2 / 27
シェヘラザードに蛇足
1
しおりを挟む
七月二十日 夕方、代々木公園で蛇兄さんを拾った。
大きな樹の下の縁石にドカッと座り、項垂れているから顔は見えない。
ぐしゃぐしゃの黒髪、だぼだぼの服、黒いつっかけサンダル。
通り過ぎ様に横目で見てはいけない。見惚れるなんてほど遠い様子。
持て余したように組んだ長い指。その違和感の正体は薬指に巻き付く様に彫られたタトゥーのせいだと思う。左右の耳に開けられたピアスは確認できるだけでも合わせて五つ。 大きな黒い塊の耳元で揺れるシルバーの飾りが、現代的でありながら人ならざるモノの象徴にも思えた。
ソレに私の心は惹かれ、そそられる。
「……ん」
ソレから声が聞こえた様な気がして、コンクリートにへばりついたサンダルを剥がす。
この好奇心は悟られたくなくて、忍び足で近づいてみる。すると、ソワソワと落ち着かなくなった足首に力が入った。いくつになっても、悪戯をする時はワクワクするものらしい。
しかもそれが隠し事になった時の罪悪感なんてすぐに忘れてしまうから、その時の私は、後先なんて考えようとも思わなかった。
見下ろす私のつま先を確認したソレが徐に顔をあげても、長すぎる前髪のせいで顔の全容が見えない。しかしその薄い唇はじわじわと横に広がって、シューっという音と共に空気が漏れ出していた。
「ぎゅう…どん」
「は?」
「牛丼が食いてえ……」
それまでの私が、どんな言葉を望んでいたのかさえも忘れた。そして意外過ぎる単語を耳が拾う。それにもかかわらずソレにご所望された品物なら、私にも用意できそうだったことに心が躍る。でも困ったな、生憎ここは私のテリトリーではないし、近くの牛丼屋さんなんて心当たりが無い。
だから私は仕方なく……というワケでもないけど。
妖怪なのか、神様なのか、最悪ただの人間かもしれないソレを、自分の寝床に連れて帰ることにした。
大きな樹の下の縁石にドカッと座り、項垂れているから顔は見えない。
ぐしゃぐしゃの黒髪、だぼだぼの服、黒いつっかけサンダル。
通り過ぎ様に横目で見てはいけない。見惚れるなんてほど遠い様子。
持て余したように組んだ長い指。その違和感の正体は薬指に巻き付く様に彫られたタトゥーのせいだと思う。左右の耳に開けられたピアスは確認できるだけでも合わせて五つ。 大きな黒い塊の耳元で揺れるシルバーの飾りが、現代的でありながら人ならざるモノの象徴にも思えた。
ソレに私の心は惹かれ、そそられる。
「……ん」
ソレから声が聞こえた様な気がして、コンクリートにへばりついたサンダルを剥がす。
この好奇心は悟られたくなくて、忍び足で近づいてみる。すると、ソワソワと落ち着かなくなった足首に力が入った。いくつになっても、悪戯をする時はワクワクするものらしい。
しかもそれが隠し事になった時の罪悪感なんてすぐに忘れてしまうから、その時の私は、後先なんて考えようとも思わなかった。
見下ろす私のつま先を確認したソレが徐に顔をあげても、長すぎる前髪のせいで顔の全容が見えない。しかしその薄い唇はじわじわと横に広がって、シューっという音と共に空気が漏れ出していた。
「ぎゅう…どん」
「は?」
「牛丼が食いてえ……」
それまでの私が、どんな言葉を望んでいたのかさえも忘れた。そして意外過ぎる単語を耳が拾う。それにもかかわらずソレにご所望された品物なら、私にも用意できそうだったことに心が躍る。でも困ったな、生憎ここは私のテリトリーではないし、近くの牛丼屋さんなんて心当たりが無い。
だから私は仕方なく……というワケでもないけど。
妖怪なのか、神様なのか、最悪ただの人間かもしれないソレを、自分の寝床に連れて帰ることにした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/light_novel.png?id=7e51c3283133586a6f12)
スマホゲーム王
ルンルン太郎
ライト文芸
主人公葉山裕二はスマホゲームで1番になる為には販売員の給料では足りず、課金したくてウェブ小説を書き始めた。彼は果たして目的の課金生活をエンジョイできるのだろうか。無謀な夢は叶うのだろうか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる