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case1:武田慎吾様
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職員室から離れるにつれ、前を歩くアツシのカラダが楽しそうに左右に振れる。
「迫真の演技だったっしょ?」
後ろ手でピースをしたアツシが、したり顔で振り向いて立ち止まった。
それがあまりに急だったから、あとちょっとでアツシとぶつかるところだった。
「ははっ。近けーよ!……なぁ?休んでも大丈夫だったろ?」
「大丈夫……なのかな?」
「あん?大丈夫は大丈夫なんだよ。心配すんな。ってかさ、たまには自主オフも必要だって」
アツシはニヤリと笑うと、悪そうな顔のまま突き飛ばしてくる。結構なチカラで小突かれて、危うく尻もちをつくところだった。
「演技も何も……なんで監督はあんなにすんなり休ませてくれたんだ?」
(あっ!それ、私もそれ知りたーい!)
ホントはアツシが彼を半ば強引に休ませてくれたワケも知りたい所だけど……
「それな。去年の冬、監督が何日か練習に来なかったの覚えてる?あれ、ノロだったらしいぜ?」
「んなことあったっけ?」
「あれだよあれ、そのあと先輩らもごっそり感染って、部活オフになったじゃん?」
「あー、あの時か。っえ?じゃーあれ、みんな監督から……?」
「そ-いうこと。三年がもろ受験期だったから、監督はノロだったことをひた隠しにしたらしいけど。あれ以来、監督は『ノロ』ってワードに敏感なんだってよっ」
「ほー。相変わらず、じょーほー通だな?」
ふーん。なんかもっと"スッゴイ秘密"的なのを期待したけど、ちょと拍子抜けってか、なんていうか。でもまあ、とりあえず、試合は出ないで帰るのね?結果は良かったっぽいけどさ、あの大怪我のことを知ってるから……仮病ぐらいであれが回避できるんだったら、最初から誰かに少し相談してみればよかったのに……なんてタラレバを考えちゃう。
これまで色んな人の後悔をみてきたけど、意外と「そんなのでいいの?」みたいなことで、人生って好転するらしい。後悔先に立たずとは本当に上手く言ったもんだ。
まあ、彼のこの先がどうなるかはわからないけど、私にはこれ以上なんも出来ないっぽいし。あとは彼の“後悔”が全部消えてることを願うばかりか……
「なあシンゴ、せっかく自主オフにしたことだし、たまにはメンテで整形外科にでも行かね?ほら、将来有望な私たちの身体は、私たちだけのものじゃないから大事にしないとっ!」
「アツシ……それ、まじでキモいよ?」
変なテンションでまた絡んできた暑苦しいアツシを振り払いながらも、どういうわけか顔はニヤニヤしてしまう。
(メンテナンスまで提案してくれるなんて、めっちゃ心配してくれてるじゃん。ちょっと強引だけど、アツシって最高……私だったら、キミよりアツシに惚れるわ)
彼の頭の中で思わず本音が漏れた。
私はすっかりアツシが気に入っていた。いつかアツシの頭も揉んでみたい。彼の施術中にもかかわらず、彼とアツシとの髪質の違いを想像して、むふっとなるのを必死で堪える。
(だよね。わかる)
なぜか彼は私の意見に賛同すると、ニコニコしながら頷いている。
「俺より、お前に惚れるらしいよ?」
ああ、また……そんな風に言葉足らずに喋るから、変な感じになるんじゃん。
「はぁっ?お前の方がキモいよ?……俺には惚れんなよ?」
ほらね。青ざめたアツシが、彼の側からサッと飛び退いた。
「違っ!俺じゃねーよ。頭の中の人が言ってるんだよ」
彼は慌ててそう訂正したが、アツシは更に怯えている。
「なんだよシンゴ……どっちにしろコワイよ……今日まじでお前やばいって。あーこれ、ビョーインは決定だな。整形外科じゃなくて、精神的な……」
(ああもうっ、アツシは私のこと知らないんだから!なんか、上手いこと説明しないと……キミ今、ただのヤベぇ奴だよ?)
「っあ、そっか……うーんっと、そう、間違えただけ。何でもないから大丈夫っ!ほら、行こーぜ?」
自分ではアツシに上手く説明できないと悟ったらしく、彼はアツシの肩にドスンと腕をのせ無理やり肩を組んで歩き出す。強行突破で誤魔化そうとしたんだろうけど、それにしても下手すぎ。
あぁ、アツシと比べちゃうと何だか……彼はとっても残念イケメンだった。
その時だった。ピピピピッという電子音が響く──
「迫真の演技だったっしょ?」
後ろ手でピースをしたアツシが、したり顔で振り向いて立ち止まった。
それがあまりに急だったから、あとちょっとでアツシとぶつかるところだった。
「ははっ。近けーよ!……なぁ?休んでも大丈夫だったろ?」
「大丈夫……なのかな?」
「あん?大丈夫は大丈夫なんだよ。心配すんな。ってかさ、たまには自主オフも必要だって」
アツシはニヤリと笑うと、悪そうな顔のまま突き飛ばしてくる。結構なチカラで小突かれて、危うく尻もちをつくところだった。
「演技も何も……なんで監督はあんなにすんなり休ませてくれたんだ?」
(あっ!それ、私もそれ知りたーい!)
ホントはアツシが彼を半ば強引に休ませてくれたワケも知りたい所だけど……
「それな。去年の冬、監督が何日か練習に来なかったの覚えてる?あれ、ノロだったらしいぜ?」
「んなことあったっけ?」
「あれだよあれ、そのあと先輩らもごっそり感染って、部活オフになったじゃん?」
「あー、あの時か。っえ?じゃーあれ、みんな監督から……?」
「そ-いうこと。三年がもろ受験期だったから、監督はノロだったことをひた隠しにしたらしいけど。あれ以来、監督は『ノロ』ってワードに敏感なんだってよっ」
「ほー。相変わらず、じょーほー通だな?」
ふーん。なんかもっと"スッゴイ秘密"的なのを期待したけど、ちょと拍子抜けってか、なんていうか。でもまあ、とりあえず、試合は出ないで帰るのね?結果は良かったっぽいけどさ、あの大怪我のことを知ってるから……仮病ぐらいであれが回避できるんだったら、最初から誰かに少し相談してみればよかったのに……なんてタラレバを考えちゃう。
これまで色んな人の後悔をみてきたけど、意外と「そんなのでいいの?」みたいなことで、人生って好転するらしい。後悔先に立たずとは本当に上手く言ったもんだ。
まあ、彼のこの先がどうなるかはわからないけど、私にはこれ以上なんも出来ないっぽいし。あとは彼の“後悔”が全部消えてることを願うばかりか……
「なあシンゴ、せっかく自主オフにしたことだし、たまにはメンテで整形外科にでも行かね?ほら、将来有望な私たちの身体は、私たちだけのものじゃないから大事にしないとっ!」
「アツシ……それ、まじでキモいよ?」
変なテンションでまた絡んできた暑苦しいアツシを振り払いながらも、どういうわけか顔はニヤニヤしてしまう。
(メンテナンスまで提案してくれるなんて、めっちゃ心配してくれてるじゃん。ちょっと強引だけど、アツシって最高……私だったら、キミよりアツシに惚れるわ)
彼の頭の中で思わず本音が漏れた。
私はすっかりアツシが気に入っていた。いつかアツシの頭も揉んでみたい。彼の施術中にもかかわらず、彼とアツシとの髪質の違いを想像して、むふっとなるのを必死で堪える。
(だよね。わかる)
なぜか彼は私の意見に賛同すると、ニコニコしながら頷いている。
「俺より、お前に惚れるらしいよ?」
ああ、また……そんな風に言葉足らずに喋るから、変な感じになるんじゃん。
「はぁっ?お前の方がキモいよ?……俺には惚れんなよ?」
ほらね。青ざめたアツシが、彼の側からサッと飛び退いた。
「違っ!俺じゃねーよ。頭の中の人が言ってるんだよ」
彼は慌ててそう訂正したが、アツシは更に怯えている。
「なんだよシンゴ……どっちにしろコワイよ……今日まじでお前やばいって。あーこれ、ビョーインは決定だな。整形外科じゃなくて、精神的な……」
(ああもうっ、アツシは私のこと知らないんだから!なんか、上手いこと説明しないと……キミ今、ただのヤベぇ奴だよ?)
「っあ、そっか……うーんっと、そう、間違えただけ。何でもないから大丈夫っ!ほら、行こーぜ?」
自分ではアツシに上手く説明できないと悟ったらしく、彼はアツシの肩にドスンと腕をのせ無理やり肩を組んで歩き出す。強行突破で誤魔化そうとしたんだろうけど、それにしても下手すぎ。
あぁ、アツシと比べちゃうと何だか……彼はとっても残念イケメンだった。
その時だった。ピピピピッという電子音が響く──
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