5 / 91
第一章 アニマルモンスターの世界へようこそ!
5.チート能力? 改稿
しおりを挟む 物騒な会話が続く中、初音は身の危険を感じながらもひとまず3人組を観察した。
タレ目に右目の下のホクロが色っぽさを醸し出している女の獣人は、ニヤニヤと意地悪そうにその黒い瞳を細めて赤い唇を歪める。
豊満な身体付きを際どい衣服に包んで、身体をくねらせた。その薄い茶色のクセのある長い髪からは、犬のような尖った大きめの耳が突き出て、短めの尻尾を時たま揺らす。
鼻は人間と同様の鼻だったが、その顔にはヒゲ、手足は獣であるのがわかる。
うふふとブチのある茶色の毛に包まれた腕を魅惑的に動かして、女の獣人は笑う。
そんな女の獣人を中心に、脇を固める若い男の獣人2人は、チンピラみたいな外見でニヤニヤと舌なめずりをする。その顔には獣の鼻とヒゲがあり、手足も獣の風体だった。
そんな騒がしい3人組を眺めて初音が思うのは、どう控えめに見てもーー。
「ガラが悪過ぎる……」
言い方は悪いが時代遅れのヤンキーみたいだった。
「何か言ったかしらぁ? 人間」
「あ、いえ何でもないですっ!!」
女の獣人にギロリと睨まれて、初音はバッと自身の口を塞ぐ。全ての感覚が人間より上である気がする獣人を相手にしている以上、ボソッとした呟きですら命取りになりそうだった。
「……あれってハイエナ……ブチハイエナ……だよね?」
「えっ! お姉よくわかったね! どうして!?」
「え? いや、何となく特徴的に……」
思いの外驚くアイラに逆に驚きつつ、初音はじっと目前の3人組を見つめる。
ブチハイエナの一般的なイメージは、餌を横取りして死肉を貪る卑怯者だけれど、実は動物界の上位種。
ライオンを超えて骨まで砕くその強靭なアゴと歯。メスを筆頭とした集団で行動し、狩りの成功率は6割を超える賢い動物。
横取りするのではなく、本当は体格差のあるライオンに餌を取られることが多い。体格差があるためタイマンでは勝てないが、ライオンと渡り合える可能性がある数少ない種。
対するクロヒョウは単独行動を好み、木登りが得意で身体能力はずば抜けて高い一方で、抜き出るもののない完璧なバランスタイプ。
ネコ科でもトップの柔軟性思考で、多岐に渡る餌や暮らしができることからその頒布が広いのが特徴。
通常の自然界では単独行動の命取りになる怪我を避けるため、基本的にライバルとは戦わずに避ける。もちろん、ハイエナ1匹ともまず戦わないし、多数戦は言わずもがなーー。
「お姉……?」
「あっ」
アイラの心配そうな声に、初音はハッとしてその顔を見る。
「ごめん、私何か言ってた……?」
アセアセと体裁を繕おうとした初音に、アイラは驚いた顔を隠せないままに口を開く。
「お姉、何でアイラたちのことに詳しいの……?」
「え……っ」
今のはそう、転生前に見ていた図鑑や各種コンテンツから仕入れた動物の一般的な知識。けれど不思議なのは、一度くらい読んだとは言え、既に忘れていたはずの遥か昔の知識であることだった。
まるで今図鑑を前にしているかのように、頭に流れ込んでくるその知識。
「え、な、何でだろ……っ」
その場の視線を集約させて、初音は言い淀む。もしや、これがよく言う異世界転生のチート能力と言うやつなのであろうか。
役に立つのか立たぬのかと考えて、いや、情報は大切だと思い直す。
普通の動物の知識に多少の色が付いた獣人だとしても、普通の動物の能力をベースにしているのなら、それはすなわち生きるか死ぬかの自然界で弱点を露呈させることと同義だった。
口走ってから、その場のヤバい空気に初音は顔を引き攣らせる。
「ーーへぇぇぇ? 憂さ晴らしのただの遊び道具と思ってたんだけど、これは良い意味で当てが外れたわねぇ。クロヒョウが殺しもせずに連れ歩く訳だわ」
あっはっはっはっと不気味に高笑いした女ハイエナは俯くと、その目を光らせる。
「死なない程度に骨をしゃぶりながら、知ってることぜぇんぶ吐かしてやるわ」
その冷酷な笑みに、初音はゾッと身体を震わせた次の瞬間ーー。
「アイラ!!!」
青年の声と同時に体が強く後ろへ引かれる。
「アイラちゃんっ!?」
見るみる遠くなる青年の背中を見ることしかできず、初音はアイラに運ばれるままに洞窟の奥へと吸い込まれたーー。
タレ目に右目の下のホクロが色っぽさを醸し出している女の獣人は、ニヤニヤと意地悪そうにその黒い瞳を細めて赤い唇を歪める。
豊満な身体付きを際どい衣服に包んで、身体をくねらせた。その薄い茶色のクセのある長い髪からは、犬のような尖った大きめの耳が突き出て、短めの尻尾を時たま揺らす。
鼻は人間と同様の鼻だったが、その顔にはヒゲ、手足は獣であるのがわかる。
うふふとブチのある茶色の毛に包まれた腕を魅惑的に動かして、女の獣人は笑う。
そんな女の獣人を中心に、脇を固める若い男の獣人2人は、チンピラみたいな外見でニヤニヤと舌なめずりをする。その顔には獣の鼻とヒゲがあり、手足も獣の風体だった。
そんな騒がしい3人組を眺めて初音が思うのは、どう控えめに見てもーー。
「ガラが悪過ぎる……」
言い方は悪いが時代遅れのヤンキーみたいだった。
「何か言ったかしらぁ? 人間」
「あ、いえ何でもないですっ!!」
女の獣人にギロリと睨まれて、初音はバッと自身の口を塞ぐ。全ての感覚が人間より上である気がする獣人を相手にしている以上、ボソッとした呟きですら命取りになりそうだった。
「……あれってハイエナ……ブチハイエナ……だよね?」
「えっ! お姉よくわかったね! どうして!?」
「え? いや、何となく特徴的に……」
思いの外驚くアイラに逆に驚きつつ、初音はじっと目前の3人組を見つめる。
ブチハイエナの一般的なイメージは、餌を横取りして死肉を貪る卑怯者だけれど、実は動物界の上位種。
ライオンを超えて骨まで砕くその強靭なアゴと歯。メスを筆頭とした集団で行動し、狩りの成功率は6割を超える賢い動物。
横取りするのではなく、本当は体格差のあるライオンに餌を取られることが多い。体格差があるためタイマンでは勝てないが、ライオンと渡り合える可能性がある数少ない種。
対するクロヒョウは単独行動を好み、木登りが得意で身体能力はずば抜けて高い一方で、抜き出るもののない完璧なバランスタイプ。
ネコ科でもトップの柔軟性思考で、多岐に渡る餌や暮らしができることからその頒布が広いのが特徴。
通常の自然界では単独行動の命取りになる怪我を避けるため、基本的にライバルとは戦わずに避ける。もちろん、ハイエナ1匹ともまず戦わないし、多数戦は言わずもがなーー。
「お姉……?」
「あっ」
アイラの心配そうな声に、初音はハッとしてその顔を見る。
「ごめん、私何か言ってた……?」
アセアセと体裁を繕おうとした初音に、アイラは驚いた顔を隠せないままに口を開く。
「お姉、何でアイラたちのことに詳しいの……?」
「え……っ」
今のはそう、転生前に見ていた図鑑や各種コンテンツから仕入れた動物の一般的な知識。けれど不思議なのは、一度くらい読んだとは言え、既に忘れていたはずの遥か昔の知識であることだった。
まるで今図鑑を前にしているかのように、頭に流れ込んでくるその知識。
「え、な、何でだろ……っ」
その場の視線を集約させて、初音は言い淀む。もしや、これがよく言う異世界転生のチート能力と言うやつなのであろうか。
役に立つのか立たぬのかと考えて、いや、情報は大切だと思い直す。
普通の動物の知識に多少の色が付いた獣人だとしても、普通の動物の能力をベースにしているのなら、それはすなわち生きるか死ぬかの自然界で弱点を露呈させることと同義だった。
口走ってから、その場のヤバい空気に初音は顔を引き攣らせる。
「ーーへぇぇぇ? 憂さ晴らしのただの遊び道具と思ってたんだけど、これは良い意味で当てが外れたわねぇ。クロヒョウが殺しもせずに連れ歩く訳だわ」
あっはっはっはっと不気味に高笑いした女ハイエナは俯くと、その目を光らせる。
「死なない程度に骨をしゃぶりながら、知ってることぜぇんぶ吐かしてやるわ」
その冷酷な笑みに、初音はゾッと身体を震わせた次の瞬間ーー。
「アイラ!!!」
青年の声と同時に体が強く後ろへ引かれる。
「アイラちゃんっ!?」
見るみる遠くなる青年の背中を見ることしかできず、初音はアイラに運ばれるままに洞窟の奥へと吸い込まれたーー。
1
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる