないだろう……
しくじった。
三回連続でしくじったうえ、別件で逮捕されてしまうなんて、”本当についていなかった”。
そして、俺は知ってしまった。
これは何という巡り合わせなのだろうか?
今日、俺が声をかけたガキの”本当のおば(伯母)”は、前回に俺を心底ビビらせた、あの筋肉女であったことを……
(完)
二回連続でしくじってしまった。
なんだか急に寸借詐欺へのハードルが高くなってしまった気がするようなしないような……
考えた末、俺は新たなる場所で新たなるターゲットを探すことにした。
その新たなる場所とは駅だ。
そして、新たなるターゲットとは一人歩きの女ではなく、子どもだ。
子どもと言っても、小生意気で色気づき始めた中学生や高校生ではない。
純然たる子ども、つまりは小学生だ。
だが、俺みたいな中年男が女子小学生に声をかけるのは、絵面的にヤバい。
だから、男子小学生がターゲットだ。
女子だろうが男子だろうが、小学生がそんなに金を持っていない――せいぜい電車賃もしくは何かあった時のお金ぐらいだろう――ってことは俺だって理解している。
でも、二回連続でしくじってしまった今、小さな成功体験とチャリンチャリンと積み上げていくことが大切なのだから。
そうこしているうちに、とある男子小学生が俺の目に留まった。
茶色のランドセルを背負い、名門私立小学校の制服を着ている。
体とランドセルの大きさの対比から推測するに、小学校低学年といったところか?
いかにも気が弱そうで、いかにも大切に育てられているお坊ちゃんって感じだ。
あのガキならいける。
絶対にいける。
俺はターゲットへと歩みを進めた。
俺が近づいてきたのに気付いたらしいガキは、ビクッと体を震わせ後ずさった。
「おじさん……君と同じぐらいの息子がいるんだけど……さっき、息子が大怪我をして、病院に運ばれたって連絡があったんだ。だから、急いで駆けつけたいんだけど、お財布を落としてしまったみたいで……数百円でいいから、おじさんにお金を貸してくれないかな?」
導入部の台詞はいつもとは違うものにした。
”郷に入っては郷に従え”というのとはちょっと違うが、場所も変更し、ターゲットも変更したにもかかわらず、従来のパターンをそのまま活用して突き進むほど俺は馬鹿じゃない。
ガキは俺の新たなる台詞を頬を引き攣らせたまま、黙って聞いていた。
「で、でも……それはママに……あ、いや、お母さんに聞いてみないと……」
怯えているのは明らかだ。
つまりは、あと一押しといったところか。
「おじさん、息子のことが凄く心配なんだよ。こうしているうちにも手術が始まって……最悪、息子はそのまま命を落とすかもしれないんだ……」
手術だの、命を落とすだの、大ごとっぽい感じに台詞と表情を”まぶしあげれば”、ガキはビビッて金を出すだろう。
まだ、そんなに頭が回るわけないだろうし。
ビビらせてなんぼだ。
その時だった。
「私、この子の”おば”なんですけど、何か御用でしょうか?」
ハスキーな女の声が俺の背中にかかった。
振り返った俺の目に映ったのは、印象的な 泣き黒子を持つ瓜実顔で、三十代半ばと見られる背の高い痩せ型の女だった。
ん?
この女、どこかで見たことがあるような……
あ!
ああっ!!
あの時のメンヘラ女だ!!!
DVによる痣だらけで年中、長袖しか着れないはずのメンヘラ女なのに、今日は半袖のポロシャツを着ていた。
その両腕には痣も傷痕も火傷痕も皆無だった。
さらに言うなら、あの時はグラグラ&ユラユラと目の焦点がぶれ続けていたも、今の女の目はギッと俺を一直線に睨みつけていた。
「……こんな子ども相手に何やってるんですか?」
「あ、いや、その……」
今度は俺がビビり、後ずさりする番だった。
俺が逃げ出すよりも早く、女が喚き出した。
「まだ懲りてねえのか!! いい年こいて寸借詐欺なんてしてんじゃねえよ!! こンの最低の寸借詐欺野郎!!!」
この女、もしかして元ヤンだったのか?
いや、そんなことより周りの目が俺たち三人に、というか俺にズザザザザッと集まってしまった。
”だから”、俺は反射的に女の右頬を殴ってしまった。
殴る気なんてなかった。
ただ俺は、女を黙らせたかった。
それだけだ。
女は駅の床へとドッと倒れ込み、それを見たガキはワッと火がついたように泣き出した。
そして、俺は駆けつけてきた周りの男たちによって取り押さえられてしまった。
傷害の現行犯で逮捕されてしまった俺。
取り調べが進むうちに、俺には寸借詐欺容疑も加わるのはほぼ間違いないだろう……
しくじった。
三回連続でしくじったうえ、別件で逮捕されてしまうなんて、”本当についていなかった”。
そして、俺は知ってしまった。
これは何という巡り合わせなのだろうか?
今日、俺が声をかけたガキの”本当のおば(伯母)”は、前回に俺を心底ビビらせた、あの筋肉女であったことを……
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