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第一章 アニマルモンスターの世界へようこそ!

25.解放

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「これで全部か?」

「多分……っ」

「アニキ! 子どもらも確保したぜ! あいつら一瞬現れたが、睨みつけたら直ぐに諦めて逃げてったわ! ざまぁみろだっ!! 子どもたちは今から順番に連れてくるから、さっさとずらかろうぜ!」

 ハァっと息を吐いて応じる初音とジークに対し、開け放たれた檻部屋の扉から顔を覗かせた白狼の青年が興奮気味に叫ぶ。

 ジークに抱えられて降り立った先は、ヒョウたちを助け出した件の檻部屋だった。

 地に降ろされた初音は、ジークが言わんとしていたことに思い当たり、急ぎ片っ端から檻の鍵を壊して扉を開けていく。

 白狼の青年は檻部屋を見回したジークが、優先的に解放して欲しいと初音に伝えた狼たちの1人だった。

 力量や知能のバランスから先遣隊としても適任。群れでの活動にも慣れていることから、ある程度互いをカバーしながら人間に対峙でき、救援要請などにも手分けして対応できるのでは、との判断だった。

 消火されずに火の手が衰えない屋敷と追手、そして先遣隊の狼たちへの警戒も緩めぬジークの裏で、初音は逃し忘れがないかと最終確認に余念を入れる。

「……皆を代表して礼を言わせて欲しい、クロヒョウの子」

 中型の獣や小動物、鳥類など多種多様な動物たちは人型や獣型など様々だったが、その中でも一際目立つ、大柄な体躯を持つ中年ほどの男女の2人。

 動物の要素が残る顔立ちに、白と黒の丸い耳に長い尻尾が揺れる。

 その様を眺めて、初音は檻に入れられていた時の、美しい毛並みの白虎を思い出していた。

「……礼には及ばない。ただ状況が変わったに過ぎないし、俺があなた方を見捨てようとしたことに変わりはない」

「我らは種族を超えて馴れ合うことはない。状況の変化とは言え気にかけてくれただけで、十二分に礼に値する」

 そう言って頭を下げる白虎の男性獣人を見て、ジークがぐいとそばをうろついていた初音の腕を引き寄せた。

「えっ……っ!?」

「それなら、礼はこの人間に言え。初音は俺たちを助けるために手を貸してくれている人間だ。初音が危険を省みずに協力したから、あなた方を解放することができた」

「……………………」

「ちょっ……ジーク……っ!?」

 獣人や獣たちの視線を一身に浴びた初音は、その重圧に耐えられずに身を強張らせる。

 つい先ほどまで自分たちを捕らえていた人間側である初音に対し、決して好意的な視線ばかりとは思えず、初音は緊張からごくりと喉を鳴らした。

 数え切れないほどの大小様々な無数の瞳に見つめられたまま、しばし沈黙が降りる。

 そんな居心地の悪い時間の後、白虎の獣人2人がその膝を折って拳を合わせると、その頭を垂れた。その姿に倣い、他の獣人や獣たちも互いに顔を見合わせて一斉に頭を垂れる。

「え……っ!?」

 思わず後退る初音に構わず、白虎の獣人はそのままの姿勢で口を開いた。

「我らの解放に手を貸して下さり心より感謝いたします。この恩義は必ずや、この身を賭してお返しします、初音殿」

「いや……っ……あの、こちらこそ……っ……人間が皆さんにひどい扱いをしてしまって……っ」

 あわあわと慌てる初音を見つめる無数の瞳が、いくらかの穏やかさを纏ったのを感じとったジークは、フッとその口元をゆるめる。

「俺たちはに関わる記録を探して、外の者たちも解放してからここを離れる。行動を共にするのはここまでだ。身体の不調がある者は逃げることに専念しろ。動けない者には動ける者が、せめて我らが領域まで種族関係なく手を貸してやってくれ」

 ジークの静かな声に、皆が耳を傾けているのがわかった。そんなジークを、初音はそっと伺い見る。

「手を貸してくれる意志のある者がいたら手伝ってくれるとありがたい。人間はあらかた逃げ出したようだが、ここには魔法使いが多くいた。単独行動は避けて、多数で互いに助け合って欲しい。再び捕らわれたり、何かあれば俺に知らせを。事態が許せば初音と駆けつける」

ーーお手伝いさせて下さいませ

ーー及ばずながら

 皆の視線を集めてスイと進み出たのは、狐とフクロモモンガ。どちらも体毛は白いけれど、目の赤い狐の方はアルビノのようだった。

 くるりと後ろに1回転して煙に包まれた白狐は、動物の素養を残してはいるものの、長い銀髪に赤い瞳の美しい女性の姿へと変わる。

「ヘレナと申します」

 一方のフクロモモンガは獣人となる様子は見せずに、頭を下げて自己紹介をする白狐の獣人を見上げていた。

「名乗り出てくれて助かる。猶予もない、解散しよう」

「ーーこのご恩は決して忘れません」

「何かあれば遠慮なくお申し付けください」

 個々に頭を下げて口々に礼を告げてから、その場を後にする白虎や白狼、その他の動物たちをある程度見送って、ジークは白狐とフクロモモンガの他にも何匹か残った動物たちを見回して口を開く。

「……ヘレナ、悪いが他の者たちを頼めるか」

「承知いたしました」

 ペコリと優雅にお辞儀をすると、ヘレナはフクロモモンガをはじめとした小さなサイズの動物たちをその腕に抱える。

 心なしか小さなサイズの動物たちが緊張しているように見えるのは、本来であれば捕食者と捕食対象と言う関係であるからなのかも知れない。

「いいか、魔法使いに遭遇したら迷わず逃げるか俺を呼べ。……初音、連れ回してすまないがもう少し付き合ってくれるか……? 疲れたなら休んでいて構わない」

 ヘレナたちに言い置いて当たり前のように初音をその腕に抱いたジークに、いささか緊張しつつもその首に腕を回した初音は目を剥いた。

「えっ!? 全然大丈夫だよ!! 今更何言ってるのジークっ!?」

 突然に優しい言葉を掛けてくるジークにギョッとして、初音は様子を伺うように見つめてくる金の瞳を見返す。

「正直こんな所に皆を置いていく方が気になって仕方なかったんだから、徹底的に施設を再起不能にしてから皆を逃さないとむしろ帰れないよ!!」

「そ、そうか……」

 そもそもの動物たちへの受け入れ難い扱いに加え、数々のおぞましい出来事を怒りで覆い隠して憤る初音の勢いに、ジークが少しばかりたじろぐ。

「……何かあれば無理せずに言え」

 少しばかり穏やかに微笑んで呟くと、トンと常人では考えられない距離を走るジークを初音は見上げる。

「ジーク」

「……なんだ、やっぱり疲れたか?」

 走りながらチラリと優しげに見下ろしてくる金の瞳に、初音は顔が緩む。

「助けに来てくれて、本当に嬉しかったーー」

 近い体温に頬を寄せて、初音はその感触を確かめるようにそっとその身を委ねたーー。
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