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10【:tail fin】
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しおりを挟む脇役ばかりになったこの物語の世界では、悪夢ばかりを食べていたアイツも、あの忌まわしい魔法使いもいない。
でも、ソラがアイツを倒した後のこの世界にも厄災は度々襲い掛かり、何度も罪のない大勢の命を奪ってゆく。俺には勿論それを止める事など出来なくて、何もしないまま、ただ遠くからそれを眺めているだけだった。
あれだけあったはずの二人の歴史は、その物語の世界から一歩でも出てしまえば、何の意味もなさず、それどころか事実だったと証明する事すらできない。
恐らく、あの魔法使いは俺らを弄んで楽しんでいただけだったのだろう。そんな事、少し考えればわかったはずだった。それなのに俺とソラはその言葉に何度も踊らされ、すれ違い、もう二度と会えなくなった。手を放してしまってから、手が届かなくなってしまってから悔やむ。そんなことを繰り返す。嘘も見抜けない程未熟なくせに、変わってゆく価値観と、いつまでたっても変えられない本心の間につけこまれ、その度に物分かりの良い振りをして、そして選んだ答えは間違えていたのだと、今更気付く。
迷う度、夢をみる度、二人で語り合えば良かった。
真実はきっと、ただそこにしか無かった。
俺はずっと、記憶も現実もあやふやで、今自分がどちら側にいるのかわからないままの日々を過ごしてきていた。
夢をみる度、計ったように現れる他人の言葉に耳を貸して揺らぐ。自分のではない価値観の物語の中で、一生懸命に主役を目指す。それがわかってからも、グズグズと過去に縋り、前に進めない振りをしていた。俺が少しでも前に進んでしまえば、ソラの存在がいよいよ完全に消えてしまう。そんな妄想にも囚われていた。そのせいでソラと交わした約束は口から出ただけのまま、何のカタチも成さなくなってしまっている。
ソラと過ごした唯一の記憶の結晶が足元でその意味を為さなくなっている。自らの手で、思い出の詰まっているかもしれない「それ」に、別れを告げた。
すると何故か、再び手放してしまいそうになっていた自分自身の想いが舞い戻ってきた……
「―――この世界が偽りだったとしても、この中でこれからもきっと戦っていかなきゃいけない。それにさ、俺らすぐ間違えるじゃん?あと、勝手に諦める……
それ、やめよう。今ここで、約束しよう?例え側に居ない時だって、俺はソラの前で見せた本当の自分の笑顔を忘れない。絶対忘れないから―――」
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