re-move

 薄暗くしてある個室は、壁紙や床、リクライニングソファーまで、全てブラウンに統一してある。


 スイート・マジョラムをブレンドしたアロマが燻り、ほんのりと甘い香りに 極小さい音量で流れるヒーリング音楽、滞在しているだけで寝てしまいそうな空間。


 リクライニングソファーに横たわる彼に、至極丁寧にタオルが掛けられた。


 一つ大きく深呼吸をしてから、タオル越しの額に両手を重ね じんわりと自分の体温を伝える。ゆったりとしたリズムにのせて、彼の感触を指先で捉える……


 すると、お互いの体温は融け合いはじめ、呼吸までもが重なり──



 やがてその波は徐々に緩急を失くしてゆき、穏やかで抑揚のない寝息へとかわった。


 目を閉じると、初めて“みる”ストーリーが、走馬燈のように流れ始める……





 橘(たちばな)あかりはドライヘッドスパサロン『re-move』 で、セラピストとして働いている。

 頭を揉み解す事で疲労を回復させながら、お客様を究極の癒しへと誘うドライヘッドスパ。


 この仕事が大好きなあかりだったが、彼女には誰にも話していない能力がある。


 マッサージを施しているあいだ、彼女には『お客様の過去』が走馬灯のようにみえている。

 そして、その人の後悔があまりにも強い場合には……


 その『過去』へと、憑依することができた。


 その日のお客様は、スタイリッシュなサラリーマン【武田慎吾様】


 武田様の『過去』に憑依したあかりは、その日を彼と共にやり直そうとして……




 ──疲労と後悔を癒すドライヘッドスパサロン『re-move』 へようこそ。


24h.ポイント 0pt
0
小説 193,914 位 / 193,914件 ライト文芸 7,639 位 / 7,639件

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

短編集「空色のマフラー」

ふるは ゆう
青春
親友の手編みのマフラーは、彼に渡せないことを私は知っていた「空色のマフラー」他、ショートストーリー集です。

夕焼けステンドグラス

結月 希
ライト文芸
――貴女をお迎えにあがりました。 ブラック企業勤務に疲れ果て、今にも倒れそうな状態の相原 千明の目の前に現れた。天使のような銀髪の少年。 彼はモルテと名乗り、千明の日頃の疲れを癒すためにと彼らの世界、『夕焼けの世界』に連れて行ってくれるのだという。 不思議には思いつつも、夢だと思い込んだ千明がついて行くとそこには……。 ハートフルなファンタジーです。 今を頑張るあなたへ、素敵な世界は見えてますか?

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。

立花准教授のフィールドワーク

ふるは ゆう
ライト文芸
S大学の古典文学研究室・立花准教授の講義は人気があった。また、講義後の研究室での裏話も。助手の雪乃やゼミの学生たちと繰り広げる古典文学のお話。

『ヘブン』

篠崎俊樹
ライト文芸
私と、今の事実婚の妻との馴れ初めや、その他、自分の身辺のことを書き綴る、連載小説です。毎日、更新して、書籍化を目指します。ジャンルは、ライトノベルにいたします。どうぞよろしくお願いいたします。

短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ
ライト文芸
今まで書いてきた恋人同士や夫婦にまつわる短編で、「こいつはないわー」という男が登場するものだけを集めてみました。 ちょっと間が悪いだけだったり、女性の方にも問題があったりと、最低!と糾弾するほどでもない人も含まれますが、そこは読んだ方の捉え方次第です。 結構読んでいただいたものも、さっぱりだったものもあります。 そのまま再公開ではなく、大筋が変わらない程度のリライトや修正はされていると思いますので、新しい読者の方はもちろんのこと、一度読んだ記憶があるという方も、ぜひのぞいてくださいませ。 単発で公開したVer.は、残っている場合と非公開になっている場合がありますので、ご了承ください。