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第三章 終わりの始まり
81.終わりの終わり
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「最後が、お前の顔なんてごめんなんだよっ!!」
元奴隷の国の中でも、その離れた一角にあるイタチの獣人の家はその衝撃波を免れることが出来ずにいた。
マシであったことと言えば、掘立て小屋のような簡素な家であったことで、倒壊によるダメージがいくらか少ないことくらい。
「どっか行け!! 俺はもう生きてたって仕方ねぇんだ!!」
「あなただから助けるんじゃない!! 今、この国にいる仲間全員を、ジークの代わりに守ると、決めてるんだ!!」
ギギギとその倒壊した破片を持ち上げて踏ん張りながら、アスラが騒ぐイタチの獣人に叫び返す。
「はっ、仲間? 仲間だって? 本当におめでたいやつだ。仲間なわけないだろう!!」
そんなアスラを小馬鹿にするように、イタチの獣人はその顔をピクピクと震わせる。
「ライオンの襲撃に情報を売ったのは俺だよ!! そんなことも知らずに助けようととするとか、ほんとうに能天気なバカーー」
「気づいてた」
「は?」
手を休めずに、感情を見せずに返すアスラの言葉に、イタチの獣人はその動きを止めた。
「気づいていた」
「は、ま、負け惜しみ言いやがって!! 気づいてたなら俺を、何のお咎めもなしに放っておく訳ないだろうが!!」
「私が頼んだ」
「は?」
今度こそ、変な汗をかきながら、その目を見開いて動きを止めるイタチの獣人に、追いついていたヘレナが静かにその口を開く。
「その話は、本当です。ライオンたちに、私たちの関係性や警備体勢を流した1人があなただと、気づいたアスラ様がジーク様たちに頭を下げました。今回だけ、見逃して欲しい、と」
「はっ、情けでもかけたつもりか!? あぁ、そうだよ!! この手足じゃぁ、ここを出たら生きてなんていけない!! そうだよ! お前だよ!! お前のせいだ!!! お前のせいだ!!!! 全てぜんぶ、お前のせいだ!!!!!」
「そうだ」
「……は……?」
ガランと、汗だくで、泥だらけになったアスラが、どかした瓦礫にその額の汗を拭った。
「あなたに、そんなことをさせたのは私だ。どう謝ったって謝り切れない」
「何……っ!」
「心から、申し訳なく思っている。到底許されるものでないことも、わかっている。謝ることしかできない、不甲斐ない私で申し訳ない。そんなことを、あなたにさせてしまうきっかけを作ってしまって、本当に、心から、申し訳なかったーー」
その場で、地に額をつけて頭を下げるアスラを、イタチの獣人は呆けたように見下ろした。
「ーーなんで」
唇を震わすイタチの獣人は、その目を見開いて眉間に深いシワを寄せる。
「なんで!!!」
ヘレナは無言で、その成り行きを見つめた。
「なんでっ!!!!!」
イタチの獣人は、尚もピクリとも頭を上げないアスラに、振りかぶった震えるその腕を、ぎゅうと握りしめて近くの瓦礫に打ちつけて吠える。
「なんでお前なんだ!!!!!」
気づいていた。誰よりも、何よりも、その存在が疎ましくて、どうしたって目と耳に入ってくるから。
引き裂いて、泣き叫ばせて、命乞いをさせて、殺してやりたかった。
いっそ、清々しいほどの悪人だったらよかったのに。そうしたら、思う存分に、復讐ができたはずなのに。
なのにどうして、そんな善人のような立ち振る舞いばかりをするのか。どうして、すんなりと恨ませてくれないのか。
思うがままの悪人であれば、このやり場のない感情を、振り上げた拳を、思う存分に打ち付けることができたのに。
「どうして、どうしてっ、どうして!!!」
ガンガンガンと、イタチの獣人は残された片腕で壁を力任せに打ち鳴らす。
「くっそおぉぉおおおぉぉぉぉっっっ!!!!」
顔を上げないままのアスラに、振り上げた拳をどうしても落とすことができなくて、イタチの獣人の慟哭が空気を物哀しく震わせたーー。
「アイラちゃん!!」
「お姉!?」
突然とその身体をジークとライラックに抱えられて空から現れた初音に、アイラは驚きを隠せない一方で、全てを悟っているようだった。
「スオーは!?」
「アイラちゃん、お願い、私と一緒に、蘇芳くんを止めて!!」
「……っ!!」
初音の言葉に、アイラはすべてを悟ったようにその顔を引き締めた。
「アイラ、このまま、あんな顔したスオーと会えなくなるの、ぜったいにイヤ!!」
衝撃波が元奴隷の国に届くその瞬間、小さく縮こまる蘇芳の幻影を見た。
その幻影は、そっと優しくアイラの頬を撫でて、元奴隷の国に攻め込む人波だけを押し流す。
現実か幻覚か、どちらにしてもアイラはこのまま諦めるような娘でないことを、蘇芳は知る必要があった。
「アイラぜったい、諦めないから!!」
あんな泣きそうな顔と声で、逃げるようにお礼と別れを一方的に告げられて、アイラが大人しくしていると思うところから間違ってるとわからせてやる。
伸ばした初音の腕に触れたアイラとの間に魔法陣の軌跡が走り、その光が初音とアイラの右手の甲に割れて灯る。
初音の魔力によって押し上げられたアイラの外見から、動物らしさが削げ落ちて美しい娘へと変貌するのを、初音は眩しく見届けたーー。
元奴隷の国の中でも、その離れた一角にあるイタチの獣人の家はその衝撃波を免れることが出来ずにいた。
マシであったことと言えば、掘立て小屋のような簡素な家であったことで、倒壊によるダメージがいくらか少ないことくらい。
「どっか行け!! 俺はもう生きてたって仕方ねぇんだ!!」
「あなただから助けるんじゃない!! 今、この国にいる仲間全員を、ジークの代わりに守ると、決めてるんだ!!」
ギギギとその倒壊した破片を持ち上げて踏ん張りながら、アスラが騒ぐイタチの獣人に叫び返す。
「はっ、仲間? 仲間だって? 本当におめでたいやつだ。仲間なわけないだろう!!」
そんなアスラを小馬鹿にするように、イタチの獣人はその顔をピクピクと震わせる。
「ライオンの襲撃に情報を売ったのは俺だよ!! そんなことも知らずに助けようととするとか、ほんとうに能天気なバカーー」
「気づいてた」
「は?」
手を休めずに、感情を見せずに返すアスラの言葉に、イタチの獣人はその動きを止めた。
「気づいていた」
「は、ま、負け惜しみ言いやがって!! 気づいてたなら俺を、何のお咎めもなしに放っておく訳ないだろうが!!」
「私が頼んだ」
「は?」
今度こそ、変な汗をかきながら、その目を見開いて動きを止めるイタチの獣人に、追いついていたヘレナが静かにその口を開く。
「その話は、本当です。ライオンたちに、私たちの関係性や警備体勢を流した1人があなただと、気づいたアスラ様がジーク様たちに頭を下げました。今回だけ、見逃して欲しい、と」
「はっ、情けでもかけたつもりか!? あぁ、そうだよ!! この手足じゃぁ、ここを出たら生きてなんていけない!! そうだよ! お前だよ!! お前のせいだ!!! お前のせいだ!!!! 全てぜんぶ、お前のせいだ!!!!!」
「そうだ」
「……は……?」
ガランと、汗だくで、泥だらけになったアスラが、どかした瓦礫にその額の汗を拭った。
「あなたに、そんなことをさせたのは私だ。どう謝ったって謝り切れない」
「何……っ!」
「心から、申し訳なく思っている。到底許されるものでないことも、わかっている。謝ることしかできない、不甲斐ない私で申し訳ない。そんなことを、あなたにさせてしまうきっかけを作ってしまって、本当に、心から、申し訳なかったーー」
その場で、地に額をつけて頭を下げるアスラを、イタチの獣人は呆けたように見下ろした。
「ーーなんで」
唇を震わすイタチの獣人は、その目を見開いて眉間に深いシワを寄せる。
「なんで!!!」
ヘレナは無言で、その成り行きを見つめた。
「なんでっ!!!!!」
イタチの獣人は、尚もピクリとも頭を上げないアスラに、振りかぶった震えるその腕を、ぎゅうと握りしめて近くの瓦礫に打ちつけて吠える。
「なんでお前なんだ!!!!!」
気づいていた。誰よりも、何よりも、その存在が疎ましくて、どうしたって目と耳に入ってくるから。
引き裂いて、泣き叫ばせて、命乞いをさせて、殺してやりたかった。
いっそ、清々しいほどの悪人だったらよかったのに。そうしたら、思う存分に、復讐ができたはずなのに。
なのにどうして、そんな善人のような立ち振る舞いばかりをするのか。どうして、すんなりと恨ませてくれないのか。
思うがままの悪人であれば、このやり場のない感情を、振り上げた拳を、思う存分に打ち付けることができたのに。
「どうして、どうしてっ、どうして!!!」
ガンガンガンと、イタチの獣人は残された片腕で壁を力任せに打ち鳴らす。
「くっそおぉぉおおおぉぉぉぉっっっ!!!!」
顔を上げないままのアスラに、振り上げた拳をどうしても落とすことができなくて、イタチの獣人の慟哭が空気を物哀しく震わせたーー。
「アイラちゃん!!」
「お姉!?」
突然とその身体をジークとライラックに抱えられて空から現れた初音に、アイラは驚きを隠せない一方で、全てを悟っているようだった。
「スオーは!?」
「アイラちゃん、お願い、私と一緒に、蘇芳くんを止めて!!」
「……っ!!」
初音の言葉に、アイラはすべてを悟ったようにその顔を引き締めた。
「アイラ、このまま、あんな顔したスオーと会えなくなるの、ぜったいにイヤ!!」
衝撃波が元奴隷の国に届くその瞬間、小さく縮こまる蘇芳の幻影を見た。
その幻影は、そっと優しくアイラの頬を撫でて、元奴隷の国に攻め込む人波だけを押し流す。
現実か幻覚か、どちらにしてもアイラはこのまま諦めるような娘でないことを、蘇芳は知る必要があった。
「アイラぜったい、諦めないから!!」
あんな泣きそうな顔と声で、逃げるようにお礼と別れを一方的に告げられて、アイラが大人しくしていると思うところから間違ってるとわからせてやる。
伸ばした初音の腕に触れたアイラとの間に魔法陣の軌跡が走り、その光が初音とアイラの右手の甲に割れて灯る。
初音の魔力によって押し上げられたアイラの外見から、動物らしさが削げ落ちて美しい娘へと変貌するのを、初音は眩しく見届けたーー。
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