シェヘラザードと蜿蜿長蛇

hana4

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シェヘラザードに蛇足

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 一人ぼっちになってから、急に夜が長くなった。
 最初から一人ぼっちだった様な気もするけど、気付いてしまったら後の祭り。どうやって眠っていたのかを思い出せないまま、私はずっと私のことを眠らせてくれる人を探していた。
「お前は自分を切り取るのが本当に下手クソなんだな。適当に取り繕って見せてりゃ楽なのに」
「蛇兄さんもそうしてる?」
「ああそういや、俺も下手クソだ」
「じゃあいいや」
「人の間は大変だなぁ……」

 蛇兄さんは私のことを咎めるどころか、いつもよりも丁寧に私の髪を撫でた。
 すぐ側にある蛇兄さんの胸元に潜り込むことさえ許されていないのに、その長い指に絡め取られて丸呑みされたいと願うのは、私の性欲の所為なのだろうか?
「じゃあ今日は実話を話してあげようか?」
 蛇兄さんはいつものように、お話をする時の定位置でそう言った。
「ジョンレノンはある日、未来の東京で目を覚ましました……」
「えっ?実話なの?」
 思わず上半身を起こしかけた私を抑えると、蛇兄さんは長い人差し指を唇に当てながら「しーっ」と言ってソファーベッドをポンポンと叩く。その指示に従うことにした私は、不可思議な実話のセカイに大人しく沈みこむことにする。

 それは今までで一番の作り話だと思った。でも本当に実話だったとしても納得できた。蛇兄さんの話した通り、ジョンレノンの音楽が未来から影響を受けたものだったとしたら、あの時代にあんな歌をつくれたことにも納得がいく。過去に戻ったジョンレノンがオノヨーコと出会えた本当の理由でさえ、蛇兄さんの話の方に真実があるような気がした。
「登場人物だけが実話なんでしょ?」
「俺の中で実話なら現実だよ」
 蛇兄さんの話は全部、最後は「めでたしめでたし」で終わる。でもそれはその話の完結ではなかった。オチが無くてハッピーエンドでもない。エピローグを語って欲しいのに、それも存在しなかった。私はもやもやと登場人物達のその後を想像しては、時々それを蛇兄さんに確認してみたりした。すると蛇兄さんは決まって小さく「ふっ」と笑い、その吐息で私のカラダはいつも弛む。
「どんな物語も完結なんてありえねえだろ?物語が終わった後にとんでもねえ事が起きたとしても、そこを切り取ることを選ばなかったのは主人公自身なんだから、俺がどうこうできる話じゃねえよ」
「じゃあ、もしかして今までのは全部、蛇兄さんの知り合いの話?」
「っは……たまには可愛いこと言えんのな?俺は宇宙人とジョンレノンの知り合いかあ。それはそれで悪くない話だ」

 「実は普通の人間です」と言われるよりは、宇宙人とジョンレノンの知り合いの方が蛇兄さんには似合っていた。
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