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それは悪魔の仕業です

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「君との婚約を破棄する。私は君の妹のメアリーと婚約することにした」

 侯爵家のオルド様からの突然の宣告。
 言葉が出なかった。
 妹と? どういうこと?
 頭がクラクラする。
 その場に立ち尽くしていると、とある人物が部屋に入ってきた。
 メアリーだ。
 ニヤニヤとした笑みを浮かべてこちらをちらりと見ると、オルド様の隣に立った。

(私は捨てられたのか……)

 寂しさが心を支配した。
 オルド様に抗議したかったが無駄だろうと悟り、軽く頭を下げて私は部屋を後にした。


 昔から私は、家族や親戚から疎まれていた。
 暴言を言われたり暴力を受けたり、ストレスのはけ口として利用されていた。
 2歳年下の妹であるメアリーにばかり皆、愛情を注いでいた。
 妹の方が可愛いし明るい性格で人当たりが良く、友達も多い。
 幼い頃は慕ってくれていた妹だったが、今では高圧的な態度を取ってくるようになっていた。
 周囲からチヤホヤされて調子に乗っているのだ。
 だからこそ、私が侯爵家のオルド様に声を掛けられ、婚約まで進んだ時は妹に対して優越感があった。

(これでこの一家からも離れられる)

 そう思っていたのに。
 オルド様に捨てられた今は、別のことを考えていた。

(あの二人は幸せになることは出来ない)

 何故そう言い切ることが出来るのか。
 理由はちゃんとある。
 私は幼い頃から不思議な存在を見る力があった。
 幽霊だったり、人ならざる姿のモノだったり様々だ。 
 一年前のある日、メアリーに悪魔が憑いているのが見えた。
 翼を持ち頭には角の生えているそれは、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべていた。
 先ほどの妹の表情はそれを思い起こさせた。
 この先きっと良くないことが起こる。
 そんな確信があった。




 それから二ヶ月後。
 とある知らせが耳に入ってきた。
 夜中にオルド様の屋敷に強盗が侵入したとのことだった。
 犯人は複数おり、金目の物を奪って逃走。
 室内ではメアリーとオルド様の遺体が見つかったとのことだった。

(やはりこうなったか)

 このような結末を引き寄せたのは、メアリーに憑いていた悪魔の仕業だ。
 ざまぁみろ。と私は思った。
 とその時、私の部屋に一匹の悪魔がやってきた。
 メアリーに憑いていた悪魔だ。メアリーが死んだことで行き場を失ったのだろう。
 何を考えているのかは分かっている。

「良くやったね。褒めてあげるよ。次の標的は誰にする?」

 この悪魔は元々私に憑いていた存在だ。
 妹が皆からチヤホヤされているのが気に食わず、妹に憑かせたのだ。
 その結果オルド様から婚約破棄されたのは想定外ではあったが、今となってはその働きに感謝している。
 それ程までに私の心は悪魔に支配されていた。
 さて。これからどうしようか。
 ニヤニヤと悪魔のような笑みを私は浮かべた。
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