上 下
12 / 50
第一章 アニマルモンスターの世界へようこそ!

12.人間と魔力と獣人と

しおりを挟む
「この世界には魔力と呼ばれる現象がある」

 少しばかり移動して、森の近くの開けた平原にある見上げるほどに大きい木の上で、3人は膝を突き合わせていた。

 びしょ濡れだったはずの服は、移動時の風と日中の暖かさで嘘のように乾いている。

 事の顛末と、ジークが使えるようになった焔の魔法をアイラにお披露目してこれまた一騒ぎして落ちついた後、ひとまずの現状整理をしている最中。

 ジークの話しでは、この世界には大きく分けて人間とそれ以外の種族が生きていて、人間は人間以外の脅威的な力を持つ生き物と人型の力を持ち得る者をまとめてモンスターと呼んでいる。

 魔力と呼ばれる現象は人間とモンスター双方に影響し、人間は魔法と呼ばれる形で、モンスターはその個体能力の底上げと人型に変異できると言う形で現れた。

 よってモンスターは魔法は使えず、今回のジークの焔は例外中の例外と言える異常事態だと言う。

 更に言えば、モンスターの総合能力値は種族や個体としての個体値に、持ち得る魔力総量の魔力値の掛け合わせにより決まるそうで、全ての生き物が人型になれる訳でも、個体値と魔力値の到達点が同じという訳でもない。

「多種を取り込むことが多いからか、小型よりは大型。草食よりは肉食。子どもよりは老人の方が人型になり得易いような感覚はあるが、例外も見られるし細かいことはわからん」

 片膝を立てて座り、丁寧に説明をしてくれるジークとアイラを見る。

「……ハイエナもだけど、2人の人型に少し違いが見られるのは何で?」

「簡単に言えば、人型により近い方が総合値が高いという認識で問題ない。とは言え、上限までの幅内なら段階を踏んだ変化も可能だから、そこだけで判断すると足元を掬われる」

「な、なるほど」

 自身を弱く見せることもできるということかと、初音はゴクリと喉を鳴らした。

「それを踏まえての、俺の魔法とこの印についてだがーー」

 グイと胸元の衣服を指先で引き下げて、赤くアザのように残る紋様を見せたジークは、初音の胸元にチラリと見える印をじっと見つめる。

 他意はないはずの視線を感じて、初音は落ち着かずに視線をぎこちなく揺らした。

「同じ紋様は対になるはずだ。あの魔法陣は多分無自覚な初音のもので、ソレによって俺が魔法を使えるようになった。と考えるのが現状では自然だな」

「何でそれでお兄が魔法使えるの?」

「知らん、俺だって聞きたい」

 遠慮なく直球に問いかけるアイラの質問をバッサリと切り捨てて、ジークはガリガリと頭をかく。

「俺は何となく魔法の扱いがわかったが、初音については今だに自覚すらない。つまり解除方法もわからないってことで、このまま不確定要素を残したままに離れるのは避けたい」

「……ってことは、つまり?」

 ピクピクと、アイラの丸くて黒い耳と尻尾がゆらりと動く。

「……と言う流れで、戻る最中に初音とそう言う話しになった」

「やったぁっ!!!」

「わっ!!」

 ガバァっとアイラが初音に抱きつく。バランスを崩しそうになる初音の背を素早く支えて、万一樹上から落ちないように保険をかけるジークは、ハァとため息を吐いて目を細めた。

「言っとくが、解除方法がわるまでだからな……」

「わかってるよぉ」

 本当かぁ? と心底疑わしそうな顔でジークがアイラを見遣る。

「……初音が人間である以上では目立つ。ハイエナみたいな危険なヤツらだらけだから、命の保証もできない。だから、もう一度確認する」

 アイラに抱きつかれたままに、初音はジークを見返す。

「本当に、人間の街に帰らなくていいんだな」

 じっとその金色の瞳に見つめられて、初音はアイラの元に2人で戻るまでにも問われたその質問を考える。

 紋様の気がかりはあるけれど、初音が望めば当初の予定通りに人間の街へ連れて行くとジークは言った。

 そして謎の力を得たとは言え、危険が迫れば初音ではなくアイラを優先するともハッキリと言われた。

 それでも、足手まといでしかない不審な女1人に最大限心を砕いてくれるその優しさが、根無し草のように居場所のなかった初音には嬉しかった。

「ーー魔法? のことも気になるし、できれば……ここにいたい。もちろん、2人が許してくれるならだけど……」

「ぜんっぜんいいよぉっ!!」

 ぎゅーっと柔らかい頬を押し付けられて、初音は目を丸くした後にほっこりと頬を緩ませる。

「……まぁ、個体値と魔力値の両方が底上げされた上に焔まで使えてる……から、余程なければ何とかなるはずだ……が、お前はさっさと力を制御できるように努力しろ」

「ーーうん、ありがとう」

 フンと小さく鼻を鳴らしてジークは視線を逸らすとその場に立ち上がる。

「どこ行くの?」

「力の試しついでに何か探してくる。朝メシをハイエナどもに邪魔されて腹が減った」

 キョトンと見上げるアイラにジークはサラッと答えると、ここを動くなよと言い置いてトントンと身軽に木を飛び降りていく。

「行っちゃったね、じゃぁここでアイラとおしゃべりしよう」

 にへらと笑うアイラの可愛さにほっこりしつつも、初音は何故だか落ち着かない胸の内を抱えていた。

 形容し難いのだが、ソワソワすると言うか、ザワザワすると言うか、謎の焦燥感に包まれて落ちつかない。

「お姉、どうかした?」

「……いや、なんでもなーー……」

「おい」

 背後から聞こえた低い声に驚いて見上げれば、そこには不機嫌な顔をしたジークがいた。

「え……?」

 2人同時に、出て行ったばかりのはずのジークを見上げて間の抜けた声を出せば、ジークは大きなため息をついて顔を覆う。

「気持ち悪いからどうにかしろ……」

 ジークの丸い黒耳と尻尾がペタリと垂れているのが、なんだか可愛かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

異世界に転生したら溺愛ロマンスが待っていました!皇太子も騎士もみんなこの世界"好き"のハードル低すぎませんか!?~これサダシリーズ1~

国府知里
恋愛
 歩道橋から落ちてイケメンだらけ異世界へ!  黒髪、黒目というだけで神聖視され、なにもしていないのに愛される、謎の溺愛まみれ! ちょっと待って「好き」のハードル低すぎませんか!?   無自覚主人公×溺愛王子のハピエン異世界ラブロマンス! ※ お知らせしました通り、只今修正作業中です!  シリーズ2からお楽しみください!  便利な「しおり」機能をご利用いただくとより読みやすいです。さらに本作を「お気に入り」登録して頂くと、最新更新のお知らせが届きますので、こちらもご活用ください。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

番なんてお断り! 竜王と私の7日間戦争 絶対に逃げ切ってみせる。貴方の寵愛なんていりません

ピエール
恋愛
公園で肉串食べてたら、いきなり空から竜にお持ち帰りされてしまった主人公シンシア 目が覚めたら ベッドに見知らぬ男が一緒に寝ていて、今度は番認定! シンシアを無視してドンドン話が進んでいく。 『 何なの、私が竜王妃だなんて••• 勝手に決めないでよ。 こんなの真っ平ゴメンだわ!番なんてお断り 』 傍若無人な俺様竜王からなんとか逃げ切って、平和をつかもうとする主人公 果たして、逃げ切る事が出来るか••• ( 作者、時々昭和の映画•アニメネタに走ってしまいます 。すみません) ザマァはありません 作者いちゃらぶ、溺愛、苦手でありますが、頑張ってみようと思います。 R15は保険です。エロネタはありません ツッコミ処満載、ご都合主義ではごさいますが、温かい目で見守っていて下さい。 映画関連、間違えがありましたら教えて下さい (*´ω`*) 全九話です。描き終えてありますので最後までお読みいただけます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...