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⑥数日後の朝、美月は家を売ってアパートで暮らすことをお母さんに話し、親子喧嘩をして家を出た。それでも、太陽君の園バスの見送りはいつも通りだ。

 学校へ着くと、また、下駄箱に嫌がらせの紙が入っていたが気にせずにゴミ箱に捨てた。美月が生活でいっぱいいっぱいになってくると、会話をする友達も話しづらくなり、減っていく。それでも、体操部仲間は仲が良く、励ましてくれる。

 教室に着くと、職員室に呼ばれた。学校へのお金の支払いが出来てないからだ。本来、授業料は無償となるのだが、他の女性とは暮らしているが、戸籍の入っている父親は収入があるのだ、ただ、もう関係ないからとお金を家庭に入れてくれないのだ。先生も、お金を管理する人に言われて困っている。

「先生、近いうちに必ず、持ってきます」

「まあ、締切日を守ることは、これから社会人になるために必要だ、忘れるなよ」

「はい、すみませんでした」

 先生に謝って教室に行くと、男女別の学習で、男子は移動教室でいなかった。大きな声をだした弘子を見て美月は驚いた。大きな声に驚いたのではなくて、手に持っているものだ。

「みんな、見て、これネットで買ったんだけどさ、自分の青春をお金に買えるなんて、馬鹿な女もいるよね」

 弘子が手に持っていたのは、美月にとって大切だった貴重なレオタードだった。

「これ、見てよ、レオタードの下にはくもの、ほら、ここ、黄色くなってない、はっははは~~臭うよ、マジで!」

 美月は、しっかりとチェックをしたから、わざと黄色くしたのだろう。でも、みんなの前で言うことはできない、ただ、目立たないように聞いていた。

「ハサミで切り刻んじゃおうか」

 「やめて!!!」

 美月は、大切にしてくれるだろうと思って想いを断ち切り出品したのに、目の前で切られてしまうのだ。

「どうしたの、美月さん、ねぇ~、これ、私、買ったものなんだけど、なんか問題でもあるの」

「・・・・・・同じ部活をしているものとして、切るのはやめてほしいの」

「美月さん、じゃあ、聞くけど、これ、美月さんのもの、それとも私のもの、どっちかな、私のものだったら、好きにしてもいいよね、ふふ~」

「弘子さんのものよ・・・・でも!」

「私のものなら、こうするわ」

 弘子は、股を切り裂いた。

「ほら、スカートになったよ、ふふふ~~時間がないから、美恵、咲江、一緒に切って!」

 3人で、美月が大切にしていたレオタードを、切り刻んだ。そして、ゴミ箱に捨てると、足で踏みつぶした。

「レオタードを売った人はお金になったから喜んでいるでしょうね、人助けは気持ちいいわ~、レオタードの下にはくもの、着るものは、男子に見せてあげよう、喜ぶかもね」

 美月は、涙をいっぱいためて、隣の子に体調が悪くなったから早退することを先生に伝えてもらえるよう頼んで、鞄を持って学校を出て行った。大好きな体操部の練習をする気にもならないほど悲しかった。弘子達は、最初から美月のレオタードの出品を狙っていた、そして、クラスのみんなも美月のものと気付いたに違いない。それでも、弘子のものとなったからには、止めることはできないのだ。

 人の見ている所で身体的・肉体的に苦痛を与える顕在的ないじめは、見ている者の中に先生に話したりアンケートに書いたりして表面化しやすいが、美月のように、対象者間だけでしか分からない、潜在的ないじめはいじめられている者に相当な苦痛を与える。

 美月は、橋の中央で流れている川を魂が抜けたような様相で見つめていた。

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