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王女、戸惑う。
87.
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「おぅ、おつかれさん」
「お疲れ様デス。いかがデシたか?」
「お前も一緒に食う……食べますか?」
「あん?どないしたんやヒエン。けったいな喋り方やな」
「ヒエンさんでもそんな喋り方できたんデスね」
「うっせぇぞメガネ」
周りが薄赤く染まる中、湖の辺りで焚き火を囲み、わちゃわちゃとカトレアを出迎えるサリー(馬)含めた一行を不思議な面持ちで眺めつつ、カトレアは思わず苦笑する。
「私も貰っていいの?」
「おぅ、どうぞ」
「食え食え、嬢ちゃんだけ働かせてもぉて悪かったな」
差し出される器をヒエンから受け取り、カトレアは腰を下ろして息を吐く。
キリキリとハクアの言うがままに動き回っていたこともあるが、家出からの連日の緊張に加えたハクアとの対応で、今更ながらにカトレアはどっと疲れを感じていた。
悪意を向けられたりすることは今までにもあったとは言え、ハクアほどダイレクトに原因不明の悪意を表現してくる者は、王女と言う立場上あまりいなかっただけに困惑したと言うのが近い。
向けられた悪意が正しく悪意であるのか、そこに誤解の余地はないか、そうであるなら、その悪意の根源と、相互の立ち位置を踏まえた最善の対応は何か。
悪意に悪意で返すのは簡単でも、そこに誤解があれば不要な摩擦を生むだけとなり、誤解でなくても、同じ土俵に降りた後に有益な結果となり得なければ労力の無駄以外の何ものでもない。
とは言え、相手の言いなりばかりで自身が不利益を被ることは避けるべき必須事項でもある。
「ーー……地味真面目はまたあのお色気姉ちゃんの所かいな?あの精霊はどうしたんや?」
「あぁ、クシュナ?うん、そうなるみたい。パルはまたどこか行っちゃったかな。ここは聖域扱いで魔物が寄り付けないから安心みたい」
ハハハと困ったように苦笑して、カトレアは手元のスープに視線を落とす。少量の出汁で干し肉を煮込んだ、城では考えられないような質素なもの。
ヒエンに渡された温もりのあるスープを口に含み、カトレアは口に広がる柔らかな味を噛み締めた。
「おいし……」
日も暮れたことでいくらか冷んやりとした空気の中、ほぅと息を吐くカトレアに、一同の視線が集まる。
「……大丈夫か?」
「え?あ、うん、ごめん、気になるよね。とりあえず何とかなった?みたい。あ、でも精霊王に会いに行けるのはナクタさんとーー……」
「ちゃうちゃう、そうやなくて」
「え……?」
グレンの問いかけに、一瞬ぼっとしていたカトレアが慌てて口を開きながら顔を上げると、朱色の瞳が真っ直ぐに、伺うようにカトレアの瞳を捕らえていた。
「そっちやなくて、嬢ちゃんが、大丈夫かて聞いとるんや」
「え?……っと……?」
一瞬問われた意味がわからず沈黙する中、なおも自身に向けられ続ける複数の視線にカトレアはいささか慌てる。
「えっ⁉︎あっ!し、心配してくれたんだよね!ありがとう!ヒエンさんもわざわざ来てくれて声掛けてくれたし、嬉しかったよ!」
「や、あの女に難癖つけられてもってなって、結果的にアタシは何もしてねぇ……ないし」
ぶんぶんと謎に焦りながら手を振るカトレアに、ヒエンが冷静に突っ込む。
「ーーまぁ、えぇんならえぇんやけど……」
「だっ、大丈夫っ!ありがとう!」
わたわたと珍しく狼狽えているカトレアに、グレンもそれ以上突っ込みづらくなったのか、そんなカトレアの様子を眺めながら言葉を飲み込む。
顔が熱くなり変な汗が出て、カトレアは自身の異様な状況にあたふたとしばし抗った後、すくっと立ち上がる。
「ち、ちょっと顔洗ってくる!!」
「お、おぅ……」
言うなり足早に踵を返すカトレアを、一行は戸惑いながら見送った。
「お疲れ様デス。いかがデシたか?」
「お前も一緒に食う……食べますか?」
「あん?どないしたんやヒエン。けったいな喋り方やな」
「ヒエンさんでもそんな喋り方できたんデスね」
「うっせぇぞメガネ」
周りが薄赤く染まる中、湖の辺りで焚き火を囲み、わちゃわちゃとカトレアを出迎えるサリー(馬)含めた一行を不思議な面持ちで眺めつつ、カトレアは思わず苦笑する。
「私も貰っていいの?」
「おぅ、どうぞ」
「食え食え、嬢ちゃんだけ働かせてもぉて悪かったな」
差し出される器をヒエンから受け取り、カトレアは腰を下ろして息を吐く。
キリキリとハクアの言うがままに動き回っていたこともあるが、家出からの連日の緊張に加えたハクアとの対応で、今更ながらにカトレアはどっと疲れを感じていた。
悪意を向けられたりすることは今までにもあったとは言え、ハクアほどダイレクトに原因不明の悪意を表現してくる者は、王女と言う立場上あまりいなかっただけに困惑したと言うのが近い。
向けられた悪意が正しく悪意であるのか、そこに誤解の余地はないか、そうであるなら、その悪意の根源と、相互の立ち位置を踏まえた最善の対応は何か。
悪意に悪意で返すのは簡単でも、そこに誤解があれば不要な摩擦を生むだけとなり、誤解でなくても、同じ土俵に降りた後に有益な結果となり得なければ労力の無駄以外の何ものでもない。
とは言え、相手の言いなりばかりで自身が不利益を被ることは避けるべき必須事項でもある。
「ーー……地味真面目はまたあのお色気姉ちゃんの所かいな?あの精霊はどうしたんや?」
「あぁ、クシュナ?うん、そうなるみたい。パルはまたどこか行っちゃったかな。ここは聖域扱いで魔物が寄り付けないから安心みたい」
ハハハと困ったように苦笑して、カトレアは手元のスープに視線を落とす。少量の出汁で干し肉を煮込んだ、城では考えられないような質素なもの。
ヒエンに渡された温もりのあるスープを口に含み、カトレアは口に広がる柔らかな味を噛み締めた。
「おいし……」
日も暮れたことでいくらか冷んやりとした空気の中、ほぅと息を吐くカトレアに、一同の視線が集まる。
「……大丈夫か?」
「え?あ、うん、ごめん、気になるよね。とりあえず何とかなった?みたい。あ、でも精霊王に会いに行けるのはナクタさんとーー……」
「ちゃうちゃう、そうやなくて」
「え……?」
グレンの問いかけに、一瞬ぼっとしていたカトレアが慌てて口を開きながら顔を上げると、朱色の瞳が真っ直ぐに、伺うようにカトレアの瞳を捕らえていた。
「そっちやなくて、嬢ちゃんが、大丈夫かて聞いとるんや」
「え?……っと……?」
一瞬問われた意味がわからず沈黙する中、なおも自身に向けられ続ける複数の視線にカトレアはいささか慌てる。
「えっ⁉︎あっ!し、心配してくれたんだよね!ありがとう!ヒエンさんもわざわざ来てくれて声掛けてくれたし、嬉しかったよ!」
「や、あの女に難癖つけられてもってなって、結果的にアタシは何もしてねぇ……ないし」
ぶんぶんと謎に焦りながら手を振るカトレアに、ヒエンが冷静に突っ込む。
「ーーまぁ、えぇんならえぇんやけど……」
「だっ、大丈夫っ!ありがとう!」
わたわたと珍しく狼狽えているカトレアに、グレンもそれ以上突っ込みづらくなったのか、そんなカトレアの様子を眺めながら言葉を飲み込む。
顔が熱くなり変な汗が出て、カトレアは自身の異様な状況にあたふたとしばし抗った後、すくっと立ち上がる。
「ち、ちょっと顔洗ってくる!!」
「お、おぅ……」
言うなり足早に踵を返すカトレアを、一行は戸惑いながら見送った。
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