intercalary

hana4

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懐かしさの混ざった低い声に驚いて振り返ると、小学校6年生の時の同級生、高峰海音たかみねかいと佐伯岳さえきがくが立っている。


「えっ?海音?岳?……本当に?」

「は?なんだよその顔……あっ!俺の制服が似合い過ぎてて驚いてんの?」


四年前、若菜は初めて自分の境遇を他人に話していた。相手は四年前にこの世界で直ぐに打ち解け、親友になった叶琴美かのうことみ。しかし、若菜の話を聞いた琴美はそれを全く信じてはくれず、それどころか他の友達も引き連れて若菜を避けるようになった。そんな時、一人ぼっちになってしまった若菜を救ってくれたのがこの海音と岳だった。琴美が離れていったことで若菜がクラスで浮いてしまったにもかかわらず、二人はそれまで通り若菜と接してくれた。美緒という新しい友達ができてからは、若菜たちは四人でいつも一緒に居た。そんな日々を抱きしめ、離したくなかったはずなのに、琴美に信じてもらえなかった悲しみに負け、あの年、に留まれるよう試みなかったことを、若菜は今まで後悔していたのだった。


そんな記憶と、楽しかった思い出の全てが一気に戻って来たような感覚に浸った若菜の頬に涙が伝う。


「……若菜?」


その涙に気が付いた岳は、驚きを隠せず、若菜の名前を溢す。


「違うっ、これはなんでもないよ。あっ、昨日の夜熱あったし、風邪かな?」

「また?前も誕生日の前日に熱出してたよな?……確か小5?小6?」

「……小6になる時だよ」

「そうだっ!岳ってホント記憶力いいじゃん。そういえば若菜、あん時もクラス分け表見て叫んでなかったっけ?ねえそれ、何か変な熱じゃねーよな?」

「もうっ、大丈夫だよ!」

「なんだよ、むきになるなよ。あっ、そうだ。若菜、誕生日おめでとう!」


海音と交わすその軽口でさえも懐かしく、気が緩めば泣き出してしまいそうだった。しかも、海音に会えただけでもう存分に嬉しいのに、まさか、誕生日まで祝ってくれるとは思っていなかった。


「あっ……ありがとう」

「おっ、岳また一緒じゃん!なんだ。若菜も一緒か。まったく代わり映えしねーな」


照れくささを必死で隠しながら言った若菜のお礼を聞くよりも先に、海音は貼りだされているクラス分けの名簿を見ながらはしゃいでいる。

若菜は何故だか恥ずかしくてたまらなくなって俯く。その表情を見た岳は何も言えずに、少しだけ下唇を噛んでいた。
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