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王女、後悔する。

100.

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「せ、精霊王様…………恐れ入りますが、残り1つとは……っ⁉︎」

 動揺を隠せない一同に、感情を見せない精霊王の言葉が降り注ぐ。

ーーナクタを助ける、もしくはその方法。そして、特別な我が子の意。しかと要望には答えたはずだーー

「……っ」

「カ、カトレア様……っ」

「話の流れの会話まで入ってもうとるやないかい……っ!やけに親切丁寧に説明してくれる思うとったら……っ!」

「待って」

 おいっと思わず突っ込まずにはいられないグレンを、カトレアは静かに押し留める。

「……精霊王様。ナクタにお力添えを頂き、質問にも丁寧にお答え下さり、誠に感謝致します。確かに、私がお尋ねしたことと相違ありません」

ーーうむ、苦しゅうないーー

 ペコリと改めて首を垂れてお礼を伝えるカトレアを見遣り、一同は口をつぐむ。

「ーー最後の問いです。恐れ入りますが、私カトレアが魔法を扱えるようになることは可能か。もしくは、その方法をご存じであればお教え下さい」

 カトレアの言葉からしばし間が空き、一同は息を詰めて見守る。

ーーしばし、待てーー

 そう告げられるや否や、カトレアの身体が光に包まれる。

 ポカポカと優しい温もりが、けれど探るように身体を撫でられているような感覚に、カトレアは緊張の面持ちで身体を硬くした。

ーー相分かった。良かろう。だが今回は骨が折れるーー

「……それはどう言う……?」

 精霊王の含みのある言葉に、一同は次の言葉を待つ。

ーーナクタとは似て非なる。先ほどは魔力回路が育たぬ故に、生成され続ける魔力の逃げ場がなくなることが問題であったが、今回は魔力回路はきちんと育っておる。が、魔力の生成自体が阻害されていることが問題の原因のようだーー

「……魔力の生成の阻害……?」

 覚えのない精霊王の言葉に、カトレアは戸惑いを隠せずに繰り返す。

ーー……強力な力で封がされておる。力技で止められた生成は、長きに渡る眠りによってその機能を完全に止めているようだ。こうなると、我だけの力では難しいーー

「……解決し得る方法はあるのでしょうか……」

 ごくりと喉を鳴らし、カトレアは緊張の面持ちで天に目を凝らす。無意識に握りしめた拳には、イヤな汗が滲んだ。

ーー封を解き、眠った器官に刺激を与えれば、或いは眠りから覚めるやも知れぬ。しかして人族の魔力と精霊の魔力は似て非なるもの。我では封を解くまでしかできぬーー

「……そう……ですか…………」

 ナクタの劇的な回復を垣間見た後では、その期待が否応なく上がっていたこともあり、カトレアは身体から力が抜けるのを感じる。

 問題の解決には近づいたようには見えるも、現状ではカトレアが目指している目的には達し得ない空気に、思わず視線が泳いだ。

「……カトレア様……」

 伺うように声を掛けてくるクシュナの顔を見れないままに、カトレアが思考を巡らせようとした時、再び言葉が紡がれる。

ーー我には封を解くまでしかできぬ。しかし、他の人族の魔力を我の力で体内に注ぎ込むことは可能だ。魔力を注ぎ込み、魔力回路を巡り、魔力生成器官を満たすことができれば或いはーー……。見たところクシュナとやらの魔力総量は人族としてはかなりのものと見える。上手くすればそれが刺激となって覚醒するやも知れぬーー

「……え……?」

「……カトレア様……っ」

 告げられた内容に戸惑いを見せるカトレアと、ほっと胸を撫で下ろすクシュナ。成り行きを心配そうに見守るグレン、ナクタ、ハクアに、目を細めるパルの姿があったーー。
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