このキスに意味はないからな

hana4

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「揃いもそろって馬鹿ばっかだな……」

 須藤 理人すどう りひとは座敷の端に陣取り、こうして一人、静かに悪態をつきながらウーロンハイを呑むということが習慣になりつつある。確かこのサークルは“薬草学研究部”とかいう名称だったはず。しかし、おそらくこの中の誰一人として本来の活動目的を実践したことはないだろう。というわけで、ここはいわゆる“飲みサー”というやつだ。実質はただ“飲みサー”活動しかしない薬草学研究部、しかし、愚かにも“薬草学”などという際どいワードを入れてしまったばっかりに、違法又は脱法的なソレを連想した不届き者も参加しているとかいないとか。須藤はそのネーミングセンスでさえ「くだらない」と思いながらも、毎回この会に参加していた。

「やっぱり、ただより美味い酒はないって言うしね」

 須藤の在籍する北見きたみ薬科大学は、医者系一族の“受け皿”として名高いだけあり、金は有り余るが偏差値の足りない生徒で溢れかえっていた。このサークルの面子を見渡してみても、例に漏れずそんな坊ちゃん嬢ちゃんばかりなのだから、今日の参加者全員分の飲み代を賭けたゲームをしても、その程度の罰ゲームは痛くも痒くもないという参加者ばかりだった。そんな学友が皆、勘定も脳みそもザルなのを良いことに、須藤はこの会にしれっと参加してはしれっと会費を払わずに帰るのだった。
 もちろん今日もそのつもりでやってきた須藤は、無銭飲食の最低限のマナーとして、カップリングされていく男女の邪魔をしないよう、座敷の端でこうしてひっそりと悪態をついているのだ。

「ほらあ、遠野とおの先輩もう酔っぱらってるよ」
「ホントだぁ、どうする?今日もシテもらう?」
「くふっ……いっちゃうか」

 須藤の側では露出の多い女たちが何やらコソコソと相談していた。ふと、その視線の先を見やると、そこには人だまりができていて、その中心からは時折「キャー」だの「うふふ」だのといった、女特有の騒ぎ声が聞こえてくる。

「楽しそうで何よりですこと」

 須藤はその催しに我関せずを徹底し、誰かが空けたグラスをせっせと廊下に並べると、誰かが注文したまま、手付かずで忘れ去られている丸ごとレモンサワーに手を伸ばした。

「あーっ!キミが噂のリト君だね?」
「えっ?」

 突然自分の名前が呼ばれ、条件反射でビクッとした須藤の目の前には、先ほど話題になっていた“遠野先輩”の赤ら顔がある。

「せんぱぁい。リトってば、いっつもこうして端っこから動かないんですよ」
「そうそう、ちょっとノリ悪くないですかぁ?」
「ふむふむ。そりゃあ、よくないねえ」
「ですよね、ですよね?」
「だから私たちみたいにぃ、仲良しさんにしてあげてくださいな」
「は?」

 酔っ払いたちのくだらない会話を睨みつけた須藤のことなどお構いなしに、「キャハハ」と「ウフフ」が目前でよろしくやっている。

「そうだね。リト君もちゃんとお仲間にならないと……」

 途端、遠野は何とも慣れた手つきで須藤の顎をクイッと持ち上げると、須藤が抵抗する間もなく、二人の唇は重なり合っていた。驚きのあまりに力の抜けた唇を遠野の舌が割開き、須藤の歯列を撫でるように辿る……

「キャー!!!」

 側に居た女たちが奏でた驚喜の不協和音により、ようやく我に返った須藤は、遠野を無遠慮に突き飛ばし、一目散にその場から逃げた。
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