上 下
5 / 5

死神と死神の戦い

しおりを挟む
 バルト・クライス。
 名前は聞いたことがある。
 さっきカイトが言ったように『死神』だったり、多くの人々の命を救っていることから『英雄』と呼ばれていたり。
 人によってバルトの呼び方は様々だ。
 確か、王家に仕える部隊に所属してると聞いたような。
 その時カイトが口を開いた。

「魔物を倒しまくるのは凄いと思うけどさぁ、その反動で魂が一気にあの世にやって来て僕達死神の仕事が忙しくなるんだよねぇ。もうちょっとペース配分考えてくれると有り難いなぁ」

 鋭い眼光を前にしても変わらない、緊張感のない態度だ。
 肝が座っているというのか変わっているというのか。

「死神だと?」

 怪訝そうにカイトを見るバルトは、太い腕を組んだ。

「信じられない気持ちは分かるけどさぁ。でも事実なんだよね」

 そして何を思ったのか、カイトは突然両手を広げた。

「試しに俺を斬ってみる? そうすれば分かるよ」

 挑発するような笑顔を浮かべ、手をヒラヒラとさせている。
 ど、どうしよう……!?
 大惨事になっちゃう!
 ……いや待てよ。
 あんなに煽っているということは、死神は斬られても無事なのか?
 うーん、分からない。
 ふとバルトを見ると、長剣を鞘から抜いているところだった。

「ちょ、ちょっと待ってよ!? 落ち着いて!」

 私の抗議の声など無視してバルトは両手で剣を構えていた。
 一人オロオロとしていると、やがてその剣をカイトに向かって振り下ろし……。

「……っ」

 思わず目を閉じ、顔を背けてしまった。
 カイトは本当に斬られてしまったのだろうか。
 しかし悲鳴などは聞こえない。
 風が吹く音と鳥のさえずりが周囲で鳴っている。
 数秒後ゆっくりと目を開けてみると……。
 そこは血の海、ではなく平然と立っているカイトの姿があった。
 バルトはというと、目を見開いている。

「お前は一体何者だ」

 問われたカイトはニヤッと口を歪ませた。

「だからさっき言ったじゃないか。死神だって」

 そしてその手には少し前に見た短剣が握られている。

「今度は俺の番だねぇ」

 直後、カイトは短剣を躊躇いもなくバルトの胸に突き刺した。

「がっ!?」

 短く呻いたかと思うと、バルトの巨体がそのまま前に倒れた。
 突然の出来事に声が出ない。
 死んじゃったのだろうか。
 私の疑問に答えるかのように、カイトが視線をこちらに向けて口を開いた。

「死んだといえば死んだし、生きているといえば生きている。そんな感じかなぁ。つまり仮死状態ってこと」

「仮死状態!?」

 バルトの周囲には特に血が広がっている様子はない。
 魂を刺した。ということなのだろうか。

「今頃大変な目にあってるかもねぇ」

 そりゃそうでしょうよ。
 死にかけてるんだから。
 と思っていると、カイトの次の一言で更に衝撃を受けた。

「彼が今まで殺した魂に、あの世で襲われてるかもね」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

もうすぐ、お別れの時間です

夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。  親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?

【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。

華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。 王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。 王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

処理中です...