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あれから数日経ち。
足の具合もすっかり良くなった。
あの日家の前まで送ってくれたクロス様は、疲れた様子も見せず颯爽と山に帰っていった。
最近何をしていても、ふとした時にクロス様のことを考えてしまっていることに気付いた。
(恋をしているのかも)
そう思うようになった。
自室で一人悶々としていると、ドタドタと廊下を駆けてくる音が聞こえた。
「大変だぁ~~!!」
勢い良く扉を開けて部屋に入ってきたお祖父様は、その勢いのまま私の肩を掴んで揺さぶって来た。
「ちょっとお祖父様、どうしたの!?」
珍しくかなり慌てている。
余程大変な事態なのだろう。
「バレリア王子が亡くなったんじゃ! 」
「え!?」
バレリア王子はクロス様の兄だ。
ということは。
次期王の座はクロス様に譲られるということになる。
「お祖父様、それはホントの話なの!?」
「本当じゃ! 昔のツテで情報がきたのじゃが、早々に世間にも広まるであろう」
お祖父様の言う通り、程なくして町中はその話題で持ちきりとなった。
死因は病とのことらしい。
クロス様の存在も世間に明るみになった。
可哀想ではあるが、それより今気になるのはクロス様のことだった。
「クロス様は今どこにいるか分かる?」
毎日のように稽古しているお祖父様なら知っているのではないかと思ったのだ。
「ついさっき王の元へと急ぎ去って行ったわい」
これ程の大事となると、さすがに実家に帰りづらいなどとも言っていられないのだろう。
クロス様が心配だったが、私は身を案じることしか出来なかった。
それから数日後。
買い物に行こうと屋敷を出ると、前方から見慣れた人影が見えた。
「クロス様!」
思わず駆け寄ってしまった。
会いたいという思いがずっと胸に込み上げていたのだ。
服装は今まで見ていた物と違って、王族らしい高貴な服を纏っていた。
山ではなく、実家に戻る決心をしたのだろうか。
「クレハ、私は元の立場に戻ることにしたよ。さすがにもう好き勝手していられない。父も跡継ぎが私以外にもういないとなった瞬間、コロッと態度を変えて来てね。気持ち悪いくらい優しいよ」
乾いた笑いを浮かべるクロス様。
本当に大丈夫なのだろうか。私は心配になった。
そんな想いを察したのか、クロス様は小声で呟いた。
「私のことは心配しないで。……でも最後に一つ聞いてもらいたいことがあるんだ」
そう言うと、クロス様は地面に片膝を突いて右掌を差し出した。
「クレハ、もし良ければ私と共に来て頂けませんか? きっと幸せにしてみせます」
突然のプロポーズ。
驚きすぎて口が開いてしまっているのを感じる。
周囲の人達もびっくりして遠巻きにこちらを見ていた。
え、本当に? 王子様が私なんかを?
「私なんかで良いんですか?」
その問いに笑みを浮かべると、優しく言葉を紡いだ。
「明るくて、行動力があって、美しくて、そんなあなたに私は惚れたのです。この先添い遂げるのはあなたしか考えられません」
涙が頬を伝った。
愛されている。
その事実が私の心を幸せで満たした。
彼の言葉は嘘ではない。
曇りのない瞳の奥には、やましさや偽りなどを感じさせない程に強い光が宿っている。
涙で視界が歪む。
幸せで身体が震える。
こんな感覚初めてだった。
クロス様が差し出す手に、私はゆっくりと自分の手を重ねた。
「こんな私で良ければ、宜しくお願い致します」
返事をすると、私の身体は抱きしめられた。
暖かい。
身体だけでなく、心までも心地良い。
周りからは拍手が巻き起こっている。
私の世界は今、祝福に包まれている。
「行ってきます!」
あれから時は経ち。
クロス様と婚約をした私は、ついに実家を出る日がやって来た。
両親はまた泣いている。
「もう、最近いつも泣いているじゃない」
私のことが心配というのと、やっと幸せになってくれるのが嬉しいという想いがごちゃまぜになっているらしく、やたら涙脆くなっていた。
最後に抱擁を交わすと、「元気でね」と笑顔を見せてくれた。
お祖父様は腕を組んで誇らしそうに、うんうんと頷いている。
首が取れそうなくらい激しく上下に振っているけど大丈夫なのだろうか。
それ程嬉しいということなのだろう。多分。
三人の顔をそれぞれじっと見つめ、私は迎えに来てくれたクロス様の元へと駆け寄った。
「もういいのかい?」
笑顔で頷くと、彼の手を握った。
これからどんな生活が待っているのだろうか。
不安でもあるが、この人と一緒ならどんなことでも楽しい気がした。
ふと前方を見ると、建物の影からこちらを睨んでいる人がいた。
姉だ。
随分とやつれているようだ。
身なりも心なしか汚れているように見えた。
両親から聞いた話では、私から奪った元恋人のアルト様とは長続きせず別れてしまったらしい。
それからは悪い男ばかりに引っかかっているのだという。
(いい気味だ)
心の中で呟いた。
気持ちを切り替えクロス様の顔を見た。
優しい笑顔を見ていると幸せな気持ちになる。
「愛しています」
素直な私の気持ちを聞いた彼は、より一層笑みを浮かべた。
足の具合もすっかり良くなった。
あの日家の前まで送ってくれたクロス様は、疲れた様子も見せず颯爽と山に帰っていった。
最近何をしていても、ふとした時にクロス様のことを考えてしまっていることに気付いた。
(恋をしているのかも)
そう思うようになった。
自室で一人悶々としていると、ドタドタと廊下を駆けてくる音が聞こえた。
「大変だぁ~~!!」
勢い良く扉を開けて部屋に入ってきたお祖父様は、その勢いのまま私の肩を掴んで揺さぶって来た。
「ちょっとお祖父様、どうしたの!?」
珍しくかなり慌てている。
余程大変な事態なのだろう。
「バレリア王子が亡くなったんじゃ! 」
「え!?」
バレリア王子はクロス様の兄だ。
ということは。
次期王の座はクロス様に譲られるということになる。
「お祖父様、それはホントの話なの!?」
「本当じゃ! 昔のツテで情報がきたのじゃが、早々に世間にも広まるであろう」
お祖父様の言う通り、程なくして町中はその話題で持ちきりとなった。
死因は病とのことらしい。
クロス様の存在も世間に明るみになった。
可哀想ではあるが、それより今気になるのはクロス様のことだった。
「クロス様は今どこにいるか分かる?」
毎日のように稽古しているお祖父様なら知っているのではないかと思ったのだ。
「ついさっき王の元へと急ぎ去って行ったわい」
これ程の大事となると、さすがに実家に帰りづらいなどとも言っていられないのだろう。
クロス様が心配だったが、私は身を案じることしか出来なかった。
それから数日後。
買い物に行こうと屋敷を出ると、前方から見慣れた人影が見えた。
「クロス様!」
思わず駆け寄ってしまった。
会いたいという思いがずっと胸に込み上げていたのだ。
服装は今まで見ていた物と違って、王族らしい高貴な服を纏っていた。
山ではなく、実家に戻る決心をしたのだろうか。
「クレハ、私は元の立場に戻ることにしたよ。さすがにもう好き勝手していられない。父も跡継ぎが私以外にもういないとなった瞬間、コロッと態度を変えて来てね。気持ち悪いくらい優しいよ」
乾いた笑いを浮かべるクロス様。
本当に大丈夫なのだろうか。私は心配になった。
そんな想いを察したのか、クロス様は小声で呟いた。
「私のことは心配しないで。……でも最後に一つ聞いてもらいたいことがあるんだ」
そう言うと、クロス様は地面に片膝を突いて右掌を差し出した。
「クレハ、もし良ければ私と共に来て頂けませんか? きっと幸せにしてみせます」
突然のプロポーズ。
驚きすぎて口が開いてしまっているのを感じる。
周囲の人達もびっくりして遠巻きにこちらを見ていた。
え、本当に? 王子様が私なんかを?
「私なんかで良いんですか?」
その問いに笑みを浮かべると、優しく言葉を紡いだ。
「明るくて、行動力があって、美しくて、そんなあなたに私は惚れたのです。この先添い遂げるのはあなたしか考えられません」
涙が頬を伝った。
愛されている。
その事実が私の心を幸せで満たした。
彼の言葉は嘘ではない。
曇りのない瞳の奥には、やましさや偽りなどを感じさせない程に強い光が宿っている。
涙で視界が歪む。
幸せで身体が震える。
こんな感覚初めてだった。
クロス様が差し出す手に、私はゆっくりと自分の手を重ねた。
「こんな私で良ければ、宜しくお願い致します」
返事をすると、私の身体は抱きしめられた。
暖かい。
身体だけでなく、心までも心地良い。
周りからは拍手が巻き起こっている。
私の世界は今、祝福に包まれている。
「行ってきます!」
あれから時は経ち。
クロス様と婚約をした私は、ついに実家を出る日がやって来た。
両親はまた泣いている。
「もう、最近いつも泣いているじゃない」
私のことが心配というのと、やっと幸せになってくれるのが嬉しいという想いがごちゃまぜになっているらしく、やたら涙脆くなっていた。
最後に抱擁を交わすと、「元気でね」と笑顔を見せてくれた。
お祖父様は腕を組んで誇らしそうに、うんうんと頷いている。
首が取れそうなくらい激しく上下に振っているけど大丈夫なのだろうか。
それ程嬉しいということなのだろう。多分。
三人の顔をそれぞれじっと見つめ、私は迎えに来てくれたクロス様の元へと駆け寄った。
「もういいのかい?」
笑顔で頷くと、彼の手を握った。
これからどんな生活が待っているのだろうか。
不安でもあるが、この人と一緒ならどんなことでも楽しい気がした。
ふと前方を見ると、建物の影からこちらを睨んでいる人がいた。
姉だ。
随分とやつれているようだ。
身なりも心なしか汚れているように見えた。
両親から聞いた話では、私から奪った元恋人のアルト様とは長続きせず別れてしまったらしい。
それからは悪い男ばかりに引っかかっているのだという。
(いい気味だ)
心の中で呟いた。
気持ちを切り替えクロス様の顔を見た。
優しい笑顔を見ていると幸せな気持ちになる。
「愛しています」
素直な私の気持ちを聞いた彼は、より一層笑みを浮かべた。
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