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第54話『追懐 7』
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翌日。私はカバンにICレコーダーを忍ばせ、家を出た。これから1週間で、証拠を手に入れるのだ。彼女たちはいつもと変わらず私に怒号を浴びせ、罵り、嘲った。このすべてがこの小さな機械に記録されていると思うと、ゾクゾクした。笑ってしまいそうになった。世界が鮮やかにさえ見えた。彼女たちが、私の人生の脇役だと気付いた。今の私は何にも勝る。家に帰って、取れた音声を聞く。酷い言葉の数々。獅子、と呼ぶ声。互いの名前を呼び合う声。十分な証拠になった。しかし音声だけでは飽き足らず、私はスマホで動画も撮った。かなりよく撮れた。これで彼女たちは悪者だ。彼女たちの人生は終わるんだ。
1週間後、千翼先輩は私を家に招いてくれた。お母様がジュースとお菓子を用意してくれた。千翼先輩は私を先輩の部屋に連れていった。
「……どうかな、証拠、集まった?」
「はい。」
千翼先輩にICレコーダーと動画を渡す。
「……」
千翼先輩は黙って音声を聞いたり、動画を見たりした。
「うん。ありがとう。」
千翼先輩はそれだけ言った。そして、私をそっと抱き寄せた。忘れていた「怒」や「哀」が帰ってくる。彼女たちはやっぱり悪人だ。私は酷いことをされている。先輩はそんな私を、可哀想だと思ってくれているんだろうな。可哀想だと思って、私を抱きしめてくれたんだ。溢れそうになる涙を私に見せないように。
「……明日の朝、校長室に行こうね。きっと、すんなり上手くはいかないと思う。もしかしたら……事態は悪化するかもしれない。その時は、ごめんね……私を、恨んで。」
「先輩らしくないです。」
「……ごめん。萌美ちゃんを……傷付けたくない。泣かせたくないの……」
この時は気が付かなかったけど、千翼先輩の中には私に対する何かしらの、他の人間とは区別できる感情が芽生えていた。それは分からなかったけど、私はこの時、多幸感に浸っていた。誰かが私に好意を抱き、私の悲しみを憂いて涙を流している。不思議な自己肯定感が湧き上がってきた。
「……千翼先輩。」
「あっ、ごめん。スキンシップ、嫌いなんだよね。」
「嫌いじゃないです。……千翼先輩から、抱きしめられるのは、嫌いじゃないです。」
千翼先輩は、はにかんで私の頭を撫でた。
「萌美ちゃんは美人さんだなぁ。芸能人になれそうだね。ふふっ」
それから、お菓子を食べて、ジュースを飲んで、先輩の楽しいお話を聞いていた。幸せだった。何もかもが、私にとっては癒しだった。
1週間後、千翼先輩は私を家に招いてくれた。お母様がジュースとお菓子を用意してくれた。千翼先輩は私を先輩の部屋に連れていった。
「……どうかな、証拠、集まった?」
「はい。」
千翼先輩にICレコーダーと動画を渡す。
「……」
千翼先輩は黙って音声を聞いたり、動画を見たりした。
「うん。ありがとう。」
千翼先輩はそれだけ言った。そして、私をそっと抱き寄せた。忘れていた「怒」や「哀」が帰ってくる。彼女たちはやっぱり悪人だ。私は酷いことをされている。先輩はそんな私を、可哀想だと思ってくれているんだろうな。可哀想だと思って、私を抱きしめてくれたんだ。溢れそうになる涙を私に見せないように。
「……明日の朝、校長室に行こうね。きっと、すんなり上手くはいかないと思う。もしかしたら……事態は悪化するかもしれない。その時は、ごめんね……私を、恨んで。」
「先輩らしくないです。」
「……ごめん。萌美ちゃんを……傷付けたくない。泣かせたくないの……」
この時は気が付かなかったけど、千翼先輩の中には私に対する何かしらの、他の人間とは区別できる感情が芽生えていた。それは分からなかったけど、私はこの時、多幸感に浸っていた。誰かが私に好意を抱き、私の悲しみを憂いて涙を流している。不思議な自己肯定感が湧き上がってきた。
「……千翼先輩。」
「あっ、ごめん。スキンシップ、嫌いなんだよね。」
「嫌いじゃないです。……千翼先輩から、抱きしめられるのは、嫌いじゃないです。」
千翼先輩は、はにかんで私の頭を撫でた。
「萌美ちゃんは美人さんだなぁ。芸能人になれそうだね。ふふっ」
それから、お菓子を食べて、ジュースを飲んで、先輩の楽しいお話を聞いていた。幸せだった。何もかもが、私にとっては癒しだった。
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