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王女、戸惑う。
85.
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「……おま……王女様……のくせになんで薪割りとかできるんだ……ですか?」
「あ、ヒエンさん」
パッカーんと景気良く斧を振り下ろして薪を割ったカトレアは、どうやら様子を見に来たであろうヒエンの声に振り返る。
振り返りつつも次の薪を斧の先端にこんこんと打ちつけて、刃に入れ込ませたのを確認すると、薪付きの斧は台座へと見事に振り下ろされた。
「よく街に繰り出したり、人に混ざって遊んでたから、こういうの結構好きなの。それより、変な感じだから今まで通りの話し方にしない?」
思わず苦笑しながら、カトレアは次の薪へと手を伸ばす。
「い、いい訳ないだ……っ……です!」
内容すらも怪しくなるヒエンに、手を止めて向き直ったカトレアは笑う。
「今まで通り思ったことを思ったままに言ってくれるだけでいいんだけど」
「いや、でもよ……っすね……っ」
思い出せる限りの自身の対応に対してじわじわと不安に襲われているのか、言い淀むヒエンにカトレアが笑う。
「なら、女同士友だちってことで、カトレアって名前で呼んで?」
「……え?あぁ…………いや……それもちょっと……」
自身が晴れやかな顔でカトレアを呼ぶ姿を脳裏に思い浮かべたヒエンは、すぐ様に無理無理無理とその提案を退ける。
「とりあえず……お、王女様でいいだ……ですか?」
「……王女様って呼ばれるのはやだなぁ」
むぅぅと顔をしかめるカトレアに、ヒエンは何とも言えない面持ちで閉口する。めんどくせぇと声にならない声が聞こえてきそうだった。
「…………あー……じ、じゃぁ……そのうち…………呼べるようになったらでもいいす……いいですか……」
「敬語も別にいらないんだけど……あ、でも敬語を意識できる機会でもあるかもなら、このままの方がいいのかな……?」
先ほどとは別の意味でむむむと考え込むカトレアをぼんやりと眺めたヒエンは、ふっと息を吐いて苦笑する。
「……あーー…………えと……じゃぁ……イラついたら……言ってくれ……クダサイ」
「そんなコトはないけど、心配して話しかけに来てくれたんでしょう。ありがとう、ヒエンさん」
そう言ってスッと差し出されたカトレアの右手を、ヒエンは少し迷った後に遠慮がちに握る。
「……右手……ごめんね、大丈夫?」
その右手に巻かれた包帯に、カトレアはいくらか申し訳なさそうに口を開く。
「あぁ、大丈夫だって言ってるだ……です。それより、あの女はどうするんだ……ですか」
壊れたロボットのように歪に話すヒエンに苦笑しつつ、カトレアはヒエンの顔を覗き込む。
「……もしかして、グレンさんに言われて来た……?」
少し困ったように微笑んで尋ねるカトレアに、ヒエンは少し視線を彷徨わせた後にコクリと頷く。
「あの女が男どもに手伝うなって言ってたから、様子見て手伝ってやれってアニキが」
素直に答えるヒエンの言葉に、カトレアは思わず苦笑する。
「グレンさんらしいって言うか、あの人優しい人ね……」
「だ、だろ……!アニキはすげぇ……すごいんだ!強いし、優しいし、大人だし、カッコいい……っ!」
目をキラキラさせてカトレアに同意をするヒエンは、けれどその熱が引くように静かになる。
「……どうかした……?」
考え込んでいるように見えるヒエンへとカトレアが尋ねると、少し逡巡した後にヒエンは恐る恐る口を開く。
「……あ……のさ、アニキ…………アニキの……妹……を…………」
「…………グレンさんの、妹……?」
思い詰めたような様子のヒエンに、カトレアは問いかける。
「ーー…………アニキの……妹を探してるんだ……ずっと……。……でも、見つからなくて…………だから……手を……貸して欲しいんだ……です……」
反応を伺うように上目に見てくるヒエンを、カトレアは怪訝な顔で見返した。
「あ、ヒエンさん」
パッカーんと景気良く斧を振り下ろして薪を割ったカトレアは、どうやら様子を見に来たであろうヒエンの声に振り返る。
振り返りつつも次の薪を斧の先端にこんこんと打ちつけて、刃に入れ込ませたのを確認すると、薪付きの斧は台座へと見事に振り下ろされた。
「よく街に繰り出したり、人に混ざって遊んでたから、こういうの結構好きなの。それより、変な感じだから今まで通りの話し方にしない?」
思わず苦笑しながら、カトレアは次の薪へと手を伸ばす。
「い、いい訳ないだ……っ……です!」
内容すらも怪しくなるヒエンに、手を止めて向き直ったカトレアは笑う。
「今まで通り思ったことを思ったままに言ってくれるだけでいいんだけど」
「いや、でもよ……っすね……っ」
思い出せる限りの自身の対応に対してじわじわと不安に襲われているのか、言い淀むヒエンにカトレアが笑う。
「なら、女同士友だちってことで、カトレアって名前で呼んで?」
「……え?あぁ…………いや……それもちょっと……」
自身が晴れやかな顔でカトレアを呼ぶ姿を脳裏に思い浮かべたヒエンは、すぐ様に無理無理無理とその提案を退ける。
「とりあえず……お、王女様でいいだ……ですか?」
「……王女様って呼ばれるのはやだなぁ」
むぅぅと顔をしかめるカトレアに、ヒエンは何とも言えない面持ちで閉口する。めんどくせぇと声にならない声が聞こえてきそうだった。
「…………あー……じ、じゃぁ……そのうち…………呼べるようになったらでもいいす……いいですか……」
「敬語も別にいらないんだけど……あ、でも敬語を意識できる機会でもあるかもなら、このままの方がいいのかな……?」
先ほどとは別の意味でむむむと考え込むカトレアをぼんやりと眺めたヒエンは、ふっと息を吐いて苦笑する。
「……あーー…………えと……じゃぁ……イラついたら……言ってくれ……クダサイ」
「そんなコトはないけど、心配して話しかけに来てくれたんでしょう。ありがとう、ヒエンさん」
そう言ってスッと差し出されたカトレアの右手を、ヒエンは少し迷った後に遠慮がちに握る。
「……右手……ごめんね、大丈夫?」
その右手に巻かれた包帯に、カトレアはいくらか申し訳なさそうに口を開く。
「あぁ、大丈夫だって言ってるだ……です。それより、あの女はどうするんだ……ですか」
壊れたロボットのように歪に話すヒエンに苦笑しつつ、カトレアはヒエンの顔を覗き込む。
「……もしかして、グレンさんに言われて来た……?」
少し困ったように微笑んで尋ねるカトレアに、ヒエンは少し視線を彷徨わせた後にコクリと頷く。
「あの女が男どもに手伝うなって言ってたから、様子見て手伝ってやれってアニキが」
素直に答えるヒエンの言葉に、カトレアは思わず苦笑する。
「グレンさんらしいって言うか、あの人優しい人ね……」
「だ、だろ……!アニキはすげぇ……すごいんだ!強いし、優しいし、大人だし、カッコいい……っ!」
目をキラキラさせてカトレアに同意をするヒエンは、けれどその熱が引くように静かになる。
「……どうかした……?」
考え込んでいるように見えるヒエンへとカトレアが尋ねると、少し逡巡した後にヒエンは恐る恐る口を開く。
「……あ……のさ、アニキ…………アニキの……妹……を…………」
「…………グレンさんの、妹……?」
思い詰めたような様子のヒエンに、カトレアは問いかける。
「ーー…………アニキの……妹を探してるんだ……ずっと……。……でも、見つからなくて…………だから……手を……貸して欲しいんだ……です……」
反応を伺うように上目に見てくるヒエンを、カトレアは怪訝な顔で見返した。
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