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④次の日、颯太は聡を連れて校庭の陸上部練習を見に行った。美咲と同じ二年生が通りかかったので、美咲のフルネームを聞いた。海野美咲だ、釣りガールにはぴったりの名前だ。それに、ポニーテールの美咲は、遠くから見るよりもかわいい。
 美咲は、赤のセパレート型ユニフォームで練習をしていた。多くはランニングシャツとランニングパンツである。選手は自分の着たいものを着て練習するのだ。
 美咲も女子アスリートの撮影被害や画像拡散などの問題があることを知っている。強い選手が着ているから着るのではなく、美咲は胸が大きいので、そのふくらみの空気抵抗を少なくするためにセパレート型にしていた。
  颯太と聡は、美咲が一人で休憩のために日陰で水を飲んでいる時に話しかけた。
「こんにちは、3年の野上颯太です。こっちは、友達の」
「同じく3年の中野聡です」
「個人的な疑問なんだけど、休憩中のきみに質問しても、いいかな」
「あっ、先輩、いいです、私は、美咲、海野美咲です」
「陸上のユニフォームかっこいいけどさ、男の視線は気にならないの」
 美咲は、自分の上下の姿を見てから、
「私、個人の考えですけど、例え性的な目的でも自分を応援して見てくれるのはうれしいんです。写真を撮られたことないけど気にしません」
「盗撮されてネットに出るかもしれないよ」
「リスクはあってもセパレート型の方が走りやすいから、自分で見なければいいし、変なことをいわれたら、嫌ですけど」
「どうして、赤」
「赤にした理由は、自分が燃えるようなパワーが出せるからです、あのう、もう、行ってもいいですか」
「もちろん、ありがとう、また、話しかけてもいいかな」
「応援してくれるなら、いいですよ」
 美咲は、ニコっとかわいらしい笑顔を見せて、走り去った。肝心の釣りのレッドブルマの話はできなかったが、また、話しかけてもいい約束は取り付けられた。
 美咲はスタートダッシュの練習を始めた。
 競技場ではない土用のしっかりピンが刺さる先端がとがったスパイクでスタートを構えている。クラウチングスタートなので、両手を地面に着き、腰を上げた状態からの加速練習だ。そのため、スタートと同時に瞬発的な動作が必要だ。スタートの1歩目を改善するために、1歩が大きくなったり、力強く出られたり、腰が乗ったりすることでエネルギーロスを減らす努力をしている。
 美咲のスタートダッシュのポイントは、効率よく地面に反発力を伝えて、それを推進力に変えられるかどうかだ。だから、凜々しい顔で真剣に取り組む。
 颯太と聡は、レッドブルマを高く上げて止まっている姿に目が離せない。海と違って校庭なので直接見ないようにして、できるだけ近づいた。颯太の美咲への想いは強くなった。
 美咲の隣へ小さな男も練習に加わった。美咲は、同年代と比べると背が高く、体は細い、隣の男は、美咲の胸ぐらいの高さで普通体型だ。
「海野先輩、一緒にスタートの練習をさせてください」
「1年生で入ったばかりだから、浜崎君、やり過ぎないようにした方がいいよ」
「ありがとうございます、いい成績をあげている海野先輩のように記録を出したいんです、休みの日はどんな練習をしているんですか」
「筋トレとランニング、後、休みの日は釣りよ」
 浜崎もレッドブルマのことを知っていたのに聞いた。
「えっ、今度、一緒に釣りに行ってもいいですか」
「ダメダメ! 釣りは自分との戦いなの、だれかが近くにいたら魚が逃げちゃうわ」
「すみません、偶然、同じ釣り場だったら声をかけてもいいですか」
「う~ん、まあ、いいか、その時は、どっちが釣れるか競争しましょう」
「えっ、さっき、一緒はダメって言ったのに・・・」
「そうだったわね、ははは~」
  二人は楽しく会話をした後、練習を始めた。
 二人の様子を、颯太は羨ましそうに見ていた。そして、近くにいる人に、美咲と話している人の名前を聞いた。
「あれは、1年生の浜崎勇君、海野美咲さん目当てで陸上部に入ったんじゃないかな、だって、中学の時は、水泳部だったから」
 颯太に恋のライバルが現れた。 
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