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2章
17.意識
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ーーすごいわ! ……すごいけど、あなたならまだがんばれるんじゃない?。もっとできるでしょう? あなたはすごい子なんだから。
ーーこの程度はやっぱり余裕ですか。いや、どうしたらそんな風になれるか全然わからないですよ。
ーーこれが好きでしょう? そうだと思った。だってあなたのことは何でもわかるのよーー。
好き勝手を囃し立てるその口たちに笑顔で返すのに、息苦しさを感じるのはなぜなのか。
「ーーねぇ、まさかとは思うけどダメだからね? わかってるよね? 明らかに崩壊のスイッチを自ら押しに行く愚行だからね? あのフィンくんが黙ってると思う? 無理無理、考えただけで具合が悪くなってきた……っ!!」
ノアの百面相に思考を中断されて、ダリアはハァと息を吐いてその顔を見上げる。
「ーー何なんだノア、ハッキリ言え。何が言いたい」
「ほら無自覚のフリですよ! いい? ダリアはね、自覚ないけど変態なんだよ!!」
「人を急に変態呼ばわりして何なんだ……っ、いい加減そろそろ怒るぞ……っ」
ミレーナの件でソフィアとフィンの自宅を訪れて帰宅した後、団長の自室で騒ぎ立てるノアにダリアが眉をひそめた。
突然のパワーワードにさすがのダリアもジロリとノアを見上げれば、ノアは悲観したように項垂れる。
「僕は知ってる。君ってやつは有能過ぎて大体のことが予想通りの把握ができちゃうでしょ。それ故に、把握できないことに必然と興味がいくわけなんだよ。しかも君ってやつは興味を持たれるのが好きじゃない女泣かせときた」
「……………………で?」
何が言いたい、早く言えと、眉根を寄せるダリアを伺い見て、ノアはハァとため息を吐く。
「……もう自分で気づいてるんでしょ。まぁ確かに少しは刺激的なギャップではあったけど、あの程度はよくあることだし、今一度よく落ち着いてーー」
ジロとその蒼い瞳に見られて、ノアはぐぅと喉を鳴らす。
「…………ダリア……フィンくんのお姉ちゃんに、興味持っちゃってない…………?」
眼鏡の奥からこれ以上ないほどに心配そうにこちらを伺い見るノアの顔を、ダリアはぼんやりと思い出していたーー。
「おい、しっかりしろよ」
「え、フィン!? 何でここにいるの!? ソフィアは!?」
飛びかかってくる魔物を捌き切れず、遅れを取って苦戦していた中衛部隊の周囲を、燃え盛る炎が一掃する。
本来は不利な相手であるはずの水の魔物へも涼しい顔で発揮するその威力に、テレジアをはじめとした中衛の面々は目を丸くしてその力量の差を愕然と悟った。
「……押されてるようだったから助っ人」
「この状況でよくソフィアの側を離れたわね……っ!? いや、ありがたいんだけれども……っ!!」
話しながらもその手は休めず、背中合わせに互いに魔物を打ち取っていく。
「……………………まぁ、ソフィアの近くには団長たちがいるし、お前がケガしたら心配するだろ」
「…………え?」
「ソフィアが」
「……………………」
思わずと目を見張ってぶんっと後ろを振り返るテレジアに気づかずに、フィンは気のない素振りで続ける。
「ーー……あぁ、それはどぉも……っ!!」
ハッと息を吐き出したテレジアは、けれど自身の頬がなぜか熱くなるのを感じて、それを誤魔化すように魔物へと力任せに魔力を放った。
「横からも来るぞ!!」
左手の下方から洞窟内に流れる水の音を聞きながら、地を這う魔物に空を飛ぶ魔物、さらには壁から現れる魔物に応戦していく。
思うよりも大量の魔物の群れの動向にいち早く指示を飛ばしながら、ダリアがほぼ180度を包囲する壁を作るように、地面から突き出す氷で魔物を串刺しにした。
「ソフィアちゃん、色んな意味で気をつけてねっ!?」
「ありがとうございます……っ!」
ダリアの右後方をカバーするノアと、左後方をカバーする男性。その後ろにつく女性団員に守られながら、ソフィアは皆が負ってできた傷を端から治していく。
「ーーいやぁ、えらく素直に従ったねぇ、フィンくん……っ」
「俺が言う前から背後を気にしているようだったしな……っ」
その手を休めることなく溢れ返る魔物を討ち取っていきながら、誰にともなく溢したノアの言葉にダリアが応える。
「……フィンは周りもよく見えてるし視野も狭くない。頭の回転も早いし、ある程度感情を落ち着けられればーー」
ふと視線を感じて顔を上げたダリアが、視線の先で髪を振り乱してこちらに走り寄ってくる銀の瞳に気づく。
「ダリア!!」
一瞬眉をひそめた後、ノアの声にダリアがハッとして背後を見れば、見上げるほどに大きな感情のない二対の瞳が大量に、左手下方の崖下から覗いていた。
ソフィアたちに1番近い魚類の魔物をバキリと一瞬で凍らせたダリアが、嫌な予感を受けて叫ぶ。
「全員今すぐ退避!!」
ダリアの声と、その顔に狂気を滲ませて飛ぶように走るノワールがすれ違うのは同時だった。
立て続けに起こる爆音に顔を覆う面々に構わず、爆音は鳴り続けて轟音が洞窟を揺らす。
「ソフィアーーーーっ!!!!」
立ち昇る砂煙の中で遠くから叫ばれたその姿を探して一歩を踏み出せば、崩れた地面の上で崖下に引き込まれるように落ちるその姿が見える。
考える前に動いた身体は、その身体を抱え込んで重力に従い落下していたーー。
ーーこの程度はやっぱり余裕ですか。いや、どうしたらそんな風になれるか全然わからないですよ。
ーーこれが好きでしょう? そうだと思った。だってあなたのことは何でもわかるのよーー。
好き勝手を囃し立てるその口たちに笑顔で返すのに、息苦しさを感じるのはなぜなのか。
「ーーねぇ、まさかとは思うけどダメだからね? わかってるよね? 明らかに崩壊のスイッチを自ら押しに行く愚行だからね? あのフィンくんが黙ってると思う? 無理無理、考えただけで具合が悪くなってきた……っ!!」
ノアの百面相に思考を中断されて、ダリアはハァと息を吐いてその顔を見上げる。
「ーー何なんだノア、ハッキリ言え。何が言いたい」
「ほら無自覚のフリですよ! いい? ダリアはね、自覚ないけど変態なんだよ!!」
「人を急に変態呼ばわりして何なんだ……っ、いい加減そろそろ怒るぞ……っ」
ミレーナの件でソフィアとフィンの自宅を訪れて帰宅した後、団長の自室で騒ぎ立てるノアにダリアが眉をひそめた。
突然のパワーワードにさすがのダリアもジロリとノアを見上げれば、ノアは悲観したように項垂れる。
「僕は知ってる。君ってやつは有能過ぎて大体のことが予想通りの把握ができちゃうでしょ。それ故に、把握できないことに必然と興味がいくわけなんだよ。しかも君ってやつは興味を持たれるのが好きじゃない女泣かせときた」
「……………………で?」
何が言いたい、早く言えと、眉根を寄せるダリアを伺い見て、ノアはハァとため息を吐く。
「……もう自分で気づいてるんでしょ。まぁ確かに少しは刺激的なギャップではあったけど、あの程度はよくあることだし、今一度よく落ち着いてーー」
ジロとその蒼い瞳に見られて、ノアはぐぅと喉を鳴らす。
「…………ダリア……フィンくんのお姉ちゃんに、興味持っちゃってない…………?」
眼鏡の奥からこれ以上ないほどに心配そうにこちらを伺い見るノアの顔を、ダリアはぼんやりと思い出していたーー。
「おい、しっかりしろよ」
「え、フィン!? 何でここにいるの!? ソフィアは!?」
飛びかかってくる魔物を捌き切れず、遅れを取って苦戦していた中衛部隊の周囲を、燃え盛る炎が一掃する。
本来は不利な相手であるはずの水の魔物へも涼しい顔で発揮するその威力に、テレジアをはじめとした中衛の面々は目を丸くしてその力量の差を愕然と悟った。
「……押されてるようだったから助っ人」
「この状況でよくソフィアの側を離れたわね……っ!? いや、ありがたいんだけれども……っ!!」
話しながらもその手は休めず、背中合わせに互いに魔物を打ち取っていく。
「……………………まぁ、ソフィアの近くには団長たちがいるし、お前がケガしたら心配するだろ」
「…………え?」
「ソフィアが」
「……………………」
思わずと目を見張ってぶんっと後ろを振り返るテレジアに気づかずに、フィンは気のない素振りで続ける。
「ーー……あぁ、それはどぉも……っ!!」
ハッと息を吐き出したテレジアは、けれど自身の頬がなぜか熱くなるのを感じて、それを誤魔化すように魔物へと力任せに魔力を放った。
「横からも来るぞ!!」
左手の下方から洞窟内に流れる水の音を聞きながら、地を這う魔物に空を飛ぶ魔物、さらには壁から現れる魔物に応戦していく。
思うよりも大量の魔物の群れの動向にいち早く指示を飛ばしながら、ダリアがほぼ180度を包囲する壁を作るように、地面から突き出す氷で魔物を串刺しにした。
「ソフィアちゃん、色んな意味で気をつけてねっ!?」
「ありがとうございます……っ!」
ダリアの右後方をカバーするノアと、左後方をカバーする男性。その後ろにつく女性団員に守られながら、ソフィアは皆が負ってできた傷を端から治していく。
「ーーいやぁ、えらく素直に従ったねぇ、フィンくん……っ」
「俺が言う前から背後を気にしているようだったしな……っ」
その手を休めることなく溢れ返る魔物を討ち取っていきながら、誰にともなく溢したノアの言葉にダリアが応える。
「……フィンは周りもよく見えてるし視野も狭くない。頭の回転も早いし、ある程度感情を落ち着けられればーー」
ふと視線を感じて顔を上げたダリアが、視線の先で髪を振り乱してこちらに走り寄ってくる銀の瞳に気づく。
「ダリア!!」
一瞬眉をひそめた後、ノアの声にダリアがハッとして背後を見れば、見上げるほどに大きな感情のない二対の瞳が大量に、左手下方の崖下から覗いていた。
ソフィアたちに1番近い魚類の魔物をバキリと一瞬で凍らせたダリアが、嫌な予感を受けて叫ぶ。
「全員今すぐ退避!!」
ダリアの声と、その顔に狂気を滲ませて飛ぶように走るノワールがすれ違うのは同時だった。
立て続けに起こる爆音に顔を覆う面々に構わず、爆音は鳴り続けて轟音が洞窟を揺らす。
「ソフィアーーーーっ!!!!」
立ち昇る砂煙の中で遠くから叫ばれたその姿を探して一歩を踏み出せば、崩れた地面の上で崖下に引き込まれるように落ちるその姿が見える。
考える前に動いた身体は、その身体を抱え込んで重力に従い落下していたーー。
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