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「え? なに? え? ヘラ? ヘラは? え? どういうこと……っ!!!?」

「俺がヘラだよ、アマベル」

 ふっと笑った、その間違いなく男性であるとわかる長身のガシリとした体躯は、いつの間にか女子生徒の制服からシックな黒シャツと、その長い足を包む黒い細身のズボンへと変わっていた。

「なっ、えっ? ど、どういう……っ!?」

「わかるでしょう?」

 そう言って少し寂しそうにその赤い瞳を揺らす美しい顔に、私は思わずとうっと詰まって後退る。

「ずっと、この時を夢に見てた」

 ヘラと名乗る元ヘラだったその男性が、そっとその赤い瞳を伏せた次の瞬間には、ざぁっという音と共にその長い黒髪が銀髪に変化して長めの短髪へと変わる。

 長めの前髪の奥からこちらを見る熱を帯びた赤い瞳に、私は絡め取られるように動けなくなった。

「愛しているよ、アマベル。俺と、ずっとずっと、ずっと一緒にいよう……っ」

「ち、ちょ、待……ぅむっ」

 突き出した腕を絡め取られて、そのまま腰を引き寄せられて唇を奪われる。ゾワゾワと脊髄を走って身体を痺れさせていく何かの感覚に、私は瞳をギュッとつむるしかできない。

「んぅっ……ま、待って……ん……ぁっ……っ!」

「……はぁ……っ、この時をどれほど待ち侘びたか、君にわかる?」

 ようやくと一時離された唇の合間に抗議の声を出すも、すでに腰砕けになって回された腕に支えられている私では、満足にそこから動くこともできなかった。

 薄くぼやけた視界の先で、その赤い瞳が熱っぽく私を見つめているのがわかる。

「な、なん……っ、……んぁ……っ」

 腰に右腕を回されたままに左手で顎を固定され、再び唇を塞がれて舌を絡め取られて身体がゾクゾクと反応するのを止められない。

「んぅっ、ぁっ、はぁっ」

 そのまま軽い力で顔を逸らされたかと思ったら、そのまま耳や首を舐められて、はぁと肌にかかる吐息にゾクゾクして、甘噛みをされた瞬間に身体がビクリと反応した。

「んぅ……っ、ちょっと、待って……っ……ひぁっ!?」

「………………っ」

 はだけた胸元に顔を埋めてキスを落とされる感触に思わず出た声に、ヘラがぴくりと反応して、上げたその赤い瞳と目が合った。

 カクリと折れた膝と共にヘナヘナとその場に座り込む私を支えながら、ヘラが涙が伝う私の頬をペロリと舐める。

「ーーアマベル、すまない。つい、嬉し過ぎて、抑えが効かずこんなところで……っ、……ここは邪魔が多いから、俺の城に行こう」

「え……っ?」

 蒸気した頬で何だって? と聞き返すももう遅い。次の瞬間には、ヘラの魔法によって次元を通り、豪奢で広い部屋に転移していたーー。





「んぁっ、やっ、……んぅっ、ヘラっ、もう……っ……やめ……っっ!」

「……はぁ、かわいい、かわいいよ、アマベル……っ、ずっと、ずっと、何度夢に見て想像していたことか……っ」

 しっかりと身体に回されたヘラの右手は、はだけた制服の隙間から入り込み、絡められた長い足と顎を捕らえて離さない左手によって、身体の動きは制御されていた。

 背後から降り注ぐようなキスを肩や背中に受けながら、時折りガブリと甘噛みされる度に私の身体が跳ねる。

 転移したその部屋で当たり前のようにその身体を抱え上げられると、私はそのままベッドへと組み敷かれて、反応を楽しむようなヘラの好き放題に遊ばれた。

 中途半端に脱がされている制服は全くとその目的を果たしておらず、いっそ身体の動きを制限されることが逆に恨めしい。

「んぅっ!!」

「ーーほんとうに敏感なんだね……っ」

 その言葉を証明でもしようとするかのように耳先で低い声で囁かれて、私は瞳をつむると唇を噛んだ。

「な、なんで、女の子……っ、に……っ!?」

 自由な両手は身体を弄る動きを静止させようと力を込めるけれど、その効果は薄くむしろヘラを煽っている気さえする。

 切れ切れに言葉を紡ぐのが精一杯で、震えて力の入らない身体でその赤い瞳へ視線をやると、少し紅潮したその美しい顔が私を見返した。

「言っただろう、アマベルとこうなるためだ……って」

 はぁと熱い息を吐き出してその赤い瞳を細めたヘラに、ぐいと力を込めた左手で右を向かせられた唇を塞がれて、そのまま器用にベッドへと押し倒される。

「な、何で……っ、だって、い、いつから……っ」

 上から見下ろされて、その指先で耳、頬、唇、首、鎖骨をそっと順に撫でられて、ぅぐっと唸る。

「ーーこの世界の住人は、神の誓約の中で生きている。そして元は、こんなに黒く歪んだ世界でもなかったんだよ」

「ーーえ……っ?」

 言うが否や唇を覆われて、もう何度となく侵入を許したその舌に、そのまま舌を絡めとられたーー。





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