このキスに意味はないからな

hana4

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 半ば無理やり取調室に連れて来られた須藤は、用意された椅子に深く腰掛け、横柄な態度を隠さずに座っている。一方、落ち着きがなく入り口の側でウロウロしている加護は、しきりに時計と廊下を確認していた。

「まじで、俺は何もしてないっすから」

 イラつきを含んだ須藤の声に一瞬ビクッとなった加護は、下唇を噛みしめながら取調室のドアを開けたり閉めたりしながら、時折り天を仰ぎ、何かに祈るように胸の前で手を組んでいた。

「だいたい、警察がちゃんと調べてくれてるんなら、俺が犯人じゃないこと位すぐにわかるんだった。あーあ、焦って損したわ」
「おっ、お前。そんな横柄な態度も今のうちなんだからな!ほら、第一発見者ってのはなあ、大抵……犯人って決まってるんだ!」
「っはぁ?バカなの?証拠は?それにもし俺が犯人だったら、何としても現場から逃げるけどね?」
「お前……バカって言ったな?くそっ……まあいい。もうすぐ検死結果も出るころだろうし、お前が犯人だと確定したなら、本当の取り調べはこんなもんじゃ済まされないからな」
「え?検死?ってことは、やっぱあの子死んじゃってたんだ」

 彼女の死が確定してしまったことを知った須藤の表情が曇る。

「おっ、やっとか」

 取調室へと近づいてきた警官に気付いた加護は少し飛び跳ね、その警官へと駆け寄った。しかし、その警官から何かを耳打ちされた加護の顔色はみるみるうちに土気色に変わる。そして、警官が須藤に向かって深々とお辞儀をして部屋を出て行ってしまうと、魂を半分抜かれてしまったような様子の加護は、須藤の向かいの椅子に崩れる。

「あのー、だな……」
「ほらね?俺、犯人じゃなかっただろ?」

 加護のその様子から全てを察した須藤は、それまでよりも更に強気で加護を責める。

「あぁ、そのようだな。まぁ、あれだな……ここは一つ気を取り直して」
「はあ?」

 自らの失態を棚に上げ上手く話を逸らせたと思った加護は、咳ばらいを一つすると、それまでとは比べ物にならない程の穏やかな声で「それでは昨夜の状況をお聞かせ願えますか?」と須藤に訊ねた。

「はぁ……本物のバカなの?あのさあ、こんな風に犯人扱いされたら、普通、訴訟もんだかんね?」
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