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第三章 終わりの始まり
75.謝罪
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「……悪かった。殴られても仕方ねぇ。小僧の女に手を出したのは俺だ。……初音も、怖い思いをさせて、悪かったな」
「アレックス様……」
殊勝な様子で頭を下げてくるアレックスを、初音をはじめとしたジークや、その他騒ぎを聞きつけて遠目から様子を伺っていた自警団の面々が無言で眺める。
「…………」
「…………」
「信用ならない」
「ジ、ジーク、落ちついて……っ」
熟考の末に導き出した答えを口にしながら、その眉間にシワを寄せるジークを初音が苦笑して宥める。
「信用ならない」
「ア、アスラ様……っ」
じとりとその疑惑と怒りと嫌悪が無い混ぜになった視線を向けられて、アレックスはその視線を明後日へと流す。
「おい、私にも1発殴らせろ。話はそれからだ」
「あぁ? なんでお前なんぞに……っ」
ちっと舌打ちをしながら剣のある顔でアレックスに近づいて行くアスラに、アレックスがイヤそうにその片眉を上げて見下ろす。
「ヘレナと蘇芳と、ついでに私のタダ働き分だよ、この大馬鹿ヤロウがっ!!!」
獣人相手の人間の力では大して効いていなさそうなアレックスの様子に、アスラは更に苛立っていたというーー。
「久しぶりね」
「あなたは、あの時の……っ」
ザリとジークの横に立つ初音の前に進み出た女ライオンに、初音は見覚えのあるその顔を見上げた。
「助ける義理なんてなかったのに、私とアレックス様をカバから助けてくれて、ありがとう」
「……助けたのはジークですから」
「それでも、あんたが言ってくれたんでしょう。だから、ありがとう」
「私こそ、助けてくれて、ありがとうございました。あなたがいてくれたから、好きな人と、ジークとまた会えたんです」
女ライオンがふっと笑う。
「文句は後で聞くって、あんた言ったでしょ。カバの分と今回と、しっかり文句言うつもりだから、覚悟してなさいよ!」
「……今回って……?」
未だその言葉を掴みあぐねている初音に、女ライオンは微笑む。
「……手を貸しに来た。決めたのはアレックス様よ。私たちだけじゃない。聞く耳持つやつ全部集めて引き連れて、あんたたちを助けて獣人が天下を獲る、その日にするってね」
ニッと笑う女ライオンの顔を、初音はポカンと見つめるしか出来なかったーー。
「あの時は、悪かった」
そう言って、初音のそばで常にぐるぐると牙を剥くジークに居心地悪そうにアレックスが言った。
「……まぁ、未遂でしたし、これ以上困らせないでいてくれるなら、この際もういいです」
そんなとても居心地の悪い空間で、初音は困惑して眉尻を下げる。
「初音が望むなら、今からでも力をもらってやってもいいんだぞ」
悪気なさそうに、本気か嘘か、ニッと笑って臨戦体制のジークの怒りに油を注ぐアレックスに頭痛を覚えた。
「……ありがたいけど遠慮しとく。これ以上あなたと一緒にいたら、ジークがあなたを燃やしちゃいそうだから」
「小僧は相変わらず青臭いな」
余裕のない男はモテねぇぞ。なんてどこ吹く風で口にするアレックスの口を縫ってやれればどれほど平和になるだろうかなんて、初音はぼんやりと考える。
「私のことが大好きで、私が大好きな人。いいでしょ?」
ふっと笑って、ジークの首に腕を回す初音に目を丸くすると、アレックスはハァとため息を吐いて視線を明後日へと送る。
「あいにくと、俺様の周りもしっかりした頼り甲斐のある女ばかりなんだ。俺様は見切りつけられないように頑張んなきゃいけねぇ。初音に構ってる暇なんて、これっぽっちもねぇな」
「なら、よかった」
ふっと笑う初音は、ふとその赤を含む茶の瞳を見上げる。
「でも、なら、なんでここに……?」
「あぁ? お前ら知らなかったんか? お前らんとこの、生意気な白フクロウが来たんだよ」
「え、ネロ……!?」
思わずと目を見張る初音に、アレックスは生意気にも単身乗り込んで来た白いフクロウの美少年を思い出す。
「おい、ライオン! タダ飲み食いに、無断宿泊、タダ風呂に、ヘレナお姉ちゃんと初音と蘇芳を傷つけたツケ、百倍にして返せよ!!」
「あぁ!?」
夕方の茜空に紛れて、縄張りの岩山から降って来たその声にアレックスをはじめとしたライオンたちはその顔を上げた。
「あれだけ好き勝手しといて、知らないなんて絶対に言わさねぇからな!!!!」
生意気そうにその声を張り上げる美少年に、アレックスは眉間に深くシワを刻む。
「やたらずっと俺様たちを監視してるとは思ってたが、急に何言い出すんだお前は!!!」
「お前、顔がきくんだろ!? 迷惑しかかけてないんだから、一回でいいから僕たちの役に立てよ!!!」
「だから何の話だって聞いてんだよ!!!!」
頭上から、一方的に捲し立てられる要領の得なさ加減にアレックスは次第にイラつきを顕にする。
「初音とジークを助けろって言ってるんだよ!!!! わかるだろ!? この馬鹿ライオン!!!!」
「はぁ!??」
その赤い瞳に涙を溜めて、不安を抱えながらも必死に意地を張る美少年を、アレックスは呆然と見上げたーー。
「いいかテメェら!!! 話は簡単だ!! 魔法使いを始末する! 魔法使いに捕まった仲間が首輪をつけられる前に、捕まえてる魔法使いを始末する! んで、魔法使いを始末する!!! それだけだ!! な? 難しくねぇだろ??」
うおおおおと言う声に混ざる、獣たちの咆哮は、人間たちの戦意を失わせるには十分だった。
「こんなとこで、俺様たちの同胞を見せ物にして楽しんでるような人間ども、遠慮なんかいらねぇ! いいかてめぇら! 元奴隷の国をぶん獲った初音とジークに、出世払いで売れるだけ恩を売るチャンスだ!!!! 気合い入れな!!!」
おおおおおおっ!!! と、空気が響く音がする。
「な……っ!?」
気づけば、会場を数多の動物が取り囲んでいた。
象、麒麟、サイ、ライオン、ヒョウ、虎、サル、猪、狼。コンドル、ハゲタカ、ワシ、タカなど、中型や小型のものまで入れればそれこそ数え切れないほどの獣とその獣人たち。
「あいつだ!! あいつを捕まえろ!!」
言うが否や、鬼の指示に従った魔法使いたちがアレックスへと捕縛の魔法を唱える。
「ーー効かねぇなぁ……っ!!」
その凶悪に顔を歪めたアレックスに、鬼はただただその目を見開いたーー。
「アレックス様……」
殊勝な様子で頭を下げてくるアレックスを、初音をはじめとしたジークや、その他騒ぎを聞きつけて遠目から様子を伺っていた自警団の面々が無言で眺める。
「…………」
「…………」
「信用ならない」
「ジ、ジーク、落ちついて……っ」
熟考の末に導き出した答えを口にしながら、その眉間にシワを寄せるジークを初音が苦笑して宥める。
「信用ならない」
「ア、アスラ様……っ」
じとりとその疑惑と怒りと嫌悪が無い混ぜになった視線を向けられて、アレックスはその視線を明後日へと流す。
「おい、私にも1発殴らせろ。話はそれからだ」
「あぁ? なんでお前なんぞに……っ」
ちっと舌打ちをしながら剣のある顔でアレックスに近づいて行くアスラに、アレックスがイヤそうにその片眉を上げて見下ろす。
「ヘレナと蘇芳と、ついでに私のタダ働き分だよ、この大馬鹿ヤロウがっ!!!」
獣人相手の人間の力では大して効いていなさそうなアレックスの様子に、アスラは更に苛立っていたというーー。
「久しぶりね」
「あなたは、あの時の……っ」
ザリとジークの横に立つ初音の前に進み出た女ライオンに、初音は見覚えのあるその顔を見上げた。
「助ける義理なんてなかったのに、私とアレックス様をカバから助けてくれて、ありがとう」
「……助けたのはジークですから」
「それでも、あんたが言ってくれたんでしょう。だから、ありがとう」
「私こそ、助けてくれて、ありがとうございました。あなたがいてくれたから、好きな人と、ジークとまた会えたんです」
女ライオンがふっと笑う。
「文句は後で聞くって、あんた言ったでしょ。カバの分と今回と、しっかり文句言うつもりだから、覚悟してなさいよ!」
「……今回って……?」
未だその言葉を掴みあぐねている初音に、女ライオンは微笑む。
「……手を貸しに来た。決めたのはアレックス様よ。私たちだけじゃない。聞く耳持つやつ全部集めて引き連れて、あんたたちを助けて獣人が天下を獲る、その日にするってね」
ニッと笑う女ライオンの顔を、初音はポカンと見つめるしか出来なかったーー。
「あの時は、悪かった」
そう言って、初音のそばで常にぐるぐると牙を剥くジークに居心地悪そうにアレックスが言った。
「……まぁ、未遂でしたし、これ以上困らせないでいてくれるなら、この際もういいです」
そんなとても居心地の悪い空間で、初音は困惑して眉尻を下げる。
「初音が望むなら、今からでも力をもらってやってもいいんだぞ」
悪気なさそうに、本気か嘘か、ニッと笑って臨戦体制のジークの怒りに油を注ぐアレックスに頭痛を覚えた。
「……ありがたいけど遠慮しとく。これ以上あなたと一緒にいたら、ジークがあなたを燃やしちゃいそうだから」
「小僧は相変わらず青臭いな」
余裕のない男はモテねぇぞ。なんてどこ吹く風で口にするアレックスの口を縫ってやれればどれほど平和になるだろうかなんて、初音はぼんやりと考える。
「私のことが大好きで、私が大好きな人。いいでしょ?」
ふっと笑って、ジークの首に腕を回す初音に目を丸くすると、アレックスはハァとため息を吐いて視線を明後日へと送る。
「あいにくと、俺様の周りもしっかりした頼り甲斐のある女ばかりなんだ。俺様は見切りつけられないように頑張んなきゃいけねぇ。初音に構ってる暇なんて、これっぽっちもねぇな」
「なら、よかった」
ふっと笑う初音は、ふとその赤を含む茶の瞳を見上げる。
「でも、なら、なんでここに……?」
「あぁ? お前ら知らなかったんか? お前らんとこの、生意気な白フクロウが来たんだよ」
「え、ネロ……!?」
思わずと目を見張る初音に、アレックスは生意気にも単身乗り込んで来た白いフクロウの美少年を思い出す。
「おい、ライオン! タダ飲み食いに、無断宿泊、タダ風呂に、ヘレナお姉ちゃんと初音と蘇芳を傷つけたツケ、百倍にして返せよ!!」
「あぁ!?」
夕方の茜空に紛れて、縄張りの岩山から降って来たその声にアレックスをはじめとしたライオンたちはその顔を上げた。
「あれだけ好き勝手しといて、知らないなんて絶対に言わさねぇからな!!!!」
生意気そうにその声を張り上げる美少年に、アレックスは眉間に深くシワを刻む。
「やたらずっと俺様たちを監視してるとは思ってたが、急に何言い出すんだお前は!!!」
「お前、顔がきくんだろ!? 迷惑しかかけてないんだから、一回でいいから僕たちの役に立てよ!!!」
「だから何の話だって聞いてんだよ!!!!」
頭上から、一方的に捲し立てられる要領の得なさ加減にアレックスは次第にイラつきを顕にする。
「初音とジークを助けろって言ってるんだよ!!!! わかるだろ!? この馬鹿ライオン!!!!」
「はぁ!??」
その赤い瞳に涙を溜めて、不安を抱えながらも必死に意地を張る美少年を、アレックスは呆然と見上げたーー。
「いいかテメェら!!! 話は簡単だ!! 魔法使いを始末する! 魔法使いに捕まった仲間が首輪をつけられる前に、捕まえてる魔法使いを始末する! んで、魔法使いを始末する!!! それだけだ!! な? 難しくねぇだろ??」
うおおおおと言う声に混ざる、獣たちの咆哮は、人間たちの戦意を失わせるには十分だった。
「こんなとこで、俺様たちの同胞を見せ物にして楽しんでるような人間ども、遠慮なんかいらねぇ! いいかてめぇら! 元奴隷の国をぶん獲った初音とジークに、出世払いで売れるだけ恩を売るチャンスだ!!!! 気合い入れな!!!」
おおおおおおっ!!! と、空気が響く音がする。
「な……っ!?」
気づけば、会場を数多の動物が取り囲んでいた。
象、麒麟、サイ、ライオン、ヒョウ、虎、サル、猪、狼。コンドル、ハゲタカ、ワシ、タカなど、中型や小型のものまで入れればそれこそ数え切れないほどの獣とその獣人たち。
「あいつだ!! あいつを捕まえろ!!」
言うが否や、鬼の指示に従った魔法使いたちがアレックスへと捕縛の魔法を唱える。
「ーー効かねぇなぁ……っ!!」
その凶悪に顔を歪めたアレックスに、鬼はただただその目を見開いたーー。
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