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王女、後悔する。
94.
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「カ、カトレア様……!お待ち下さい!」
ツカツカと足早に歩くカトレアを、慌てたようにクシュナは追いかける。
「ーー悪かったわね、邪魔して。クシュナの気持ちに正直にいていいし、目的のために私に遠慮する必要はない……ってきちんと伝えたかっただけだから、クシュナの本意であれば今からでも戻ってくれて構わないのよ」
追いかけるクシュナを見ようともせずに足早に歩くカトレアは、グレンたちの元に戻る気にもならず目的なく近場の森を彷徨い歩く。
「ちょっと!落ち着いて下さい!そんな風に見えましたか⁉︎じゃなくて、本当に何もありませんよ!わかるでしょう⁉︎」
パシリとカトレアの腕を掴んで引き留めると、クシュナは顔を向けようとしないカトレアの前へと回り込む。
「……俺とハクア様の間には誓って何もありません」
「…………ご馳走様って?」
「あれは多分、ハクア様の嫌がらせです」
はぁぁと顔を押さえながら盛大にため息を吐くクシュナを、カトレアは不審そうに眺めやる。
「……そんな嘘をわざわざ言う必要ある?」
「そう言われましても、嘘は嘘ですから」
困り果てた様子のクシュナに、カトレアは無駄にイライラしている自身を持て余していた。
グレンに声を掛けられて以降から、ずっと調子がおかしい。ざわざわして、イライラして、落ち着かない上にひたすらに気分が悪い。
「…………」
「カトレア様……?」
自身で制御できない感情に振り回されて、普段の調子にどうしたら戻れるのかが全くわからなかった。
「…………ハクア様が好きなの?」
「好きなように見えましたか⁉︎」
目を剥いてギョッとするクシュナを眺めつつ、カトレアは続ける。
「……ベタベタ楽しそうにしてたじゃない」
「どう控えめに見ても困っていたでしょう⁉︎」
「だって美人だし、胸も大きいし……」
「ハクア様は確かにお綺麗ですが、俺にとってそう言った感情を持ち合わせる方ではありません」
むむむと眉を寄せてポツリポツリと話すカトレアに、クシュナが被せ気味に答えていく。
「……ハクア様との関係は、カトレア様が受け取ったようなものではありませんし、第一にハクア様が気にされているのは俺ではなく、多分パルです」
「……パル?」
えぇ?と怪訝な顔でやっとクシュナの顔を見るカトレアに、いくらか安堵したように大きく息を吐いてクシュナは答える。
「……恐らくではありますが、昔から顔を合わせる度に何だかんだとパルのことを気にされて聞いてきますし、多かれ少なかれ加減ができない方ですが、今日は特に変でした。カトレア様……も要因の1つではあると思いますが、大部分は恐らくパルが原因だと思います」
「ーー……まぁ確かに知り合いかなとは思ったけど……」
「……聞けばバレるような嘘は言いませんよ」
未だ何とも言えぬ顔をするカトレアに、クシュナはため息を吐いて肩を落とす。
「……ふーん…………」
「……何ですかその反応は……」
いい加減に板挟みストレスの限界なのか、ジトっと見てくるカトレアをクシュナは眉間にシワを寄せて見返す。
「……喜んでるのかと思った」
「まだ言いますか!俺はあなただけで手一杯ですよ!」
全く!と語気を荒くするクシュナを見上げ、カトレアはふふと苦笑する。
気づけば、カトレアの胸をかき乱していた不快な感情は薄らいでいた。
心底疲れた顔をするクシュナを見上げ、カトレアは1つ息を吐く。緩んだクシュナの手からすり抜けた手で、再びその指先へと触れた。
黒髪に蒼い瞳でこちらを見返してくる、1つ年上の青年。勝手に兄貴面して口煩く、カトレアの言動のせいで、その眉間にはいつもシワを寄せている気がする。
いつも冷静を装っているけれど、人が良くて口が悪く、一生懸命でクソがつくほどクソ真面目で、ひどく優しい人。
こんな所まで血相変えて飛んで来てくれたクシュナに、やっぱりとは思っても驚きはしなかった。
城を抜け出す時も、実を言えばクシュナについて来て欲しかったし、クシュナなら言えば多少のお咎めも無視してついて来てくれるとわかっていた。
魔物やグレンたちと相対する度に、クシュナの顔がチラついて、いざその姿と声を聞けば安堵で視界が滲むのを誤魔化すのに苦労した。
洞窟でクシュナを置いていく選択肢は考えられなかったし、打ちつけられて意識を失っていた血の気のない顔には、生きた心地がしなかった。
指先の体温がひどく気持ち良くて、理性を押し崩して求めたくなるのを、カトレアは俯き、目を閉じて堪える。
誰も見ていないであろう、城から離れた森の中。最年少王宮魔術師と名高いとはとても思えない、その薄い胸に本能のまま飛び込んでしまえば、彼は受け入れてくれるだろうか?
受け入れてくれる気もするし、いつもの困り果てた顔をするだけかも知れない。
例え困り果てた顔をされたとしても、カトレアだけに向けられるであろうその顔すらも、きっと愛おしいに違いない。
目を薄く開いて、カトレアは顔を上げてニコリと笑う。
「クシュナ、きちんとお礼を言ってなかったわ。追いかけて来てくれて、助けてくれて、いつも私のことを考えて動いてくれて、ありがとう。いつも私を支えてくれるクシュナに、本当に感謝してる」
カトレアの脳裏には、妹ーーレミリアの泣き顔が浮かぶ。
「手紙にも書いたけど、私は1人でも案外大丈夫なのがわかったでしょ。兄妹ごっこももう本当に潮時。結果がどうなるかはわからないけど、クシュナは今度こそ、可能な限りレミリアの側にいてあげて。約束よ」
ぺたりといつもの笑顔を貼り付けたカトレアの指先に触れていた体温は幻のように、夜の森に冷やされていったー……。
ツカツカと足早に歩くカトレアを、慌てたようにクシュナは追いかける。
「ーー悪かったわね、邪魔して。クシュナの気持ちに正直にいていいし、目的のために私に遠慮する必要はない……ってきちんと伝えたかっただけだから、クシュナの本意であれば今からでも戻ってくれて構わないのよ」
追いかけるクシュナを見ようともせずに足早に歩くカトレアは、グレンたちの元に戻る気にもならず目的なく近場の森を彷徨い歩く。
「ちょっと!落ち着いて下さい!そんな風に見えましたか⁉︎じゃなくて、本当に何もありませんよ!わかるでしょう⁉︎」
パシリとカトレアの腕を掴んで引き留めると、クシュナは顔を向けようとしないカトレアの前へと回り込む。
「……俺とハクア様の間には誓って何もありません」
「…………ご馳走様って?」
「あれは多分、ハクア様の嫌がらせです」
はぁぁと顔を押さえながら盛大にため息を吐くクシュナを、カトレアは不審そうに眺めやる。
「……そんな嘘をわざわざ言う必要ある?」
「そう言われましても、嘘は嘘ですから」
困り果てた様子のクシュナに、カトレアは無駄にイライラしている自身を持て余していた。
グレンに声を掛けられて以降から、ずっと調子がおかしい。ざわざわして、イライラして、落ち着かない上にひたすらに気分が悪い。
「…………」
「カトレア様……?」
自身で制御できない感情に振り回されて、普段の調子にどうしたら戻れるのかが全くわからなかった。
「…………ハクア様が好きなの?」
「好きなように見えましたか⁉︎」
目を剥いてギョッとするクシュナを眺めつつ、カトレアは続ける。
「……ベタベタ楽しそうにしてたじゃない」
「どう控えめに見ても困っていたでしょう⁉︎」
「だって美人だし、胸も大きいし……」
「ハクア様は確かにお綺麗ですが、俺にとってそう言った感情を持ち合わせる方ではありません」
むむむと眉を寄せてポツリポツリと話すカトレアに、クシュナが被せ気味に答えていく。
「……ハクア様との関係は、カトレア様が受け取ったようなものではありませんし、第一にハクア様が気にされているのは俺ではなく、多分パルです」
「……パル?」
えぇ?と怪訝な顔でやっとクシュナの顔を見るカトレアに、いくらか安堵したように大きく息を吐いてクシュナは答える。
「……恐らくではありますが、昔から顔を合わせる度に何だかんだとパルのことを気にされて聞いてきますし、多かれ少なかれ加減ができない方ですが、今日は特に変でした。カトレア様……も要因の1つではあると思いますが、大部分は恐らくパルが原因だと思います」
「ーー……まぁ確かに知り合いかなとは思ったけど……」
「……聞けばバレるような嘘は言いませんよ」
未だ何とも言えぬ顔をするカトレアに、クシュナはため息を吐いて肩を落とす。
「……ふーん…………」
「……何ですかその反応は……」
いい加減に板挟みストレスの限界なのか、ジトっと見てくるカトレアをクシュナは眉間にシワを寄せて見返す。
「……喜んでるのかと思った」
「まだ言いますか!俺はあなただけで手一杯ですよ!」
全く!と語気を荒くするクシュナを見上げ、カトレアはふふと苦笑する。
気づけば、カトレアの胸をかき乱していた不快な感情は薄らいでいた。
心底疲れた顔をするクシュナを見上げ、カトレアは1つ息を吐く。緩んだクシュナの手からすり抜けた手で、再びその指先へと触れた。
黒髪に蒼い瞳でこちらを見返してくる、1つ年上の青年。勝手に兄貴面して口煩く、カトレアの言動のせいで、その眉間にはいつもシワを寄せている気がする。
いつも冷静を装っているけれど、人が良くて口が悪く、一生懸命でクソがつくほどクソ真面目で、ひどく優しい人。
こんな所まで血相変えて飛んで来てくれたクシュナに、やっぱりとは思っても驚きはしなかった。
城を抜け出す時も、実を言えばクシュナについて来て欲しかったし、クシュナなら言えば多少のお咎めも無視してついて来てくれるとわかっていた。
魔物やグレンたちと相対する度に、クシュナの顔がチラついて、いざその姿と声を聞けば安堵で視界が滲むのを誤魔化すのに苦労した。
洞窟でクシュナを置いていく選択肢は考えられなかったし、打ちつけられて意識を失っていた血の気のない顔には、生きた心地がしなかった。
指先の体温がひどく気持ち良くて、理性を押し崩して求めたくなるのを、カトレアは俯き、目を閉じて堪える。
誰も見ていないであろう、城から離れた森の中。最年少王宮魔術師と名高いとはとても思えない、その薄い胸に本能のまま飛び込んでしまえば、彼は受け入れてくれるだろうか?
受け入れてくれる気もするし、いつもの困り果てた顔をするだけかも知れない。
例え困り果てた顔をされたとしても、カトレアだけに向けられるであろうその顔すらも、きっと愛おしいに違いない。
目を薄く開いて、カトレアは顔を上げてニコリと笑う。
「クシュナ、きちんとお礼を言ってなかったわ。追いかけて来てくれて、助けてくれて、いつも私のことを考えて動いてくれて、ありがとう。いつも私を支えてくれるクシュナに、本当に感謝してる」
カトレアの脳裏には、妹ーーレミリアの泣き顔が浮かぶ。
「手紙にも書いたけど、私は1人でも案外大丈夫なのがわかったでしょ。兄妹ごっこももう本当に潮時。結果がどうなるかはわからないけど、クシュナは今度こそ、可能な限りレミリアの側にいてあげて。約束よ」
ぺたりといつもの笑顔を貼り付けたカトレアの指先に触れていた体温は幻のように、夜の森に冷やされていったー……。
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